カルマ値の変化。これを知ったモモンガは、もう幾つか試したいことがあったが、流石に時間が無かったので再びエ・ランテルに戻って来た。
庁舎に向かえばちょうど約束の時間ぐらいに成りそうだったので、どこにもよらずに行政区へ。
どうにか庁舎に着いた一行は、待合室に案内して貰って30分ほど待った。
「モモンガ様。準備が出来ましたので、こちらへどうぞ。お連れ様はこちらでお待ちください」
「連れから、一人だけ同行しても良いだろうか? 私はどうにも口下手でな……そこにいる軍服を従者として連れて行きたいのだが」
「一人だけなら大丈夫ですよ」
「了解した。パンドラ、供をしろ」
「承知いたしました!」
立上り敬礼するパンドラに胡散臭そうな目を向けながらも、呼びに来てくれた案内人の誘導に従ってモモンガは通路を歩く。
「ジルクニフ様。お客様がお見えになりました」
「案内ご苦労。入ってくれ」
部屋の中からの返答に従って、モモンガとパンドラが入室。領主の姿を見て、モモンガは随分と若いと思った。
(20代前半に見えるな。 領主と言ったら普通もっと年を取ってるイメージだったんだが……
領主はまだ青年としか言えない外見をしており、同性のモモンガから見てもイケメンとはこう! と言わんばかりの甘いマスク。金髪と薄紫の切れ長の目がいやに似合っており、モモンガはこう言うのがリアルではモテまくってたなとちょっと羨ましかった。
「遥々遠いところから、よくやって来てくれたな新たな友よ。私はジルクニフ。ジルクニフ・ルーン・ファーロード・エル=ニクスだ」
「これは丁寧な挨拶をありがとうございます……私はモモンガと言います」
「モモンガ様の従者をしている、パンドラズ・アクターと申します」
「こちらこそ丁寧な挨拶に感謝する。さあ、座ってくれ」
ジルクニフに促されて、二人は応接用らしき椅子に座らせて貰う。座ったのを見計らったジルクニフは、手元にある資料を見て──
「つい先日、我が領土に転移してきたダンジョン──探索者ギルドの報告では、ナザリック地下大墳墓なる居住拠点らしいな。それの持ち主はモモンガ殿……でよろしいかな?」
「間違いありません」
「モモンガ殿曰く、転移事故で領に出現してしまった。これも間違いないか?」
「間違いありません」
「そして、ナザリックを動かす手段が現状皆無。これも相違はないか?」
「間違いありません」
「ふむ……」
ジルクニフはここまで聞くと、机に置かれている天秤を見た。天秤は……ちょっとだけ動いた。それを見てジルクニフは少し考えたが──
「了解した。モモンガ殿の発言には、嘘はないようだ」
その言葉にモモンガはホッとするが、パンドラは嘘がないと言う発言が嘘だと見抜いている。
──あの天秤を見た……嘘を見抜くマジックアイテムの可能性が高い。モモンガ様の発言にあった嘘は転移事故だ。実際にはどうして転移したのか不明。しかし事故と言えば事故なので、天秤は完全に傾かずに少しだけ動いた。そんなところでしょうね
モモンガの発言を訂正するかどうか少し考えたパンドラだが、ジルクニフが話を続けようとしているので遮るのは辞めておいた。
「通常であれば、大型施設や拠点などを、我が領に許可なく建設するのは違法。しかし望んで行ったわけではなく、またこうして許可を取りに来た以上、無下には致しません」
「なら──」
「エ・ランテルには、汝隣人と手を取れと言う格言もあります。モモンガ殿はこの街の成り立ちを御知りですか?」
「はい。漆黒の剣の方や、その他の方から始まりの街について聞き及んでいます」
「結構。ならばこれ以上言う事はない。モモンガ殿に一時居住権の発行許可を出しておきます。詳しい手続きなどは、窓口で行って頂くことになる。それでは、これで」
「ありがとうございます!」
モモンガは立上り、しっかりと腰を折って礼をする。パンドラも最敬礼をジルクニフに送った。
部屋を出た二人は待合室の四人を回収した後、窓口へと直行。
「こちらが居住権発行に伴う資料になります。納める税金や、法律なども詳しく記載されているので目を通してください。読み終えたらサインをお願いします」
「……パンドラ、頼めるか」
詳しいお金管理や、守るべき法などがこれでもかと記載された資料を見て、モモンガは眼鏡と共にパンドラに渡した。じっくり読むには長すぎたので、速読可能なパンドラに任せる方がマシだと言う判断。
パンドラはそれを数分で読み終えて──
「問題ありません。書類に不備も見当たりませんし、税率なども常識の範疇かと」
