TS死体回収屋は探索配信者の夢を見るか? い や 見 な い   作:TS夢見

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祭り事/悪用

 

「人、多っ……」

 

鈴江町の町おこしイベント会場である鈴江町098ダンジョンに着いた瞬間、俺は思わずそう声に出して足を止めた。

熱気がすごい。人のざわめきが波のように押し寄せてくる。

見渡す限り人、人、人。

こんなに密度のある空間、久しぶりすぎてちょっと怖気づいた。人は沢山くるだろうなと予想はしていたが想像以上にだった。

 

竹内さんと退院したばかりのシュンくんと一緒に来たけど、怖気付くのは俺だけで、二人とも怖気付く様子はない。

特にシュンくんは、目を輝かせながらあちこちを見回していて、むしろテンションが上がっているっぽかった。

 

このダンジョンに今まで必要だった資格証を出さずに入場したのはなんだか新鮮な気持ちだった。

 

目の前に広がったのは、見慣れた一面に草木が所々に生い茂る広々としたエリア――。

 

――ではなく、そこに屋台などずらりと並んでいて、焼きそば、フライドポテト、くじ引き、アクセサリー、魔道具の展示まである。

人の数も探索者だけじゃない分、普段の数倍から数十倍居てもおかしくない。

笑い声と香ばしい匂いが満ちていて、ダンジョン特有の緊張感なんてどこにもない。

 まぁ、もともと一階層は魔物がいなかったからそこまでの緊張感はないに等しかったけど。

それでもこの状況はダンジョンの中ではない錯覚に陥りそうになる。

 それくらいダンジョンの中ではあり得ない光景が広がっているのである。

 

 これだったら、ダンジョン目的で入った一般の人はあまりダンジョンにいるって感覚が得られないんじゃないかと思ってしまう。

 

 俺は首を振った。

 

そんな事俺が考えることでもないか。

俺がこのイベントの運営をやってるわけでもあるまいし。

 

 

そんな時、人混みの中で、たまたま近くの会話が耳に入ってくる。

 

「さっき2階層の入り口付近に行ったけど、ずらーっと警備員たちが立ってて、完全に通せんぼしてたよ」

 

 

その言葉に、俺は思わず耳を傾けた。

……なるほど、かなり厳重に警備されてるっぽい。

 

流石に、ダンジョンに資格を持っていない人が入場できるだけあって、魔物が現れる二階層以降に入られないようにしっかりと対策されているか。今回資格を持たない一般人のダンジョン入場が特例として許されたけど、あくまで魔物が出ない一階層のみの話だからなぁ。

 

ボス調べによると、このイベントを機に「資格なしで二階層に侵入する」とか言ってたSNSアカウントがいくつもあったらしいから心配していた。

でも、この様子なら大丈夫そうだ。

資格を持っていない一般人が二階層に到達することは、しっかり防げているようだった。

 

安心した。

 

 

胸の奥が少しだけ軽くなる。

そんな考えごとにふけっていると、服の裾がぐいぐいと引っ張られた。

 

「……ん?」

 

見下ろすと、シュンくんがじっと屋台の方を見つめていた。

 

 その先にあった屋台にはガラスのように艶やかなりんご飴が並んでいる。

 

 

「りんご飴、食べたい!」

 

 シュンくんがはっきりとそう言った。

 

「うん、行こっか」

 

そういうことで、りんご飴の屋台に向かおうとした俺らだったが、今度は別の屋台を見つめている。

そこには、チョコバナナがずらりと並んでいた。

 

 

 

「……チョコバナナも……いいなぁ……」

 

完全に迷ってんなぁ。

 

 

「じゃあ、どっちも行こっか」

 

 迷ったらどっちも欲張ろうぜ、少年。

特にこんなお祭りごとの時はそれくらいはいいだろう。

おっさんになると欲張りたくても体がそれに追いつけず、もたなくなるから、若いうちは我慢なんてするもんじゃない。

 

シュンくんは俺の提案に対して嬉しそうに顔をほころばせた。

俺もつられて、自然と笑みがこぼれた。

 

ふと横を見ると、竹内さんがその様子を見て、静かに微笑んでいる。

 

「今日は私たちに付き合ってくれてありがとうございます」

 

「いえいえ、私も今日を楽しみにしてたので!」

 

 

 

 

俺たちは年齢がバラバラだから、もしかしたら俺も含めて周りからは家族に見えているかもしれない。

それなら、それでいい。むしろ、嬉しいくらいだ。

自分の親は前世は、毒親で、今世はまぁ……うん、ノーコメントで。

 

