TS死体回収屋は探索配信者の夢を見るか? い や 見 な い   作:TS夢見

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1章
おっさんは転生した/不完全ダンジョン⠀ ⠀ ⠀


――おっさんは転生した。

 

 

転生はしたが、ファンタジー風の中世ヨーロッパ的な所に転生した訳ではない。

転生した先は現代日本…………のような、だけど、ちょっと違った世界。

あんまり詳しくないけど、パラレルワールドとかそんなノリだと思う。

 

赤ちゃんスタートで転生してからはや17年、似て非なるこの世界にも慣れてきた今日のこの頃。

 

最初は本当に大変だった。

この世界が前いた世界と微妙に違がければ、性別も前とは違った。

今世では女になっていたのだ。

 

前世が男で今世が女というギャップから色々大変な事もあったが、高校2年生となった今ではようやくこの華奢な身体も自分のものという認識でやってけるようになった。

 

ただ、前までおっさんだった為に、「たまにあなたってちょっとおっさんぽいところあるよね、女子高校生なのに」と言われた事が一度あり、それが反省点でもある。

 

俺がいくら女子っぽく見せようと心がけても、心に染みついたおっさんぽさが離れてくれないのだ。

 

今も部屋を、泥まみれの作業着で、あぐらをかき、紙コップの麦茶を片手に「ブハッー」と言いながら、競馬のライブ中継の動画を見ている。

部屋は自分の泥で汚れないように新聞紙を引いてるから安心してくれ!ドヤッ。

 

これも土木系の仕事をしていた頃のおっさん時代の名残である。

 

流石に、ビールはこの年齢で飲めないから麦茶だが……。

 

これを見た目17歳のJKがやってるのだから、自分でも見た目と中身のギャップありすぎだろと思ってしまう。

 

あ、ちなみに、なんでこんなに作業着が泥まみれかというと、高校生活と両立してある仕事をやっている。前世は土木系の仕事だったのに対し、今世は少し違う。

 

 

それは――。

 

ピンポーン!

 

アパートのチャイムが鳴った。

 

俺はなんだろうと思いながら「はい、はーい。今行きます」とドアの方向に向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あの、こんにちは!」

 

 

ドアを開けてみると、明るい声が玄関先に響き渡った。

そこには、子供を連れた30代前半と思われる女性が立っていた。彼女は手に綺麗にラッピングされたお菓子の包みを持っている。

 

 

「あ、こんにちは」

 

 

「このアパートの隣の部屋に引っ越してきました。竹内です。少しですが、お近づきのしるしにどうぞ」

 

 

彼女はにこやかに言いながら、包みを差し出した。

 

 

「ご丁寧にありがとうございます。私は星宮と言います。よろしくお願いします」

 

 

 俺はその包みを受け取るとぺこりとお辞儀をする。

 

 

「あの、お会いしたばかりで、失礼かもですけど……すごく泥で汚れてますけど大丈夫ですか?」

 

まぁ、そりゃあ言われるわな。

 

なんの変哲もないアパートの一室から、泥まみれの女子が出てきたら心配になるのも仕方ないだろう。

 

 

「ああ、これは今さっきダンジョンに潜ったばかりで汚れてるだけなんで平気ですよ。丁度今から、着替えようとしていたところだったんです」

 

 

別にしばらくは着替えるつもりなんてなかったのに、おっさんぽさの後ろめたさから、嘘をついてしまう。

私が苦笑いでそうこたえると、甲高い声がアパートの廊下に響き渡る。

 

 

「え! お姉ちゃん、ダンジョンに潜ってるの! じゃあダンジョン探索系配信者!?」

 

キラキラした目で幼い男の子が彼女の後ろから顔を覗かせていたのだ。

 

 

 

ダンジョン探索系配信者とは小中学生のなりたい職業ランキング1位にもなっている世界的にも人気の職業である。

 

 

これが、似ている前世の現代日本と明確に違う所だ。

 

――そうこの世界にはダンジョンというものが存在する。

 

 

この世界にダンジョンという摩訶不思議な迷宮が出現して数十年らしいが、そこでは、科学では説明の付かない生き物や素材が存在している。

 

