転移後世界の仕様が変更されました   作:リセット

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レベル14 NPC

「ふーむ。まずは領主にあって、エ・ランテル領に住む許可を貰って……税金は幾らぐらいかかるのだろうか?」

 

 玉座の間を出た後、モモンガは私室に向かう……前に執務室に寄っていた。領民として暮らす上で、まず何が必要なのかを紙に書き出していたのだ。なぜこんなことをしているかと言えば、モモンガは皆に良案があるなら出して欲しいとお願いしている。なのに自分が何も考えていないのは、如何なものかと思っての行動だ。

 

「外貨を稼ぐ手段も見つけないといけないよな。ナザリックの防衛システムも、一定以上の金額を稼ぐまでは最低限にすべきか? パンドラのやつに相談して、どこまで金貨消費量を落とせるのか計算しないと」

 

 独り言を呟きながら、モモンガはあーでもないこーでもないと文字を書く。

 

「……NPC達は、どんな青写真を描いて来るんだろ?」

 

 自分の青写真を書きながら、モモンガはNPCならどんな未来図を描くのか楽しみにしていた。彼ら彼女らにはそれぞれの人格があり、自分達で考えたらどんな案を用意するのか興味がある。

 

「今までだと、案を出して欲しいとお願いしても、モモンガ様の検討案こそ至上です……だもんな」

 

 それも自分が全て明かしたのだから、多少はマシになるだろうとモモンガは楽観的だ。シャルティアやアウラは態度が軟化して、エ・ランテルでは非常にやりやすかった。それと同じように、ナザリックのNPC……特にアルベドやデミウルゴスの、いらない深読みも曲解も無くなるだろう。いいことずくめじゃないかと。

 

 そんなことをモモンガが考えていたら、執務室のドアがノックされる。気づいたモモンガは、ノック主に入室許可を出した。

 

「こちらにおいででしたか、モモンガ様」

「私を探しに来たのか? ええと……タスキー?」

「アスキーでございます」

「アスキーだったか。お前の名を間違えてすまないな。それでどうしたんだ? 早速何か案でも思いついたのか」

「申し訳ございません。良案となるとまだ何一つ……不躾なお願いが一つあって参上させて頂きました。御身の僕である、パンドラズ・アクター様が、玉座の間までモモンガ様をお呼びして欲しいと」

「パンドラが私に? 玉座の間で何かあったのか?」

 

 先ほど退出したばかりなのに、すぐに自分を呼んで欲しい。そう聞かされたら、何かあったのかとモモンガは聞き返してしまう。

 

「私が玉座の間を出る前ですが、パンドラズ・アクター様、デミウルゴス様、セバス様の間で少し揉め事がありました」

「揉め事?」

 

 デミウルゴスとセバスが絡む揉め事。それを聞いて──

 

(まさかまたデミウルゴスが何か深読みをして、それでセバスと揉めているのだろうか。そこにパンドラが割って入って、仲裁をしている? ……ふふ、ユグドラシルの頃を思い出すな)

 

 ユグドラシル時代、二人の創造主であるウルベルトとたっち・みーは、意見が合わないのかよく喧嘩をしていた。そんな時モモンガは近くにいたら、間に入ってまぁまぁと仲を取り持った。その時のことを思い出しながらも、ギルド長として部下の面倒を見に行くかとモモンガは腰を上げる。

 

 アスキーを供に九階層から第十階層に降りて玉座の間へ。さてさてどんな喧嘩をしているのやらと、モモンガは扉を開けた。

 

「落ち着きなってシャルティア!! 今この場でアルベドを殺しても、何も解決しないでしょ!!」

「はなせぇアウラぁああああああああ!! コキュートスぅうう!! こいつはぺロロンチーノ様も、モモンガ様も侮辱してる!!! これ以上口を開く前にころせぇええええ!!!」

