TS死体回収屋は探索配信者の夢を見るか? い や 見 な い   作:TS夢見

7 / 19
闇に支配された森/お飾り

 

 

――今日は5階層に潜っていた。

 

懐中電灯の光を頼りに、一歩ずつ慎重に進む。

 

4階層までは異様なほど明るかった森だったが、5階層へ降りた瞬間、その光は完全に途絶えた。

 

――闇が支配する森。それがこの層の呼び名だった。

 

「暗くて見えづらい」

 

俺は懐中電灯の光を地面へ向けながら慎重に歩を進める。

木々の根が錯綜し、足を取られれば簡単に転倒しかねない。

 

『4階層までが昼の森だとしたら、5階層は夜の森みたいな感じダナ。同じ木々が生い茂るエリアではあるが、光がないだけでガラッと雰囲気が異なル』

 

耳元でミニミニサイズのボスがぼそりと言う。

どうやら俺の耳の裏が気に入ったらしく、探索に行く時は基本的にそこにいる。

俺としては、なんとも言えない変な感覚になるから、あまりいい気はしないんだけど。

 

「異なるのは雰囲気だけじゃないよ。ここのダンジョンの特徴なんだけど、5階層からは難易度がぐんと跳ね上がってくる。

周囲が明るかった4階層までとは違って、強制的に暗闇での戦闘を強いられるし、凶暴な魔物も多くなる。

探索初心者も訪れるダンジョンではあるけど、この階層からは初心者が挑む割合が一気に減る。

だいたいここら辺からは中級探索者の領域になってくるんじゃないかな」

 

『探索初心者がいないなら、死体回収屋の儲けも減るんじゃないカ?上の階層よりも潜ってる人数が少なくなるだろうからな。その分、死体も見つけづらくなりそうダ』

 

「確かに。それはそうだけど、回収は前の階層よりしやすくなると思う。

4階層までは行動しやすい分、同業者が多くて、探索者が死んでも俺が回収する前に他の人が先に持っていくことが多い。

でも、この階層からは同業者と遭遇する機会がぐっと減るはず。

だから、もし死体を見つけた時は、誰にも先を越されずに回収しやすいというわけ」

 

5階層より下で、死体回収屋が潜る割合が少なくなるのは、この仕事に至る経緯が影響している。

同業者の多くは、元々探索配信者や探索者として活動していたが、生計を立てるのが難しくなった末に、この仕事を選ぶことになった人達だ。

ある程度の実力があったのなら配信や探索で上手くやっていけるはずだけど、その実力が足りず、諦めざるを得ない人が死体回収屋になるので、基本的に彼らは浅いところしか潜ろうとはしない。自分の実力以上のところを探索してなんぼの探索者とは違い、死体回収屋がそれをしてもリスクとリターンが明らかに合っていない。

必然的に浅いところで活動するので、下に行くほど遭遇率も低くなる。

 

 

 

 

しばらく歩いていると遠くから、ワオーンという遠吠えが響いた。

 

『今ノハ魔物のか?』

 

「恐らくね。狼型の魔物の類だろうけど。」

 

低く、長い遠吠え。

 

それに呼応するように、別の場所からもまた遠吠えが返される。 狼の魔物同士コミュニケーションをとっているのだろうか。狼型の魔物は群れで行動することの多い魔物だ。

 

「群れで動く魔物は苦手だ……」

 

ソロで動く俺にとって、数の暴力は厄介なもの。

 

そうは言いつつも、足は止めない。

そんな理由で立ち止まっていたら、キリがない。

 

さらに歩を進めると、遠目に何かが見えてきた。

 

暗い道で懐中電灯を照らし、目を細めて、かろうじて捉える。

そこには――大きな魔物と戦う3人の探索者の姿があった。

 

 そこにいた魔物はまるでフクロウと熊を掛け合わせたような姿をしている。

 

「オウルベアか……」

 

鋭く光るくちばし、首元から伸びる羽根、そして分厚い毛皮に覆われた巨体。そんな体躯とは不釣り合いなほど闇の中を自由に動き回ることが出来る暗視持ちでもある。

 

 

 

魔法の閃光が闇を切り裂き、鋭い武器で対抗している。だが、オウルベアは敏捷さで攻撃を躱し、次々と反撃の爪を繰り出す。

 

彼らは魔法と武器を駆使しながら、連携して戦っている。

だが、第三者目線の俺から見た感じ、押し込まれているように見えた。

 

