TS死体回収屋は探索配信者の夢を見るか? い や 見 な い   作:TS夢見

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金のなる木/イイ性格

地下三階層に足を踏み入れた瞬間、肌に纏わりつく湿った空気がより一層濃くなるのを感じた。ここは森のように鬱蒼とした木々が広がり、枝葉が頭上を覆い尽くしている。

 

そんな中を歩いていると、ボスが話しかけてくる。

 

『なぁ、クレハ良かったのか?あの人間を助けてしまったりしテ。見殺しにしていた方が金になったんじゃないカ。クレハが近くに居たの気づいてなかったみたいダシ』

 

「そうやって儲ける死体回収屋もザラのように居るけど、私はこの命が軽い世界でも、出来るだけ守れる命は守っていきたいからね。いのちだいじにだ」

 

 残機がたくさんあったとしても、それを消耗品のように使うのは何か違う気がする。

 

あと、痛いのはみんな嫌だろうし。

 

 

 まぁ、そんな偉そうな事言っておいて自分はオーガシャーマンの時自分の命を投げ捨てそうな勢いで突っ込んだけど。

 

 

 

俺は歩を進めながら、周囲の様子を慎重に確認する。木の幹はどれも太く、苔がべったりと張り付いていた。樹間からは薄く光が差し込んでおり、思っていたよりも視界は良好だ。

 

 

『不思議だナ。ここはダンジョンの中だというのに光が存在すル。太陽のような光源は存在しないのニ』

 

バッグの中でボスが揺れながら、疑問を口にする。

 

 

「な、ほんとダンジョンは不思議しかないよ」

 

『知らないのカ。理由を』

 

「そりゃあ、知らないさ。世界中のお偉い学者や研究者が必死になって色々探っても、ダンジョンのあれこれの解明は1割も出来てるか怪しいくらいなんだ。私が知るわけないっつーの。逆にボスは知らないの?ダンジョンの中で生まれた存在でしょ」

 

 

『知らないナ。気づいたら存在してたからな』

 

「そんなもんか」

 

『そんなモンダ』

 

 

 

俺は木々の中をゆっくりと進んでいくと、視線の端で何かを捉えた。

 

木の根元に倒れている探索者――その顔に張り付く緑色のスライム。

 

「……あちゃぁ」

 

俺は慎重に近づき手首の脈を確認する。

 

「死んでる」

 

『これは一体どういう状況なのダ』

 

「顔に張り付いてるスライムのせいで息が出来なくなって窒息死してる。グリーンスライムと言って普通のスライムとは少し違った性質を持つスライムだよ」

 

木の上に生息するこのスライムは、人が木の下を通りかかった瞬間に自らそこから落ちてきて、顔に張り付き、呼吸を奪う。窒息死へと至らせる魔物。そこまで強い魔物でもないが、厄介には違いない。

 

「な、ボス。やっぱり見た目、あんたにそっくりじゃないかスライムって。案外、ボスも魔力じゃなくてスライムかもね」

 

『ふざけるナ。何考えてるかも分からないような下等モンスターと一緒にするナ』

 

「はいはい」

 

俺はそう受け流しつつ、手で死体の顔にこびりついたスライムを剥がそうとした時だった。

 

「……おい、それは俺の獲物だ」

 

背後から低い声が響く。

 

俺は振り返る。

 

そこに立っていたのは、俺同じように死体回収屋の腕章を付けた柄の悪い男。

 

乱れた作業着、手入れの行き届いていない装備。顔に刻まれた無数の傷跡と鋭い眼光。

はっきり言ってチンピラ感が半端ない。

見た目はイカつそうなのになんでこんなに、小物臭がするのだろうか。

 

「……あんたの獲物ねぇ。死んでる人の事を獲物だなんて随分と酷い事言いますね」

 

俺はスライムの剥がれかけた死体を見つめながら、そう言う。

 

「こいつは俺が片付ける。アンタの出番じゃねぇよ。ここは俺のナワバリだ」

 

「ナワバリも何もそんなの勝手に決めてるのは、あなたじゃないですか。然るべきところから定められた事じゃなければ、守る必要もないと思うんですけど」

 

そう言っても男は黙りで、ただただガンを飛ばしてくるだけ。

 

死体回収屋の間では、しばしば死体の奪い合いが起こることも珍しくない。特に難易度の低い浅い階層は死体回収屋も多いため、尚更だ。

 