「……くだらない。感情に任せて殴りかかって来て、それで取り押さえられて。それとデミウルゴスにマーレ。この手を放してくれるかしら。私は応戦しただけで、あなた達に手を抑えられる謂れはないわよ」

「アルベド、私は言った筈だよ。次に同じ発言をしたら許しはしない……シャルティアの行動は迂闊と言わざるを得ないが、君の言葉も同じく迂闊だ。例え内心ではそう思っていても、御方達が裏切ったなどと聞かせるならば、相応の対応をされても文句は言えない」

「あら? 感情論に訴えるのは愚かと説いていたのに、今度は自分が感情に突き動かされるつもり」

「アルベド様も、同じように感情で動いていたと私は思いますが? モモンガ様の御心を無視して、転移計画への反対を表明していましたよね」

「あれは忠義の産物よ。モモンガ様の御心を本当に守ろうとするならば、他の御方と会わせるべきではない。もう一度かつての盟友に見捨てられた時、モモンガ様はどれだけ悲しまれるか……パンドラズ・アクター。お前もモモンガ様の僕であるなら、まずはその事に気を払うべきね」

「お会いになられて、どうするかを決めるのはモモンガ様御自身の判断です。例えどれだけ忠義の名を名乗ろうと、決定権は貴女様にはない」

「……なんだこれは」

 

 アウラとコキュートスが本気で暴れようとしているシャルティアを抑え込み、デミウルゴスとマーレはアルベドの腕を片方ずつ握りしめている。セバスとパンドラは100レベルの僕から遠ざけるように、レベル1しかない一般メイドや男性使用人達を安全地帯にまで誘導している。

 

 自分が席を外してから、1時間も経っていない。なのにどうしてかは不明だが、NPCの間で明らかに度を越した喧嘩──それも殺意があるほどの何かが起きてしまった。今も拘束を振りほどいて、どうにかアルベドに飛びかかろうとしているシャルティアがいる以上、事態を見ている場合ではないと、モモンガはそちらに向かう。

 

「騒々しい!! 一体お前達は何をしているんだ!!!」

「モモンガ……さま」

 

 このナザリックに於ける最上位の地位、誰よりも優先されるべき御方の登場に一同は膝をつこうとして──

 

「不要だ!! 忠義の礼も美辞麗句もいらん!! なぜシャルティアが取り押さえられている! なぜデミウルゴスとアルベドの間で険悪な雰囲気がある!! なぜパンドラとアルベドは言い争っている!! 一字一句漏らさず、全て報告せよ!!!」

 

 至高の御方の怒鳴り声に全員が背筋を伸ばし、そして──

 

 

 

 

 

「なぜそうなる……なぜそうなるんだ。なぜだパンドラズ・アクター。私はただ、心を開き、胸の内を明かしただけだ。なのになぜ……このような事態になる」

 

 玉座の間で何があったのか。執務室に戻って来たモモンガは、パンドラとセバスから全てを報告された。デミウルゴスの計画も、アルベドの心情も含む全てをだ。

 

「申し訳ございません、モモンガ様。私が悩まず、デミウルゴス様を止めていれば……」

「お前に非はない。むしろ弁が立たないセバスに変わり、状況が流され過ぎないよう制御しようとしたのだろ。お前の行いは立派であり、私の忠臣としての責務を全うに果たしている」

「有難いお言葉です」

 

 ありがたいとは言うが、パンドラの声には覇気がない。普段のオーバーリアクションも鳴りを潜めていて、明らかに気落ちした様子だ。

 

 その様子を見て、モモンガも少し陰ってしまう。いつもはうざったいと思っていた敬礼も、こうやって消えてしまうと違和感が強く、それだけパンドラが今回の騒動に責任を感じている証拠。

 

「私も……自責の念に駆られます。デミウルゴス様の発案された計画。それが気に入らぬからと言って、必要以上に事を荒立ててしまいました」

「セバスも気に病むな。お前の怒りは私の新たな友や、私自身の未来に対して向けられた物。パンドラの話を聞く限りでは、議論の範疇で収まっている」

「ありがとうございます、モモンガ様」

 

