TS死体回収屋は探索配信者の夢を見るか? い や 見 な い   作:TS夢見

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不穏な動き/始まりの朝

クリーピングコインを宝箱ごと爆破させた俺は、この女性を蘇生させるため、急遽予定を変更して地上に戻ることにした。ひとまず、することは――。

 

「ボス、お願い」

 

『おうよ』

 

ボスの粘液のほとんどが入ったペットボトルを開けると、ふわりと広がり形を崩す。黒い粘液が半透明の膜のように伸びて、ぬるりと女性の首筋に触れ、肩から腕、脚へと這い回っていく。薄い布をかぶせるように、全身を覆い尽くした。

 

しばらくすると、粘膜の下で、死んだはずの身体がぎこちなく起き上がる。足が床をしっかりと踏んだ。この光景は確かに不気味だが、オウルベアの件以来、俺は何度か見ている。

 

最初は正直、あまり乗り気じゃなかった。けれど、いざ使ってみると、手を塞がずに済むし、動きやすさも段違いだ。しかも魔法も使わずに済むから、体力の消耗も抑えられる。そう考えると、使わないという選択肢は、浮かばなくなっていた。一度、楽を覚えてしまうと、どうしてもそれに頼りたくなるんだよな。それが人間だと言い訳したい。褒められたことじゃないかもしれないけど……。

 

そんなことを考えていると、ボスが言葉を発した。

 

『ン、どうかしたカ?間抜けな顔をしているゾ』

 

「んや?どうもしてないよ…………てか私今そんなに間抜けな顔してた?」

 

ボスの発言と同時に、女性の顔がしっかりとこちらを向く。

その時だった。俺、クレハに電流が走る。記憶の中から朧げなものをたぐりよせる。

 

その瞬間、俺の脳裏に、前に二階層で助けた少女の姿がよみがえった。

 

「……………………ああ……思い出した。どこかで見たことあると思ったら!」

 

少し前に、このダンジョンの二階層でピュアビーストという小型の魔物に苦戦していたところを助けたことがあった。その時の子だ。一瞬の出来事だったので、記憶の彼方に追いやっていた。

 

『情緒大丈夫カ。急に大きな声出すんじゃナイ』

 

「ボス!この女性、どこかで見たことあると思ったら、前に一階層であってたんだよ!」

 

『知ってル』

 

「……え」

 

『逆に今まで気づかなかったのカ。我は気づいていたゾ』

 

「まじぃ……」

 

魔力の塊が覚えていたことを、しっかり覚えていなかった俺って…………。

 

『クレハ何を突っ立っているんダ。さっさと連れて行くゾ。聖域まで』

 

謎の敗北感に打ちひしがれていると、数歩先に進んだボスにそう言われた。死体回収屋としてそれを言うべきなのは俺なはずなのに、それをボスに先を越された。さらに落ち込んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

しばらく歩いて、転移された最初の地点に戻った。最初にこの通路に転移してきたとき、真下に落とされた地点だ。その床の中央に――新鮮な死体が転がっていた。

 

転移地点は数メートル上の空中だ。それに対応できず、落下して打ち所が悪かったのか死んでしまったのだろう。まだ温もりが残っている。

 

……にしても、今日は顔見知りによく会う。

 

「ねぇ、ボスこの人、グリーンスライムの生息地を独占して稼いでた死体回収屋だよね?」

 

『ダナ』

 

これだけ聞くと、最終回が近づいた作品にありがちなキャララッシュにも思えるが、今のところ全部死体なのはどうしてだろう。

 

俺は所持している紐を取り出し、男性の遺体を俺の背中にくくりつける。肩と腰に重みがずっしりとのしかかる。台車は使わない。今から天井の転移魔法を起動させるつもりだからだ。

 

この通路は五階層へも行けるが、天井に隠された魔法陣のトリガーを起動すれば三階層に戻ることもできる。だが、ここへの転移直後は空中から落下するため、下ばかりを気にして誰も上を見上げる余裕がなく、魔法陣の存在に気づけない。俺は魔力の流れを人より感じやすいのに加えて、魔力探知を展開していたから気づいた。それでも気づいたのは二度目の訪問だったけど……。

 

