TS死体回収屋は探索配信者の夢を見るか? い や 見 な い   作:TS夢見

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控え室/バズ

控え室のテントの中はソワソワした空気に包まれていた。

自分らの出番を目前に控え、NEOのメンバーたちは各々で動いていた。

ミナは台本を確認したり、スズカは衣装の細部を整えたりしている。

空気は張り詰めているが、仲のいいメンツなだけあってそれすらも、リュウヤにとってはどこか居心地がよかった。

 

NEOは、大学で本格的に活動を始めたダンジョン探索グループだった。

経緯はこうだ。

 

リュウヤとミナは互いの両親が仲良く、物心つく前からの幼馴染である。

小さい頃から一緒に遊び、同じ高校、同じ大学に進んだ。

大学に入ってから、ふとしたきっかけでダンジョン探索に興味を持ち、ミナが「それなら一緒にダンジョン探索やってみない?」と提案したことで、俺はミナと資格を取りダンジョン探索を始めることにした。

 

アヤメはリュウヤの小学校時代からの付き合いだ。

事務所に所属する以前は、ダンジョン探索の計画は主にアヤメが担当していた。

リュウヤは当初、探索計画をうまく立てられずに悩んでいたが、几帳面でしっかり者のアヤメに相談すると、計画立案を立候補してくれた。

最初は、探索には参加せず、計画をたてるのみだったが、気づけば、俺たちと同様に資格を取り、俺やアヤメと共にダンジョンへ足を踏み入れるようになっていた。

 

 

ユウキは大学からの親友。

顔が良く明るくてノリがいい奴だが、大きい欠点がある。女好きに加え過剰なまでのシスコンなのだ。

いわゆる残念イケメン。

ユウキはリュウヤたちの活動に興味を持ち、「俺も混ぜてくれ」と言って加わったのがきっかけだった。資格がいることを告げるとあっさり資格を取ってきた事にはリュウヤも驚いた。

 

スズカはミナの高校時代の友人。

ミナの友人でミナが誘ったことで一緒に探索することになったNEOで最後に加入したメンバーだ。もちろん彼女も資格をとった。

 

 

 

そんなこんなで最初は、休日に集まってダンジョン探索をするだけの日々だった。

そんなある日、俺たちの動画が知らないところで大バズりをした。

それはその動画がバズったのを知った数日前の事だった。

アヤメが魔物によって瀕死になったところをリュウヤ達が必死に庇ってもぎ取った勝利の一部始終で、俺らじゃない第三者によって上げられた動画だった。どうやら俺らが戦っているところを通りすがりの探索者が撮影して投稿したらしい。死んでも蘇生ができるのに、戦えなくなったパーティーの仲間を死なせず、庇いながら戦う姿勢が好印象という事でバズったとのことだった。

 

その動画を見たフォージエルという事務所から、連絡が来た。

 

「君たち、まとめてウチに来ないか?」と。

 

驚きながらも、全員が「やってみよう」と頷いた。

こうしてNEOは、配信グループとして活動を始めることになった。

その後、俺らは運のいいことに、才能があった。事務所に所属しているプロなどからダンジョン探索の際のノウハウを教えてもらうことで、急成長を果たすことができた。

 事務所の人からしてみれば、誰からも学んでいない状態でも筋が良かったのがバズった動画の画面越しから分かったから、鍛えたらものすごい速さで成長するのは必然だったという。

 そこからの勢いは俺らも驚くほどで、テレビや雑誌での取材がくるくらいに、知名度もぐんと高くなった。

 

そして今日、少し前までなら考えていなかったような日々を送る俺らは、世にも珍しいとされるダンジョンの中で開催されるフェスに特別ゲストとして呼ばれていた。

世間も注目している町おこしイベントだ。

 

 

 