 こちらもパンドラ同様、明らかに後悔している様子だった。デミウルゴスに激怒し、玉座の間で起きた喧嘩のきっかけを作ってしまったのだと。しかしモモンガは、セバスの怒りはそこまで的外れではないと感じている。

 

「……全てを聞いたが、パンドラとセバスの話だけで判断するのは公平に欠けるな。肝心の二人にも話を聞かなければならんか……フィース。謹慎中のデミウルゴスをここまで連れて来てくれ」

「承知致しました」

 

 荒れていた玉座の間で触りだけ聞いたモモンガは、己が事の全てを把握するまでの間、執務室にいる3名を除いて全員自室に待機させている。と言っても、シャルティアとデミウルゴスとアルベドは待機ではなく、謹慎と呼ぶべき措置を取った。デミウルゴスにはマーレを、アルベドにはコキュートスを、シャルティアにはアウラを見張りとして付けているのだ。

 

 シャルティアの怒りはナザリック内で正当な物とは言え、仲間に向けて暴力を振るったのは事実。なので心情そのものをモモンガは理解しているが、無罪放免とはいかない。なので彼女にも見張りを付けた……それ以上に誰かが見ていないと、部屋を抜け出してアルベドを殺しに行きかねない。

 

 フィースがデミウルゴスを呼びに行ってから数分。今回の騒動の張本悪魔が入室してきた。

 

「デミウルゴス、御身の前に」

「よく来たな……パンドラから玉座の間での詳細は聞いている。まず、お前が私の安全確保のために、人間を家畜とした牧場を使い、種族間の離間の計を行おうとしていた。これは事実か?」

「事実でございます」

「そうか。では、お前に問いたい。私はそのような牧場の建設許可を出しはしない。これをお前は理解しているのか?」

「現在のモモンガ様ならば、人間を離間計の材料に使う事を許可してくださると思っておりません」

「なら、なぜお前は皆の前でそれを話した? お前程の智者であれば、セバスやその他善寄りの僕が反発するのは理解していた筈。パンドラに促されたとしても、誤魔化しようは幾らでもあっただろ」

 

 モモンガの問いかけは至極まっとうな物だ。デミウルゴスであれば、パンドラにその先を問われてもセバスらが人間よりの味方側に立っているのだから、反発すると読めた。それにモモンガ自身もこの世界の住民──現状はエ・ランテル市民だけだが、友誼を感じていると表明している。

 

 そんな状況で離間計の話をしても、セバスらの感情を抜きにしたとしても、至高の御方であるモモンガ様を否定するのかと他の僕らに反発されるのが関の山。なのになぜ話したのかを問うているのだ。

 

「私が考案した離間計ですが……正直なところ、成功確率は非常に低いと考えています。そうですね……1%。奇跡を重ねて、ようやく1%成功するかどうかと言ったところかと。なので本当にするかどうかと言われたら、計画そのものは中止にせざるを得ませんでした」

「なに!?」

「なっ!!?」

 

 立案者当人が、まさかの計画そのものが成功しないと言い出した。なぜとモモンガとセバスは面食らう。

 

「なぜ? 私に呼び出されたから、とっさに計画を取りやめたと誤魔化しているのか?」

「恐れながら、それはないかと思われます。『本当にこの計画を実行するなら練らないといけない点はたくさんある』。これはデミウルゴス様御自身の御言葉です。計画そのものが初期案に過ぎないのもありますが、現時点では牧場を使った離間計には問題点があり、そのまま実行するのは不可能だと、デミウルゴス様がお考えなのは事実かと」