普段はここの天井の転移魔法陣のトリガーを起動する際、闇属性魔法で生成した黒の刃を壁に突き立てながら天井に届くまで登る。

 

だけど今回はそれには問題がある。――なにせ今、俺の背中に男性の遺体とそばに女性の遺体があるのだから。三人分の重さを抱えた状態で、刃を突き立て、天井のトリガーを狙うのは至難の業だ。ここを使う時、一人の死体を運ぶことはあっても二人同時はここを使い始めてからは今までなかった。

 

それでは、男性は俺が運び、女性はボスが操っているのだから、ボスの力で彼女を登らせれば済む話では?と考えるかもしれない。

 

しかし、ボス自身は今のところ操ってできることといえば簡単な動作のみだ。この天井は魔法や道具を使ってしか登れそうにないことを考えると、それしかできないボスが操って天井に辿り着くことは不可能に思える。

 

さらに厄介なのは、天井の転移魔法の仕様だ。あれは、起動した瞬間に「近くにいる者」だけを転移させる。魔法の範囲は狭く、数メートル離れているだけで対象外になる。つまり、その諸々の事情から考えて、俺が天井まで到達し、三人分の身体を魔法陣のすぐそばに持っていかなければ、転移は成立しないのだ。

 

「ボス、頼みがある」

 

『ン』

 

「今から風魔法を使う。ただあまりなれないことをするから、私の魔力の流れを最適化して、できるだけ高出力で扱えるようにしてほしい」

 

『……了解ダ。そちらに集中する。少し待て』

 

ボスの声が落ち着いた調子で響くと、操っていた女性の遺体の動きが止まった。そうかと思えばふらっと体の芯がなくなったかのように地面に向かって倒れかけるので、手で支える。

 

ボスが俺の援助に集中するために、死体の操作を一度やめたのだ。今の所、ボスは器用に死体の操作をしながら俺の援助をするみたいな芸当はできない。どちらか片方をするとどちらかが疎かになってしまう。

 

『準備ができたゾ』

 

「……よし、いく」

 

魔力を練る。風属性の魔力を限界まで圧縮し、足元に渦を巻かせる。ボスの援助が入ったことで、魔力の流れは滑らかに整い、制御は格段にしやすくなっていた。空気が震え、風が唸りを上げる。

 

「――よっと!」

 

風の柱が爆発的に吹き上がる。三人分の重さ――背中の男性、腕を腰に回す形で抱えた女性、そして自分自身。そのすべてをまとめて空中へと押し上げる。

 

視界がぐんと上昇する。天井が迫る。空気が薄くなる。体力が削られていくのがはっきりとわかる。さすがに三人分はきつい。

 

「……っ、まだ……!」

 

天井の苔が視界に入る。その奥に、微かに揺れる魔力の流れ――転移魔法陣を発動させるトリガーの場所。

 

俺は歯を食いしばり、左腕に抱えた女性の身体をぎゅっと締め直す。背中の男性の重みが腰に食い込む。それでも、右手だけは自由に動かせるように保っていた。

 

「届け……!」

 

起動媒体であるネックレスに一瞬触れ闇属性の魔法で闇を凝縮させる。闇を刃の形に整え、黒く細い魔力の刃を生成。

俺は勢いよく右手を振り上げ、風の勢いに身を任せながら、天井の苔へと押し込む。

 

刃が苔を裂き、奥に潜む魔法陣のトリガーの核に触れる。空間が震えた。

 

「――来いっ!」

 

その瞬間、天井の魔法陣が淡く光を放ち始める。転移の準備が整った。三人分の重さを抱えたまま、クレハはその光の中心へと突っ込んでいく。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

三階層への転移が完了した瞬間、俺はその場にへたり込んだ。背中の男性、腕の女性、自分自身。三人分の重さが一気にのしかかり、膝が笑う。

 

普段は台車を少し浮かせるくらいしか、風の浮遊魔法は使わない。だけど今回は三人分の重りを持ち上げ、それプラスいつもは絶対にしない高さまで浮遊したのだ。

 

ボスの援助があっても――。

 

「……っはぁ……しんどい……」

 

肩は軋み、腕は痺れ、腰は悲鳴を上げていた。魔力の余韻が体内を巡り、視界がじんわりと滲む。

 

