TS死体回収屋は探索配信者の夢を見るか? い や 見 な い   作:TS夢見

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護衛/擬似ネクロマンサー

眼鏡の男性の言葉に俺は眉をひそめる。

 

「護衛……ですか?」

 

死体回収は俺の仕事だから分かるが、護衛もときた。

 

基本的に死体回収屋は、落ちこぼれがつく職業だと思われているので実力はそこまで高くないと思われる事が多い。

だからこんな頼み事をされるのは珍しい。

 

 

「さっきのを見れば、あなたが実力のある人なのは分かりますよ。それにそもそもここに来れている時点で、私たちと同等かそれ以上は持ち合わせていることになります。私達はこうなった以上一度地上に引きかえそうかと思っているのですが、リーダーがいなくなった今、指示をできる人は居らず、先程のように連携がなっていない状態で引き返さないといけません。それが心配なのです。なのであなたにもついてきてもらいつつ敵と戦う事があれば一緒に戦って欲しいのです」

 

『なんだか面白い事になってきたナ』

 

「どこがだよ。てか不謹慎だ」

 

俺は耳元でそういうボスに他の3人に聞こえないように小さく言い返す。

 

「ん、何か言いました?」

 

 女性が小首を傾げる。

 

「あ、いやなんでもないです。それよりその件ですが、そうですねぇ……他のお二人はそれでも良いんでしょうか?」

 

 

「私はそっちの方が安全で助かるわ。私達だけで戻って全滅したら目も当てられないもの」

 

 

「俺も、それで良いと思う。てか俺からもあんたにお願いだ。こんな時に変なプライドを持ってきても仕方がないし、死なないならそれに越した事がないからな」

 

眼鏡の男性以外の2人も口々にそうこたえた。

 

「もちろん、護衛代もちゃんと払いますので!」

 

眼鏡の男性が付け加える。

 

 

「そういうのは全然気にしなくて良いのですが、私が護衛と言われるような事をした事がないので私にそれが務まるのか不安というか……」

 

「あ、いえあくまであなたの本業は死体回収屋なのは存じ上げていますので、あなたはいつも通りしてもらって結構です。出来るだけ自分達で頑張りますので、万が一のことがあれば先ほどのような助力が欲しいのです」

 

「んー。まぁ、そういう事なら……」

 

 ここで俺が断って全滅でもされたら寝覚めが悪いし、俺が中に加わったところでそうかわらないとは思うが、ここは素直に引き受ける事にした。

 

 

 ◇

 

正式に依頼を受けることにしたので、互いに自己紹介をした。話の流れで知っていたショウマくんの他に眼鏡の男性はタカハシさん。女性はミユキさんと名乗った。

 

 俺は背中にからっていた折りたたみ式の台車を降ろして組み立てる。そこに納体袋に入れた彼女を乗せて、紐でしっかりと縛って押していくことになる。その後地上の聖域まで運ぶのだ。ダンジョンでは、段差や凸凹道が基本なので風魔法の応用でサオリさんを乗せたこの台車を数センチ浮かせて移動させる。風魔法は対象が重すぎると浮かなかったりするが、数センチ程度ならある程度重くても問題ないのだ。逆に軽いものだったらかなり高く風魔法で浮かせることも可能という訳なのだが。

 

そういった事で、まず納体袋に彼女をそっと入れようとしたその時だった。

耳元からボスの声がした。

 

 『ちょっといいか、少し試したいことがあル』

 

 周りで様子を見守っていた3人が運ぶための用意をしている途中に固まった俺を見て不審げな顔をする。

 

 俺はその様子に多少焦りつつ、ボスにだけ聞こえる声で問う。

 

「なんだよ、それ、今じゃなきゃダメなの?あの人たちの依頼を受ける事になった今あの人たちに変な疑心を持たれるのは得策じゃないんだけど」

 

『ここ数日、あんたの働いている様子を見て思ったが、死体を運ぶ作業はかなりあんたの負担になっているようだナ』

 

