ツアレニーニャが名乗るのに合わせ、他の4人も名乗りを上げる。剣士がペテル・モークと言い、弓使いがレンジャーのルクルット・ボルブ。神官に見えた男性はドルイドのダイン・ウッドワンダーと名乗り、最後に5人の中で一番小さい少女がツアレニーニャの妹らしく、セリーシア・ベイロンと言うらしい。
「ツアレニーニャさんに、ペテルさん。ルクルットさんにダインさん。それとセリーシアさんですね」
「はい」
「ツアレニーニャさん達は、こんなところで何をしていたのですか?」
自己紹介もそこそこに、モモンガはこの5人がどうしてナザリックの地表部を調べていたのか聞き出す事にする。単刀直入な用件の聞き方は社会人としては失格だとモモンガは思うが、しかし初対面かつこんな平原のど真ん中で婉曲な言い回しをして、間違った捉え方をされても面倒だという想いからの直接的な物言いだ。
それを聞かれて、ツアレニーニャは特に疑問を抱きはしなかったのか、可愛らしい顔立ちに朗らかな笑顔を浮かべながら疑問に答えてくれた。
「私たちは、この近くにある都市エ・ランテルに住む探索者なんです」
「探索者? すまない、私はこの辺りに来たばかりでな。エ・ランテルや探索者と言われても、ピンとこないんだ」
馬鹿正直に話すつもりもないが、真実を隠すのもまずい。そんな想いから、この辺りの事情には疎いとモモンガは情報を明かす。これが胡散臭い相手ならもう少し隠したかもしれないが、ツアレニーニャの笑顔からは特にやましい気配が見当たらない。およそ詐欺を狙うような相手には見えないと言う、社会人経験からくる直感に従う事にした。
「あ、そうだったんですね。それなら……ええと……セリー。地図を出してくれる?」
「いいよ。はい、姉さん」
セリーと呼ばれた小さな少女は、腰にぶら下げた鞄から地図を取り出し、ツアレニーニャに手渡してくれる。
「地図は読めますか?」
「ある程度であれば」
ユグドラシル時代に地図の読み方を仲間であったギルドメンバーから習っていたおかげで、そこそこきちんとモモンガは地図を読める。
「それならよかったです。ええとですね、まずこの墳墓がこの辺り」
そう言って、大きな森の下にある平原の真ん中をツアレニーニャが指さす。そこから少し南西側に指を這わすと、街と思わしきシンボルが描かれている。モモンガが読んだところ、下の縮尺からしてナザリックから数十キロと言ったところだろうか。
「ここがエ・ランテルになります。私たちはここの探索ギルドに属していて、今回平原に謎の巨大な建築物……ここいらでは、こういった建築物はダンジョンと呼ぶのですが、見た事もないダンジョンがあるとのことで、不審なところがないのか調査に来たんです」
「不審……ですか」
「あ、すみません! モモンガさんの住居なのに、不審だなんて……」
「いえ。それは大丈夫です。都市の近くに、これだけ巨大な物が出現したんです。調査の一つや二つはしてもおかしくはない」
「そう言って頂けると幸いです」
深々とお辞儀をするツアレニーニャを見ながら、モモンガの頭の中で情報がグルグルと渦をまく。
(エ・ランテルに探索ギルド。ギルドというのは、ユグドラシルのギルドと同じなのだろうか? それとも、組合と言う意味でのギルドか? 何にしろ、ツアレニーニャさんたちはギルドの探索者……調査員のようなもので、転移してきたナザリックをダンジョン……これも俺が知るダンジョンと同じ意味か? の様子を探りにきた……か)
ツアレニーニャの言葉が嘘か真実かと聞かれれば、恐らく真実だろうとモモンガは考える。それよりも都市があるという事は、それなりの文明が築かれているという事。今のところツアレニーニャ達からは、モモンガを害そうという気配は少しもない。ならば、どのような文明が築かれているのか、友好的に見える彼女らから、少しでも情報をモモンガは手に入れたかった。
「調査となると、ツアレニーニャさん達は、この墳墓の中も見ていかれる予定ですか?」
あえて不安そうな声をモモンガは出す。その声色に気付いたのか、ツアレニーニャは慌てて否定する。
