TS死体回収屋は探索配信者の夢を見るか? い や 見 な い   作:TS夢見

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ドカ食い/狼女

 

「すいません、混んじゃってて時間かかっちゃいました」

 

 しばらくして、お手洗いから竹内さんが戻ってくると、それまでこのイベント用に用意された椅子に座っていたシュンくんが、勢いよく立ち上がり駆け寄る。

 

「お母さん、お母さん。いまさっきね!すごかったんだよっ!」

 

興奮した様子のシュンくんに竹内さんは、宥めるように言った。

 

「落ち着いて、シュン。……それでどうしたの?」

 

「ねぇ、すごかったんだよ!今さっき、お姉ちゃんが悪いおじさんの悪事を見破ったんだ!」

 

「えっ」

 

それまで穏やかに聞いていた竹内さんが、一瞬にして固まる。

それに気づいているのか気づいていないのか、分からないがシュンくんはそのまま話を続ける。

俺は間に入って早急に竹内さんの不安を払いたかったが、シュンくんが会話の隙を作ってくれないので間に入れない。

 

「射的の景品があったんだけど、それをお姉ちゃんは魔物って見抜いたんだよ!」

 

「魔物……?」

竹内さんは困惑したように俺を見る。

その顔には困惑だけでなく、険しさも同居している。

それもそうだろう、つい最近シュンくんが魔物相手に酷い目にあったのだから、魔物と聞いてその反応になるのも仕方がない。

 

俺は苦笑して、手をひらひらと振った。

 

「いやいや、大丈夫ですよ、もうその魔物退治したので。あとそこの店のおじさんにもしっかり言い聞かせましたから。それに関して私達に一切被害はありません」

 

あったとしてもマネーが減ったくらいだ。

それを言ったところでなので黙っておく。

 

「…………あぁ、良かった。二人に何かあったと思うと……」

 

竹内さんは自分自身の心臓あたりをギュッと服越しに掴んだ。

 

俺のことを含めて言ってくれたことに嬉しく思いつつ、俺は言った。

 

 

「それなら、私達こんなにピンピンしてませんって」

 

「で、ですよねぇ。ありがとうございます。クレハさん、私の大切な息子を守ってくださって」

 

頭を下げられる。

 

「頭を上げてください!そんな大した事はしてないので……それにその射的屋に行くことを許可したのは私ですし……」

 

俺と竹内さんの間に気まずい空気が流れた。

それを破ったのは呑気な声で「ヤバいよ!」と発したシュンくんだった。

 

「………そろそろ始まるかも!ネオのトークショー!その場所まで行っとかないと」

 

そう言ってスマホを見せてきた。

確かに聞いていた時間まで、今から移動するのを含めるとギリギリだった。

 

「そうだね、そうしよう」

 

NEOにそこまで興味があるわけじゃないけど、トークショーにはシュンくんの付き添いとして一緒に行くつもりだ。

 

 

「そのあとの握手会も楽しみだなぁー!」

 

「そういえば、握手会って事前申し込みだったんだよね?」

 

俺はこの前シュンくんと見た動画を思い出してそう言うと、シュンくんは誇らしげに胸を張った。

 

「うん!それでね。倍率すっごく高かったんだけど、お母さんと一緒にwebで申し込み手続きやって、僕当たったんだよ!」

 

「え、すごいじゃん!」

 

「でしょでしょ!」

 

俺がそういうと、シュンくんは更に誇らしげに胸を張った。

 

そんな様子を見て竹内さんがジト目で呟く。

 

「もう、シュンたら。調子良いんだから」

 

 

 

 

 

 

そうして、俺を含めた3人はダンジョン内のNEOのトークショーがある場所まで向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ダンジョンのイベント会場。屋台が立ち並び、人々のざわめきが入り混じる中、ひときわ目を引く人物がいた。

 

三十代の女性。

艶のある髪に整った顔立ち。彼女の胸部に宿る柔らかな曲線が、人混みの中でも、彼女の姿を際立たせていた。

 