するとボスが何気ない調子で言った。

 

『ナゼ三人まとめて運んだ?三階層と転移場所を往復して一人ずつではダメだったノカ?』

 

その言葉に、俺は思わず顔を上げる。……そう言われてみれば、確かに。

 

なぜか、一度でまとめて運ぶことしか頭になかった。よくよく考えてみれば、別に急いでるわけでもないし、横着せずに一人ずつ運べば良かったのだ。一人を運ぶことは何回かあったのだからそれを2セット繰り返せば良かった。そしたら少なくとも慣れないことして、こんなに疲れることはなかったと思う。

 

「……っぐ……」

 

俺は口を開きかけて、閉じた。そして、気づいてしまった。

 

「……あれ、私……ただただ、非効率なことした……?」

 

『ダナ』

 

俺はその場に崩れ落ち、顔を両手で覆った。

 

「……なんで先に言ってくれなかったんだよ……!」

 

『聞かれてナイ』

 

「いやいやいや、そこは察してよ!俺が無茶しようとしてたじゃん!」

 

『無茶はいつものことダカラ、てっきり無茶がシタイノカト』

 

「なっ……!」

 

『チガウノカ……?』

 

「違うに決まってるだろぉ!」

 

さっきのクリーピングコインのお返しと言わんばかりにボスがそう言った。そんなボスの声音は心なしか楽しげだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

湯船から出る。

 

髪の先から落ちる雫が、肩を伝って背中へ滑っていく。火照った身体をタオルで拭いて、最後に、タオルで髪を包みながら、ゆるく息を吐く。胸の奥まで緩んでいて、呼吸ひとつで全身が沈んでいくような感覚になる。

 

俺はダンジョンから帰宅して、一通りを済ませ、お風呂に入っていた。あとは寝るだけだ。やっぱりお風呂は気持ちいい。今日みたいに疲れた日は特に。

 

部屋着に袖を通すと、布の冷たさが肌に吸い付いて、湯上がりの熱をじんわりと奪っていく。その感触すら、心地よかった。

 

鏡に映る自分の頬は、湯気に染まったように赤く、目元は少しとろんとしていた。まぶたが重い。

 

今日も結構体を酷使したから限界がきてるな俺。

 

肌に触れる冷たさが、湯上がりの熱と混ざり合って、全身がとろけるようだった。

 

俺は寝床に自分の体を沈めた。

 

枕元では、ボスがぬるりと溶けたように広がっていた。

 

「……ふぁぁぁ。寝るかぁ……」

 

まぶたが重く、意識が、どろのように沈んでいく。

 

俺は目を閉じた――。

 

――スマホが鳴った。

 

俺は目を開けた――。

 

「……ん、……なに……?」

 

画面には「レイナ」の文字。頭がシャキッとする。ボスが枕元からぬるりと顔を出す。

 

『誰ダ?』

 

「学校の友達のレイナ。どうしたんだろ、こんな夜遅くに」

 

スマホを耳に当てる。

 

『もしもし、ごめん、クレハこんな時間に』

 

「いいよー。まだ寝てなかったから」

 

『良かったぁ。ありがとうレイナは優しいね。ある事を思いついたんだけど、一度思いついちゃったら、居ても立っても居られなくて』

 

「ある事?」

 

「単刀直入だけど、ねえ、クレハ。今度ダンジョンの中でお祭りがあるんだけど、一緒に行かない?」

 

おそらく鈴江町管轄の町おこしイベントのことを言っているのだろう。だけど、レイナがダンジョン関連の話をするのは珍しい。俺から話すことはあっても彼女からそういった類の話をされることはあまりなかったから。

 

「珍しいね、レイナがそういった話するの。レイナってそういうの興味あったっけ?」

 

『んー、なんていうか、ダンジョンそのものっていうより、お祭り事の方にね。たくさん屋台出るらしいし、美味しいものが食べれる』

 

「レイナらしいね」

 

俺は苦笑する。

 

『明後日、学校で会えるけど、それまでにクレハの予定が埋まっちゃったら嫌だし。思い立ったら即行動、これが私のモットーだから!』

 

さすがクラスの人気者は、行動力がある。でも――。

 