 

それ故に数十年経った今でも謎が多いダンジョンは、人々を魅了し続けているのだ。

ちなみに俺もその一人ではある。

最初それを知った時、ゲームみたいだと、厨二心を大切にする中身おっさんの俺はすんごく興奮したのを覚えている。

 

 

だがダンジョンは人を襲う危険な生物もいるため、一般人は痛い思いをしてまで潜ろうとは思わない。

 

 

だからこそ、その中の刺激的な様子を配信するダンジョン探索系配信者には需要があり世の中の人を熱狂させている。

 

 

簡単に言えば魔物をギタンバタンと倒すのが配信映えするからとかそんな感じだ。

 

 

で、この子は俺をそんな人気者の職業だと勘違いしてるらしい。

ダンジョンを潜る仕事だと言ったら世間的にも、九割型この職業を思い浮かべるだろうし、分からなくはないけど……。

 

 

俺はこの子に真実を伝えるべく口を開く。

 

 

「あのぉ、キミ。私の事ダンジョン探索者だと思ってるならごめん先に謝る。私、死体回収屋なんだ……」

 

 

するとキラキラした目は何処へやら、露骨にがっかりした表情になる。

 

 

「ちぇっ、死体回収屋かよっ」

 

まぁ、その反応が妥当よな。

ダンジョン探索系配信者が表舞台の仕事だとしたら、死体回収屋は裏方の仕事だからね。

 

 

俺はどうしてもダンジョンに関わった仕事をしてみたかった。だけど探索系配信者はあまりにキラキラしすぎて、おっさんの俺がやる気にはなれず、ダンジョンに関われるこの仕事を選んだって訳だ。

泥臭いこっちの方が俺の性に合ってると思ったし。

 

 

そんな子供の様子をいけないと思ったのか、女性が謝る。

 

 

「ごめんなさい!私の息子が失礼な事をっ」

 

 

 

 

「……いえいえ、大丈夫ですよ。このくらいの年齢ならこの反応の方が自然です。というか私の職業は大人の方でもよく思われてないなんてザラだし尚更」

 

 

 

 

人が死ぬ事すらある、ダンジョン探索が何故娯楽の配信という職業と結びつき、エンタメ化に成功したのかは理由がある。

だって普通、人が死ぬ危険性があるダンジョン探索を配信でもしようとしたら、規制されるのがオチだと思わない?

 

 

でもそうはならなかった。

 

 

なぜならダンジョンの中に限っては命が軽い(・・・・)から。

 

 

どういう事かというとダンジョンの中に限って(・・・・・・・・・・・)人が死んでも蘇生できる夢のような場所が地上に存在するのだ。

 

 

そこは聖域と呼ばれ、ダンジョンと同時期に地上に出現した謎の一つである。

 

 

そのため、ダンジョンの中だと死んでも生きかえることが出来るから、『またリトライしようね』みたいな、そんな軽い感じに世間はなっている。

 

 

 

本当にここら辺は前世の世界より、マジで軽い。

軽すぎる。

今世の世界の人達は、ダンジョンと聖域の出現で倫理観が少しバグってんだよなそこら辺。

 

 

まぁ、ともかくそんなダンジョン探索者の亡骸を地上にある聖域まで運び、蘇生して、それを対価にお金をもらう。

その一連を行う者こそ、俺達死体回収屋の仕事となる。

 

 

一見、探索者思いの職業にも見えるが、実態は少し違う。

俺は自分からこの仕事をやりたいと思って選んだ口なので例外だとして、この仕事に就くほとんどの人達が、トップのダンジョン探索者を夢見たが、上手くいかず夢破れ、それでもダンジョン関係の仕事をしていたいと、しぶしぶ行き着いた先がこの仕事になる。

 

 

こういった理由から、死体回収屋は殆どが探索者崩れの場合が多い。

 

ダンジョン探索者はある程度戦闘力がないと配信する上で華がない為、視聴率を維持するのが難しい職業なのだ。

だから底辺配信者はこれ一本で生計を立てるのは難しい。

 