その女性――ユリコは、祭り用に設置された簡易テーブルの前に座っていた。

片手にはたこ焼きの舟を持ち、もう片方の手には串焼きを何本も指の間に挟み、順番に口へ運んでいる。

テーブルの上には、焼きそば、お好み焼き、じゃがバター、唐揚げなどが、透明なプラスチックパックに入った状態で並べられていた。どれも一度は手をつけた形跡があり、食べかけの状態で置かれている。

 

ユリコはそれらを交互に手に取り、食べる速度も量も遠慮がない。

その姿に、周囲の人々はそのギャップに思わず目を留める。

 

 

 

美人が、何のためらいもなく大量の食べ物を食べているのでだ。

――それだけで、十分に目立っていた。

 

通信機がチリ、と鳴る。

 

『何やってるんです。なんでそう、目立とうとするんですか、そんなに目立ってたら犯人に逃げられちゃいますよ!』

 

「別に目立ちたくて目立とうとしてるわけじゃ……え、なんで私の様子わかるの? もしかしてイエンくんも来てるわけ?」

 

ユリコはたこ焼きを口に運ぶ手を止め、周囲を見渡す。

 

それらしき姿は見当たらない。ということは――

 

「……あ、そういえばあなたの固有魔法、遠距離監視ができる魔法だったわね。え、じゃあもしかして私監視されてるの?」

 

 

 

『そりゃしますよ。今、ダンジョン重要機密統制局史上トップクラスでマズいことになってるんですから。それに対応できるのが、たまたま休暇で帰国していたあなただけとなったら心配で心配で』

 

 イエンのもつ固有魔法は、色々な制限はあるものの、その制限の範囲下なら、離れた距離のモノを見ることが出来る魔法なのである。

 

「あら、私の心配してくれるなんて嬉しい」

 

『違いますよ。心配なのは私たちの組織の行末ですよ。それなのに対応できる人がよりによって……』

 

「おっと、それ以上は聞かないでおくわ」

 

 

 

 

つい最近――秘密裏に管理していた不死鳥〈フェニックス〉の卵が盗まれるという前代未聞の事件が起きた。

本来なら厳重に秘匿され、限られた者しか存在を知らぬはずの特級秘匿品。しかしそれは、何者かの手によって精巧なレプリカとすり替えられていたのだ。しかも、組織がその異変に気づくまでに数日を要するという致命的な失態を犯してしまった。

 

その失態の要因として卵を持ち逃げした犯人の仲間だと思われるならずものが警備員に成りすましていたことが事態発覚を遅らせた原因の一つだといえよう。そういう事で、気づいた時にはすでに卵は持ち去られ、犯人は影も形もなくなっていた。

 

さらに事態は悪化する。持ち逃げ犯に続く一派の行動だ。彼らはフェニックスが棲むダンジョンの下層に立てこもり、強力な結界魔法を展開。外部からの侵入を完全に遮断している。

 

結界突破のために局員を割いてはいるがそれでも、いまだに結界突破には至れていない。

 

持ち逃げした犯人の行方を追うため、局は身体強化魔法の一種――嗅覚強化魔法に長けた局員十数名を動員し、残り香を辿らせた。

その結果、足取りはエジプトの空港で途切れていることが判明。そこからさらに調査が進み、目的地が日本であると特定がされたのは――わずか8時間前のことだった。

 

だが、飛行機で十五時間はかかる距離を、犯人はすでに移動し終えている可能性が高い。

つまり、局が事態を把握した時点で、犯人はすでに日本国内に潜伏していると思われた。

 

 

その連絡を受けたのが、休暇でたまたま日本に帰国していた局員のユリコだった。

休暇中だというのに急遽、日本での追跡を引き継ぐことになった彼女は、せっかくの休暇なのでと断ったものの、彼女には嗅覚強化よりも優れた鋭い嗅覚を発揮できる固有魔法『狼化』があったため、犯人の特定に駆り出されることになった。

