「今の私には、世界を守るだけの力はない」
ツアーの声には悔しさが滲んでいる。かつては本拠地であった東方の国。そこには腹心の竜王や信頼できる部下たちがいたが、腹心だった竜王共々追放されたせいで、手持ちの戦力は大幅に減少。個人が持ち得る戦力としては、全盛期の数十分の一にまで落ち込んでいるからだ。
「プレイヤーのことを五国外に伝えようにも、私が他国に出向いたら混乱が生じる。下手をすれば、その場で袋叩きにされてもおかしくはない」
「竜王絡みはな……
「竜王殺しの言葉は染み入るね……まったく」
キーノの言葉にツアーは頷く。やらかした真なる竜王を、もっとも数多く抹殺したのがキーノだ。諸事情から竜王のしくじり案件に対する憎悪が強い彼女は、修練により培った腕と、己の
そのために各国を飛び回っており、世界各地の竜王に対するスタンスに一番詳しいのは間違いなくキーノだ。彼女が現状難しいと断言するなら、そうなのだろうとツアーは頷くしかない。
「それでプレイヤーとやらの話でしたね。五国外のことにヴァイシオン様が干渉出来ないのであれば、五国内にプレイヤーとやらの兆候があったのですか?」
「そうだ。これは私宛に来た物で、小僧にも渡すように頼まれている。まずこれを見て欲しい」
ツアーの代わりに、キーノが自分のストレージから一枚の絵を取り出す。そこに描かれていたのは──
「これは……墳墓の絵ですかな?」
「ああ。少し前になるが風花聖典がエ・ランテル近郊に、突如として出現した謎の墳墓を発見したそうだ」
「スレイン法国の六色聖典、それも諜報活動に適した風花聖典ですか?」
「その風花聖典だ。百年周期の件と照らし合わせて、この墳墓がユグドラシルのプレイヤーではないかと辺りを付けた風花隊員は、情報魔法対策を警戒して紙にスケッチしたようだ」
「そのスケッチはすぐに法国本国に持ち帰られ、何枚ものコピーが刷られた。これはその内の一枚だよ」
「法国はすぐに情報を共有すべく、墳墓が出現したエ・ランテル領の領主であるジルクニフに、プレイヤーが出現したかもしれないと伝えたらしい」
以前から領主になる者には伝えられていた、ユグドラシルプレイヤー関係の情報。それが我が領に来たかもしれない。そうなるとジルクニフとしては対処する必要があり、すぐに探索ギルドに調査依頼が投げられた。
「この墳墓の調査に赴いたのは、エ・ランテルの探索者だけで?」
「いいや。五国の理念は、お互いに手を取り合い、文明と文化を発展させ、相互理解と最大利益を追求し、より良い社会を創り上げる。法国もエ・ランテルだけに責を押し付ける気はなかったようで、ジルクニフと協議し、探索者達の身に危険が迫った時の対策として、すぐ傍に
……墳墓の調査。エ・ランテルから調査に来たのは漆黒の剣だったが、そもそもエ・ランテルの領主であるジルクニフが墳墓の存在をどうやって知ったのか。その答えがこれだ。
その墳墓は最初からユグドラシル関係者ではないかと疑われていて、法国はかつての八欲王の教訓から、邪神の可能性も考慮して特殊部隊を控えさせていた。もしも人類に仇なす──五国に害を成す存在ならば、悪しき敵として迎え撃つ。そのために陽光聖典
陽光聖典は漆黒ほどではないが、それでもエリート部隊の集まりだ。今回派遣された陽光には聖典隊長であるニグン・グリッド・ルーインも同行しており、彼は漆黒入りすら検討されたほどの
「それだけの部隊が動いているのに、良く探索ギルドは引き受けてくださいましたね。普通であれば、法国に任せるとなって断りそうなものですが」
「法国の部隊が後詰なのは、漆黒の剣には伏せられていた」
「なぜですかな?」
「……これは……あ―……小僧。お前の娘であるラナーの助言だ」
「ラナーの? まさか……まさかあの子も、今回のプレイヤーとやらの件に絡んでいるのですか!?」
「噛んでいる。どこで知ったのかは分からんが、ジルクニフに法国からの情報が届いたのと同じタイミングで、ラナーのやつが訪ねて来たそうだ」
「あの子は……頭が良過ぎる……」
「お前も大変だな、小僧……とにかくラナーはジルクニフのところに行って、伏せるように助言したそうだ」
……ラナー。彼女は最初から全て把握していた。ジルクニフであれば同じ結論に到達するだろうと分かっていたが、違う結論に到達されても面倒だったので直接会いにいった。そこで助言したのは伏せる事と、これこれこのタイミングで、この探索ギルドにこの時間に依頼しなさいという物。
ジルクニフも諸々の理由から伏せて探索ギルドに依頼を投げるつもりではあったが、なぜ時間や依頼先まで指定したのかは不明だったが……一応この女にもそれなりの目論見があるのだろうと従ってみた。
その時間に手が空いていたのは、漆黒の剣だけだった。探索ギルドの中でも、
……ラナーは法国の懸念も把握している。もしも邪神であれば、滅ぼさなければならぬと言う使命感に燃えているのも。しかし法国の特殊部隊で本当に滅ぼせるのか? 新たな戦争の引き金になるだけではないのか? かつて人間を救ったと言う、六大神のような性質であれば話し合いも可能ではないのか?