そんな感じだったから、竹内さんには恥ずかしくて絶対に言えないけれど、俺が思い描いていた理想の家族像みたいなのがあり、それに当てはまるのが竹内さん一家だ。

その中に、図々しいかもしれないけれど、俺も少しだけ“家族”として思ってもらえたら――。

そんな願いを、誰にも見られないように、そっと心の中で垂れ流している。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

俺は串焼きの最後の一切れを口に運ぶ。甘辛いタレがじんわり広がった。

炭火の香りが残っていて、食べ終わるのが惜しいくらい。

隣ではシュンくんが、チョコバナナと格闘している。

 

「……うまく食べるのが難しい……」

 

チョコが割れてバナナから剥がれないように、慎重に食べていた。

 

ダンジョンについてから、いくつかの屋台をまわった。

今はお手洗いに行った竹内さんを、待ち合わせ場所で待っている。

 

そんな時。

 

「あ!」とシュンくんがチョコバナナを食べている手を止めて驚いた表情である方向を指差した。

 

 

視線の先を見ると射的屋があった。

そして俺も見覚えのある人物の人形が景品として置かれていた。

 

「えっと……あれは……確か、ネオのリーダー……を模した人形かな?」

 

シュンくんが頷く。

 

「そう!ネオのリーダー、リュウヤのフィギュア!!でもあれってまだ予約の段階で販売されていなかったはずじゃ」

 

「え、そうなの。じゃあなんであるんだろう」

 

「分かんない」

 

 二人して首を傾げる。

 

「もしかしたら予約の話は、ボクの勘違いだったかも」

 

 

「欲しいの?」

 

シュンくんは勢いよく首を縦にふった。

 

 

 

お手洗いに向かった竹内さんとの待ち合わせ場所から、射的屋まではそう遠くない。きっと気づいてくれるはずだ。

 

そう思いながら、私は呟いた。

 

 

 

「じゃあやろうか」

 

私は屋台のおじさんを見る。「お」と思った。

首にはダンジョンに入れる資格証をカードホルダーに入れてかけていた。このような祭り事でも一階層にだけでなくそれより下の階層に潜れる証だ。

普段は探索者をやっているのだろう。

私は屋台のおじさんに声をかける。

 

 

「おじさん、この子にお願い」

 

「はいよ、五発で三百円だよ」

 

おもちゃのピストルを受け取って、シュンくんが挑戦する。

真剣な顔で的を狙い、引き金を引く。

一、三、五発目は外れたけど、二発目と四発目が見事に命中。

コルク玉がフィギュアの胸元に当たる。

 

「お、すごい。シュンくん、うまいじゃん」

 

そう言うと、シュンくんは嬉しそうに照れた。

 

でも、フィギュアはびくともしない。

 

そこまで重さがあるものには見えないのだが、揺れもしない。まぁ、そんなもんかと思いつつ、追加で何回かお金を払ってシュンくんに撃たせたけど、それでも一切びくとすらしなかった。

 

シュンくんの顔が曇る。

 

俺も、さすがに違和感を拭えなくなってきた。

 

俺が疑っているのに気づいたのか、射的屋のおじさんは景品棚の奥から手を伸ばす。

 

「ほら、固定なんかしてないよ」

 

そう言って、フィギュアを持ち上げて見せてくれた。

台座の裏にも、棚の表面にも、粘着テープや釘のようなものは見当たらない。

本当にただ置かれているだけのようだった。

ただそれで解決とはならない。

怪しいものは怪しいのだ。

俺の直感がそう言っている。

 

「でも、全然動かなかったですよね……どうしてなんだろ」

 

 俺は表面上攻撃的になりすぎないようにやんわりと指摘する。

 

おじさんはフィギュアを棚に戻しながら言う。

 

 「うーん、たまたま重心が安定してたのかもね。今自分が動かしたし、次は倒せるかもよ?もう一回やってみる?」

 

 

その時浮かべたおじさんの笑みがこいつは絶対に何かやっていると俺を確信させた。

 

おじさんは、ただ穏やかな笑みを浮かべたつもりだったのだろう。

けれどその口元から滲み出ていたのは、どうしようもない愉悦――。

隠しきれない、勝者の笑みだった。

 

この顔を、俺は知っている。

前世の記憶だ。

母親がロマンス詐欺に遭ったとき、俺は詐欺師の目の前で「こいつは詐欺師だ」と告げ、必死に母を説得した。

だが、あろうことか母は息子である俺ではなく、詐欺師の言葉を信じてしまった。

そしてそのまま、金を持っていかれた。

 

そのとき、俺の説得が失敗した瞬間に詐欺師が浮かべた笑み――。

それと、今のおじさんの表情が、重なった。

 

 

 

 

 

 

俺は耳裏についたボスにしか聞こえないくらいの小さな声で、告げる。

 