「まぁ、確かに行動も制限されるし、風魔法で少し浮かしているとはいえ、魔法でかなり体力も消耗するし、重さが完全に無くなるわけでもないから、それはそうだけど。それを言い始めたらこの仕事を完全否定する事になるし、仕事としてやる以上、仕方ないとは思うよ」

 

 

「……もしかしたら、その悩みに対して少しは役に立てるかもしれないゾ。やった事がないから確実にとは言い切れないガナ。やれそうな気はしてル」

 

 

「……それ、どういうこと?」

 

『あんたが暇してた俺を拾ってくれたんだ。それくらいの恩返しはしてもバチは当たらんダロ?』

 

ボスは軽い調子で言う。

 

『ただ、この方法を試している様子はクレハ以外に見せるべきじゃないカモナ』

 

そう言われて俺は周囲に視線を走らせる。依頼主たちは不安そうに俺の動きを見つめている。

 

「何をしようとしているか知らないけど、その様子を見られたら更に余計な警戒を生むかもしれないってこと?」

 

『まぁ、我が一旦、表に出てくることになるしナ。それを見られるのはクレハも嫌だロウ』

 

 この魔力の塊――ボスが今、地上にいる訳じゃないから、法律にも引っかからないし、そこで咎められる事は無いと思うけど、単純にこんな謎の生命体と接している事についていろいろ聞かれたら面倒だ。

 

 今も周りから見たら独り言をぶつぶつ言っているようにうつる俺だ。警戒されてないとは言い切れないが、これ以上に警戒されるのは避けたい。

 

 『ただクレハの負担が少しでも軽減できる可能性があることダ』

 

負担が軽減するという甘い誘惑が、俺の中で天秤にかけられる。死体回収屋をしている以上、死体を運ぶ事は覚悟の上だったが、その作業が少しでも楽になるなら、今回の護衛の方にも意識をさきやすくなっていいかもしれないとふと思った。少し考えた末、ボスの提案に乗ってみることにした。俺は彼らにその様子を見られないようにするため、彼らに向き直り、「彼女を運ぶ前にちょっと準備が必要なんです。ただその様子はちょっと企業秘密なもので……誰もいないところに場所を変えさせてもらっていいですか?」と今速攻で考えたセリフを言って申し出る。

 

3人は互いに目を合わせ、不審そうに眉をひそめたが、しぶしぶ納得して頷いてくれた。

 

俺は台車とサオリさんを押して、彼らから少し離れたところへ向かい、人目の届かない木陰へと移動する。

 そうすると、ボスが指示してきたので、周囲の気配が遠くなったのを確認してから、そっとボスの耳についている以外の残りの部分が入ったペットボトルを地面に置いた。

 

すると、中から黒い粘液が出てきたかと思うと、それが極薄の幕のように広がり、ぬるりとサオリさんの身体へと貼り付いていく。

 

「……えっ、サオリさんに何してんの!ちょっ」

 

慌てる俺に『まぁ、落ち着け』となだめるような声でボスが発した。

 

ボスはあまりに薄くなっていき、一瞬ボスの存在が消えたのかと思ったほどだった。だがよく目を凝らせば、彼女の肌の上にかすかな膜のようなものが張り付いているのが分かる。これは極限までに薄く張り付いたボスの体だという事が分かった。

 

「何をする気……?」

 

訝しみながらそう呟いた瞬間だった。

 

 

 膜のようなものがサオリさんの身体全体に広がった直後、彼女の指先がゆるやかに震え始めた。その動きはまるで水面に落ちた一滴の雨のように小さかったが。

 

 膝が、わずかに持ち上がる。関節がギシギシと軋みながらも、まるで忘れていた動かし方を思い出すかのように、少しずつ姿勢が変わっていく。折り畳まれていた足が地面を探り、台車から降りてかかとがそっと地を踏むと、その体はふらつきながらも、静かに立ち上がった。

 

「なっ……!」

 