「そ、それはしません! ここがモモンガさんと……後ろのお爺さんの家なのであれば、無理に調査をするのは不法侵入になるので……」
「そうでしたか。それなら少し安心です……とは言え、調査に来たのであれば、あまり情報を持って帰れないとまずいのでは?」
「う! ……それを言われると少し困ります」
モモンガの指摘は図星だったのか、ツアレニーニャは少し困った顔をする。それを見て、これなら情報交換もしやすいかもしれないと、モモンガは一つ提案することにした。
「ふむ……ではツアレニーニャさん。一つ提案があるのですが、お互いに情報交換をしませんか?」
「交換……ですか。交換と言っても、私達に提供できる物なんて……」
「先ほど申し上げたように、私達はここに来たばかりです。地図もそうですが、エ・ランテルがどのような場所なのか。どういった文化があるのか。それを知りたいのです」
「文化?」
モモンガはエ・ランテルと聞いても、全くピンとこない。そんな地名はユグドラシルにはなかったからだ。あのゲームの地名であれば、モモンガは聞けばすぐに思い出せるのに、何一つ心当たりがない。つまり───
(その可能性は考慮していたが、ここはユグドラシルでも現実でもない。全く未知の世界。そう考えるのが自然だ)
遠い昔、ギルドメンバーのぺロロンチーノなる人物が、異世界転移のエロゲ―の話をしていたことがある。俄かには信じがたいが、自分はそんな摩訶不思議に巻き込まれたのだとモモンガは思考する。
(では、なぜツアレニーニャさん達は位階魔法が使えるのか。可能性としてはいくつもある。偶々似通っていただけ。映像から見る限り第七位階魔法だったが、実は全く違う魔法。それか……俺と同じようにユグドラシルからこちらにプレイヤーが来ていて、位階魔法を広めたか……)
これだけでなく、実は超能力者であの魔法はパイロキネシスかもしれない。そういった可能性がある以上、この世界の文化を知る事で答えが導けるかもしれない。そう考えてのモモンガの問いだ。
ツアレニーニャは一人で考えず、残りの4人も交えて何やら相談を始めた。そうこうする内に結論が出たのか、改めてモモンガに振り返り───
「分かりました!」
元気な声で了承してくれるのであった。
モモンガはナザリックの全情報を明かしはしなかったが、自分達が元はユグドラシルという土地で住んでいたことなどのいくつかの情報を渡し、代わりにエ・ランテルや周辺の国の事情や貨幣制度などの基礎部分を教えて貰っていた。流石に時間がないとのことで、概要の部分だけであったが。
伝えられた情報の数々。それらはセバスも聞いており、彼も口元の髭を弄りながら思案していた。
「バハスティーゼ連邦にスレイン法国。それとローブル聖王国にアルビオン竜王国。カルサナス合衆国とアーグランド評議国か」
バハスティーゼはエ・ランテルが在する巨大国家。スレイン法国はエ・ランテルから南下した一帯を治める宗教国。ローブル聖王国は、元はスレイン法国の一都市がバハスティーゼの文化を吸収し、独立して誕生した一大国家。アーグランド評議国は人間種と亜人種が暮らす国。カルサナス合衆国は連邦の東側にある、多数の亜人と異形が共存する大国家。アルビオン竜王国は、竜の血を継ぐ王が代々治める戦闘国家……らしい。らしいと言うのも、アルビオン竜王国は恐ろしく血生臭い蛮族らしく、他の国とそれほど交流がないので情報があまりないのだとか。
ともかく、それなりの情報をモモンガは手に入れた。そして、この情報を一人で抱え込むつもりもない。
「<
「モモンガ様! 御身の身に、危険はありませんか!!」
「っ……うっさ」
アルベドに遠距離会話用魔法<伝言>を繋げてみれば、開口一番に彼女の大声が響く。あまりの煩さに、思わずモモンガは素でこいつうっせえなと反応してしまった。
「あー……アルベドよ。私の身には、何の危難も訪れていない。だから、もう少し声を抑えろ」
「あ……も、申し訳ありませんモモンガ様! 御身の耳に、不要な負担を……」
「良い。私の身を案じての言葉なのだろう? それを必要以上に咎める気などない」