――連携が乱れている……。

 

「……加勢したほうが良さそう」

 

俺は助けに入るべく走りだす。

 

 

 

だが、俺が追いつくよりも先に展開が動く。パーティーの中の1人の青年に焦りが生まれ、動きに迷いが出た――その一瞬の隙を、オウルベアは逃さなかったのだ。

 

ターゲットを青年の探索者に絞ったオウルベア。

 

振り下ろされる巨大な爪。

 

彼は体勢を崩し、武器を構える暇もない。

 

 

「っ……!」

 

戦っていた他のパーティーは咄嗟の事で助けに出れていない。

身体強化魔法を使って走っているが、今の状況じゃ俺も間に合いそうにない。

 

なら近距離から助けることは諦めた方がいい。

 

一瞬の判断。俺は近距離の攻撃から長距離の攻撃へとシフトする。

ペンダントの起動媒体に触れ、呪文を唱えると、闇がナイフの形を形成した。

 

それを投げナイフのように力を込めて投擲する。

 

「おらぁ!」

 

空気を切り裂く音がする。

 

いくらオウルベアが暗視持ちだからといって、闇の中で有利なのはお前だけじゃない。

俺は得意の闇魔法で仕掛ける。

 

闇魔法で形成されたナイフは闇に溶け込む。

暗視が効いていても闇に同化したナイフを捉えるのはオウルベアでさえ容易じゃない。しかも予想していなかった方向からの不意打ちだ。

それに気づき避けようとするオウルベアだったが、遅かった。避けきれず、そのままオウルベアに直撃する。

 

――オウルベアの片目に闇で形成したナイフが突き刺さる。

 

「グャアアアアアッ!」

 

オウルベアは悲鳴を上げ、激しく頭を振る。

 

痛みに耐えきれず、オウルベアはそのまま後退し――闇の中へと駆け去っていった。

 

『あの翼で飛ばないんだナ』

 

「なんでも、あの魔物は体躯が大きすぎて翼じゃ支えきれず、飛べないんだとか」

 

『なるほどな、お飾りな翼なわけダ』

 

 

 

 

 

 

 

 

4人の探索者がその場にドタッと座り込む。全員が疲労の限界にあり、ただ荒い呼吸を繰り返している。 俺はその集団に合流する。

 

「あなたが……今助けてくれたんですか……。全滅はまぬがれたんだ……助かった……本当に、ありがとう。あのままだったら確実にショウマくんも死んでいたので」

 

 30代後半と思われる眼鏡をかけた男性が低く言う。その声には安堵が滲んでいた。

 

 その隣で青年は自分の失態を悔いたのか、拳を強く握りしめる。話の流れからしてこの青年がショウマくんか。

 

「いえいえ。力になれて良かったです」

 

俺はとりあえず無難な返事をしとく。

 

 

「……と言うかその腕章、死体回収屋の方だったんですね」

 

 このパーティーの1人であろう女性が軽く目を見開いて俺の腕章を見つめる。

 

 その言葉を聞いて残り2人の青年と20代後半と思われる眼鏡をかけた男性も驚いた様子だった。

 

「え……いいんですか。死体回収屋が私達を助けて……。儲けを自分で減らしてるようなもんですよ。……もしかして新手の詐欺ですか!?」

 

 眼鏡の男性が青ざめた顔で俺を見る。

 

「あはは……」

 

 俺はどんだけ死体回収屋が世間に信用されていないのかと、苦笑いを浮かべるしかない。

 

「ちょっと失礼ですよヨミズさん。私達を助けてくれたんですから」

 

「……私としては死ぬことがないならそれが1番だと思っている人間なので、お気になさらず。助けたからと言ってそれで料金は取りませんよ。死体回収が本分ですから」

 

これは本心だ。

命は1人一つという認識で前世は育ったお陰もあって、守れる命は出来るだけ守りたいと思ってしまうのだ。

 この世界でそんな事を堂々と言っても鼻で笑われそうだけど。

 

 

「あんたのような死体回収屋を初めて見た。ほんと、かわってんな」

 

「そうですかね……」

 

そこで話はひと段落して沈黙が流れる。

さっきの戦闘で体力を消耗したのだろう。

危険な場所だとわかっていてもこの場所で体力が回復するまでみんな動けないでいる。

それに何か様子がおかしい気がする。

普段のこの人たちを知らないから、どう様子がおかしいかは口では言い表せないけど。

 