俺は肩をすくめる。

 

「……好きにしてください」

 

争うだけ無駄だ。

 

『イイノカ、譲って』

 

ボスがそう耳打ちしてくるので、俺も小声で返す。

 

「まぁ、この仕事にノルマなんてないし、気楽にやってくさ。それにあの人がちゃんと蘇生できるなら、私じゃなくても全然いいよ」

 

「最初からそう言っときゃいいんだ。早くどけよ」

 

どうやら、小さく喋ったつもりだったけど俺の声はこの男に聞こえていたらしい。

 

俺はその場を後にする。

 

去るとき、死体の元でその死体回収屋はボソッと「こんなスライムごときで、死んだマヌケを蘇生させるだけで稼げるなんて楽な仕事だよな本当」と呟いたのが聞こえた。

 

 

 

 

 

「よ、そこのねぇちゃん。災難だったな」

 

あの場から立ち去ってすぐ、声をかけられた。

 

――痩せた体つきで、くたびれた作業着を身にまとった男だ。

腕に死体回収屋の腕章を付けている。

今日はやけに同業者とエンカウントするな。

恐らく階層が浅い分難易度が低いからここで動いている死体回収屋が多いのだろうが。

 

この人からは敵意は感じられない。

俺は肩の力を抜く。

 

「今の一部始終見てたぜ。せっかくの収穫だっただろうに。本当アイツは勝手な奴だよな」

 

何か知ってそうな口ぶりだ。

しばらくこのダンジョンを拠点にするつもりなので、ここのダンジョンの事を、知れるだけ知っとくのもありかもしれない。

 

 

 

「あの人。いつもあんな感じなんですか?」

 

 

すると男はよくぞ聞いてくれたと言わんばかりに、溜まったものを吐き出すかのように口を開いた。

 

「そうなんだよぉ!……ねぇちゃんはここで見ない顔だから最近このダンジョンに来たんだろ?だから知らないだろうが、アイツはこの階層のグリーンスライムがいる場所をナワバリにしている。グリーンスライムって木の上を気にしてないと、上から落ちてきて顔からドバンだろ?それを知らない初心者のダンジョン探索者が引っかかるから、この場所は割と儲かるんだ。上に落ちてくるグリーンスライムのこと際気をつけとけば俺らには危険もないし。稼ぐには絶好の場所といえる。だけどよぉ。その場所を他の同業者には回収させないように目を光らせてるのがアイツ。独り占めしてんだ。マジでアイツにはみんな迷惑してるんだよ。本来、一つの場所を自分だけが独占するなんて人としてどうかと思うがそれを気にするような奴じゃねぇ」

 

「……なるほどですね」

 

 

 

「しかもよ……他のやつから聞いたんだが、グリーンスライムで死んでいく探索者達を金のなる木からなった実だと言ってたらしい。本当やべぇよアイツ。それにアイツに回収された探索者は一般的な回収屋の倍の料金払わされるとも聞くし」

 

 

「それは……なんというか、また」

 

素直にここまで悪い方向に進めるさっきの男に関心すら覚えてきた。

 

 

「俺ら死体回収屋は、ただでさえ探索者に良く思われてないってのに、同業者ですら仲良く仕事出来ないこの状況は本当クソだよ……クソ!。アイツがこの場を荒らしてるんじゃ、俺らの仕事もやりづらくなるし」

 

あの男の、人となりがだいたい分かったので、俺は礼をする。

 

「ありがとうございます。色々と教えてくださり」

 

 

「いや、いいぜ。ま、なんにせよグリーンスライムの生息地から離れたところで、仕事した方がいいぜ。あそこに居ても碌なことがない」

 

 

 

 

 

三階層での出来事を頭の片隅に置きながら、俺はその日、もう一階層、下の階層に行った。そこで、別の死体回収をこなしてその日を終えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

数日後。

 

俺は再びダンジョンへ訪れていた。

 

下の階層に行く通り道として三階層のグリーンスライムの生息地を歩いていると、木の根元に倒れた人の姿を捉えた。

 

 

「……え?」

 

俺は眉をひそめ、ゆっくりと近づく。

 

顔に張り付いた緑色のスライム。

 

窒息している。

 

 

 

――その人物は、前回、俺にガンを飛ばしてきた感じの悪い死体回収屋の男だった。

 

俺はため息をつく。

 

「……冗談でしょ」

 