その為、トップのダンジョン探索者になれなかった者が、妥協案として就く事が多い、死体回収屋は基本的にダンジョンの奥にすら潜れない弱者や戦闘力不足が集まる落ちこぼれというのが世間の認識だ。

そんな事情から難易度の低い、地上に近い階層しか死体を回収しないくせに金だけは一丁前に取るハイエナ職業だと死体回収屋は不評でほんと肩身が狭い。

 

まぁ、それでも俺は好きでやってるけど。

 

「お姉ちゃんも、期待のルーキー探索配信者グループNEOを見習ってよ」

 

「コラッ、もう何いうのシュン!」

 

「いえいえ、気にしないでください」

 

 

俺はその後、竹内さんとちょっとした世間話をして部屋に戻った。

 

 

 

 

 

 

 

俺は、さっき自分が言った事が嘘にならないように、お風呂に入って部屋着に着替えた。その時、ふとなんとなくさっきの子が言っていた配信者をノートパソコンで調べてみる。

 

その配信者は、最近トレンドの配信者で耳にすることも多かったが、詳しくは知らなかった。

今みたいに小学生くらいの子まで知ってるとなると、同じようにダンジョンを潜っている身として、いよいよ少しぐらいは知っといた方がいいのではと思ったのだ。

 

というか俺、ダンジョンそのものに興味はあるけど、その周りのあれこれに対しては関心がなさすぎるんだよな。

良くない。

本当に良くない。

 

名前で調べると一番上にそのグループ配信者のアカウントが出て来たのでそれをポチッと押す。

 

どうやら今、配信中の様なので少し覗いてみる事に。

 

 

 

 

 

 

配信のタイトルは、【ダンジョン探索】いつものメンバーで渋谷管轄ダンジョン008の30階層を目指す。【#戦闘 #大迷宮】

 

渋谷管轄ダンジョン008は首都内にある、1、2を争うほど大きな迷宮で有名な場所。

年間数十万人の人が訪れるダンジョンだが、未だにダンジョンの奥深く最下層まで、到達されていない名ダンジョン。

 

現在この探索者達の階層は27階層。

このダンジョンの27階層と言ったらダンジョンの探索で中級者〜上級者の間くらいがくる場所である。

 

リーダーのダンジョンデビューが2年数ヶ月前だと考えると、そりゃあ期待のルーキーだと言われてもおかしくない進行具合。

 

配信は、丁度、魔物との戦闘の終盤で、配信のコメントも盛り上がっていた。

 

 

グループメンバーはリーダー含めて5人。

リーダーともう一人が男性で、それ以外の三人が女性のグループ。

 

戦闘相手はオーガか。

緑の皮膚に4メートルの体躯を持つ巨人。

配信グループは、かすり傷程度なのに対して、オーガは皮膚が深い傷だらけで満身創痍。

 

リーダーが光を放つ剣を構えつつ言う。

 

『これで終わりにするぞ!』

 

『おう!』

『分かったわ』

『了解』

『うん!』

 

それぞれに返事をして、最後たたみかける。

 

それに応じて配信コメントも加速する。

 

 

 

 

“おぉぉ!!!“

 

“やれぇぇぇぇぇぇ!“

 

“やっぱ強ぇ“

 

“期待のルーキーは伊達じゃない“

 

“仲間って感じがして好き“

 

 

 

オーガは最後のリーダーの剣の一突きがトドメとなりバタンと音を立てて倒れ動かなくなる。

 

オーガは価値のある素材として持って帰れる所は少ないが、オーガの大きな牙はそこそこの値段で売れるだろう。

それと体内に埋め込まれてる魔石。

あれもかなり高値で売れるだろうな。

 

 

 

リーダーは倒し終えるとカメラ目線になり、口を開く。

 

 

『今日も見てくれてありがとう。俺たちはこのままここに寝泊まりして、体力が回復した状態で目標の30階層を目指す事にするから、明日の配信も楽しみにしてくれると嬉しいです!それじゃ、また。』

 

“おつかれ“

 

“今日も激アツだった“

 

“最高“

 

――――――

¥50000

応援してる。寝てる時に襲われない様に気をつけてね。

 

――――――

 

“ナイスパ!“

 