「なら名前を書いて提出するだけか……この名前は、私どもの文字でも大丈夫ですか?」
「今後提出して頂く事になる分に関しましては、こちらの文字でお願いすることになりますが、初回ですので大丈夫です」
それじゃと、モモンガは自分の名前を書いておく。これで一旦は手続きが完了となり、一週間以内にナザリックに住む住民、つまりNPC全員分の種族などを記載した名簿を提出すれば完全に終わりとの事。
庁舎を出たら、すぐに街の外まで出てナザリックに転移で帰還。NPCがプレイヤーのようにカルマ値が変動するのであれば、もしかしたら──そう思って、とある実験をモモンガは行いたかった。
モモンガは一般メイドを三人呼び、彼女らと共に第一階層に飛ぶ。
「フィース。アスキー。エトワル。準備は良いか?」
「も、問題ありません!! モモンガ様の御命令なら、必ずこなして見せます!!」
「おー!!!」
「元気一杯だな。では呼び寄せるか、ナザリック・オールド・ガーダー! こちらにこい!!!」
モモンガが大声を出すと、どこからともなくナザリックに無料で自動湧きするモンスター達が集まって来た。
「よくぞ集まった。オールド・ガーダー達よ、お互いに武器で傷をつけて、死亡判定寸前までHPを減らすのだ」
この命令を受けて、すぐにオールド・ガーダーは行動開始。自分達の魔法武器を使い、味方同士で傷つけあう。モモンガが<生命の精髄>で見てみると、あと一撃でも受けたら死亡すると言うラインで攻撃の手が止まった。
「三人とも私が与えた、<上位道具創造>で作成した武器でこいつらが死ぬまで攻撃するんだ。オールド・ガーダーは攻撃されても抵抗をするな。大人しく死ぬまで殴られるんだ」
「はい!!」
一般メイドは元気よく槌と剣と槍でオールド・ガーダーを攻撃。レベル1しかないメイドがどれだけ殴って刺して斬っても、18レベルのガーダーのHPは簡単に減らない。しかし貸し与えているのが、レベル100のモモンガ製魔法武器。死ぬ寸前まで削っていたのと併せて、徐々に0まで近づき──
「やりました!」
ガーダーは全員死亡。メイド三人はモモンガからの命を実行できたことを喜ぶように、武器を天に掲げて喜んでいる。
その様子を観察しながら、モモンガはパンドラに<伝言>で連絡を取る。
「どうだパンドラ。私の予想通りか?」
現在パンドラは玉座の間にいて、彼女ら三人のデータをリアルタイムで確認中である。そんな彼から返って来た言葉が──
「──予想通りです!! 一般メイドのお嬢様方のレベルですが……上がりました!!」
「ヨシ!」
……モモンガが確かめたかった事。それはプレイヤーのようにカルマ値が変動するなら、レベルも上がるのだろうか、だ。ユグドラシル時代のNPCレベルは、ギルド拠点の総合計レベルに左右される。それを超えて成長できるのかどうか。それを知りたかったのだ。
ギルド拠点にはいくつかのランクがあり、城以上のランク拠点になるとNPCの作成権利が手に入る。それぞれのギルドにはポイントが設定されていて、ナザリックであればボーナスポイント込みで2750。これにモモンガ達は課金ポイントも加える事で、ギルメン一人が100レベルNPCを最低一体は作れるよう4100以上まで伸ばしている。
このポイントを全部使い切るとNPCの作成は不可能になる。ナザリック地下大墳墓のポイントはユグドラシル時代に全て使い切っており、新たにNPCを作成したり既存NPCのレベルを増やす事は出来ない。それに転移して1個体として形を持ったNPCの設定を、マスターソースなどから変更することは無理だった。
けれど行動でカルマ値が変化したように、行動で経験値が追加されるのかどうか。もっと言えば経験値が存在するのかどうか。それを調べたのだ。
「ユグドラシルの時にはフレンドリー・ファイアは無かった。ナザリック内のモンスターは味方扱いとなり、私たちから攻撃しても有効打にはならない。だが、こちらに来て味方も攻撃できるようになったなら」
「僕が倒せば経験値を得られる。仮説ではなく、真実であった。これはかなり面白いことになりますよ!!」
パンドラの言葉にモモンガも頷く。不変だったNPCは不変ではなくなった。プレイヤーと同じように経験値を得てレベルアップする。良くも悪くも彼ら彼女らは個人になったのだ。
(ただそうなると、いつまで俺に忠誠心を捧げてくれるのかが不明なんだよな。この子達は、言ってしまえばギルメンの子供達だ。いつか反抗期とか来るんだろうか?)
