転移後世界の仕様が変更されました   作:リセット

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レベル25 理想の姿

 薬師ンフィーレアのお手伝いとして、ダーク=ナイトさんことラキュースと共に、一時的にパーティを組みカルネ村まで来たモモンガ一行。彼らは薬草採取に行くトブの大森林に夜から突撃するのは好ましくないと言う理由から、一夜をカルネ村で過ごすことにした。

 

 モモンガなどは夜の森の中でも、昼間と変わらず行動できる。むしろ死霊術使いとしての拘りビルドには、夜中になると発動するオートバフなども組み込んであるので、晩の方が調子がいいぐらいだ。しかし依頼者であるンフィーレアは人間種であり、あまり夜中の活動には向いていない。霊薬などを駆使すれば疲労も眠気もポンと飛ぶが、そこまでするぐらいなら朝になってから森に突撃する方が得策。

 

 と言う訳で空き家を借りた一行は、今日はうちで飯を食べて行けとンフィーレアの恋人であるエモット家で、ご相伴に預かることに。食材はカルネ村で一晩泊まると言う事で、ンフィーレアが自分のストレージに十人分ほど入れてあったのでそれを使う事になった。

 

 セバスが執事スキルを発揮してネムの母親や、エンリと共に全員分用意し、酒類が食卓に並んだら準備完了。子供であるネム・マーレ・アウラ以外は酒を持ち、天高く掲げて──

 

「それじゃ新たな友に願って……かんぱーい!」

 

 カルネ村で使われている木の杯をぶつけあい、セバスは一気に飲み干す。食事を摂れないアンデッド組のために、シャルティアはアウラとリンクし、モモンガはセバスとリンクしている。<共感覚>の魔法を使ったのはマーレだ。この魔法はドルイドでも習得可能な物らしく、巻物(スクロール)を使えばマーレにも使用可能。モモンガ用としてかなりの本数を買い込んでおり、今回はシャルティアも食事を楽しみたいと言う事でアウラと繋がっていた。

 

「ちびすけ、次はあの肉が良いでありんす」

「えー、あたしはこの魚の方が食べたいんだけど」

「そうは言っても、私はちびすけに食べて貰わないと、味わえんでありんすから……」

「もう……しょうがないなぁ。モグモグ……あ、結構おいしいかもこれ」

「良い脂が乗っていて、美味でありんせんか」

「モモンガ様。この葉野菜はどうですかな?」

「貰おうか。ふむ……緑臭さもなく、しゃっきりとした歯ごたえの中に、ほのかな甘みがあるな。そのタレにつけてみたら、どんな味になるだろうか」

 

 モモンガもシャルティアも、エ・ランテルやナザリックで食すような豪勢な料理とは違うものの、素朴な中に素材本来の味わいがたっぷりと詰め込まれた食事を堪能する。

 

 今回用意された食材は全て連邦産だ。五国の中では連邦がもっとも巨大な国家であり、その分だけ農作物や畜産物の出荷量も多い。大戦以前の農作物は原種野菜に毛が生えた程度の代物だったが、大戦以降は高レベルのマスター・ファーマーや森祭司(ドルイド)が品種改良と土そのものの高品質化を行って来た事もあり大変美味だ。

 

(やっぱり美味いな連邦産は。単純なバフ効果だけに限定するならユグドラシルの食材の方が上だけど、味ならこっちかも)

 

 巻物(スクロール)を使えばナザリックでも味が楽しめるので、モモンガは第九階層の食堂でも味を楽しむようになっている。あそこの料理も間違いなく高品質なのだが、ユグドラシルの食材は味と言う点では連邦産に負けているとモモンガは思う。

 

(元々DMMOでは電脳法で味覚や嗅覚は実装されてない。例えばキャベツにしても、細かく設定されているのは料理効果。それ以外はフレーバーテキストとして、瑞々しく歯ごたえが良いとしか書いてない。それが実体を持ったとしたら、味はテキスト設定から再現される。けれど、どういう風に瑞々しいのかまでは設定されていないから、味自体はどうしても想像での再現になる……んだろうな)

 

 パンドラやデミウルゴスの頭脳が賢いと書かれているのを実体として再現したら方向性に違いがみられたように、味のデータなんて設定されてないのでどうしても細かい部分のニュアンスで差異が出る。究極に美味とでも書かれていたら違うかもしれないが……味覚の再現が無い分、運営の味覚面に対する拘りは薄かった。