争わなくて済むなら、争わない方が良いに決まっている。ラナーは賢いがゆえに、争いとなれば均衡が保たれている五国のバランスが崩れてしまうのを恐れていた。彼女は今の生活が気に入っているのだ。多くの理解しようとしてくれる人達と共に、明日を創る生活を壊したくないのだ。
だから必要なのは人選。相手が理知的な人物の可能性があるならば、その人物と穏やかに話せる手合いでなければいけない。法国の特殊部隊は駄目だ。もしも異形種や亜人種がプレイヤーであれば、それだけで揉め事になる可能性がある。その候補として選出されたのが……善人の集まりな漆黒の剣である。エ・ランテル住民全員の名前と顔と性格を覚えているラナーならば、最適な人物を選ぶことが可能。神童ならではの荒業だった。
その上で自分が直接指名したと分からぬように、時間とギルドの指定をした。新たなダンジョン調査にどうして自分達が選ばれたのかを、漆黒の剣に疑問を抱かせたくなかった。あくまでも偶然自分達が選ばれただけ。そう言う体にしたのだ。
「ダンジョン調査として墳墓の調査に行った漆黒の剣は、墳墓の主と接触。探索ギルドからの報告書によれば墳墓の主は理性的な相手らしく、終始冷静で落ち着いた対応をした。また彼の故郷はユグドラシルなる土地との証言も取れている。墳墓の入口には文字なども書いていて、その写しがこれだ」
漆黒の剣は紙を手に調査していた。当然墳墓の文字なども読めないながらに書き取っており、その写しはジルクニフを通して法国などにも渡っている。その文字はこの世界の言語ではなく、日本語である。読めはしなくとも、法国上層部はこの文字が六大神の遺した文字であると察せられる。それとユグドラシルの証言。この時点で墳墓の主はユグドラシル関係者と仮定された。
「法国は墳墓の主──本当に主かは不明なものの、個体名
ラナーが選出した漆黒の剣との会話。その会話内容も一言一句、探索者としてきっちりジルクニフに報告されていて、それらを読む限りでは危険性は非常に低い。ラナーもこれには目を通していて、これなら
「ただしギルド拠点付きの推定プレイヤーだ。邪神でなくとも、何がきっかけで争いになるかは分からない。これは風花聖典が調査した戦力報告書だ。モモンガと従属神は漆黒の剣との会話からエ・ランテルに行きを決めて、あの都市に向かった。道中でゴブリン達との戦闘が発生している」
新たな紙束をランポッサが受け取って目を通す。風花聖典には戦力などを読み取れるスキルの持ち主が多数おり、彼ら彼女らはしっかりとモモンガの戦力と、付き従う従属神4名の能力を調べていた。
「従属神4名、及びモモンガの推定戦力は難度290から300。これは英雄級相当で、五国でもかなり上位の実力者になる。墳墓にどれだけの残兵力があるのかは不明だが、純粋な戦力としては油断はならない」
報告書にはもしも墳墓が五国に仇なす邪悪であれば、陽光聖典の全兵力5万の投入に加えて、対カウンターテロ・ゲリラ戦に特化した火滅聖典5千の投入と、対英雄部隊である漆黒聖典の投入も検討すべきと記されている。
「これはエ・ランテル入りした後の、モモンガなる人物の動向調査書だ」
モモンガがどこに行ったのか、何をしたのか。エ・ランテル内では魔法が使えないが、追跡調査するのは隠密や情報収集に特化した風花聖典。
「……これを報告書に書くのは、モモンガなるプレイヤーにとって酷ではないですか?」
「それを私に言われても知らん。風花聖典隊員に言え、風花聖典に」
ばっちりモモンガがどんな心情を吐露したのか記載されていた。本人が知ったらあまりの恥ずかしさに、ショック死しかねない赤裸々トークの内容がきっちりと。
これを読んだジルクニフと法国上層部は、モモンガへの警戒度をかなり下げている。あくまでも邪悪であれば戦力投入も辞さないが、そうでなく友としてこの地に根付くのであれば受け入れる。陽光聖典は既に本国に帰還しており、動向調査の風花数名のみが墳墓の警戒にあたっているとの事だ。
「その後ジルクニフ殿が直接面会した上で、マジックアイテムを用いて意思を確認済み。現時点では墳墓の危険度を低とし、要警戒対象ではあるが急を要する物ではないとする……ですか。最初ヴァイシオン様が深刻そうに八欲王の名を出すものですから、すぐさま討伐が必要な事態になるかと思っていましたが、そう言う訳ではなさそうですね」
