カズイの日々は穏やかに過ぎて行った。仮施設で再開された授業も出ているし、可愛らしい異性の友達も出来た。
これが正しい青春の姿なんだなぁ、とカズイは思っていた。
だから差出人不明のエナドリが大量に送られてきたり、ようやく訪ねてきたカガリが『ホントにいたぁ!』とビビリ散らかしたり、可愛らしい異性の友達が異性ではなかったりしたことは些末な問題だった。
「まさかトールもオーブにいたなんて、知らなかったよ」
病室にて、久し振りに友人と顔を合わせたカズイはにこやかに言った。
「ちょっと前まで、訳アリの同室さんがいたもんでな。連絡出来なくて悪かった」
片手を上げて軽く頭を下げる友人、トール・ケーニヒには左足の膝から下がなかった。それが戦闘によるものであることは明白で、カズイは自分が一抜けしていたことに、今更ながら罪悪感を強めていた。
「おい、そんな顔すんなって……お前が平和に暮らしてんなら良かったよ。カガリ様、中々信じなかったから言付け頼むの大変だったけどさ」
カガリはカズイがオーブに残ったと聞いてもすぐには信じなかった。
何故ならオランチョ小隊の
キラと同じコーディネイターであるニコルを差し置いてである。
そりゃあまあ、ハゲてて情緒不安定たまにオギャッてて、常時目が死からガンギマリまでを行ったり来たりしている少年なんか、ヤバい以外の何者でもないのだ。
そんなんが今更小隊を抜けるなんて、夢にも思わなかったと言われたら、ああまあそうよね、ともなる。
「カガリ様に伝言を頼むって言うのもすごい話だと思うけどね」
「暇なんだよあの人。なんかモルゲンレーテでのMS製造が佳境なんだとさ。誰も相手してくれないって、偶にここ来て愚痴ってるよ」
「カガリ様から愚痴られるってのもすごいね」
朗らかに笑うカズイの顔に、かつてアークエンジェルにいた頃の様な諦めと悲しみと絶望と狂気はない。あったのがそもそもおかしいことではある。
「カズイの方はどうなんだよ。学校とか、彼女出来たか?」
足一本無くしている筈のトールは変わらず明るかった。
カズイにとっては、昔から何かと気に掛けてくれる気の良い友人である。
「学校はまあ、研究室とか教授とか、全部そのままとはいかないけど、何とかなってるよ。彼女はいないけど……」
「なんだよー。俺も、退院したら学校通うからさ。また一緒に頑張ろうぜカズイ……俺達には俺達の、生き様ってやつがあるさ」
「なんだか隊長が言いそうな言葉だね」
2人して笑う。
ヘリオポリスからオーブまで、苦楽を共にした友達と、今ようやくかつてのように笑い合えたと思えた。
「キラ達、元気にやってっかな……」
「大丈夫だよ、きっと……無責任かもしれないけどさ」
お土産に持ってきたお菓子を2人で摘みながら、他愛も無い雑談に興じる。
「そう言えばちょっと仲が良い子がいてね」
「マジかよカズイ! 写真は!?」
「こんな……」
「マジかよカズイ! 抱き着かれてんじゃん!?」
「最近性別が男だったのがわかってさ」
「マジかよカズイ……」
「まあでも、そんなの些細な事かなって」
「カズイさん……」
2人の談笑は、暇を持て余したカガリがチョロチョロとやって来るまで続いた。どうやら最近、やたらと部下からお見合いを勧められるらしい。
「しかもアサギの奴、私が氏族のリストを断ったら何持ってきたと思う? 三角コーンとか輪ゴムとかサバだぞ!? 狂気を感じたわ! わざわざエッフェル塔と結婚した前例まで持ってきやがってなんなんだ!?」
自分の国の代表候補が、無機物や魚類と結婚してる未来、かなり嫌だなと2人は思った。流石に口にはしなかったが。
「カガリ様はやっぱ、キラが好きなんスか?」
殆ど友達みたいなノリのトールに、カズイは戦慄した。
入院してる間に何かあったのだろうか。グッと距離感が近いやり取りだった。
「ちちちち違うぞ! アレは気の迷いだ! ちょっと参ってるところを優しくしてくれたからであってな!」
慌てふためくカガリも気にした様子はなかった。
どうやら本当に仲が良くなったらしい。
「あれ、でもアスランのことはどうすんです? アイツ、何ならまた会いたいとか言ってたじゃないスか」