「……海より深き慈悲に、このアルベド。心から感謝いたします」
「良いと言っているであろう。それよりも、かの者らからそれなりに有用な情報が手に入った。それを階層守護者らと共有するので、すぐに玉座の間に集合するんだ。ただし、ヴィクティムは八階層から動かすつもりはないので、呼ぶ必要はない」
「畏まりました。すぐに全員で伺います」
そこで<伝言>は途切れる。
「では行くぞセバス。私は一応全部覚えているつもりだが、もしかすると聞き逃していた情報があるやもしれない。それに気づいたなら、すぐに私の言葉を訂正しろ。良いな?」
「モモンガ様に限って、聞き逃すなど……ですが、このセバス委細承知いたしました」
恭しく頭を下げるセバスを引き連れて、モモンガはギルドの指輪を使いナザリック第十階層『玉座の間』へと転移。そこは巨大な大広間だった。41の旗が壁に飾られ、最奥には荘厳な玉座が置かれている。その玉座へとモモンガは座り、すぐ傍にセバスが控える。
モモンガが座ってから三分ほどしただろうか。大広間の巨大な扉が開き、幾名かが姿を現す。真紅のドレスを着込んだ小柄な少女。女装をした少年。男装をした褐色の少女。全身にブルークリスタルの輝きを纏う四本腕の蟲王。巨大な尻尾と尖った耳を持つストライプスーツの男。そして、腰の辺りに二枚の黒い翼を持ち、頭から角が生えている以外は絶世の美女としか言えない守護者統括ことアルベド。
「シャルティア・ブラッドフォールン。御身の前に」
真紅の少女が膝をつき、臣下の礼を取る。続けて、透き通る水色の戦士が同じように膝をつく。
「コキュートス。御身ノ前二」
「アウラ・ベラ・フィオーラ。御身の前に」
「ま、マーレ・ベロ・フィオーレ!御身の前に!」
コキュ―トスと名乗った異形の次に、瓜二つの顔をした双子も恭しく臣下の礼を尽くす。
「デミウルゴス。御身の前に」
ストライプスーツの男は、今までの中で一番優雅な動作で礼をみせる。
「アルベド。御身の前に。ヴィクティムを除く我ら各階層守護者、御身の前に平伏し奉ります。いかなる御命令であれ、忠義を捧げ、必ずや身命賭して尽くします」
最後にアルベドが平伏し、モモンガに忠義の礼を尽くした。それを見て、内心モモンガは全身がちょっと痒くなったような気持ちになるが、これが彼らのルーティーンのような物なので、グッと堪えてみなかった事にした。
「全員、面を上げよ。我が言葉を聞く事を許す」
「守護者を代表し、御身の慈悲を受け賜わります。全員、面を上げなさい」
アルベドが最初に顔を上げ、彼女の言葉に従い他の面々も顔を上げる。それを見てから、モモンガは今回の議題を切り出す事にした。
「ここにいる全員は、第一階層に集まっていた者達。ならば、先ほどまでこのナザリックの地表部に、客人が来ていた事は知っているな?」
「客人……でありんしょうか? 私は、アルベドから下等生物が、愚かにもこのナザリックを踏み荒らそうとしていると聞いていたでありんすが……」
「アルベド? まさかとは思うが、君ほどの智者がモモンガ様の言葉を曲解し、私どもに伝えたなどと言わないね?」
「落ち着け、シャルティア、デミウルゴス。アルベドの言葉だが、間違いでもあり、正解でもある。彼らがもし私に牙を剝いていれば、盛大にお迎えするつもりであった。だが、彼女ら……『漆黒の剣』は、我が慈悲の言葉を受け入れ、この土地の情報を渡し去っていったとも」
「おお! そうでしたか! アルベドから下等生物と聞いていたので少し心が荒れていましたが、偉大なる御方の至言を聞き入れる度量ぐらいはありましたか!」
デミウルゴスが破顔しながら、モモンガにウキウキとした笑顔を向けてくる。その反応に、内心下等生物ってなんだよと思いながらも、モモンガは表には出さない。
「まぁ、今は下等生物云々は置いておく。それよりも、漆黒の剣により、この土地の情勢は少しは掴めた。今後のためにも、お前達に伝えておこうと思ってな」
「勿体なきお言葉を。我ら一同、御身の金言を拝聴させて頂きます」