気になる点はいくつかあるものの、そうなってしまった以上気にしても仕方がない。反抗の末に犯行に走るなら、ギルメンの親代わりとして止めるだけ。とにもかくにも、現状はNPCもレベルアップが可能になった。それが分かっただけでも儲け物だと、モモンガは納得する。
「私の実験に良く付き合ってくれた。三人は通常業務に戻り、精一杯仕事に励んでくれ」
「勿論でございます、モモンガ様! 我ら一同──」
うんたらかんたら。なにやら美麗字句呪文を呟く一般メイド達を第九階層に送り届けたら、モモンガはその足で玉座の間へと向かう。
「ようこそモモンガ様!!」
「敬礼はいらん敬礼は。マスターソースを私にも見せてくれ」
「こちらです。どうぞ!!!」
軍靴をカツッ!と鳴らし、恭しく玉座への着席を促すパンドラのポーズは無視して、モモンガはマスターソース画面を見てみる。無視された事にしょんぼりするパンドラがいたが、それも無視しておく。
「フィースのレベルが確かに上がっているな。アスキーとエトワルもだ」
データを見る限り、三人ともレベル1から3まで上昇している。ナザリック産オールド・ガーダーのレベルは18で、1レベルからすればかなり大量の経験点を保有する。モモンガが思い出す限り、今見ているように1から3まで上昇するには十分な量だ。ただちょっとだけユグドラシルと違う点もあり──
「自動で種族レベルが上がっているな。それに職業も勝手に取得しているし」
ユグドラシルだとレベルアップしても、1レベルに付き1ポイントが付与されるだけ。そのポイントを種族か職業のどちらかに振って、どんどんキャラクターを強くしていく。対してこの世界に来てレベルアップしたNPCは、自動でポイントが振り分けられていた。一般メイド達は全員
「フィースが
「これは……この世界だと任意でクラスレベルの獲得が不可能?」
「かもしれんな。ユグドラシルなら自分で選べるが、ここだと自動で取得している? レベルは上がるが、任意振り分けが出来ないとなるとかなりビルドの幅が狭まるぞ」
「自動取得として……全員戦士系列のクラス。お嬢様方には、それぞれ違う武器を持たせたのですよね?」
「そうだ。そうなると、使う武器によって自動で獲得するクラスも変わるのか? 魔法職や生産職を取りたい時は、それぞれのクラスが取るような行動によって変化する? ……少し調べたいな。ちょっと待っていてくれ」
モモンガは再び玉座の間を出て良き、30分ほどしてから戻って来た。
「新たなメイド二人に、それぞれ信仰系と魔力系の
モモンガがマスターソースを確認すると、そこには──
「
「そうなると、生産職などはどうやって取得可能なのでしょうか?」
「生産だから、やはり何かを作るとかか? スキルが無いと失敗するから、スキル不要な簡単な物とかで試させてみたいな」
ほぉ……と感心するモモンガの横で、パンドラは何か思いついたのか、そう言えばとモモンガに問いかける。
「一つ気になる事があるのですが、自動で取得するなら、上位クラスはどのような扱いになるのでしょうか? 仮に行動で取得クラスが変化するなら、下位と上位のクラスで行動そのものに大幅な違いは発生しませんし」
「そりゃ……下位クラスのレベルを一定以上まで上げたらじゃないのか? ユグドラシルではそうだったんだから」
ユグドラシルでは上位クラスの獲得には、基本下位クラスの取得が必須となる。例えばファイターの上位である
「どうした?」
「……モモンガ様。たしかエ・ランテルのカジット様は、人間種からアンデッドになり、最終的にオーバーロードになった。でしたよね?」
「そうだ。それがどうかしたのか?」
「カジット殿は転生の儀でエルダーリッチから種族レベルがスタートした。それはユグドラシルでは可能なのでしょうか?」
「それは無理だ。人間種からアンデッド種に変更するアイテムもあるが、その場合必ずスケルトン・メイジか……あ?」
おかしい。パンドラの質問に答えてみれば、モモンガがこれはおかしいと思った。カジットはスケルトン・メイジを通らずに、直接エルダーリッチに種族変更している。これはかなりおかしなことで──
「……え? うそ、マジで? ……あれ……まさか、この世界は……下位種族を介さずに、上位種族に成れるのか!!」
「そう考えるのが自然かもしれません。ある種族に成りたい時に、ステータス補正が低い下位種族を介さずとも、上位種族に成れる。それは自然取得する、クラスにも適用される可能性がある……私はそう考えたんです」
パンドラの説明を受けて、十二分にその可能性はあるとモモンガも思考する。そしてこの考えが合っているなら、キャラクタービルドの観点から非常に重要だ。なにせ取れるスキルも魔法もそれほどではない下位クラスや種族を無視して、上位の物が取れる。それがどれほど有利な要素か──