テントの入口がめくれて、イベントに来ている人の様子を見るべくテントの外に出ていたアヤメが戻ってきた。

パーカー付きのジャージにサングラスとマスクという完全に不審者スタイルだったが、それも仕方ないだろうとリュウヤは思う。

知名度が高くなり有名人となった今、素の状態だったら目立ちたくない場面でも変に目立ってしまうのだから。

 

「まだ始まったばかりなのに、すごい人の数。ここの一階層かなり広いでしょ?だから私が見渡せた範囲だったけどざっと見ただけでも数千人はいたと思う」

 

ジャージのフードを外し、マスクを取ったアヤメがそう報告すると、衣装を整えていたスズカが話に加わった。

 

「今さっき、このイベントの関係者の人から聞いたけど、この感じだと今日だけで十数万人の入場が見込めるらしいわ。さすが注目されていたイベントなだけあるわね」

 

リュウヤは話を聞き頷きながら、ふと視線を横に向ける。

ユウキが、魂が抜けたように落ち込んだ顔をしていた。

 さっきから気になってはいたのだが、どう声をかけていいか分からず放置していた。

しかし、やはりどうしてこうなっているのか気になって仕方がない。こいつがこんな様子なのは珍しいのだ。

 その俺の視線をユウキではなくアヤメが察してくれてアヤメが話してくれた。

 

「ユウキの妹のレイナちゃんが今このイベントに友達と来ているらしいんだけど、それを知っていたユウキが顔を出したら『せっかく楽しんでるのに来ないで』って言われたらしいよ」

 

「……それは、まぁ」

 

リュウヤは苦笑いをする。

仕方がない気がするからだ。

妹のレイナちゃんからしたら、せっかく友達と楽しくイベントを満喫していたところに、変に知名度の高い兄がやってくるのだ。

 ユウキのことだからアヤメのように目立つ事を気にするタイプじゃないので変装もせずに行ったのだろう。

だから自然と人の視線を兄のせいでいっしんに浴びる事になる。しかも地味にNEOの中で一番女性ファンが多い男だ。おまけにユウキの女性ファンは一癖も二癖もあるとで有名でもある。なので、ユウキの妹のことを知らない、たまたまそこに居合わせたユウキファンから「何この女!なんでユウキ様と一緒にいるのよ!」みたいな敵意むき出しの視線を向けられたに違いない。簡単に想像ができる。

 そういうのが得意な子じゃないから、レイナちゃんが怒るのは当然だ。

 なんなら妹のレイナちゃんはユウキのことを一家の恥晒しと思っている節がある。

 

 

ユウキは肩を落としながら、言う。

 

「いや、妹が楽しんでるならそれでいいんだけどさ……でもちょっとはね?……俺にかまってくれてもいいじゃないか……東京から地元に久しぶりに帰ってきた兄との再会だってのによぉ」

 

ミナが水のボトルを傾け口に含み飲み込んで、ぽつりと呟いた。

 

「もぉ、にしても場所を考えなって。数日はこっちにいるんだから実家に帰った時に好きなだけ妹ちゃんを愛でればいいのに、なんで妹ちゃんの友達の目の前でやるかなぁ。思春期なんだから友達の目の前に自分の家族が現れたら嫌がるのは当然だよー」

 

スズカが呆れたように言う。

 

「そうよ、せめて今行くにしても、サングラスとマスクくらいして行けばよかったのに。アヤメみたいに」

 

「そんな格好でレイナに近づいてみろ!通報されるのがオチだ!!」

 

 NEOのメンバーは、パーカーにサングラスやマスクをつけたユウキが『ハァハァ、レイナ……』と言って近づく様子を想像する。

 

「それは否定できないわね」

 

 そのスズカの一言には皆んな全会一致だった。

 

「……というか、ユウキ。よくレイナの居場所が分かったな。アヤメによるとすごい数の人が居たそうだけど」

 

 そのリュウヤの言葉に、ユウキは甘いマスクで何を今更と言ったような表情をとって言う。

 

「当たり前だろ。俺はあいつのお兄ちゃんなんだ。分かって当然だ」

 

控え室の空気が凍った。

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