「ねぇ、ボス、あの人形絶対何か裏がある。調べてきて欲しい、お礼に今度一つボスの頼み聞くからさ」

 

『イイダロウ、使われてやるカ』

 

俺はおじさんとシュンくんの視線がフィギュアから外れた瞬間を狙って耳元についていたミニミニボスを投げてフィギュアに付着させる。

 

 

そして数分もしないうちに、調査結果を伝えるべくバックのペットボトルに入っている粘液の方からボスが話しかけてきた。

モゴモゴ言って聞こえづらいので、ペットボトルを空けて耳を傾ける。

 

 

『間近で触れて分かったガ、アイツ恐らく魔物ダ。』

 

「まじか……」

 

 『明らかに生きている。何せ触れた我の粘液を吸収しようとしだしたからナ。無機物がそんな事をするとは思えなイ』

 

ボスは魔力の塊だ。それを吸収しようとしていたのか……。

 

魔力を体内に取り込む魔物は結構いるが、見た目は完全にフィギュアだ。

このフィギュアの見た目が真の姿な訳ないだろうし……となると擬態系モンスターだろう。

 

それらを統合すると一つの魔物に絞ることができた。

 

 

俺は目を細める。

 

「ははぁーん……」

 

思わず声が漏れた。 女子高校生と子供だからって、随分と舐められたモンだなぁ。 あっちがそんなことしてくるなら、俺にも手がある。

 

「おじさん、次、私がやっていい?」

 

そう言うと、おじさんは笑みを深める。

 

「どうぞ。五発で三百円ね」

 

俺はおもちゃのピストルを受け取る。 空気圧式のコルク銃。これにおじさんに悟られないように魔法を添える事にした。

 

 

 

俺はおもちゃのピストルを構え、深く息を吸った。

やろうとしていることがバレないように、さっと首にかけた起動媒体に触れて唱える。

周りに聞こえないように限りなく小さな声で。

コルク玉の周囲に、そっと魔力を纏わせる。

魔法は魔力の操作によって実現する。

ということは魔力の操作が魔法を使う上で基本のキとなる訳だ。

だから……流石にボスみたいな濃ゆい魔力の塊を操る術は身につけてないけど、空気中の魔力をこんな感じで纏わせるのは朝飯前なわけ。

 

それにコイツには魔法を使わなくたって、これだけで充分なのだ。

 

 

 

「……よし」

 

俺はそのコルク玉を標準に合わせ引き金を引いた。次の瞬間、玉は空気圧で押し出される。

一直線にフィギュアの方向へと進んでいく。

 

バスッ。

 

乾いた音がする。

フィギュアの胸元にコルク玉が命中した刹那、フィギュアを貫通して綺麗に穴を開けた。そこから赤い液体がドロドロと出てくる。

 

「やっぱり魔物だった……にしても、ぐぇ、想像以上にグロいな」

 

『同意ダ』

 

ネオのリーダーのフィギュアの胴体に風穴が空き、そこから赤い液体が漏れているので、なんというかグロい。こんなグロいことになるとは思ってなかった。

すいません、ネオのリーダー。あなたの預かり知らないところでこんなグロい様子にして。

 

「え、なになにどうしたのお姉ちゃん」

 

「ちょーっといま取り込んでるから、少しこのままでいようねー」

 

 

俺は考えるよりも先にダンジョン探索で培われた直感が働き、咄嗟の判断で、シュンくんの目元を手で塞いだので、この有り様を見られることを防いだ。

よくやったぞ俺!

 

こんなの子供が見たら、100トラウマになるやつだからな。

 

「……なっ」

 

おじさんが目を見開いて驚いている。

 

これは、このフィギュアが魔物だった事に驚いているのではなく、魔物だとバレた事にそして今までびくともしなかったコルク玉が貫通した事に驚いているのだろうとは簡単に察せた。

 

 

 

魔物の体を貫通した事によって、生命活動を維持出来ず、そのまま倒れて落ちた。

 

俺は低く呟いた。

 

「………恐らくだけど、こいつガーゴイルの亜種のミラゴイルですよね?おじさん」

 

「ぐっ……」

 

 

この魔物は石像に擬態するというガーゴイルと似た性質とガーゴイルには持たない性質がある。

 

その一つとして、魔力を吸収し栄養としている。

空気中の魔力を集めて吸収して生命活動を維持しているのだが、集めている魔力はそこまで純度が高くない。そこでこの魔物は一番効率が良く純度の高い魔力を摂取する方法を編み出した。

それが天性のヒモ特性。究極の他力本願。

人間に魔力操作をさせて、効率よく魔力を吸収しようというもの。

ミラゴイルに触れたものは軽い泥酔状態になり、自ら魔力操作を行なってミラゴイルの餌係になるのだ。

 

