転移後世界の仕様が変更されました   作:リセット

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レベル11 ナザリック地下大墳墓 上

「二泊三日しただけなのに、ものすごく久しぶりに返って来た気分だな」

 

 どこまでも気のいい()()達との飲み会を終えて、そのまま酒場に併設された宿で一夜を過ごした。明けて翌朝、モモンガは四人を連れてナザリックに戻ってきていた。

 

「……ん?」

 

 モモンガが後ろを振り返ると、アウラ達は各々が眉間に皺を寄せたり、なんとも言えない表情をしていた。

 

「どうした。みなの家に戻って来たのだぞ」

「ううーん。それはそうなんですけど。あたし達、どんな顔をして他の僕に顔を合わせたら良いんでしょうか」

「あんなことがあった後で、ソリュシャンやアルベドとまともに話が出来る気がありんせん」

「ぼくも……お姉ちゃんやシャルティアさんに同意……です」

「私も少々複雑な気持ちですな」

 

 エ・ランテルでの出来事。モモンガが内心に溜め込んでいた気持ち。偉大なる御方が抱え込んでいた、寂しいと言う感情。それらをNPC達は笑えない。

 

「モモンガ様が、ずっとあんな気持ちを抱えていたなんて」

「その話か。たしかに俺は寂しかったさ。みんなが去ってから、俺は一人でここの切り盛りをしてさ。いつか帰って来てくれたら……そんな気持ちでずっとここを維持してきた。内心では、どうして戻って来てくれないんだ……そんな風に考えてたかもな」

 

 ははっとモモンガは笑う。骨なので表情は分からない筈なのに、モモンガの顔にはたしかな満足があった。彼自身、自分は今良い表情をしていると思った。

 

(今までなら、俺はこんな風に笑えただろうか。ギルドメンバーが返って来てくれない。そのことに内心不満を感じながら、誤魔化していた。でも……今はこんなにも、晴れやかだ)

 

 憑き物が落ちた。そうとしか言えないほどに、モモンガの心は穏やかだった。たくさんの愚痴を聞いて貰って、たくさんの友達が出来て、この世界で成し遂げたい目標も出来たのだ。

 

 果たしてこの世界とリアルの世界を繋げられるか。それはまだ分からない。しかしモモンガには無限の時間がある。だから……過去は振り返らない。かつての黄金を懐かしむのではなく、届きたい場所まで走り抜ける。だからくよくよしている暇などない。

 

「……モモンガ様も、我々と同じ感情を抱かれていたのですね」

「そうだな。お前達が親に見捨てられてどうしようもない孤独を感じていたように……俺もまた、裏切られたと考えていて……今思えば、何を迷っていたのだろうな」

「モモンガ様……」

「そんな顔をするなシャルティア。俺の友達は、たしかにここを出て行ってしまった。他にも楽しいことを見つけたりしてしまったから……なら、ここにたくさんを詰め込めばいいんだ」

「たくさん……」

「たくさんだ。ナザリックも、連邦も、楽しい事がたくさんあると知ったら、必ず興味を持って帰って来てくれる。きっとな。しかし……他の僕に顔を合わせたら? 何かあったか?」

「……モモンガ様。無礼を承知で問わせて頂きます。まさかとは思いますが……我々に課された、話さずの禁をお忘れでは?」

「話さずの禁…………なんかあったかそんなの……」

 

 はて何のことだろうとモモンガは記憶を覗いて───

 

「……すまない。昨日の飲み会が楽しすぎて、完全に抜け落ちていた」

「モモンガ様ってもしかして……シャルティアぐらいうっかり屋さん?」

「つまり、私とモモンガ様はお揃いの可能性がありんす!」

「そ、そこは喜ぶポイントなんだ」

「お、俺の頭のことはその辺に置いておくんだ。しかし、そうか。話すの禁止で、顔を合わせるとなると気まずいよな……よし! その縛りプレイだが、この瞬間から解除する。俺のことを話すのはオッケーだ」

「よろしいのですか!?」

「構わないだろ。俺が嫌ったのは、この世界の情勢や生活基盤も揃わない内に、ナザリック内部に混乱が生まれる事だ。けど───」

 

 モモンガはエ・ランテルの面々を思い浮かべる。ナザリックの主として、モモンガが警戒していたのはあの街の技術力や人材の質の高さだ。それゆえに、もしもこの都市と争う事にでもなれば……だから当面はナザリックの支配者として振舞い、ナザリック全体を統一させて気を引き締めさせようと思っていた。

 