「そうだな。ジルクニフだけでなく、ラナーも直接モモンガなる人物に接触したようだが、あいつ曰く報告書の内容と照らし合わせたら、モモンガは寂しがり屋な面のある普通の骨……と言うのが総評だそうだ」
「……こんな世界に生まれていたら、最初から寂しい思いをしなかったんだろうか……嬉しい事を言ってくれる。私たちが築き上げようとしている
ランポッサは顎髭を撫でながら、モモンガの言葉に顔を綻ばせる。領主としてランポッサが一番嬉しいのは、民が幸福を享受して安全かつ平和に暮らせる事だ。報告書を読む限りでは、モモンガの証言では望んでユグドラシルから来たわけではない。八欲王のような侵略者ではなく、文章だけの印象になってしまうがモモンガは迷い子だ。そのモモンガが今はエ・ランテル領の住民として、普通の生活を送っている。
ならば敵ではなく、それは同じ国で暮らす仲間であり、ランポッサが守るべき民だ。これがツアーが言う八欲王のように侵略して周囲に害を成すなら、鍛え上げた剣の錆にしてくれるが……今のところそんな兆候もなく、推定従属神と共に普通に労働に従事しているなら何の問題もない。
しかし──
「……だが、彼は推定だがプレイヤーだ。虐殺の時代を招いた八欲王や、混沌を招いた誰かと変わらない。そのモモンガの気が変わる可能性も十分高く、他に仲間のプレイヤーがいないとも限らない。モモンガは害を成さないとしても、ギルド拠点にいる従属神がどのような行動に出るかも不明だ。今の油断しきっている内に、せめて拠点だけでも破壊する方が得策だと私は思う」
「ツアー……」
ツアーの意見は違う。この世界が辿って来た歴史を知る生き字引としては、とてもではないがプレイヤーの存在を看過できない。何か起こる前に息の根を止めるべき。それがツアーの考えだが──
「……それをしたら、お前は重罪人……重罪竜だぞ? モモンガは正式な手順に則って、墳墓を住居登録している。エ・ランテル領主であるジルクニフが許可を出している以上、そこに攻撃を仕掛けたらお前は住居破壊と殺害未遂、殺害容疑で裁判だ。評議国で身を尽くして来たからこそ、お前は評議員になれた。だが裁判となれば、その座も奪われる。例えプレイヤーに対する脅威を訴えたとしても、真なる竜王のお前がそんな真似をすれば、また一人やらかした竜王が増えた。そう思われてしまう」
「分かっている。それでも、今までの歴史が証明している。プレイヤーは危険だ。もしも危険な
「……ヴァイシオン様。あなた様がここに来られたのは、なぜですか? 今の話をしたとしても、私やキーノ様が首を縦に振るとは思っていない筈。なのに、なぜここに?」
「……………………もしも。私がエ・ランテル領で攻撃を開始した。それを知れば、君たちは止めに来るだろう?」
「──それが私のところに来て、小僧と共に話をしたいと言った理由か。ギルド拠点に攻撃するが、お目こぼしをしてくれ。そう説得したくて……」
「なるほど。ヴァイシオン様を止めるとなると、私やキーノ様か、フールーダ様にまず救援要請が来ますね」
「あとは漆黒のやつらだな」
ツアーは300年前の改変以降最強の座から降りた。だが、それでも単体の戦闘力としては最上位の一角。位階魔法以前の魔法であるワイルド・マジックを行使して、竜特有の高い身体能力を持つツアーを安全かつ確実に止められる人員となると限られる。
「墳墓とやらがどれほどの硬さを持つのかは分からんが、あの天空城と同等ぐらいだとするなら……ツアーが破壊し尽くすまでに、私たちが止めに入れるな」
「……申し訳ありませんが、民草として平穏に暮らそうとする者を斬る趣味はありませぬ。むろん彼らに対する暴力を見逃す気も。過去にヴァイシオン様とプレイヤーの間で色々とあったのかもしれませぬが、それは過去のプレイヤーの話であり、今この瞬間に、我らが創り上げようとする平和の理念に感銘して、共に手を取り合おうとするモモンガ殿ではない筈です」
「私も小僧に同意だな。モモンガとやらが現時点で、何かしらの悪逆に加担しているなら竜王と同じように葬る、が。そうでなく、普通に職業斡旋所でエ・ランテル領民として生きているだけならば、現時点で滅ぼしにかかる理由はない」
「……将来的に、脅威になるかもしれなくともかい?」
「ない。過去に同一世界から来たプレイヤーが脅威だったから、滅ぼせと言うなら……私は、ツアー。まずは故郷を滅ぼした竜王の同族として、お前から滅さねばならん」