「助言感謝するよ、パンドラズ・アクター。御身の僕の言う通り、私はこの計画は草案に過ぎず、白紙にはなると思っています」

「……それはなぜだ?」

「一言で言えば、情報が足りなさすぎるからです。特にこの計画を実行する上で懸念事項なのは、情報の伝達速度の早さですね。私たちナザリックに、エ・ランテルから調査員が送り込まれたのは転移から七日目です。この短期間の間に、小細工とは言え土を盛り丘に見せかけたナザリックを平原から発見し、調査員を送り込む。漆黒の剣に依頼して、依頼を受けた彼らが転移なりで移動したと仮定しても……三日。転移して三日目には、丘に偽装したナザリックは発見されている計算となります。仮に牧場を設立したとしても、同じように早期発見されては元も子もありません。それに亜人の子を攫うにしても、子供を情報魔法で探索されればそちらへの対策にリソースが取られ、人間を攫うにしてもレベルの高さからリスクが高い。ですので、現状だとこの離間作戦は、はっきりと言えば机上の空論……と言わざるを得ません」

 

 自分の計画の駄目なポイントを、どう駄目なのか解説するデミウルゴスにモモンガはあんぐりと口を開け、セバスは閉口している。そんな駄目な計画を、どうして皆の前で披露したのだと──

 

「そ、それが分かっていながら、なぜデミウルゴス様はあのような口ぶりで、自信満々に──」

「パンドラに催促されたのと、君に続きを聞かれたからだ……と言うのは、流石に意地悪が過ぎるかな。駄目な計画ではあるが、皆の前で解説したのはそれが必要事項だからだ」

「……必要、とは?」

「計画そのものは穴だらけの空論。けれどこれぐらいのことはするべきだと、全員に覚えていて欲しかった。一番最初に話した、モモンガ様の安全保障。これはナザリックの全員で、取り組まなければいけません」

「……私の安全の話であれば、まずは私がいる場所でするべきだ。最初からあの場に在席していれば、大揉めになることも無かった」

「いいえ、それは違いますモモンガ様。あの場にモモンガ様がいたら、他の僕の方々がモモンガ様がいる前で、モモンガ様の友を否定するのかとセバス様よりの論調が強くなり、デミウルゴス様がしたかった議論は出来なかった」

「……そうか。僕は私の前だと、己の感情ではなく私の機嫌を損なわないように同調する。その悪癖は胸中を明かしても簡単には治らんか」

 

 NPCの同調癖に、モモンガは忌々しそうな口調になる。例え本心がどうであれ、モモンガを優先する彼らはデミウルゴスの言葉を叩きつぶしただろう。

 

「パンドラ。君がいると非常に話しやすい。今後も議論があるならば、君には是非出席して欲しいね」

「勿論そのつもりですよ。デミウルゴス様の語る事に一理はありますが、いかんせん悪逆よりに結論が傾きそうになりますので」

 

 やれやれと首を振るパンドラと、ふふふと笑うデミウルゴス。二人の知恵者に挟まれてモモンガは若干居心地が悪かった。セバスも自分が議論において感情的になり過ぎた点に自覚はあるのか、モモンガの横で小さくなっている。

 

「話を戻します。あの場で私が説きたかった事の重大さ。それはモモンガ様の御言葉をそのまま受け止めて、ナザリックの空気そのものが緩みかけていた……です」

「私の言葉を受け止めるのが、まずいとでも?」

「勿論モモンガ様の言葉そのものがまずいわけではありません。しかし御身が楽し気に語る様子から、我々僕一同は外に対する警戒心が明らかに緩んでいました。無礼を承知で申し上げますが、モモンガ様もエ・ランテルに行く前の、私に命令されていた時の慎重さが消えていた……ように見受けられます」

「……否定はできんな」

 

 新しく出来た友との馬鹿騒ぎ。それがあまりにも楽しくて、アルベドへの連絡が遅れたりと実害が既に発生している。

 