 けれど、そんな心配はいらなかった。戦争をしないと決めた彼らはみな高潔で、眩しくて。モモンガの心配など、どこにも必要ではなかったのだ。

 

「俺は友達と戦うつもりはない。だから、もう黙っている必要もないんだ。ちょっと最初に混乱はあるかもしれないけれど、すぐに乗り越えられるさ」

「承知致しま───」

「それと、その承知致しましたとかも今後はいらないぞ。支配者ロールを捨てるんだからな。それに……なんか距離を感じて、あまり俺は嬉しくないな」

「けど……分かりました。でもモモンガ様とだけは呼ばせてください。そうじゃないと、あたしがあまり落ち着かないんです」

「いいよ。みんなにお願いするんだから、俺もそれぐらいは受け入れるさ」

「受け入れてくれるでありんすか!! な、なら、今日私の寝屋に来てくれんせんか!!」

「ここぞとばかりに、じ、自分の欲望を要望してる……」

「羨ましいと思うほどには、純粋な方ですなシャルティア様は」

「頭が単純なだけでしょ」

 

 いつも通りシャルティアとアウラが取っ組み合いを始めたのを尻目に、モモンガは<伝言>をアルベドに繋げる。ギルドの指輪を持って来て貰うためだ。あれがないと転移魔法対策が念入りにされているナザリック内部で、自由な転移が不可能。流石に1層から9層までモモンガは歩きたくなかった。

 

「聞こえるかアルベド。私だ───」

「モモンガ様!!! ご無事でしたか!!!」

「ッッ相変わらず声がでか……無事? 何の話を───」

「今どちらにおられますか!! 外が見える部屋ですか!? 鎖などには繋がれていませんか!!? 逃亡は可能ですか!!?」

「いや……だから何の話を。どこってお前……ナザリック地表部だが。監視システムに写っていないか?」

「……確認しました!! すぐそちらの救援に向かいます!!!」

「は?」

 

 あまりにも話がかみ合っておらず、モモンガは何のこっちゃとしか反応出来ない。ぶつりとアルベド側から<伝言>が切られ、様子がおかしかったのでどうしたんですかと心配するアウラ達と共に、モモンガがちょっとだけ待っていると───

 

「全員モモンガ様を守りなさい! 周囲に敵影は無いけれど油断しないで! コキュートスは敵を見つけ次第、すぐに迎撃しなさい!! あなた達も何をぼけっとしているの!!! モモンガ様の護衛としてついていきながら、その体たらく!! 恥を知りなさい!!!!」

 

 アルベドが来た。なぜか鎧を装着したフル武装で。アルベドだけでなく、コキュートス、他魔将などナザリック内部でも高レベルのモンスターが数十体は揃っている。

 

 いきなり激怒されたセバス達は困惑していた。モモンガも口を開けて困惑している。なぜか我が家に帰ってきたら、留守を任せていた家族が恐ろしく殺気立っていた。意味が分からない。

 

 これ以上ないほどに混沌とした状況に、理解が追い付かないモモンガへアルベドが近づいてきた。

 

「ああ、モモンガ様。よくぞ……よくぞご無事で。このアルベド、モモンガ様と再会できてこれほど嬉しいことはありません」

「……アルベド?」

「承知しておりますモモンガ様。必ずや、御身の御意思を果たして見せます」

「何がだよ。え、俺なんかアルベドに命令したか!? そもそも、なぜ殺気だっている!? すぐに俺に教えるんだ、今すぐに!!」

 

 意味は分からないが、何かとんでもないことになっている。それだけは分かったので、モモンガはアルベドに詰め寄った。

 

 アルベドは少しの間モモンガを見つめた後───

 

「昨日の朝、モモンガ様からエ・ランテルに入ると定時連絡がありましたよね?」

「それは覚えてるな、流石に」

 

 今更な話ではなるが、モモンガはアルベドから定時連絡を入れて欲しいとお願いされていた。この世界の脅威度が不明な中、ナザリックの創造神が数名の僕と共に旅立つのだ。安否確認のためにも、無事である旨を伝えるのは道理。

 

「しかし、それ以降モモンガ様からの連絡が途絶えました」

 

 それを聞いて、モモンガは小さな声で「あ」といった。エ・ランテル入りしてから技術の高さに驚いたり、劇が楽しかったり、酒場での友達との談笑が楽しすぎて、連絡を入れるのをすっかり忘れていた。そもそも<魔法抑止領域>があるから、エ・ランテルから<伝言>を使うのは容易ではない。アルベドからの<伝言>も、魔法無効化に阻まれて届かないのだ。