「…………それは勘弁して欲しいね」
何かをする前にプレイヤーを殺せ。そんな理念を掲げるなら、まずは同じく同種が色々と悪行を重ねているツアーをキーノは抹殺せねばならない。その言葉に、ツアーは少し鼻白む。
ツアーとて分かってはいる。危険かもしれないから殺せと言うなら、そもそも300年前の改変以降全種族が危険になっているのだ。それは同種が馬鹿をやらかしたせいで追放されたツアーもそうだし、目の前にいるランポッサやキーノもそうだ。
改変以前の世界であれば、きっとこの二人はツアーの足元にも及ばない脅威度しか持たなかった筈。なのに改変後は全く違う。ツアーすら圧倒的に上回る強者を、こんな風に説得しに来る必要もなかった。
……ツアーは二人の脅威性を正しく理解している。この改変後の世界の仕様とでも呼ぶべき物を正しく把握し、ツアーからすれば頭がおかしいとしか言えない修練を積んだ怪物達。
法国が持っていた六大神由来で残っていた
この世界の存在には、位階魔法とは違う蘇生魔法が組み込まれている。プレイヤーが持つ自動蘇生の機能が。これがあることは誰もが知っているが、これを使って蘇ろうとする者は少ない。なにせこれで蘇ると生命力を著しく損失し、弱くなると知られているからだ。しかしキーノは法国式のクラス概念と、この生命力が連動していると知った。死んだらクラスが消滅するのだと。
当時竜王への復讐を願っていたキーノは、確実に竜王を殺せる力を欲していた。そのためには、自分のクラスとやらも全て最上位で揃えた上で、牙を研ぎ澄ませるべき。だから……何度も何度も
それを限界まで繰り返せば……いずれは最上位クラスのみで強さを構成できる。そうして
それだけでなく二人とも独自の強みを揃えて、更に上位の強さに至っている。ランポッサは独自の武技である<脳力全開放>による強化を。キーノは世界でも十指に入るタレントを活かして、
ツアーはこの二人がプレイヤーに改変されたこの世界における、最大値に近いと確信している。と言うかこの二人以上が出て来てたまるかと。
「そもそも世界法則をもう一回書き換えようとした
「お、おい。どうしたんだツアー? 急に小さな声でぶつぶつと言い出して」
「……なんでもない。少し嫌なことを思い出しただけだ……君たちは、現状ではプレイヤーの排除には懐疑的でいいのかな」
「そうだ。何もしていない者を滅するのは理に反する」
「そうか……すまなかった。君たちがこんな願いを呑むわけないと知りながら、不躾な言葉を投げてしまった」
「構いませんよ。ヴァイシオン様も、長い間この世界を見守って来た。意見は多くあるでしょう」
「すまないね、ランポッサ。その言葉だけでも、少しは身が軽くなるよ」
──モモンガが知らないところで、自分達がどんな状況におかれていたのかが話し合われる。もしも選択を間違っていたらどうなっていたのか……しかし彼がそれを知る事はないだろう。共に歩もうとしてくれる友に対して、彼らは大戦の経験から寛容なのだから……
ジルクニフになんであっさり会えたんだろうに対する回答回
自殺リセマラ:この世界での最強ビルドに必須作業。自動取得するクラスが下位なのか上位なのか最上位なのか不明なので下位を引いたと思ったら自死してリセット。最上位が引けるまで自分の命をBET。ステータスウィンドウがないので何のクラスを取得したのかは不明。感覚で最上位クラスを引いたと思えるまで頑張ろう。なおこの方法でも完璧に狙った最上位クラスが取れるかは運次第
ラナー:モモンガさんが話せる人物なら融和できるように動いていた天才。今の生活が壊れないようかなり積極的に色んなところに干渉している
太陽王:現地勢レベル100の一人。凶悪武技<脳力全開放>を使う。無しでも異常な強さだが、これを使ってる時は次元が違うとはツアー談
竜王殺し:現地勢レベル100の一人。ロンギビームが撃てる。ロンギビームを元に改良した極悪魔法『魂滅』を使う。『魂滅』の仕様を知るツアーは何と戦う事を想定して開発したのか何回もキーノに尋ねたとか
全体感想返しのQ&A
ナザリックの壊滅:亡国ルートじゃないのでまず大丈夫。亡国ルート(モモンガさん不在・宝物殿使用不可・モモンガ玉が無いから八階層の真価発揮不可・モモンガさんがいないから連携力に欠ける・モモンガさんがいないので慎重さ不足)だと……亡国ルートに進むとモモンガさん自身もかなり危険(200年前だと『腐害』の最中なので)