(それを持ち出されると、俺としては辛いんだよな。デミウルゴスの社会破壊云々は行き過ぎだけど、慎重さや警戒心が薄れていたと指摘されたら……否定しにくい)

 

「あのまま議論もせずに解散していれば、ナザリックには緩すぎる空気が蔓延していました。それは同時に、このナザリックと、何よりも優先されるべきモモンガ様の安全問題を脅かしかねません。それゆえに僭越ながら、大前提である脅威度を議題とさせて頂きました」

「まぁ……そう言う理由なら分からなくもないが……」

「なら、なぜ最初から素直にそう言えないのですか!?」

「そのまま伝えたとて、君を筆頭としたモモンガ様の幸福を直接見て、頭がゆるふわになった者達が素直に聞くとは思えないね」

「ゆるふわとはどういう意味ですかな!?」

 

 セバスとデミウルゴスが緩い喧嘩をし始めたのを、パンドラが仲裁してる姿を見ながら、モモンガは思考する。

 

 デミウルゴスの言を聞く限り、モモンガからの視点でおかしな点はない。

 

(あえて嫌われ役や憎まれ役を演じる事で、社内の規律を今一度思い出させて引き締める。そう言う手法があると聞いたことはあるから、デミウルゴスはそれを実行してくれたってことか?)

 

 そうなるとデミウルゴスを罰し過ぎるのは、モモンガとしてもやりたくない。混乱を産み出してしまったのは事実だが、デミウルゴスがこの話をしていなかったら、どこかで足元を掬われていた可能性は大いにある。しかしナザリックの責任者として何かしらの罰を与えないと──

 

「デミウルゴス様。一つだけ、お聞きしてもよろしいですか?」

「なんだい?」

「脅威度の話は全体を引き締める為。しかし、この世界に住む生物の全体的な脅威度を下げて、モモンガ様の安全性を確立させたい。これ自体は、いつか必ず実行したい。そう思ってはいませんか?」

「……やれやれ。君の前では隠し事は難しいようだ。君の考えてる通り、私は牧場計画そのものは机上の空論だと思っているが、内乱の誘発や仮想敵の懐柔は行うべき。この考えを変えるつもりはないよ」

「なんだと!?」

 

 モモンガが驚きの声を上げるが、デミウルゴスの表情は変わらない。そうすべきと確信している顔をしていて──

 

「モモンガ様の前で、未だにそのような妄言を喋るつもりか!?」

「妄言とは酷い言い草だね。私は現実的な案として、モモンガ様が安全に暮らせる未来を創りたいだけだ」

「……それを私が望まなくともか?」

「申し訳ございません、モモンガ様。御身の命であろうとも、これだけは譲れません。御身の身になにかあれば、私は一生を後悔し続ける事になります」

 

 深読みではなく、間違った忠言でもなく……モモンガが無事であれ。それが自らの忠誠心であるとでも示すように、デミウルゴスは深々と礼をしていて──

 

「デミウルゴス。私の命に従えないのであれば、当分の間はお前を謹慎処分にせざるを得ない」

「承知しております」

「そうか。では下がるんだ」

「失礼いたしました」

 

 もう一度深い礼をしてから、デミウルゴスはフィースと共にモモンガの執務室から姿を消していった。次にやってきたのはアルベドだ。彼女はデミウルゴスと違い、コキュートスの見張り付きで連行されてきた。

 

「アルベド。事の顛末の大部分は聞いている。なので私が問いたいのは、私に友はいらない。この発言の真意をきかせてはくれないか」

「承知いたしました。とは言え、語る内容は玉座の間で宣言した事と変わりません。友であろうとも、いつかは裏切ります。至高の御方々がここを去ったように」

「それは違う、アルベド。友は裏切るのではない。ギルドメンバーの皆にしても、自分の生活があったのだ」

「その生活とは、ここで行えば良かったのではないでしょうか」

「それは……難しいんだ」

 