 

この固有魔法は、その名の通り使用者を狼へと変身させるものである。完全な狼の姿になることもできるが、人間と狼の中間形態を取ることも可能で、状況に応じた柔軟な変身が可能だ。

 

変身によって得られる副次的な効果として、鋭敏な嗅覚、暗視能力、そして身体能力の向上等が挙げられる。これらの能力は、一般的な身体強化魔法と比べて、遥かに少ない体力の消耗で発揮されるため、持続性と実用性に優れていた。

 

その力で、犯人は日本にいるという漠然とした情報から、犯人が現状いる場所の限りなく近い場所まで絞り込むことが出来た。

 

くしくもその場所は――少し前にネットで知り合った狙っていた男子と会うはずだった場所。

 

――この女、ユリコは30代にして無類の若い男好きだった。最近の悩みは婚期を逃してしまったこと。

 

そんなユリコはネットでユユリコというハンドルネームを通じで、知り合った好みの男子とその他何人かでオフ会をする事になり、久しぶりの出会いに心躍らせていたのがこの前。

 

気合を入れて、お気に入りの白く輝く菱形の髪飾りまでつけていったのに、待ち合わせ場所に彼と他メンバーの姿はなかった。

 

悲しい結果に終わり、落ち込んでいた矢先に、休暇中のはずがこんな事態に巻き込まれる。

嫌になるのも道理だった。

 

『それ以上、匂いの追跡はダメなんですか?』

 

通信機から問われ、ユリコはあっさり答える。

 

「無理。イベントの屋台の匂いと沢山の人の匂いがごちゃ混ぜ。これ以上は判別できないわ」

 

ユリコは焼きそばを頬張りながら、わざと軽い調子で返す。

 

「それよりイエンくん、あなた、なかなかの美青年だったわよね。歳は21歳だっけ?」

 

『……はい?急にどうしたんですか』

 

通信機の向こうで、声がそう不審げに問うた。

 

「結婚を前提に付き合う気、ない?」

さらりと、まるで雑談の延長のように言ってのける。

 

『なっ……!? い、いえ結構です!……任務中にからかわないでください』

 

イエンの声が裏返った。普段は冷静な彼が、明らかに動揺している。

 

ユリコは口を尖らせる。

 

「冗談じゃないわよ、私は本気よ」

 

『と、とにかく任務よろしくお願いしますよ!』

 

「そう言われてもねぇ。申し訳ないけど、ここまでの特定で私も限界よ。あとの事で私に出来ることはないと思うの。というか不死鳥の卵の匂いだけでここまで絞り込んだのだから褒めてほしいくらいだわ」

 

 

『それは、ええ。本当にすごいと思います』

 

 

「そういえば、日本にも私たちの組織の支部があったわよね?そこから人材を使う事はできないの?」

 

『それがなんですけどね。今回の件に適した人材は別件で他の国に赴いていて……』

 

「それ、支部の意味ないじゃない……」

 

『まぁ、ウチも人が沢山居るわけじゃないので、どうしてもこういう事が起こっちゃうんですよ……とにかく日本の支部にいる局員を今急いで向かわせてるのでそれまで頼みました』

 

「くどいようだけど、私の役割は果たしたんだからね?まぁ、やれる範囲で尽力するけど、私一人で立ち向かわないといけない様な局員の動かし方してるあなた達、オペレーター側にも問題あるんだから、もし失敗しても私を責めないでよね」

 

『それはもちろんです』

 

「じゃあ、さっさと腹ごしらえして、働こうかしら」

 

『自分の魔法の効力もそろそろ切れそうなので、最後に一つ』

 

「ん?何かしら」

 

『自分たちの組織は決して慈善団体じゃないので、たとえどんな犠牲があろうと、まずはフェニックスの卵の回収と犯人の捕獲を優先してくださいね』

 

 

「………………分かったわ」

 

水面下で着実に物事は進んでいた……。

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