TS死体回収屋は探索配信者の夢を見るか? い や 見 な い   作:TS夢見

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無茶/いってらっしゃい

闇の中でもそのオウルベアの巨体ははっきりと見えた。潰れた片目はなくとも、もう片方の目がぎらりと光り、充分な眼光でショウマ達を威嚇し、そこに立っている。

 

オウルベアは全身を使い、怒りの唸り声をあげる。潰れた片目からは血が滲んでいた。

 

ショウマはこんなに近くに来ていたのに気づかなかったなんてと自分を恥じた。

 

「……くそ、復讐にでもきたか……!」

 

ショウマはサオリの身体を庇いながら、地面に手をついて立ち上がる。

 

サオリの体は死体であっても、これ以上傷ついていい理由にはならない。あまり損傷が激しいと蘇生できなくなることもあるのだ。

 

ショウマはボスことサオリに手を貸すとサオリも立ち上がった。

 

『今のは助かっタ』

 

「あんたを助けた訳じゃないつっーの」

 

『分かっていル。死んで喋れないサオリの代わりに礼を言ってやっているのダ』

 

「なんだそれ……」

 

『ショウマ、オマエには悪いが、アイツはオマエが1人で勝てるような相手ではない。ニゲルゾ』

 

「……逃げるって言っても、あいつあんなデカい図体なくせに機敏に動くし、足も速い……!追いつかれるっ」

 

オウルベアは低く身をかがめ、再び攻撃の構えに入る。

 

それを見てショウマは決心したようにサオリの前に出て、声を出す。

 

「……やっぱ、やるっきゃない。サオリと今後も仲良くやっていくためにも、ここはあいつを殺したあのオウルベアにケジメをつけるべきところだと思う。サオリを乗っ取ってる霊。お前はその体でこの場から逃げろ。彼女を……彼女を頼む」

 

『無茶を言うんじゃなイ。ショウマを含めたパーティー全員でも倒せなかったヤツをアンタ1人だけで倒せる訳がなイ。あの時クレハがいなかったら全滅もあり得タ』

 

「それでも、サオリが蘇生できる身体を保つためにはこうでもしなきゃ……」

 

ショウマは起動媒体を兼ねている斧をオウルベアに向けて構える。身体強化の一種で腕の筋力を重点的に強化する魔法、『剛腕』を使用する。

 

すると、後ろから大きなため息が聞こえた。

 

『いくら言っても我の言葉を効かなさそうダ。これが恋は盲目ってヤツカ』

 

「いや……それは違うんじゃないか?」

 

『直接、加戦することは出来ないが、ショウマ、できる限りのサポートはしよう。クレハほどはいかないだろうガ』

 

「いや、逃げろって」

 

『悪いが、それは聞けなイ』

 

言葉を言い終えると、サオリの身体が、ゆっくりと地面にへたり込んだ。

 

その瞬間、ショウマは自分の身体が少しだけ軽くなったような感覚を覚えた。

 

これはボスがサオリの身体の制御を一時的に緩め、魔力の一部をショウマの補助に回したのだが、ショウマはそれを知らない。

だが直感的にショウマもこれがあの幽霊の仕業だと理解する。

 

「……ありがたいが……サオリを連れていって欲しかったんだが。これじゃあ、俺のそばにいるサオリの死体を守るためにも、確実に勝たないといけなくなったじゃねぇかよ!」

 

緊張のためか、自然と口角が上がり、そう呟く。

 

ショウマはオウルベアと互いに睨み合う。

互いに臨戦態勢に入った。

 

ショウマは斧を構え、魔力を腕に集中させる。

 

――そして時が来た。

 

「剛腕――!」

 

筋肉が波打つように膨張し、骨が軋むほどの力が宿り、斧の重さがまるで紙のように感じられた。

 

オウルベアが腕を振るいその爪が俺を捉える。

 

その巨体が空を裂き、ショウマに向かって一直線に降りかかる。

 

『追い風――!』

 

ショウマは風属性の補助魔法を発動し、身体の周囲に風の流れを纏わせる。その風が背中を押し、動きに加速を与える。

 

その勢いで爪をかわして間合いに入り、首を狙って斧を振るう。

 

刃が閃く。だが、オウルベアは咆哮とともに首をひねり、鋭いくちばしと牙が混ざった怪物の口で斧の刃を噛み止めた。

金属が軋む嫌な音が森に響き、衝撃が柄を通してショウマの腕を痺れさせる。

獣の息が熱風となって顔を焼き、獰猛な片目が間近からショウマを射抜いた。

斧から、ミシッと音がする。

 

「くそっ……!」

 

ショウマは噛み砕かれまいと、一瞬だけ『剛腕』の魔法を限界まで跳ね上がらせ、力を込めて斧をオウルベアの口から取ろうとする。

 

オウルベアの顎がわずかに開き、その隙を逃さず斧を引き抜いた。

 

足と腕に力が入りにくくなっている。

 

風を纏い、再び斧を構える。

 

オウルベアも、獰猛な動きで襲いかかってくる。その動きは速く、重く、獣の本能そのものだった。

 