「ごめん、その日、隣の子の家のお子さんと行く約束してて」

 

『あぁ……そうなんだ。一足遅かったかぁ……まぁ、それは仕方ないね。りょーかい』

 

レイナの気落ちした声が電話越しに聞こえる。

 

しばらく沈黙したあと、レイナが口を開く。

 

『…………じゃあ、幼馴染と行こうかな』

 

「幼馴染?」

 

『うん、幼稚園の頃から付き合いのある子がいるんだけど、私以上にダンジョンとかに関心薄い人だったから、ダンジョンに関心のあるクレハを一番最初に誘ったの。まぁ、でも今回はイベントがメインだし、誘えば来てくれるかも』

 

――幼馴染。

 

俺は心の中で呟く。そんな存在自分にいたっけとふと思ったからだ。特にそれ以上の理由はない。

 

どうだったか。

 

そもそも転生したあとの俺は人付き合いが上手い方じゃなかったからな。

 

そう思いながら、記憶の奥を探ると、ふいに浮かんでくる顔があった。思い浮かんだのは、泣き顔の少年。幼稚園の頃から、俺が守ってあげていた男の子。いじめられっ子で、俺が前に立って、何度も庇ったっけ。

 

中学に上がる時、親の都合で私が転校して、それっきりだったけど。

 

あれは、幼馴染と呼んでいいのだろうか。今は会ってすらいないし、微妙なのかな。俺は幼馴染の定義があまり、分からないのでこれ以上考えるのをやめた。

 

『でさ、互いに別の人と行くことになるけど、せっかく同じ日に同じ場所にいるなら、少しくらい集まれる機会作らない?』

 

「そのくらいなら大丈夫だと思う」

 

 

『よし、決まりね!私、両親から誕生日プレゼントで欲しかった靴買ってもらったて言ってたじゃない?』

 

「言ってたね」

 

この前学校でたわいもない話をした時に聞いた。

 

『それ、クレハにも見せたかったの。でも学校じゃはいていけないでしょ?だからその日にはいていく』

 

俺はそう言ったオシャレには興味はないが、この娘は親にもらったのが嬉しくて、自慢したくてたまらないのだろう。そんなレイナが微笑ましい。

 

『じゃあ、そういうことで!』

 

 

 

レイナは楽しげにそう言って、通話を切った。スマホの画面が暗くなると、部屋の静けさが戻ってくる。

 

『元気な娘だナ』

 

「ね」

 

『お祭り事っていうのは、いつの時代も人の楽しみだと聞くゾ。クレハも今の娘みたいな感じではしゃがないノカ?』

 

「んー……」

 

少し考えてから、私は枕に顔を埋めた。

 

俺も素直に、あれくらいの歳だったら、あんな感じではしゃげたんだろうけど……俺は前世を含めて歳を重ねまくってるからな。

 

すると、頭の中にレイナとシュンくんの顔が思い浮かぶ。胸の奥にほんのりとした熱が広がった。

 

「……まぁ、それでも。久しぶりに、自分もはしゃげそうな気がする」

 

布団のぬくもりが全身を包み込み、意識は静かに沈んでいった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

成田空港。

到着ゲートを抜けた男は、人混みに紛れながらも、どこか浮き立つような足取りで歩いていた。

 

柱に身を寄せると、男は携帯電話を取り出し、耳に当てる。

 

ジャケットのポケットには、エジプトの、あるダンジョンにてすり替えてきたオリジナルの不死鳥の卵が収まっている。

 

「……せやけどなぁ、例の卵、こんな軽くてほんまに大丈夫なんか?中身スカスカちゃうんかって思うくらいやで」

 

その問いに、落ち着いた声が返ってくる。

 

『中身はスカスカで合ってますよ。今はそのたまごの中に何も入っていません』

 

「え、ほなダメやんか!?」

 

『問題ありません。エジプトにいるフェニックスが死んだ瞬間、今あなたが持っている卵に身が生成され命が宿ります。そしてその殻を破り、復活を果たすでしょう』

 

「そうなんか?……まぁ、そう言うんやったらええけどな」

 

男はふっと笑みを浮かべる。ガラス越しの光が丸メガネに反射して、きらりと光った。

 

「にしても……運命っちゅうやつやなぁ」

 