 リアルの事を生前と言い、ユグドラシルのことをゲームとは説明していないモモンガだと、リアルとユグドラシルの関係性を説明するのは難しい。なので真実も混ぜつつ、どうにかモモンガは説得しようとする。

 

「例えばたっち・みーさんだが、あの人には人間のお嫁さんが出来て、人間の養子を引き取ったのだ。ナザリックは異形種のみ在籍を許されたギルド。ナザリックには招き入れることが出来なかったので、掟に従いここを出て人間と暮らす事にしたのだ」

「なんと! たっち・みー様に愛する人が!!! なんと……なんと素晴らしい──」

「セバス様? 感動されることに理解は示しますが、今はそういう時ではないのでハンカチはしまってください」

 

 この説明をしたら、アルベドではなくセバスがうれし涙を流していた。今そういう時ではないですからとパンドラが背中を擦っているのを横目に──

 

「ですが!! それはやはり裏切りです!!! ナザリックに属せない人間など選び、そこにいるセバスを置いて、救っておきながらモモンガ様を置いて行って!! これが裏切りではないのなら、なんだと言うのですか!!」

「……アルベド様。なぜそこまで、至高の御方々を恨まれるのですか。我らの創造主が──貴女様であれば、タブラ・スマラグディナ様がいなければこの世に生誕していない。だからこそ我々は偉大なる創造主達に敬意を払い、全身全霊を尽くして仕えるのです。なのに、あまりにも矛盾している。なにがきっかけで、至高の御方々を恨まれるのですか?」

 

 パンドラがそう促すと、アルベドは何度か口を開き、閉じてはを繰り返してから、言葉を漏らした。

 

「……恨んでなどいないわ。ただ、悲しいだけよ」

「創造主が出て行ったことがですか?」

「……いいえ。モモンガ様を……私が心から愛する、もっとも大切なモモンガ様を置いていかれた事が……モモンガ様。私どもでは駄目ですか? 至高の御方々や、エ・ランテルの住民などではなく、私どもでは? 私たち僕であれば、モモンガ様を裏切りません。孤独が苦しいと言うなら、この体を使って幾らでも慰めます。ですからどうか、どうかお願いします……目を覚ましてください。いつ御身を害するかどうか分からない連中ではなく──」

「アルベド様。裏切らないと言いながら、モモンガ様に外を捨てて欲しいと願い、自らの弱みを曝け出して優しいモモンガ様に懇願する。私からすれば、モモンガ様の在り方を歪めようとしているようにしか見えません。それは裏切りどころではなく、もっと悍ましい行為です」

「──パンドラズ・アクター……」

 

 アルベドの口から、パンドラに対する恨みの混ざり籠った声が出てくる。内心のどこかで持っていた恨み。私ではなく、どうしてあいつがモモンガ様が直接創造された僕なのかと言う怨念。しかし同時に、このナザリックでモモンガに仕える同士である。それらの感情がグチャグチャになった音だ。

 

「……コキュートス。アルベドを自室まで連れて行ってくれ」

「承知致シマシタ」

 

 アルベドは抵抗しなかった。この部屋には自分を連行して来たコキュートスに加えて、レベル100(同格)のセバスとパンドラがいる。暴れたところで意味がないと察していたのだろう。

 

 アルベドが去った後、執務椅子に深く座りながらモモンガは天井を見上げた。

 

「……パンドラ。コキュートスやペストーニャを始めとした面々以外は、私がナザリック外に迎合するのを好ましく思っていない。これは事実か……なんて聞く必要もないか。今のアルベドの思想に共感したのだから」

「……はい」

「一つ聞いて良いか。もし私が外に出ず、このナザリックに籠って過ごせば皆は幸せに生きられるか?」

「恐れながら……不可能です。セバス様のように、モモンガ様が外で友誼を結び、未知に触れる姿が幸せであると知っている僕がいます。我らのためにそのような行動に出られたとなれば、ナザリック内の不和は最高潮に達してしまいます」