 

「連絡が途絶えたと言う事は、モモンガ様の身に何かあったと言う事。<伝言>すら使えない何かがあった。<遠隔視>などで状況を確かめようにも、都市全体に情報対策が施されている。これらの事実から、守護者統括として緊急事態宣言を発令。モモンガ様が最後に向かわれたのはエ・ランテル。亜人や異形と共存しているとお伺いはしておりましたが、それでも主体となるのはあの愚劣な人間如き。そんな愚か者達が統治する国であり都市です。御身は卑劣な手段で捕えられた。そう考えるのが妥当だと判断しました」

「……なぜ、俺が捕まるんだ」

「ここを調査に来た人間達は、内部までもっと詳しく調査したかった筈です。しかしモモンガ様を見て、その強大さから簡単ではないと理解し、情報を明け渡して都市に戻りました。ですが、どうしても突如として出現したダンジョンを調査したい彼らは、法などを盾にした調査計画を練ります……そんな画策していたところに、ナザリック地下大墳墓の長がやってきたのであれば、愚かにも力に訴え御身を捕縛するでしょう。長さえ捕えて情報を聞き出せば、無理に内部の事を探らなくとも良いのですから」

「……なるほど。それで捕まった俺は彼らにどうされるんだ」

「卑怯者共はモモンガ様を人質に、ナザリックへと侵攻します。ただでさえ、この世界の推定戦力は非常に高い。それだけの戦力を持つ相手に、モモンガ様を人質に捕られてしまえば、私どもナザリックに非常に不利かと」

「……ほうほう。それで、なぜ、エ・ランテルはこのナザリックに侵攻するのだ」

「この地表部分だけでも、素晴らしい建築技術が使われているのがナザリックです。愚かな人間でも、地表だけでこの有様であれば、内部には財宝が眠っていることぐらい考えつく筈です。そこにモモンガ様から手に入れた情報があれば、財があると確信してもおかしくはありません。突如として出現した墳墓に、財が眠っている。となれば、欲に目が眩んだ嘆かわしいほどの愚者たちが、無理矢理にでも奪おうとするのが道理です」

「………………ははは、ナイスジョーク」

 

 このやりとりだけで精神的にぐったり疲れたモモンガは、手を叩きながらアルベドの面白ギャグを褒めたたえ───

 

(てる場合じゃねえ! え? なんでそうなんの!! ちょっと連絡がなかっただけで、緊急事態宣言!! それにエ・ランテルで俺が捕まる!! はぁ!?)

 

 僕特有の主優先思考。特にアルベドはモモンガから、自分を愛せと書き込まれているせいか若干暴走し易い傾向にある。それがゆえに、一日連絡がないだけで発狂していた。

 

「ジョーク?」

「気にしないでくれ。しかし、そうなるとおかしいな。捕まっているなら、どうして俺はここにいるんだ」

「それは、モモンガ様がモモンガ様だからです。御身は至高の王にして、智謀の王。人間の卑劣な罠に陥ったとしても、瞬く間に解決し危機を脱する事など容易かと」

「そうか。そうなんだ。その智謀の王ってやつは凄いな。それで? 危機を脱した俺はどうなったんだ」

「敵陣の中で留まるのは、モモンガ様でも危険かと……すぐにエ・ランテルから脱出したモモンガ様ですが、敵もそれなりの強者です。人質が逃げた事に気が付き、追手を差し向けました。それらを退けながらも、このナザリックに到達……今ここに、偉大なる支配者が無事、御帰還成されました」

 

(へぇ……偉大なる支配者さんか。どこにいるんだろう、アルベドのやつ紹介してくれないかな……現実逃避していたいけど、そうもいかないよなぁ。まだ聞きたい事は山ほどあるし)

 

「……それで、敵を警戒してコキュートス達を引き連れて、お前自身も武装してきたのだな」

「勿論で御座います!! このアルベド、御身を守る盾として、お傍を離れるつもりはありません!!」

「うんうん。それはありがたいな」

「はい! それでモモンガ様、いつ進軍されますか?」

「ははは……進軍? どこに?」

「無論、エ・ランテルで御座います」

 

 ……モモンガは目頭を押さえた。いや、聞いていたからモモンガだって分かっているのだ。今の今まで、モモンガが捕まり、人質に捕られていたとアルベドは誤解している。彼女の中では、セバス達を殿にしながら、なんとかモモンガが逃げて来た想定なのだろう。

 