 俺は思わず声をあげ、尻餅をついた。死体が、意思があるかのように立ち上がったからだ。

 

 

『成功したようだな。本当に成功するか賭けみたいなものだったが、良かった。驚いたか?………俺が、彼女の身体を操作して動かしている。だから台車も魔法も必要ない。死体を歩かせて地上へ戻ればいいのだからナ。これであんたの負担も減るだろう?』

 

あっけらかんと言い放つボスの声に、俺はただ呆然と立ち尽くすしかなかった。

 

 

 彼女の腕がぎこちなく持ち上がる。指を開き、閉じる。肩が動き、左右に身体を揺らすたび、まるで操り人形のようにぎこちなくではあったが動いた。

 

 『まだ、死んで間もないようだから、筋肉のこわばりは少ないナ』

 

 

「これ……どうやって……あくまで生き返ってはいないんだよな?ボスが動かしている認識であっているのか……?」

 

 

 『あぁ、そうだ。初めて死人を見た時から、ずっと出来そうだと直感的に思っていたからできた訳だガ、あえて理由付けするのならば、俺が意思のある魔力そのものだからこそ、出来る事があったという訳ダ。ただ、動かすには宿主の残された“生体構造”を読む必要がある。筋繊維、神経、細胞の命令記憶。……それを感知して、俺の魔力で擬似的になぞってやると動いたノダ。主導権のない、つまり、脳が機能していない状態のものにしかこれは使えんがナ。あ、あと今の所そこまで器用に動かせるわけじゃないから戦闘とかは期待しないでクレ』

 

 

「最初からそこまでは望んでないさ。死体を動かしてる時点でアレだが、死んでもなお戦闘させるって過剰すぎる死の冒涜じゃないか……?」

 

『そんなの死と隣り合わせのダンジョン探索をエンタメ化してしまった人類が言えることでは無いはずだ』

 

「それもそうだけど」

 

 俺がそういう風にした訳じゃ無いのに、何も言い返せないのが悔しい。

 

「これ、あの人達になんて言い訳すんだよぉ」

 

冷や汗が止まらない。

 

 ファンタジーなこの世界でも人間で死霊術を使えるものはいない。この世界でも普通ではない事が今起こっていると言ってもいい。もしかしたら表の世界に出てないだけで、固有魔法で似たような魔法を使える人もいるのかもしれないが、少なくとも俺の知り得ないところだ。

 

普通にこれ、あの人たちにドンびかれてもおかしくない光景だよな。

死体を弄ぶなと怒鳴られる可能性だってある。

 

『ほら、クレハ。そこにつったってないで、行くゾ』

 

「足取りが重い……」

 

 

 

 

 

 

 

僕らは待っていた3人の所へ戻った。

3人の反応は、予想通り――いや、予想以上に凍りついていた。

 

そりゃあ、そうだろう。サオリさんが俺の後ををふらふらと歩いてきたのだから。その瞬間、ミユキさんは息を呑み、タカハシさんは目を見開き、ショウマくんは顎が外れそうなほど口を開けていた。いや、マジで外れてるんじゃないかと疑ったくらいだ。

 

「え、ちょ、え?、待って……それって……生き返ったの……?」

 

「本当の本当にすいません!紛らわしい事してすいません!!違います!違うんです!ぬか喜びさせて本当に申し訳ありません!」

 

俺は即座に頭を下げた。地面に額がつくくらいに。

 

 

「これは……えっと……」

 

タカハシさんは、頬をポリポリとかき、何かを言おうとしたが、それ以上言葉が見つからなかったのか、口をつぐんだ。

 

 

「……魔法で動かしてます。歩かせる事しかできないので、それ以外のことは出来ませんが、護衛をするなら、自分もすぐ動ける状態の方が良いと考えてこの方法を取りました。不快ならすぐにでもやめます」

 

 これは魔法で動かしているということにした。ボスの説明をするとややこしくなるので、それを省くために。

 