「そうか……」

「そう言った心情面を抜きにしたとしても、現実的な問題として外貨獲得手段をどうするのか? この問題が立ち塞がっています。当面の間は宝物庫にモモンガ様が集めて下さったユグドラシル金貨だけで凌げますが、供給が無ければ拠点運営資金が枯渇します」

「お前達だけで稼げないか?」

「一部を除いて、現状では難しいかと……外貨獲得のための活動となると、必ずこの地の他者と関わる事になります。その時他者に合わせられるなら問題ありませんが、意見の食い違いなどで衝突したら目も当てられない事態となります。その時僕を諫める事が可能なのは、先ほどの玉座の間と同じで、このナザリックに於いてモモンガ様しかおりません」

「……私以外、例えばお前に全権を委譲していたとしてもか?」

「どこかで破綻します。階層守護者や領域守護者と役職で分けられていますが、根本的に私どもは至高の御方の命令しか受け付けていません。統括守護者であるアルベド様の命を聞くのも、その背後に至高の御方がいるからです。一定以上の受け付け難い命令となると、直接モモンガ様がお命じになる以外──」

「……難しい問題だな」

 

 一部を除いた僕はモモンガに外に出て欲しくないと考えている。その一部の僕はモモンガに新たな幸福を得て欲しいと願っている。外貨獲得手段となると、モモンガが筆頭として動かないと、玉座の間での喧嘩のような内乱が起きかねない。あまりにも難しい問題が山積みだった。

 

「……パンドラ。外で私が金を稼ぐために行動するとなると、ブレイン役をお前に頼みたい。その時、このナザリックをデミウルゴスとアルベド抜きで、僕たちは運営可能か?」

「不可能です。全体を一括管理するとなると、私かデミウルゴス様かアルベド様でないと……」

「では、アルベドとデミウルゴス。どちらの謹慎なら解いても大丈夫だ?」

「デミウルゴス様です。見たところアルベド様は、デミウルゴス様以上に外への敵意があるかと。今の不安定なアルベド様にナザリックの統制をお願いしたら、どうなるのか皆目見当がつきません」

「……デミウルゴスは私のためなら、何をしても良いといわんばかりの雰囲気だったぞ」

「しかしデミウルゴス様自身が仰られていたように、この世界の真の脅威度が測れないうちは動きません。慎重に動こうとはしています」

「そうか……どうして、だろうな?」

「なにがでしょうか?」

「デミウルゴスもアルベドも、なぜあそこまで頑ななのだ。私に忠義を誓いながらも、私が望まぬ行動を取ろうとする。深読みしようとしたり──」

 

 むぅ……と考えるモモンガを見て、たしかにとパンドラも思考する。ほぼ同等の思考能力を与えられた三賢だが、その出力方法には酷く差がある。カルマ値が極悪二人と、中立一人と言うのもあるだろうが──

 

「モモンガ様。これはちょっとした質問なのですが……モモンガ様が知るタブラ様とウルベルト様。御二方はどのような方々でしたか?」

「ん? どうした急に?」

「少し知りたい事が出来ましたゆえに」

「うーん、そうだな……」

 

 モモンガが知るウルベルトはエリート嫌いで上への反発心が強いが、友達想いで社会構造を恨んでいた。

 

 タブラは真面目で凝り性。ついでにギャップ萌え。

 

 かいつまんでいるが、こんな内容をモモンガは教えた。

 

「なるほど。それでは、もう一つ。モモンガ様は誰かに、頭脳面での優秀さを褒められたことはありますか?」

「なんだ、その質問は。私が馬鹿だと言いたいのか?」

「ち、違います違います! ただ、これも気になる事の一つなだけです!!」

「そうか? 私の頭……ねぇ……ああ、そうだ。昔、ぷにっと萌えさんから、私は状況対応能力がギルド内でも一番高く、プレイヤー全体を見ても上から数えた方が早いと褒めて貰えたことがあるな」