 そういえば、眼鏡の男性が「あのままだったら確実にショウマくん”も”死んでいたので」と言っていた。

 まるでその口ぶりは――。

 

 

 そう思ったがすぐに知る事になる。

ふと、地面に視線がいった。

そこには動かぬ10代後半から20代前半の女性の姿があったのだ。

今まで背の高い草と暗闇で気づかなかった。

 

俺は唾を飲み込んだ。理由は聞かなくてもわかってしまった。

 

 彼女は、仲間だったのだろう。

 

しばらくして、私の下に降ろした目線に気づいた、眼鏡の男性が口を開く。

 

「……私たちのリーダーなんです。戦闘での統率を取るのもサオリさんの役目なんですけど……彼女が死んでしまった途端私達の連携が崩れてしまってあの様です。情けないですよね………………」

 

なんと言葉を返せばいいのか分からず、戸惑っているとショウマと言われた青年がポツリと言った。

 

「俺のせいで死んだ……俺が別のことに気を取られたてたから、だから――」

 

青年はうつむく。

 

「――だから、庇って死んだ」

 

「まぁ、そんな落ち込まないの、リーダーもきっと責めないと思うわ」

 

女性が励ましの言葉をかける。

 

青年は何も言わない。

 

大人の女性がそっと話をつなぐ。

 

「私達、ネットで知り合ったんです。あぁ、ショウマくんは違ったっけ。でもそれ以外の私たちは皆んなそうで、ダンジョンが好きという一緒の想いを胸に、ネットで繋がり始めたのが最初でした。だから私達、年齢も違えば職業も違うんです」

 

確かに年齢がバラバラなこのパーティーを不思議に思っていた。

基本的に趣味ならパーティーは仲のいい同じ年齢層で組まれることが多いから。でもネットで知り合って組んだパーティーなら頷ける。

男性が言う。

 

「私は会社に勤めているサラリーマンです。昔からダンジョン探索に興味はありましたが、自分の両親がそういったものを許してくれるような人達じゃなかったので、自分の気持ちを心の奥底に沈めて、無難な会社に就職して今まで悶々と生活していました。幸い不幸な事に見舞われることもなく、平穏に生活できていたことはありがたいことでしたが、私の心は満たされませんでした。そんなある日、自分と同じような心境の人達がネットでいる事を知って、皆んなで励まし合い資格をとって、会社のかたわら、趣味として探索者になったのが3年弱ぐらい前でした」

 

女性がうんうんと頷く。

 

「私も本業は別でやってるの」

 

探索者や探索配信者でご飯を食っていけるようになるのは、ほんの一部。副業や趣味として探索者をやっている人間も少なくはない。

 

しばらくして、彼らはぽつぽつと語りはじめた。

 

 

 

 

 

 

 

このグループのリーダーである女性――サオリは、青年と同年代だが、ほかの二人の社会人より年下だった。

 

 ネットで同じような境遇や想いを持つ人達が集まったコミュニティーの中で、ダンジョンに興味はあったものの、趣味としてダンジョン探索を始める事でさえ、いまいち勇気が足りなかったという2人を励ましてくれたのが、サオリだった。

 

「まさか、あんなにしっかりとした彼女が自分より年下だったなんて――実際に会うまで、年上だとばかり思っていましたよ」

 

眼鏡の男性は頬を緩めて、そう語った。

 

やがて彼女のおかげで社会人の2人もダンジョン探索を始めようと決心することができリアルでも顔を合わせ、正式に資格をとってグループを組む流れとなった。そこに加わったのが、彼女の幼馴染――青年のショウマだった。彼はネットの集まりには参加していなかったが、彼女がパーティーを組むと聞いて、流れで組むことになったという。

 

こうして、年齢も職業もバラバラな4人の探索者としての生活が始まった。

 

それからの3年弱は、あっという間だったという。初心者へのおすすめスポットとして上げられていたこのダンジョンに何度も潜っては失敗して、また立ち上がってを繰り返した。サオリはそれでも笑顔で励ましてくれる。

サオリはメンバーに対する指示が的確で、その指示に他のみんながやっと、最近ついて来れるようになり連携も上手く行くようになったという。

 

 