 

 

そのためにこの魔物は自分で動く事ができないので、ターゲットとなった者の、その人にとって最も魅力的な要素を詰め込んだ、彫刻の姿へと変化し、手に取ってもらうことを目的としている。

 

ただし、この能力には明確な弱点がある。

手袋や布越しでは“接触”と見なされず、精神干渉されない。

そのため、対処法さえ知っていれば、比較的容易に無力化が可能で攻撃もしてこないし、自らは動けないので、低級の魔物として位置付けられている。

 

それ故に悪用しやすい魔物といえよう。

 

 

 

「……なるほどね。全然びくともしなかったのは、この魔物の外殻由来のものか。この魔物の外殻は確か衝撃を分散する性質があったはずだ。だから、物理的な衝撃に強い」

 

「何を決めつけて……小娘が……まだ魔物と決まったわけじゃ……」

 

俺はそのおじさんの言葉を遮り話を続ける。

 

「おじさんは射的屋でこの魔物を使ってある稼ぎ方を思いついた。ミラゴイルが通りすがりの人が欲しがるような彫刻に擬態してくれるので、そうとも知らずにそれを目当てにやってきた人に金を落としてもらう事ができるのではと。それに加えて物理的な衝撃にも強いから落とされる心配もない。客寄せパンダにもなり落とされにくいときたら、この魔物を使う選択肢以外考えられなかったのではないですか?」

 

 誰が魔力を操れるかはこのミラゴイルが知れたことじゃないので、無作為に人を選んでいたはずだ。

そこで選ばれたのがシュンくんだったのだろう。

結果シュンくんが欲しいと思っていたフィギュアに化けられたと。

 

「な、な、なにをっ。言いがかりだ!!ここはダンジョンだ。気づかずに景品の中に魔物が入り込んだに違いない」

 

おじさんは声を振るわせ、玉のような汗をふきだしている。

 

 

「忘れたんですか?」

 

「な、何がだ」

 

よほど焦っているのか、簡単な事を見落として、発言をしているのに気づいていない。

 

その問いに、今まで静かに聞いていた、俺に手に目を覆われているシュンくんが「ん、分かった!」と言ってこたえた。

 

 

「ここのダンジョンの一階層は魔物がいないから魔物が紛れ込むなんて事ないんだった」

 

「正解、シュンくん。そういう事だから、()()()()()()()()()()そんなことは、あり得ない。ここのダンジョンの三階層に生息していたはずだし、そこから持ってきたんでしょう。一般人が魔物を持ち込むことは難しくても、首からかけているカードホルダーにダンジョンに入るための資格証をつけているし、普段は探索者をやっているはずです。そんなあなたはミラゴイルを一階層に持ち込む事が充分に可能です。」

 

「本当に紛れ込んだだけかもしれないじゃないか。確実に違うとは言い切れない。何事にも例外はある」

 

「それはそうですけど……まぁ、私としてはどっちだろうが別にいいです。警備員につきだして調べてもらえば分かりそうなものですけど、面倒くさいのでそこまではしません。ただ、もし私の言ったような事を行なっているのであれば今後一切しない事をおすすめします」

 

俺は力一杯睨んでドスをきかせた。

ついでに魔力操作でおじさんに圧をかける。

ボスがその操作を援助してくれたのが操作感でわかる。そのため、その圧は凄まじいほどだと思う。高純度の魔力が一気におじさんにまとわりつく。ここまで純度の高い魔力にさらされる事は普段、誰だってないためその精神的なプレッシャーは計り知れない。

 

この表現があってるか分からないけど、今まで水で薄めたカルピスで満足していた人にいきなり、原液を渡すようなものだ。

 

おじさんの顔は青を通り越して白くなろうとしていて、足も小刻みに震えている。

 

 

「あ、おじさん、気になってることあるでしょ?」

 

 

「な、なんだよっ」

 

「物理攻撃に強い魔物がコルク如きで死ぬわけないって」

 

「……」

 

「教えてあげます。私、コルク玉の周りに魔力をまとわせていたんです。それに気づかなかったミラゴイルが魔力を吸収しようとして、魔力で覆われたコルク玉ごと体内に取り込んでしまった。その結果、異物が構造を破壊し、胸に穴があいて死んだ」

 

俺はおもちゃのピストルを台において、静かに息を吐いた。

 

「よかったですね。幸い私たちのことを気にとどめている人達はいなさそうですし、あなたがやった行為を知るのは私とシュンくんだけです。これに懲りたら、真っ当に商売してください」

 

 

 

そう言って私とシュンくんはその場を立ち去った。

 

 

「お、おい……ッ」

 

 

 

 何かを言いたそうだったおじさんだが、手を伸ばしかけてやめた。

 

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