「なるほど。状況対応力が……」

 

 いくつかの情報を仕入れたパンドラは、脳内で点と点を結びつける。多数の情報が糸を結び──

 

「……モモンガ様。少しだけ、ちょっとした考察を聞いて頂けませんか?」

「考察? なんの?」

「今しがた、モモンガ様が疑問を呈されたデミウルゴス様と、アルベド様についてです」

「ん? 何か思いついたと言う事か?」

「その通りでございます」

「今後の方針を立てる上で参考になるかもしれんな。聞かせてくれるか?」

「勿論でございます!! ……私を含めて三人が、このナザリックでも頭脳面が優秀と御方達に役割を与えられている。それはモモンガ様も承知かと思います」

「ああ、頭がこれでもかと良いと設定されているな」

「では、頭の良さ。そもそもこれは何を指して頭が良いのでしょうか?」

 

 そう聞かれてモモンガは考える。頭が良い──そう聞かれるとなんとも答えにくいが、モモンガがパッと思いつくのは──

 

「記憶力が良いとか、計算能力が高いとか、発想力が凄いとか、そう言うのを全部ひっくるめて頭が良い……ではないだろうか」

「そうですね。それら全部持ち合わせて頭の良さとは決まるかもしれません。では、私を創られたモモンガ様や、デミウルゴス様を創られたウルベルト様。それにタブラ様ですね。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

「……え?」

 

 どのように……と言われても、細かく設定しているわけではない。モモンガであれば、漠然と軍事方面・内政方面・外交方面など全てを含む方向に極限の才能を持つデミウルゴスやアルベドに匹敵すると設定しただけだ。

 

「すまない。あまり、詳しくは練り込んではいないな。言い方は悪いが、かなり漠然とした頭脳設定だ」

「それはモモンガ様だけでなく、ウルベルト様とタブラ様もですか?」

「タブラさんは凝り性だったからどうか分からないが、ウルベルトさんは俺と大差ないな」

 

 果たしてこの質問が何に繋がるのかは分からないが、モモンガは正直に答えた。答えて──

 

「そうなると、私の頭脳力や御二方の頭脳力は、どこまで決められた通りなのでしょうか?」

「────」

 

 返ってきた言葉が予想外であり、モモンガは言葉を失った。

 

「思考能力。これは本当に千差万別、多岐に渡ります。個々人によって、頭が良いに対する印象は違う。それなのに詳しく決めずに頭の良さをお与えになってくださったなら、細かい部分は何で補填されたのか? ……恐らくですが、私であればモモンガ様の状況対応力や柔軟性かと。今日御二方と話して思いましたが、モモンガ様が三賢と呼ぶ中では、一番その方面に優れているのが私かと思われます」

「……なら……おい、まさか…………」

「タブラ様は凝り性なので、事細かに決められた。ではデミウルゴス様は? ……ウルベルト様はエリートなる神々が嫌いで、上への反発心が強く、友達想い……これは私の想像になりますが、ウルベルト様は悪魔らしく天に降臨して指図する神々に反発していた。上に立とうとする神の言葉を信じない……モモンガ様の話を聞く限りでは、そのような印象を持ちました」

「────」

「ではこの要素をデミウルゴス様の頭の良さと言う、曖昧さを埋める要素として使ったら……どのような人物像になるのでしょうか」

「ウルベルトさんは……いつも上司が嫌いだって」

「……上に立つ人物に忠誠心を持つが、反発心と言う要素により、そのまま言葉を受け取らず深読みし、自己解釈する。仮に受け取ったとしても、その言葉が受け入れ難いなら、例え敬愛する人物と反発したとしても、仲間想いな要素が顔を覗かせる……そんな人物像になるのではないでしょうか」




デミとアルベドとパンドラの頭の良さ。それは何を参照した姿なのか……
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