「うむ……まずは我らが転移した土地だが、ここはユグドラシルではない。これは以前からも想定の一つではあったが、今回で確信に至った」
「ユグドラシルではないとなると、モモンガ様が仰られたように異世界……なんでしょうか?」
「そこまでは分からん。あくまでも漆黒の剣の情報から、そう判断しただけだからな。そしてナザリックが転移した場所は、人間種が多く暮らす国………バハスティーゼ連邦の、ちょうど真ん中にあたる位置だ」
「人間……」
それを聞いた守護者達は、一同何やら難しい顔をする。コキュ―トスはあまり表情が変わらないので、難しい顔をしているのかは分からないが。
ともかく、人間と聞いてむぅ……と唸る守護者達に、モモンガは問いかけた。
「どうした? 人間が何か問題なのか?」
「問題……と言うよりも、あの愚かな生物が多くいるのですかと落胆した……が気持ちとしては近いかもしれません」
ナザリックのNPC。彼ら彼女らの大半は、カルマ値と呼ばれる善悪の基準となる数値が低く設定されている。セバスなどは逆に+側の善として産み出されているが、ここにいるシャルティアやデミウルゴスやアルベドのように、-側の悪役の方がナザリックには非常に多い。同時に、人間の悲鳴を聞くのが好きだの、ナザリックに属さない存在を虫けらのように思っているだのも。
それらを思い出しながら、モモンガはとりあえず荒れる気持ちとやらをなだめる為に言葉をかけた。
「そうか。お前達は、ギルメンの皆から、人間に対して良い感情を持たないと設定されている者が多かったな。しかし、バハスティーゼ連邦には人間種以外も住んでいるそうだから、そこまで悪感情を持つ必要はない。そうであったな、セバス」
「はい。事実、ここから一番近い都市であるエ・ランテルには、スケルトン・メイジや
漆黒の剣曰く。エ・ランテルは連邦の中でも経済都市としての側面が強く、かなり多種多様な人種がごった返す混沌とした街らしい。一番多いのは人間だが、次に多いのは連邦の東側にあるカルサナス合衆国と北西にあるアーグランド評議国から流れてくる亜人の商団なのだとか。
「エ・ランテルから南下すれば、六大神なる神々を信仰する宗教国家のスレイン法国。ここは連邦が亜人や異形と共存しているのを、あまり好ましいとは思っていないが、現状内乱などにもなっていないので表立った干渉はしていないそうだ」
「共存を好ましくない……つまり、連邦よりも人間種が中心となっている国という事ですか」
「その通りだデミウルゴス。この国とは、我らはあまり相性が良くないかもな」
この相性が良くないというのは、漆黒の剣に所属するダインからの言葉だ。彼は半年ほどあの国にいたらしいが、表立った排斥運動まではしていないが、薄っすらとした人間種以外への差別意識があると教えてくれた。ふとした拍子に、アンデッドに対して味も分からない癖にと皮肉を言ってしまうような。
「次がカルサナス合衆国とアーグランド評議国だな。こちらは連邦や法国が人間種主体の国なら、亜人と異形が主体の国となる。特にアーグランド評議国は、かなり強大なドラゴンが評議員として在籍しているそうだ」
推定レベル60から70の漆黒の剣が強大とまで呼ぶドラゴン。ひょっとすると、そいつはユグドラシルで言う90レベル以上のレイドボスに匹敵するかもしれないとモモンガは考えている。それこそ階層守護者全員がいるような強敵かもと。
「その他には、ローブル聖王国だな。ここは法国と連邦が混じったような国らしいが、現王である聖王女が意識改革運動を行っていて、かなり人間種以外にも寛容らしいぞ。すぐ傍にあるアベリオン丘陵の亜人種とも少しずつ同盟を結んでいるのだとか。そして最後が……あまり分からないが、蛮族国家のアルビオン竜王国」
「ば、蛮族……国家?……」
「漆黒の剣曰く、かなり鎖国的な国家で、情報が連邦にまで出回らないらしい。唯一残っているのが、真偽も不明な話だが、竜王国側から逃げてきたビーストマンなる亜人の証言だけだ。そいつによれば、チェスト……らしいぞ」
「ちぇすと? よく分からない言葉でありんすねえ」