 今ここにいるモモンガは、エ・ランテルの魔の手から逃れて来たところ。報復として、エ・ランテルに進軍する……なるほど、そこまでおかしな話でもない。おかしい点があるとしたら、全てアルベドの脳内にしか存在しない情報なことぐらいだ。

 

「……進軍と言っても、すぐに軍隊などの準備は難しいだろ」

「ご安心ください。御身が自力で脱出不可能な時の備えとして、奪還作戦も立案していました。デミウルゴスを帰還させて軍団を編成させております。既に第一部隊から第八部隊までご用意しております。御身の勅命を受けているデミウルゴスを帰還させた件については、緊急事態ゆえご容赦のほどを頂ければ……」

「……その軍隊を使って、どんな奪還作戦を実行するつもりだったのだ」

「モモンガ様ほどの御方に加え、セバスやシャルティア、アウラにマーレまでいてもなお、自力での脱出が困難な状況となれば、一刻の猶予もありません。ナザリックの全兵力を以って、モモンガ様をエ・ランテルまでお迎えに参る次第でした」

「……はは、そうか。うん、そうか。うんうんうんうんうんうん……エ・ランテルの兵力も不明なのに、攻撃する予定だったのか?」

「御身をお救いするためであれば、我ら僕一同はリスクを受け入れます。それでこの命果てようとも、モモンガ様がご無事なのであれば、これ以上の栄誉はありません!」

 

 ……モモンガは───鈴木悟は天を見上げる。マジこれどうしよう。

 

「お、お姉ちゃん。ひょっとして、ぼ、僕たち、モモンガ様と一緒にいってなかったら、あれに巻き込まれてたのかな」

「だろうね。いやぁ……怖いね。あたしたちも、真面目な表情しながらコキュートスみたいに、敵影がいないか探してたね……怖いなぁ」

「……アルベドのやつ、ほんとに頭が良いんでありんすか? 血の狂乱で頭がパーになってる私よりも、暴走しとらせんかぇ?」

「エ・ランテルを攻撃など。アルベド様は、モモンガ様が心から欲した友情を壊す気ですか」

 

 アルベドの暴走に巻き込まれたのか、コキュートスなど必死で周囲を警戒している。魔将達高レベルモンスターも周囲に散らばり、追手が来たならすぐに戦うつもり満々の敵意を放っている。

 

 それらを見ながら、アウラ・マーレ・シャルティア・セバスは四者四様の反応をする。特にセバスに至っては、エ・ランテルを……善人の集まりであり、モモンガの新しい友達である彼らを攻撃すると宣言したアルベドに対して少し怒っているのか、眼が赤くなっていた。

 

「そうか。そうか……うん、ご苦労。うん……今のところ追手はいないよ。いるわけもないし」

「それはどういう……そういう事ですか。承知いたしました」

 

 何がそういう事なのかさっぱり不明だが、アルベドが何やら納得しているからモモンガは追求するのは止めた。下手に追求したら、もっと意味不明な言葉が出てきそうだし……

 

「アルベド。コキュートスも含めて、地上に出て来た兵力は全てナザリック内に帰還させろ。それとエ・ランテルで何があったのかを全て、詳細に、余す事なく、俺の心情含めて、全部、一切合切、全僕に通達するから、玉座の間に全員集めておいてくれ」

「御意」

 

 とりあえずアルベドの暴走は止められたので良しとしようとモモンガは納得し、彼女からギルドの指輪を受け取る。アルベドはNPCを集めるために、先にナザリック内に戻っていった。

 

「あー……四人とも。私は玉座の間に行く前に、宝物殿に立ち寄る。それまでの間、またアルベドが暴走しないように見張っておいてくれ」

「分かりました! アルベドがまた何か訳わかんない事言い出したら、鞭でぶん殴ってでも止めておきます!」

「宝物殿? と言うと、何をされに行くのですか?」

「ん? ……ああ、ちょっとな。一応、あいつも呼んでおこうと思ったんだよ」

 

 ナザリックの宝物殿に詳しくないのか、四人は首を傾げるだけだ。ともかく四人は他の僕が勝手なことをしないように、玉座の間へ先に向かった。

 

 そしてモモンガは───

 

「仕方がないけど……全員に聞かせるんだから、あいつも呼んでおかなきゃいけないよな……はぁ……」

 

 重い足取りでギルド指輪を発動。宝物殿へと転移するのだった。




モモンガ様奪還計画:アルベドによって作成された計画書。作戦決行時刻はモモンガさんが帰宅した日の21時

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