こいつはグリーンスライムにやられた人相手に『こんなスライムごときで、死んだマヌケ』って言ってたくせに、その当人がグリーンスライムで逝ってるじゃん。

 

 

 

『我は知っているぞ、この状況をミイラ取りがミイラになると言うノダロ』

 

 

「よく知ってるね」

 

『我も地上に生きる以上、地上の人間が使う言葉もどんどん取り込まないとナト』

 

「それはいい心構えと思うよ」

 

俺はスライムを剥がしながら、ボスの声を聞いた。

 

 

 

『ソイツ、蘇生するのカ?そんなどうしようもないやつ、このままここで放置でいいのではないカ』

 

 

「ここ結構人通り多いのに、誰も助けてないってことは皆んなそうしてるみたいだね。死班ができてるし、死んでからかなり放置されてそうだし。……私は蘇生してあげるよ。それが私の仕事だし」

 

『それはあまりにも、コイツの事を甘やかしてる気がするガ』

 

俺は軽くほくそ笑む。

 

「そうでもないよ?……なにせいいこと思いついたから」

 

俺はニヤリと微笑みながら、男を聖域へ運ぶ準備を始めた。

 

 

 

 

 

 

聖域についたあと、俺がその時に持っていた魔石を消費して蘇生の準備を行う。

 

蘇生の儀式が終わり、白い光が収まる。

 

しばらくすると男がまばたきをし、ゆっくりと目を開く。

蘇生されてすぐは朦朧としていた意識も徐々に覚醒してくる。

 

「……ッ!」

 

意識を取り戻して、俺の存在が視界に入った事で思いっきり顔を引きづらせた。

 

「……くそっ」

 

たぶん、記憶はぼんやりしてるだろうが、何が起こったのかは理解できるはずだ。

 

死んで、俺に回収され、そして蘇生された。

 

俺はニヤリと笑う。

 

「おかえり」

 

その言葉に、男は睨むように俺を見ている。

 

俺はそれには怯まず、淡々と告げる。

 

「さて、回収から蘇生までしたからには、当然支払いが必要だよね」

 

男は目を細め、警戒した表情になる。

 

「……いくらだ」

 

俺は素直に値段を聞くこの男に軽く驚く。

この男の事だから、俺は払わんぞと駄々をこねるぐらいはしそうなもんだったから。

 

俺は無造作に指を立てて値段を伝える。

 

「ざっとこれくらいかな」

 

男の顔が一瞬で険しくなる。

 

「……ぼったくりかよ!」

 

男は思わずと言う感じでそう怒鳴ったが、もう引き返せない。

俺はその言葉を待っていた。

 

「……ぼったくり?確かに他の死体回収屋の相場よりかは高いけど、あんたが毎回、死体回収をして蘇生後に請求してる額と対して変わらないと思うんだけど」

 

男の表情が微かに引きつる。

 

もちろん、俺は普段、探索者に法外な額を吹っかけるような真似はしない。

だけどこの男は、違う。

この男には自分の行いを見つめ直す機会が必要だと思う。

 

 

「別にこの額に設定するのを悪いとは言わないさ。あんたがこの額が正当だと思うならそれでもいい。だけどこの額を相手に払わせてるんだから、私にどうこう言う権利はないんじゃない?」

 

男は歯を食いしばり、拳を握りしめた。

 

「くそ……!」

 

「あと……あんた私が助けなかったらそのまま放置されてたかもなんだよ」

 

男は悔しげに舌打ちしながら、顔を逸らす。

 

「なんでか、分かるよね?」

 

「……」

 

「あんたが同業者にすら、嫌われるようなことしてるから誰もあんたを助けようとはしない。この仕事って結構助け合いは必要になってくると思うんだ。私が助けなかったら、あんた本当にこのままお陀仏だったよ。…………放置されすぎた死体は蘇生できなくなるんだから」

 

最後は俺なりに真剣な顔を作って、相手の目を見て喋った。

――しばらくの沈黙、相手は髪をかきむしり、大きなため息をついた。

 

「……チッ、分かったよ……払えばいいんだろ」

 

男は財布を取り出し、渋々ながら金を渡す。

 

俺はそれを受け取る。

 

男はそのまま何も言わず、この場から居なくなった。 

 

その時、耳裏でボスが喋った。

 

『お前、案外イイ性格してるナ……』

 

「あはは……いい意味の方で捉えとくよ」

 

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