アスラン、と言えば確か、キラの友達でザフトにいる、イージスのパイロットである筈だ。カズイは思い出した。
キラから直接聞いた訳ではなかったが、ブリッジに復帰した際、ミリアリア達より共有されていた。
「アイツは……なんかほっとけないだけだ! 全然そんなんじゃないんだよ!」
「やー、どうですかね。ミリィとも話したことありますけど、多分カガリ様は向こうから好きって言ってきてくれる相手じゃないと、永遠に進展しない気がするんですよね」
それか物言わぬ物体か生き物がベター。だからアサギはそっちへ舵を切っている。理解ある忠臣の率直な意見ってやつだった。
「お前なぁ! 私だって決める時はしっかり決めるんだよ! バジルール中尉にかました土下座を見てなかったのか!?」
「どう思うカズイ? 土下座を誇る代表候補って」
「まあ……無責任よりは良いじゃない」
苦笑いのカズイであった。
オーブの前途はまだまだ多難であるようだった。
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夕方、見舞いを終え自室に戻ったカズイは、いつもの様にモニターを起動して端末からプログラムを呼び出す。
「……」
それは、アークエンジェルを退艦する際にカスから託された、フッケバイン・プロトコルのシミュレータープログラムだった。
熟練のCIC要員を思わせる様な滑らかなキー操作で、表示されるシチュエーションに沿った砲撃支援を行っていく。
「ああ、やっぱり……そうだよね、レールガンだと速過ぎるよね」
味方機を撃墜してしまった結果に対し、独り言を呟く。
「味方が旋回機動を取る時は、進行方向の先に砲撃……ミサイルで後追いしたら良いのかな……残弾管理はCICの仕事だっけ……?」
ぶつぶつと、
「あ、艦載機のフライト予測って、そうか、だからバジルール中尉はあんな指示が速かったのか……でもこんなの俺には無理だよ……」
遅々として進まない様な、
「それなら、確実に通過する地点だけいくつか押さえておいて、そこを機転に砲撃プランを作れば、俺みたいのでも間に合うのかな……やってみようかな……」
しかし確かに、前進にカテゴリされる類の試行錯誤が続いた。
気がつくと時計の針は0時を過ぎていた。
「このエナドリ、多分隊長だよね……発送日がここ出発した日になってるし」
バーコードや成分表示のない缶を傾けながら呟く。
3カートン届いた因縁のエナドリを、カズイは常飲していた。
このまま寝ないで学校へ行き、眠くなったらまた飲んで、3日目を迎える前に一眠り。トールには言わなかったが、それが最近のカズイのルーティーンだった。
もう自分が隊長と一緒に戦うことはないのだろう。
でももしかしたから、こうして積み上げたものがいつか、誰かを助けることに繋がるのかもしれない。
ヘリオポリスにいた頃なら逃げの一択だったであろう少年は、今確実に成長を見せていた。
「みんな無事だといいな……俺はもう、一緒には戦えないけど、戦争が終わったら……また……」
机の上の写真立てに目をやる。
そこにはアークエンジェルで撮った、オランチョ小隊全員の写真が入っていた。
瞳孔が開いた瞳のキラ、ニコル、カガリ、カズイ、目の下のクマと痩せこけた頬のサイ、トール、笑顔のフレイ、ミリアリアだ。
確か、砂漠を出た後で記念撮影をしようと、フレイが言い出したのだったか。
格納庫でマードックに撮ってもらったものだ。
「……よし、頑張ろう」
カズイは再びモニターに向き合った。
カスから託されたユニットは、そんなカズイの試行錯誤の結果を外部のバックアップへ送り続けていた。
カズイ自身、何か自覚がある訳ではない。
だが、彼の積み重ねは確実に、少しずつ、何かの形を作ろうとしていた。
カズイ・バスカークの、将来『死神バスカーク』と呼ばれる男の日常は、そうして過ぎていった。
当作品はカズイ・バスカークを擦り切れるまで使い倒した後、擦り切れたボロキレを額に入れてバンクシーとバナナの皮の間に展示した後、『血統書付きのボロキレ』ですよと言ってシャネル直営店の壁に飾る系ガンダムSEEDのSSです。