(ステータス補正だって馬鹿にならない。もしも上位種族や上位クラスだけでキャラクターが作成できるなら、ワールドチャンピオン級の物理攻撃力を持つ魔法戦士も可能だ……これって俺もそうなんだろうか? 可能ならスケルトン・メイジの15レベル分を、別のクラスレベルに置き換えてみたいぞ)
少し好奇心が湧いてくるモモンガだが、スケルトン・メイジの15レベルを消すには死亡&蘇生を繰り返して、レベル1までダウンさせなければいけない。蘇生魔法が自分にも機能するのかどうかを、モモンガは流石に興味だけで実行はしたくなかった。
「……これが事実だとするなら、この地の生物……私の友人達も、レベル以上にステータスなどが高い可能性があるな。あくまでも可能性でしかないが」
「あまり、安全面を重視し過ぎるデミウルゴス様やアルベド様には聞かせたくない話ですね」
「だな。ともかく、これで一般メイドと言った面々でも、強くなれることは判明した。30レベルまで上げれば、多少は外にも出しやすくなるか」
レベルアップによる強化。これはモモンガの思惑にも、ナザリックの防衛力強化にも繋がる。
モモンガはこの世界の未知を通して、NPC全員の意思統一化を図りたい。しかしレベル1のメイドをそのまま外に出すには、この世界のモンスターなどはかなり強い。せめて自衛力ぐらいは持たせたかった。だからこそ、レベルアップは福音なのだ。メイド達のレベルが上がるなら、防衛力強化にも繋がるので万々歳である。
「一般メイドも含めて、低レベルな僕はコキュートス指導の元、モンスターを狩らせてレベル上げをさせる。30ぐらいまでは、自動湧きの低レベルモンスターを狩っていれば上がるだろう」
「承知いたしました。このことはデミウルゴス様にもお伝えしておきます」
「ああ。それともう一つ、確かめておきたいことがあるな」
モモンガが頭に手をあてて、<伝言>でどこかと連絡を取る。すると数分経った頃に、13体のアンデッドが玉座の間に姿を見せた。その13体とは、オーバーロードが1体に、デス・ナイトが12体だ。それを見て、モモンガはぼそりとまだきえていないかと呟いた。
「お待たせしました、モモンガ様」
「うむ、ご苦労」
「モモンガ様、こちらのアンデッド様は誰でしょうか?」
「エ・ランテルへの道中で、私を襲って来たゴブリンの話をしただろ? そいつらの死体を使い、アンデッド創造したらな……なぜか消えないんだ」
アンデッド創造。それはモモンガが持つスキルであり、一日の上限数までアンデッドを産み出す力だ。通常このスキルでアンデッドを作っても一定時間過ぎたら消えるのだが、なぜか死体を介したら消えずに残り続けていた。一体だけを除いて……
「暗黒儀式習熟を使って、上位アンデッド創造を2回分消費すれば70レベルを超えるアンデッドが作成可能。それでもう一体、デス・ナイト系列の上位モンスターを作成したのだが、そいつだけは消えてしまった。お前はなぜだと思う?」
「……あのオーバーロードに使った死体は何ですか?」
「例の63レベルのトロールだ」
「それなら…………死体の質によって、産み出したアンデッドのレベルが決定する。弱い個体を使うと上位のアンデッドにしても消滅してしまいますが、強い個体を使えば消えずに残り続ける……そう考えるのが妥当かと思われます」
「やはりお前もそう思うか……消えずに残り続ける。これはナザリックの戦力を増やす上で、かなり有益な情報だな」
モモンガは指を鳴らしながら、少しワクワクしていた。ゲーム時代では絶対に不可能だった仕様が変更されて、多くの未知が存在する。それらを初見のプレイヤーとして、ある意味攻略できるのだ。
「ナザリック地下大墳墓の主人として、NPCに未知の体験をたくさんつませる。この世界で生きる者として、たくさんの友人や知人を作る。多少危ないかもしれないが、狩っても問題ないモンスターの死体を使って、アンデッド軍団を結成する。全く、やる事が多いと言うのは大変だな」
さぁてどこから手をつけようか。モモンガはまだ見ぬ未来図を頭に描きながら、高難易度に挑むゲーマーのように笑っていた。
ジルクニフ・ルーン・ファーロード・エル=ニクス:原作ではバハルス帝国皇帝。本作では連邦制なので皇帝職がそもそも存在しない。経済都市エ・ランテルと、エ・ランテル領を預かる領主。エ・ランテルは共通貨幣経済の根幹を成す街であり、性質上生半可な人物に任せられないので基本的に領主は有識者の推薦と過半数の議決で選ばれる。連邦の中で任せられる人物となると候補が少なく、ジルクニフの他にもう一人最大候補がいたのだがそちらが辞退したため彼が領主となった
上位アンデッド創造:原作では上位アンデッドに耐えうる死体が無かったが、本作では一杯あるので十全に機能する。暗黒儀式習熟により最大90レベル弱のアンデッドですら作成可能。モモンガのアンデッド強化スキルにより通常個体より5~8レベル分ステータスが高め