“ないす〜“

 

 

他にも沢山のスパチャが結構な数送られていたので、今人気なのが分かりやすく伝わって来た。配信も終わり俺はノートパソコンを閉じた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

〜数日後。

 

俺はいつもの様にダンジョンから帰宅して、自分の部屋に入ろうとした所で横から「あの!」と声がかかり、ドアノブを回す手を止めて声の方を見る。

 

そこには数日前に引っ越して来たばかりの子連れの女性が居た。

だけど、今は子供と一緒にいないみたいだ。

顔は焦りの表情で何処か暗い。

 

「どうかなさいました?」

 

 

「今日、私の息子のシュンを見てませんか?」

 

「……今日は……見てないですね、…何かあったんですか?」

 

「それが、シュン、もう学校からとっくに帰って来てもいい時間帯なのに全然家に戻ってこなくて」

 

「学校の方には連絡しましたか?」

 

「……はい。でも学校側はちゃんと返しましたよって言っていてそれ以降は見ていないと。もう少し待って帰ってこなかったら交番に行こうと思っていた所で」

 

行方不明という事か。

それは……流石にほっとけないな。

 

 

「私も手伝いますんで、一緒に探しましょう。もしかしたら、道草食ってるだけかもしれないですし。とりあえず近所の人に聞き周るだとかして」

 

「……いいんですか?」

 

泣きそうな竹内さんを俺は安心させる様に優しい声音で語りかける。

 

「もちろんですよ。困っていたら互いに助け合うのが隣人ですよ」

 

「星宮さん……。本当にありがとうございますッ!絶対に何かお礼はしますので」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

俺達は近所の人たちにシュンくんを見てないか聞き周った。

 

その結果、行き着いた先は――――。

 

「鈴江町管轄不完全ダンジョンか」

 

 

 

この町に数年前出現した結構新めのダンジョン。ダンジョンの中には1階層しかないし、その1階層も学校の教室二部屋分ぐらいしかない。魔物や取れる素材すらない、なんの旨味もないダンジョンな事から不完全ダンジョンと呼ばれている。

 

「目撃した人は、ここの周りをシュンがウロウロしていたって言ってましたけど……」

 

不安そうな竹内さんがそう呟く。

俺たちは周囲を見渡すが、シュンくんの姿はない。

 

「そうですね。このダンジョンは危険性がないと判断して『早く帰りなよ』とひと声掛けただけらしいですし、もしかしたら……」

 

「このダンジョンの中に居るのかも……。でもこのダンジョンは危険性ないんですよね……!?」

 

少しでも不安の種を潰したいのか食い気味に俺に問いかけてくる。

 

 

確かにこのダンジョンは、危険な魔物も居ないと言われてはいるし、最低一人はダンジョン前についている守衛さんが一人もいないくらいには、危険性が低いと考えられている。申し訳程度に、入り口に立入禁止 KEEP OUTと書かれた危険表示バリケードテープだけが貼られてるぐらいの警備の甘さ。

 

でもダンジョン探索者に憧れを抱いていたっぽいシュンくんなら、たとえ不完全なダンジョンでも興味を示すかもしれない。

 

「ともかく、私がこの中を見てみます。目撃情報からもこの中に居る可能性が高いので」

 

1階層だけで、モンスターもいないらしいし、シュンくんをすぐ見つけられるだろう。

 

「私もっ、行きます!」

 

「いや、竹内さんはここに居てください。いくら危険性が低いと言ってもダンジョンにはかわりありません。私は、探索者ではないものの死体回収屋をやっているのでダンジョンに入る資格もちゃんと取っていますから」

 

ダンジョンに入るには資格を取る必要があるのだ。

 

「……分かりました。……星宮さんお願いしてもいいですか?」

 

「もちろんです。私に任せてください」

 

心情的には納得できないだろうが、竹内さんは呑み込んでくれた。

 

一番、ダンジョンの中に駆け込みたいだろうに、その気持ちを抑えてくれた竹内さんは出来た大人だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

俺は薄暗く何もないダンジョンの中をスマホのライト片手に照らしながら進む。

 