その瞬間、彼の表情は恍惚に染まった。目尻がゆるみ、口元が甘く吊り上がる。周囲の喧騒も、アナウンスも、すべてが遠のいていく。

 

「なぁ、ちょっと考えてみぃ。僕らは目的の場所で、決まった日時にやらなあかんことがあるやろ?その日が一番ええって話や。ほんでな、集めた情報によると“あの人”が今そこを拠点にしとるらしいんや。てことは、その日に“あの人”がちょうど来てても、なんもおかしないやん?」

 

男は胸ポケットの卵をそっと撫でる。

 

相手が、苛立ちを抑えた低い声で告げる。

 

『……わかっていると思いますが、本来わざわざエジプトまで行って、こんな回りくどいことはしなくても良かったのです。ですがあなたの提案に乗りました。それはあなたが協力者だから、ある程度の融通をきかせたのです。そこを分かった上で動いてください』

 

男は肩をすくめ、まだ恍惚の余韻を残した笑みを浮かべたまま答える。

 

「わかっとるって。感謝しとるよ。せやけどな、周りがちょっと混乱してくれた方が、うちらにとっては動きやすいって言うたんはそっちやろ?せやから、その計画に支障出ぇへん範囲で、僕が“あの人”にしてあげたいことを実現させたいんや」

 

そして、声を落とし、いつもより柔らかい口調で言う。

 

「……今、“あの人”は親元離れて、自分の稼ぎでなんとか生活しようと頑張っとるらしいねん。まだ17でやで?健気やろ?せやから、久しぶりに再会できた時には、僕が最高の演出で“商売繁盛”のプレゼントを贈るんや」

 

男は胸ポケット越しに卵を撫で、にやりと笑った。

 

「きっと不死鳥も、僕と彼女の再会を祝福してくれるやろなぁ」

 

すると、呆れたような声が返ってきた。

 

『………………協力者であるあなたは、基本的に知能も高く戦闘能力も高い。協力者としては十分すぎると思っています。これまでの下地はあなたなくして成り立っていませんでした』

 

「なんや急に褒めてきて……いつもの態度と違いすぎて、逆に寒気するわ」

 

『……でも、あなたが“運命の人”と呼んで慕う人間が絡んだ時だけ、信じられないほどバカになるのはやめて欲しいところです』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そしてあっという間に時が進み――。

 

ベランダ越しから見える空はどこまでも青くて、空気も澄んでいるように見える。こんな日に限って、俺は寝坊した。

 

ドアの向こうから、トントントントンと軽いノック音が響いている。その音を聞きながら、俺は大急ぎで身支度をしていた。

 

「やばっ……完全に寝坊した……!」

 

洗面所で顔を洗い、髪を整える。二着で回している作業着のうちの一着を手に取ろうとしたが、今日はダンジョンに行く目的が違う。別に仕事しに行くわけじゃないのだ。俺は私服をクローゼットから取り出した。

 

スマホの充電は21%か。昨日疲れすぎて、スマホを充電することを忘れていた。ギリギリだけど、モバイルバッテリーがあるからなんとかなりそう。

 

そんな感じで、慌ただしい俺の隣では、ボスが呑気にPCを触っていた。今朝のニュース記事を見ているらしい。

 

「ボス、なんで起こしてくれなかったの。今日イベントの日って言ってたでしょぉ」

 

『すまぬ。PCで色々調べていたら、そっちに熱中していて忘れていた』

 

俺はガクンと項垂れる。

 

……やめよう、そもそも魔力の塊に頼りすぎる俺が悪い。

 

ドアの向こうから、元気な声が響く。

 

「お姉ちゃーん、早くー!」

 

続いて、少し落ち着いた声がそれを嗜める。

 

「こら、やめなさい。まだ時間はたっぷりあるんだから」

 

「ごめんねー!今出るから」

 

俺は慣れた手つきで、ペットボトルにボスの黒い液体を詰めていく。ほとんど詰めたところで、残ったボスの一部を指先ですくって、耳の裏にくっつける。

 

――これでよし。

 

「さぁ、行こう。鈴江町098ダンジョンの町おこしイベントに」

 

誰に言うわけでもなく俺はそう呟いて、玄関のドアを開けた。

 

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