「確かに、何のことかはまだ不明だな。しかし、調査を続けていけば分かるやもしれん」
このほかにも、聖王国、連邦、評議国、法国、合衆国で使える共通硬貨の話や、法国が掲げる宗教の話。各都市にあるギルドの話など、本当に表面的な触りだけだが、守護者達に伝えられていく。
「これが今のところ判明している、我らが転移した土地の周辺情報だ」
「……有益な情報もありますが、まだまだ知らねばならぬことも多くありますね」
「デミウルゴス! モモンガ様が自ら収集された情報に対し、泥を塗りつける気!」
「よせ、アルベド。デミウルゴスの言葉に、私も同意しかない。漆黒の剣のおかげで、かなりの事実が判明したが、それでも知りたい事は多くある。なぜ、位階魔法がこの推定異世界でも広がっているかなどの情報が、な」
「モモンガ様! それでしたら、この連邦には多くの人間がいるんでありんすよね? そいつらを捕まえて、<
シャルティアの言葉に、マーレやコキュートスは確かにと納得したような表情をする。アウラは短絡的過ぎない?と思いながらも、まぁ手っ取り早いよねと思っているのか賛同するようなポーズを取る。セバスは魔法を用いた、ある意味暴力的な手段に反対なのか渋面をしているが、もしモモンガが賛意を示すならば黙っているつもりであった。
しかし、アルベドやデミウルゴスは違う。シャルティアの言葉にアルベドがはぁ……と溜息を付く。
「な、なんでありんすかその反応は!」
「あのね、シャルティア。どうして、モモンガ様がわざわざ、下劣で下等な生物である人間を、客人扱いしたと思っているの?」
「そ、それは……なんででありんすか? 至高の御方にとって、外の人間なんて取るに足らない存在でありんすし……」
「……いいかい。アルベドとセバスが確認したところ、その人間どもは少なくとも65レベルに足る。そう判断するに相応しい実力があったのだよ。モモンガ様も、60はあると確認している」
「そ、そうではありんすが、しょせん65でありんしょう! 私であれば、相手にもならないような雑魚でありんしょうや!!」
「そうだね。守護者最強である君なら、無傷で訳もなく蹴散らしてしまうだろう。しかし……そのエ・ランテルとやらには、どんな人間がいるんだろうね?」
「……あ?」
「君とて、かつてこの栄えあるナザリックに、愚かにも多くの人間が攻め込んできたのを覚えているだろ。第一、第二、第三階層守護者である君は、 第七階層守護者である私よりも先に、あの鬱陶しい連中と戦い、そして敗北したのだから」
それはユグドラシル時代の話。かつてモモンガがギルド長をしていたアインズ・ウール・ゴウンのギルド拠点であるナザリックに、1500人もの大規模な討伐隊が押し寄せた時の話。
第一階層から第七階層まで無惨に突破され、第八階層でようやく撃退しきった伝説の話。
しかし伝説ではあるが、ここにいる守護者にとっては苦い思い出。なにせ第七まで突破されたという事は、アルベドを除く守護者は全員敗北しているのだから。
デミウルゴスの発言に、シャルティアは罰が悪そうに顔を逸らしてしまう。シャルティアだけではない。マーレも、アウラも、コキュートスも、デミウルゴスの視線から顔を背けてしまった。唯一反応が無いのは、この世界に来るまでは玉座の横で待機していたので、伝聞では知っていても実感のないアルベドだけだ。ついでにモモンガは、こいつらあの時の大防衛戦のことを知ってるし覚えてんの! とちょっと胡乱気な視線をデミウルゴスに向けていた。
「人間は愚物だよ。しかし、どんな愚物でもそれなりの力を持ち、数が揃えば脅威となる。モモンガ様が、漆黒の剣は探索者と言っただろう。探索、つまり戦闘ではない」
「あ……」
「探索とはつまるところ調査員だ。あくまでも斥候でしかない。では、エ・ランテルに住む戦闘員とは、どのレベルなのだろうね。70かい? 80かい? ひょっとしたら90かな? そいつらが相手でも、守護者最強の名を持つ君であれば一対一であれば余裕で勝つさ。スポイトランスという、継戦能力の高い神器も持っているのだから。けれど、あの時のように力を持つ愚物が10なら。100なら……シャルティア。君は勝てるかい?」