ショウマは斧を振るい、風の流れを読みながら回避と反撃を繰り返す。

 

だが――限界は近かった。

 

回避しているといっても致命傷を避けられているだけで、かすり傷はいくつもついている。

それは相手にも言えることだった。

 

互いに血まみれ。呼吸は荒く、視界は揺れる。

 

そして、ついに。

 

オウルベアが一歩、リードした。

 

ショウマの足がもつれ、膝をつく。

 

「……っ!」

 

その機を逃さないとばかりに両手の爪で襲いかかる。

 

その爪が、ショウマの頭を狙って振り下ろされようとした。

 

「目をしっかり瞑って手で覆って!!!」

 

そんな時だった。後ろからそんな声が聞こえた。

瞬時にショウマは訳の分からないまま言われた通りに行動する。

その声に、ショウマは聞き覚えがあった。ショウマにとって3年弱付き合ってきた声なのだ。

 

「フラッシュ――!」

 

刹那、眩い光が、森を照らした。

 

ミユキの光魔法が、オウルベアの視界を焼くように覆ったのだ。

 

「ガゥアアアアッ!!」

 

オウルベアが悲鳴を上げ、頭を振る。光に混乱し、動きが乱れる。

 

その隙に、闇が地面や木から這い上がる。

 

俺の魔法で闇が鎖の形を作り、オウルベアの手足に巻き付き、オウルベアは身動きが取れなくなる。

 

「やっぱり、オウルベア、力強いな。速攻で作ったから魔力不十分で鎖脆いかもだからすぐ壊されそうだ……。だから早めにトドメ決めちゃって!ショウマくん」

 

ショウマは3人が自分たちを見つけ出し、助けに入ってくれたことを理解する。

 

するとタカハシが叫ぶ。

 

「私の魔法で援護します!ショウマくんの攻撃で決めちゃってください!!」

 

ショウマは力強くうなづいた。

 

「ショウマくん、勢いをつけたまま地面を蹴って跳んでください!」

 

ショウマは言われた通りに勢いをつけて、地面を蹴り足を前に突き出して、空中を舞う。

 

その瞬間、タカハシが魔力を集中させる。

 

空気の塊が、ショウマの足元に一瞬だけ形成される。まるで空中に浮かぶ足場のように、ショウマの足がそこに乗る。

 

「……っ!」

 

ショウマはその反発力を利用し、さらに高く跳躍する。

 

そして――二段目。

――三段目。

 

最後の空気の塊が、ショウマの足元に現れる。空気中の分子を瞬間的に密集させ、極短時間だけ踏めるほどの抵抗を生む。

 

ショウマはその足場を蹴り、空中でさらに跳躍する。

その高さは巨体のオウルベアを超える高さまで到達した。

そしてあとは落ちるだけ。

 

「――うおおおおおおおっ!!」

 

斧を振り上げ、重力と体重のすべてを刃に乗せる。

 

オウルベアは、潰れた片目で真上のショウマを睨む。避けようとするが、避けるにはワンテンポ遅かった。

 

ショウマは落下の勢いをそのままに、斧を縦に振り下ろす。

 

刃が、オウルベアの頭頂に深々と突き刺さる。

 

「ズウァァァァァァァァァァァォァァァォァァァ!!」

 

咆哮が森を震わせる。断末魔が森中に響いた。

 

巨体が、ぐらりと揺れ、地面に向かってゆっくりと崩れ落ちる。

 

ショウマは、斧が突き刺さった反動で、斧を刺したまま手放し弾かれたように、身体はそのまま落下し始める。

 

「……っ!」

 

ショウマの視界が揺れ、地面が迫る。受け身を取る余裕もない。

 

そして――。

 

ボフッ――。

 

 

そんな音を立てた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

—少し前のこと。

 

 

俺、クレハはペットボトルに残っていたボスの破片に魔力を送り込み、震えるように動き出した破片は磁石に引かれるようにある方向を指し示す。

 

「本当に動いた……」

 

俺はそれを魔法だと偽り、タカハシとミユキを伴って森の奥へと進む。半信半疑ながらも、他に頼るものがない二人は俺を信じた。

 

そして、彼らはついにその場所にたどり着いた。

 

ショウマが血まみれで斧を握りしめている。サオリの身体は地面に座り、そこにはボスの気配が宿っている。最悪の状況だ。タカハシとミユキは目の前の光景に凍り付いていた。

 

「……っ!」

 

助けなければという思いで俺が一歩踏み出した、その時。

 

「死体回収屋さん!」

 

背後から声がかかる。振り返ると、タカハシが真剣な顔で俺を見ていた。

 

「私……反省してるんです」

 

「え、今それどころじゃ……」

 

戸惑う俺だったが、タカハシのまっすぐな瞳に、向かおうとする足を止めた。

 

「今まで、あまりにもサオリさんに頼りすぎていました。もちろん、リーダーはそんなこと気にしてなかったと思います。でも、私たちは……守られすぎていた。これは事実だ。だから、こういう状況になると、何もできない。それが、とても悔しい」

 

タカハシの声は心なしか震えている。

 