このダンジョンの内装は無機質な石レンガが壁として並んでいるだけでそれ以外には何もない、空っぽな場所だった。

 石レンガは誰が並べたのだろうと思わなくはないが、このダンジョンの出現に、人の手は一切介入していないため、謎は深まるばかりだ。

 それがダンジョンなのだと自分に言い聞かせるしかない。

 

俺はダンジョンにしては狭い階層を隈なく見渡したが、シュンくんの姿は見当たらなかった。

 

「中に居ないのかな、あの子」

 

 俺はこのダンジョンにシュンくんは居ないと判断して中から出ようとしたその時、ある一部の壁にうっすらと魔力を感じた。普通の人なら分からない程度の微弱な魔力。

 

俺が念の為、ダンジョンの素材で作られた魔力探知の魔法を周囲に広げていなかったら気づけなかった程度の微弱さ。広げていても分かりづらいくらいだ。

 

 俺は嫌な予感がしつつも魔力を感じる石レンガの一つにそっと触れ奥に押し込む様に力を入れるとガガガと音を立てて石レンガが押し込まれた。

 

 すると刹那、俺の真下から青白い幾何学模様が浮かんできた。

 

「――ッ。転移魔法陣ッ!?」

 

 逃げるか逃げないか考える余地もなく魔法陣は発動する。

 

 

 

 

 

 

――こうしてこの一室に再び静寂が訪れた。

 

 

 

 

 ◇

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

どうも、見た目は女子高校生、中身はおっさんの俺です。

 

 

俺はというと、魔法陣の効果でさっきの狭い所とはまた別の所に飛ばされていた。

 

 カツカツと足音をたてながら先ほどまでなかった廊下を歩く。

 

 まさかあんな所に石レンガを押す事で稼働する転移魔法陣があったなんて。

 

 このダンジョンはあそこだけだと思われていたのだ。

俺もそう思ってたし。だけど実際はこんな隠しエリアがあったと。

 

やはり、あの時竹内さんを情に流されてこのダンジョンに入らせなくて正解だった。

 

 

 

さっきと同じような魔力の流れを感じる壁がここにもあったので、そこでも石レンガを押し込めば多分さっきの所に戻れるだろうけど、もしかしたら、なんらかの誤りでシュンくんもこのエリアまで迷い込んだ可能性もあるな、これ。

 

という事で、未発見エリアを見て回る事にした。

 

 

 俺はしばらく薄暗い廊下を慎重に進んでいると、廊下の先には重厚な雰囲気が漂う異質な空間があった。

 

 このダンジョンでは一回も魔物に遭遇していないが、あの空間はそこそこ濃ゆい魔力の流れを感じた。

 ヒリヒリと肌のひりつきを覚えながら、歩みを止める事はせず、前に進む。

 

 冷や汗が額から流れてくる。

 

 俺はその場所に到着し、おそるおそる空間を覗き込む。

 

「あれは――」

 

 

 そこに居たのは、緑色の皮膚を持ち、首には趣味の悪い骨のネックレスを、体には粗末な黒いローブを身につけた存在。手には木の長い杖を握っている。

 

 

 ――オーガ?

 

 

 いや、違う。

オーガは基本的に木の棍棒などを扱った近距離型の魔物。

 杖を持っているという事は、あれはオーガの上位個体……。

 

 「……オーガ•シャーマンか」

 

 魔法を扱えるオーガで、似たような魔物でゴブリン•シャーマンが居るが、その魔物が扱えるのは初級魔法に対して、このオーガが扱えるのは中級魔法。

 オーガの特徴である力強さはそのままに魔法まで使えるので、討伐難易度もそれなりに高いバケモノ。

 

 ……なんで危険性が無いって言われてるこのダンジョンに出現してんだよっ。

 

 

 

部屋の中は異様な薄青い炎が揺らめいている。その光がオーガシャーマンの獰猛な表情を照らし出していた。そして、そのオーガシャーマンの先に、頭から血を流して倒れているシュンくんの姿があった。シュンくんは微動だにしない。

 

「シュンくん!」

 

 

 

俺は思わず叫びながら、オーガシャーマンが目の前に居るというのに、シュンくんの所まで駆け寄った。

 