そうしてようやく今朝、一つの目標であった初めての中級者エリアへの挑戦を目前に、いつも快活な彼女にしては、表情が少し固い顔である告白をした。

 

「実は、ある探索配信者事務所から……カメラマンとして声をかけられてて」

 

それは大手事務所だった。

驚きの空気がグループ内に流れたという。探索配信では配信者本人がカメラを回すこともあるが、専属のカメラマンをつけるスタイルも存在する。だが、カメラ操作にも長けており、ダンジョン探索の資格も持つ者は少数派であり、裏方として活動するには高い実力が求められる。いざという時には、探索配信者と共に応戦する必要があるのだ。

カメラにも長けてダンジョン探索に通じている人間は自ら探索配信者で大成したいという者が多いので、裏方で募集をかけてもそう集まらないとのこと。

そのような理由からカメラマンの人材不足が深刻な中、そんな厳しい条件を満たす人物として、偶然関係者の目に止まったのがサオリだった。

 

 

 

このグループは、不定期にSNSに短い探索風景の動画を記録として上げていたのだが、その動画でカメラを回していたのが、まさにサオリだったのだ。短い動画ではあったものの撮り方も安定しており、中級層を潜ることになったグループのリーダーということからある程度の戦闘も期待できる。そういった理由からDMでメッセージが来ていたとのこと。

 

 

 

「ダンジョンに関わる仕事に就きたいって、ずっと思ってたから……これは、断る理由がなかった」

 

 

それなら割と簡単になれる死体回収屋に就くのはどうかと俺は思ってしまうが、それは違うのだろう。悪いイメージのある仕事だし。そんな時に大手事務所の雇われカメラマンとしてオファーが来た。大手となれば収入も安定しているだろうし彼女からすれば持ってこいだったのだろう。

だけど、その選択には瞳に迷いを宿せていた。

 

この仕事に就けば今のようにこのグループの、リーダーとしていられるのは難しいと分かっていたからだ。

そういう訳で夢を叶えるということは、今の仲間との道を変えることでもあった。同じ目的で集まり、共に歩んできた日々を、自分の選択で壊してしまうのではないか――そんな葛藤を抱えた上で、彼女は話したのだ。

 

社会人の二人は、最初は動揺していたが、次第に笑顔を浮かべてこう言った。

 

「リーダーの夢が叶うならそれに越した事はないね!本当におめでとう」と。

 

だが、ショウマは違った。

彼には怒りと哀しみの気持ちがあった。

 

「……どうしてだよ……結成した日、大きな目標を持とうって言って、みんなで上級者エリア目指そうねって言ったのはサオリじゃないか!俺らやっと中級者エリア行けるようになったとこだってのによ!」

 

その言葉に対してうつむいて一言。

「……ごめん」と言うだけだった。

 

青年、ショウマはそう言われてそれ以上何もいいかせなかった。まだ、強く反論された方が、こっちも言い返すことができたのだが、うつむいてても見えてしまったのだ。本当に辛そうな彼女の顔が。それを見てしまって、それ以上はショウマも何も言えなかった。

その最悪な空気の状態のまま、中級者エリアを潜っていたのだが、そのことを頭で整理できていなかったショウマは、心ここに在らずの状態で、そんな時に現れたオウルベアに狙われた。

 ショウマはそれに対応することができず、対応が遅れたショウマを庇ったサオリが代わりに殺されてしまったのだと言う。

 

 

 

 

 

 

「危険なダンジョンで油断するなってこと基本のきのくせに、それすらできなかった俺は、本当に情けない。俺としてはサオリのあの発言は許せるものじゃなかったけど、だからってサオリに庇われた上に死なせるなんて、本当に俺は大馬鹿ものだ。そのあとあんたにも助けてもらう羽目になったしな……」

 

青年は唇を強く噛み、この話が締めくくられた。

これが一連の経緯らしい。

 

 

「そこでなんですけど、死体回収屋さんのあなたに頼みたい事があるんです」

 

 眼鏡の男が言う。

 

「あ、はい。なんですか?」

 

 

 今まで聞き専に徹していたため、突然話を振られて思わず身をすくませる。声は戸惑いを含みながらも、なんとか応じる。

眼鏡の男性は、真剣な眼差しで自分をまっすぐ見て口を開いた。心なしか、他の2人も真剣な眼差しだ。

 

「サオリさんの死体を回収してもらいたいのと……私たちの護衛を頼みたいのです」

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。