「だから、サオリさんは、自分がいなくなった後、私たちがちゃんとやっていけるのか心配だったのだと思います。その不安があったからこそ、最後まで、自分達にオファーが来ていることをはっきりと打ち明けるときも、どこか影がさしていたんだと思います。そういった心残りがあったから」

 

俺は何も言えなかった。実際、そのような気もするが、この場でサオリの気持ちを代弁できるほどの関係値はない。俺はサオリが生きている時の姿も見ていないのだから。

 

「なので、今ここで、僕やサオリさん、ショウマくんは行動で示さなきゃいけないんです。サオリさんが、気兼ねなくカメラマンの仕事に向かえるように。私たちは心配しないでいいから安心していってらっしゃいって送り出してあげられるように」

 

固まっていたミユキもそれに同意するかのように頷いた。

 

「ご迷惑なのは重々承知なんですが、死体回収屋さんにもお願いしたいことがありまして……。ちょっと身内のゴタゴタに巻き込む形になっちゃうんですけど……」

 

タカハシの申し訳なさそうな言葉が発せられる。俺の答えは決まっていた。

 

「――もちろん!」

 

俺の言葉にタカハシは顔の筋肉を少し緩める。

 

「ありがとうございます!……あの、私達2人は持っていないので、お聞きしたいのですが、束縛系の魔法は、使えたりしませんか?」

 

俺は少し考えてから答える。

 

「……直接的な束縛系の魔法はありませんが、闇魔法の応用で似たような魔法は使えます。」

 

タカハシは深く息を吸い込んでから言った。

 

「そうですか……良かったです。なら、出来そうだ。……ミユキさん、死体回収屋さん、私に考えがあります」

 

 

その考えというのが、ショウマを援護したあの魔法の連携だった。見事にタカハシの思惑通り事が進み、連携プレイもうまくいった。

 

タカハシには、どうやらサオリに隠れていてタカハシ自身も気づいていなかったようだが、作戦を考えて指示をするのに向いているらしいことが分かった。

 

これほど鮮やかに決められたのだ。サオリがいなくなっても、タカハシの指示で今後も連携は上手くやっていけそうな気がする。

 

そんな事を考えていると、最後の力を振り絞り斧を振り下ろしたショウマが、力尽きたように空中から落下しているのが目に入る。

 

俺は、咄嗟に自分に身体強化の魔法をかけて落下するショウマの軌道を正確に捉える。

 

そして――

 

ボフッ――。

 

ショウマの身体を腕の中に受け止めた。

 

お姫様抱っこで。

 

顔をのぞいてみると、ショウマは気を失っていた。

 

かすかな呼吸が聞こえるので死んではいない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『結局、台車使うことになったナ』

 

今、彼らは地上を目指して歩いている。タカハシとミユキの数歩後を、俺とサオリの体を動かすボスが歩いている。俺はその台車に気を失っているショウマを乗せていた。そんな中、前を歩く二人には聞こえない大きさでボスはささやいてきた。

 

「ん?あーそうだな」

 

ショウマには、ミユキがさっき出来るだけの手当をしたので、傷もそれほど残っていない。

 

この世界にある治癒魔法は万能ではないが、疲労感を軽減したり、擦り傷を治したり、血を止める程度のことは出来る。

 

逆にいえば人の使える治癒魔法は、それほどしか出来ないとも言えるが。

 

だからダンジョン限定とはいえ、蘇生のできる聖域の存在は大きいのだ。

 

一般魔法よりも奇妙奇天烈な事が多い固有魔法でもまだ蘇生を可能とする固有魔法の所有者はいない。そのため聖域の仕組みを解明出来れば、ダンジョンだけでなくそれ以外の場所で死んでも蘇生できるように拡張できるのではないかと世界各地で聖域の研究が学者や研究家により行われていたりする。

 

しばらく俺とボスの間に沈黙が流れる。

 

「ボス、今日はありがとな、なんか色々。……にしても、ボスにそんなに色々な芸当が出来るとは聞いてないぞ」

 

『言っていないからナ。まぁ、ぶっちゃけ我も直感的に出来そうだったからやっただけで、我自身知らないことも多カッタ』

 

「自分の事なのにか?」

 

『ジブンの事なのにダ』

 

「そういうもんか」

 

『そういうもんダ』

 

ボスはそう言って、サオリの身体でわずかに肩をすくめた。その仕草が妙に人間くさくて、俺は思わず笑ってしまう。

 

『何がオカシイ』

 

「……いや、なにも」

 

『それは嘘だろウ。顔がニヤついている』

 

前を歩くタカハシとミユキの背中が、少しだけ軽やかに見えた。きっと二人とも、さっきの戦いで何かを掴んだのだろう。リーダーが優秀だとそのリーダーがいなくなった際に開く大きな穴を埋める事が出来ず、解散する事になった探索者グループの話なんていくらでも聞くが、少なくとも今の彼ら彼女らからはそんな未来を感じさせない。

 

ふと、台車の上で運ばれるショウマの顔を見る。泥と血で汚れてはいるが、その表情はどこか安らかだった。

 

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