「それは……勝てるでありん……ありんす……あり……」
勝てるとシャルティアは断言できない。なにせ、一度とは言え、圧倒的数の暴力で叩き潰されているのだから。
「それが、モモンガ様が客人としたわけだ。この場に来た斥候は、我らからすれば簡単に叩き潰せる愚物。しかし、その背後には多くの愚物が控えている。それら全てを相手にしても、かつてのように返り討ちには出来るだろうが、その代わりに───」
「ナザリックの資金は底をつくわ。私は、直接攻め入ってきた愚物どもを見てはいないけれども、仮に80レベルの戦士職が10万人。10万人ナザリックに今攻め込んできたら、一気に金貨消費が進んでしまうわ。戦術的には勝利しても、戦略的には負けも同然ね」
それはギルド拠点が持つ唯一の欠点。拠点維持のために、必ず毎日一定のユグドラシル金貨を消費しなければならない。もしも防衛システムをフル活用すれば、それだけで金貨消費は一気に加速する。かつてのように、100レベルの階層守護者が数の暴力で死亡でもすれば、復活のために5億枚もの金貨が必要になる。ゆえに───
「デミウルゴスやアルベドの言うとおりだ。我らは強い。だが、その強さは有限の強さだ。無限ではない。瞬間瞬間では上回っても、長期的な観点で見た時、底が見える。我がアインズ・ウール・ゴウンとその配下であるお前達は最強だ。しかし無敵ではない。圧倒的な個も、絶対的な数を揃えられたら無意味になる」
モモンガの言葉に、守護者達は震える。最強だと呼んでくれた喜びと、無敵ではないという哀しみに。
「シャルティアに皆よ。先ほどの<
「畏まりました。すぐに全僕を招集し、モモンガ様の玉言を伝えさせて頂きます」
アルベドがモモンガの言葉を受け取り、すぐに全員招集するために大広間の外へと出ていく。それを見送った後、デミウルゴスにも指示を出す。
「デミウルゴス。お前には以前伝えていたが、
「ありがたきお言葉を頂戴いたします。必ずや、安全を確保した上で、御身に献上するに相応しき素材を厳選し、資金獲得を成し遂げてみせます」
「良し。コキュートスはモンスターを厳選し、ナザリックの防衛ラインを一から見直すんだ。今回調査に来た漆黒の剣の方々は温和だったが、次に来る存在が客人なのか無礼者なのかは見通しがきかん。最悪、デミウルゴスが言うように90レベルの集団が押し寄せるかもしれん。その時、金貨消費がどれだけ抑えられるかも検討しろ。一人で難しいのであれば、アルベドにも知恵を借りるんだ」
「承知仕リマシタ。必ズヤ、モモンガ様ノ命ヲ実行シテミセマス」
デミウルゴスとコキュートスも、モモンガの命を受け颯爽と大広間から姿を消していく。
「あ、あの、モモンガ様! 僕やお姉ちゃんは、どうすれば良いですか?」
「わ、私も! 私も、モモンガ様のために役立ちたいでありんすよ!!」
他の階層守護者は命を貰ったので、自分達も何かしたいとシャルティアとマーレは自己主張する。よく見たら、アウラも主張していた。
「三人ともそうだな……」
モモンガはセバスにも目を向ける。ここにいるメンバーであれば、この後自分の行動に連れて行っても問題ないだろうと。
「では、シャルティア、マーレ、アウラ、セバス。4人は外行きの服に着替えて、身支度を済ませるんだ」
「身支度ですか。モモンガ様は、どこかに向かわれるのですか?」
「ああ、その通りだセバス。虎穴に入らずんば虎子を得ず……だったかな。私達は多くの情報が欲しいが、それを手に入れるにはある程度のリスクが必要だ」
だから行くんだよ、ここから近い経済都市で、多くの情報が集まるかもしれないエ・ランテルに。
バハスティーゼ連邦:原作ではナザリック転移200年前の魔神戦争により分断され、リ・エスティーゼ王国とバハルス帝国に別れた巨大国家。この世界線でも200年前に魔神が暴れたが、法国と連邦に住む英雄級の猛者たちによって速やかに狩られ、国が分裂するほどの騒ぎにはならなかった