「いや……それは別にいいんですけど……そんな魔法は聞いたことがないっていうか……」

 

タカハシさんがそう言う。

 

「あれ……ですかね。固有魔法っていうのがあったじゃないですか。その人独自の感覚で発動できてるっていう、その人以外再現不可な魔法……みたいな?」

 

ミユキさんが、自信なさそうにそう言った。

 

「それです、それです!固有魔法」

 

「え、それ固有魔法なんですね。話には聞いてましたが、初めて生で見ましたよ。固有魔法持っている人」

 

 メガネの男性が少し興奮したように言う。

 

 

その後、何をどう言ったか、正直覚えてない。必死すぎて、記憶がぐちゃぐちゃになっている。変なことを言ってないか心配でしかない。

だけど3人は俺が思ってるほど、この事を重く受け止めてはいなかった。やはりこの世界は死に対する価値観が異世界から来た俺と違って多少軽いかもしれないなと改めて思った。

 

 

「……じゃあ、動かしてるのはあなたなんですね?」

 

「えっと……まぁ、……はい」

 

「……なら、いいです。変な感じだけど、最終的に蘇生できるならそれで」

 

そういう事で、話はおさまりつつあったが、その間、ショウマくんが難しい顔をして一言も喋らなかったのが気がかりだった。

 

 

 

それから俺たちは、隊列を組んで歩き始めた。

 

ボスことサオリさんは俺のすぐ後ろを、ぎこちない足取りでついてくる。

 

風魔法も台車も使わずに済む分、俺の負担はぐっと減った。護衛に集中できるのはかなりありがたい。

 

3人は黙々と何も言わずに歩いていた。時折、サオリさんの動きにちらりと視線を向けてくるがそれだけだった。

 

 

 

 

しばらく足をひたすら動かして進んでいたその時だった。

 

暗い森の中に異変が起こった。

 

足元から立ち上るように、白く濃い霧が広がり始めたのだ。まるで地面が息を吐いているかのように、ゆっくりと、しかし確実に視界を奪っていく。

 

「……くっ」

 

 同時に耳元から子供のような無邪気な笑い声が何重にも重なって聞こえてくる。

 

俺は立ち止まり、周囲を見渡す。だが、すでに数メートル先がぼやけて見えない。

この霧、その中で聞こえてくる子供のような笑い声。これには思い当たる節がある。

森の精霊、木霊の仕業だろう。

人を直接、襲うことはないけど、いたずら好きな精霊で人を困らせることが好きな存在だ。

この霧の中で下手に動けば、この森の何処かへ飛ばされてしまう。

運が悪ければ遠くへ。

転移魔法陣のトラップと同じような効果をこの霧を用いて木霊達が行ってくるのだ。

俺たちに出来る事はただ一つ。

 

「皆さん、その場に立ち止まってください!動かないでください!」

 

 俺は叫んだ。みんなに聞こえるように声を張り上げて。

 

動かなければ、この悪戯に惑わされる事はない。

 

「わ、分かりました!」

 

「了解です!」

 

霧で周りは見えないが、そう言葉が聞こえた。

 

何分か、しばらくその場に立ち止まっているとふと、風に吹かれたように、ゆっくりと霧散し始める。

 

白い靄が薄れ、木々の輪郭が戻り、地面の苔が見えるようになる。空気が澄み、視界が回復していく。

 

俺はすぐに皆んなの無事を確かめようとして――。

 

だけど、――そこに、ショウマくんとサオリさんことボスの姿はなかった。

 

 

「……まじか……」

 

 

他2人は沈黙していた。誰も言葉を発せず、ただ霧が晴れた空間を見つめていた。

 

慣れていないことをするからと、サオリさんの体を動かすことに専念するために、今俺の耳元にミニミニボスの姿はない。

 

本格的にまずくなったな……。

 

 

――青年ショウマと、歩く死体のボス。

その2人は、霧とともに、静かに眠れる森の中に姿を消していた。

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