 シュンくんを抱えて、生命の有無を確認するが、とても酷い状態だった。

 瞳孔は開ききっており、全身に酷い火傷の痕がある。

 そして頭からは血を流している。

 ――死んでいる。

 

 恐らく火属性の魔法を受けて、その衝撃で地面に頭を打ち絶命……。

 

 そんな所だろう。

 

 不幸中の幸いで、まだ、蘇生出来る状態だった。

 身体がぐちゃぐちゃだったりと酷いすぎると蘇生が出来ない場合があるから、本当にそうはなってなくて良かった。

 

 そんな事をしていると、流石にオーガシャーマンも俺の存在に気づく。

 

 俺はそっと優しく部屋の隅に移動してそこにシュンくんを寝かせる。

 

「――――少し待っててね、シュンくん。とりあえずアイツどうにかするから」

 

 

 

 

 

 

 ◇

 

 

 

 

 

 オーガシャーマンは邪悪な笑みを浮かべながら「グウォォォォォ!!」と咆哮をあげ、杖を振り上げた。その瞬間、杖の先からは巨大な火の玉が放たれ、部屋全体が震える。

 

 俺はその一つ一つを素早く身をかわしながらオーガシャーマンに近づく。

 この時、シュンくんに飛び火しないような位置を考えて魔法の攻撃を誘導して進んでいく。

 その攻撃の猛烈さに一瞬でも気を抜けば終わりだと感じる。

 

 

 

 今俺は、首にかけていた小さな水晶に触れて唱える事で、身体強化魔法を発動し、回避性能を上げている。

 

この世界も前世と同じように、ダンジョンが出現するまでは魔法という非科学的なものはなかったらしいけど、ダンジョンの出現とともに、ダンジョン内の一部の素材を使う事で人間も魔法を扱う事ができるようになったらしい。

 

今使ったアイテムも魔法を発動できるようにする為の起動媒体の一種。

杖が一般的な魔法の起動媒体だが、邪魔になる為このネックレス型を俺は愛用している。

なかなか高い買い物だったけど、後悔はしていない。

 

これも俺の厨二心をざわつかせてくれたっけ。

 

 もう一度俺は水晶に触れて、唱える事で、右手に闇属性魔法で鎌を生成した。闇が大きな鎌の形を取る。

 

火球が次々と俺の周囲を飛ぶ。その熱気と衝撃で、汗が額から流れ落ちる。

 魔法が途切れた瞬間を狙って攻撃したいが、なかなか火属性魔法の攻撃がやまない。

 アイツは巨体を揺らしながらずっと、攻撃してくる。

 

魔法の連続使用は体力の消耗につながるのに全然体力の消耗を感じさせない。体力無尽蔵とかそんな感じじゃ無いよな?

 それだけはやめてほしい。

 まぁ、流石に無いとは思うけど……。

 

 

「ぐっ……!」

 

 炎の玉が俺の顔間近に来ていたことに気づく。

 ひりついた熱さが俺に伝わる。

 

 危ない。集中力が切れかけていた。

 

 俺は、再び集中力を高めて身体強化魔法で強化している足で、スレスレのところを避ける。

しかし、オーガシャーマンの攻撃は一向に止まない。

 

「もう、ラチがあかないっ」

 

思考を巡らせ、どうにかしてオーガシャーマンに隙を作らせる方法を考える。

 

 そうか、隙を作ってくれないなら作らせればいいのか。

 

 俺はオーガシャーマンの握っている木の杖に向かって、ネックレスを触り唱える。

 

『ファイヤァーッ!』

 

 初級火属性魔法。火属性魔法はあまり得意じゃ無いけど、初級なら使えないこともない。

 

 あの杖は木で出来ているので燃えやすい。

オーガシャーマンは着火した杖に気付き思わず手放した。

 

 ――刹那ほんの少しだけ、動きが止まる。

 その瞬間を俺は狙う。

 

 俺は全力で間合いに飛び込む。身体強化魔法の力で宙を飛び、オーガシャーマンの正面に立ち塞がる。そして、闇魔法で生成したカマを高く振りかざし、私の会心の一撃ッ!

 

「これで終わって……!」

 

 

 

オーガシャーマンの咽喉を俺の闇が断ち切る。

 

「グウォォッ」

 

 血しぶきが宙に舞い、巨体は力なく崩れ落ちた。

 

 俺は息を整えながら、その巨体の腹を大鎌で縦に裂く。

 するとそこには色々な臓器が詰まっていたがその中の1つの臓器を裂くと赤色にうっすら光る石を見つける。

 

 ――――魔石だ。

 

 それを取り出して、息を整えながら再びシュンくんの所へ駆け寄った。

 

 

 

 

 

 ◇

 

 

 

 

 

 

「――じゃあ今から蘇生させますね」

 

今、俺と竹内さんは聖域に来ていた。

 

 もちろんシュンくんを生き返らせるため。

 最初絶命したシュンくんを竹内さんが見た時、顔は青ざめ、腰が砕け会話もままならない状態だったが、蘇生が可能だと必死に伝えてどうにか話せる状態まで落ち着いてくれた。

 

「お願いします、星宮さん。本当にずっと何から何まで手伝ってもらって頭が上がりません」

 

「いいんですよ、気にしなくて。ちなみに蘇生の儀式を見るのは初めてですか?」

 

「……はい。聖域で儀式を行う事で蘇生するのは知識としては知っていたのですが……」

 

 私はさっきオーガシャーマンから取り出した魔石を竹内さんに見せる。

 

「今からこれを使って蘇生させます。」

 

「この石をですか……?」

 

「はい、聖域で生き返らせるためには、無償では蘇生できません。聖域に決まった量の魔石を消費させる事で蘇生を行ってくれます。聖域は電池の入っていない道具みたいなもので、電池である魔石を使う事で初めて機能するんです。」

 

 だから通常、死体回収屋は蘇生までした際は、消費した魔石の費用と手間賃を貰うため、依頼人から払ってもらう価格的には高く見えても、実際は死体回収屋の懐に入るお金は結構少ない。

 

それはそれとして、俺は魔石を並べて口を動かし、術式を唱える。

 

 すると、魔石が粒子になって消えていくと同時にシュンくんの遺体が白く光り出した。

 

 白く光っている間は、メキメキ、ジュクジュクと生々しい音が聞こえているが、勘違いしないでほしい。

 体が再生している時の音だ。

 

 

 しばらくすると光は収まり、焼けただれていた肌が、赤子のようにツルツルな肌になっていた。

 全身の傷も全て無かったかのように綺麗になっている。

 

 全回復したかのようにも見えるが、ゲームで言うHP0からHP1にしたような状態なので瀕死の状態だといえる。

 

しばらく病院での入院が必要だろう。

 

 私と竹内さんが見守る中、シュンくんがついに目を覚ます。

 

「……ここはどこ?」

 

 まだ目をシャバシャバさせながら周りを見て目の前に自分のお母さんである竹内さんの事を視認する。

 

「どうしたの?お母さん泣いてるけど」

 

 竹内さんは今まで涙を堪えていたが、安堵でか涙が止まらなくなっている。

 

「バカ!シュン。お母さんを心配させないで!!」

 

 竹内さんは、上半身だけ起き上がっていたシュンくんに抱きつく。いきなりその行動をされたシュンくんは戸惑っていたが、嫌そうでは無かった。気恥ずかしそうにしながらもなんだか嬉しそうだ。

 

 シュンくんに聞いてみた所、ダンジョンに潜った事は覚えているが、何があったかは覚えていないらしい。

 

もしかしたらシュンくん自身の防衛反応で、無意識に死ぬまでの記憶を思い出させないようにしているのかもしれない。

 

 そういう事ならそっちの方がいい。あんなの一生もののトラウマもの確定だし。

 

「お姉ちゃんも心配してくれたの?」

 

 

「もちろんだよ。隣人だからね」

 

俺はシュンくんに笑ってみせた。

 

するとボフッと音を立てそうな勢いで、シュンくんの顔が真っ赤になった。

 

ん?

 

 

まぁ、ともあれ一件落着である。




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