 

 対して五国では大戦以降食文化への拘りが出始めて、そこから度重なる品種改良で美食が追求されてきた。バフ料理ならナザリックに軍配が上がるが、美味と言う点なら素材への拘りが強い五国かもしれない。

 

 そんなことに思いを馳せながら、モモンガはセバス経由で連邦料理に舌鼓を打つ。そこいらの農村でも、素材の良さからまずまずの美食が喰えることに彼は感謝していた。

 

 そんな風にうむうむ頷く彼の対面では、うら若い男女と小さな少女が微笑ましく……睦まじく仲良くしていた。

 

「ンフィーは相変わらずこの野菜が苦手なのね」

「どうしてもね。ポーション作りで味見した時に、間違って毒草が混ざってしまって……その毒草の味に近いから、忌避感が拭えないんだ」

「ンフィーお兄ちゃんはダメダメだね! ネムなんてシェムカを食べられるようになったのに」

「ふぅん……それならヘジャイも、今のネムなら食べられるよね?」

「……………………お肉おいしい」

「目が泳ぐぐらいなら、最初から変なところで威張らないの。まったく」

「でも、僕よりは逞しいかもね。そんなネムには、はい。この間欲しがってた絵本をプレゼント」

「わーい!」

 

 モモンガがネムの嬉しそうな声に気づいてそちらを見ると、ンフィーレアのストレージから取り出した本を受け取っていた。

 

 絵本──と言っても、モモンガが知るような絵本とは違い、こちらの絵本は地球で言うフルカラーの漫画が近い。手書きでフルカラー漫画となると非常に大変だと、モモンガはかつてギルメンだったメンバーから聞いたことがあるが、この世界の漫画家にとっては大した苦労ではないらしい。

 

 と言うのもインクとペンに魔法がかけられていて、一本のペンさえあればあらゆる色とあらゆる線が書けるのだとか。中にはインテリジェンスアイテムな高級ペンもあるらしく、搭載された人工知能が書く際に手伝いしてくれる。それに睡眠無効・疲労無効にするポーションなども普通にあるので、モモンガが知る漫画家とはあり方が非常に違う。

 

(ネム喜んでるな……俺も何冊か買っているから、気持ちはよく分かるけど)

 

 意外と良く練られたストーリーもそうだが、漫画家系の職業もあるのか商品として売られている絵本の作画は大抵上手い。原作には高レベルのストーリーテラーが付き、作画は高レベルイラストレーター体制で出版しているところもあるので、演劇分野と言いこの辺の文化系はリアルより上じゃないかとモモンガは思う。

 

(飯が上手い。娯楽も豊富。リアルとこちらの世界を繋ぐ技術はいずれ開発したいけれど、向こうで定住したいかと言われたら……ないな。空気一つとっても、向こうとは偉い違いだし)

 

 百m先が見えない程に光化学スモッグに汚染された大気に、枯れ果てた山林。アンデッドとなった今、永遠の時をモモンガは生きるのだ。では元のリアル世界が永住したい場所かと言われたら、絶対にノーである。

 

 この世界に大した娯楽がないとかならまだしも、普通に楽しいことが山ほどあるのだ。大戦以降は急速に技術開発が成されたらしいが、それで土の汚染や大気汚染に水質汚染がされたりもしていない。基本は魔力さえあれば有を産み出せる魔法があるから綺麗な水には困らず、人が増えすぎても風精霊などが大気を常に綺麗にしてしまう。

 

 魔法が産み出す肥沃な大地の豊富さに、割とモモンガは脳が破壊されていた。何が悲しくて貧民に無茶要望を繰り返すエリートだらけの、あんなリアルで暮らさねばいけないのだと。

 

 とは言えギルメンに会いたいのは事実。なので世界間の移動手段自体は探るつもりだ。しかし──

 

(アルベドが言っていた……もう一度会えたとて、一度離れたやつが受け入れるわけがない……か。それを言われると辛いんだよな。みんながユグドラシルを辞めて、リアルの生活を優先したのは事実だから)

 

 今となってはモモンガも納得しているが、だからと言ってリアルを優先した人達に会えたとて、彼らがナザリックの事を快く受け入れてくれるかはなんとも言えない。むしろ見た目はモンスターな方が多いナザリックNPCを見て、うわぁ感謝するよ! ……なんていう方がどうかしている。

 

 なんなら、今のモモンガは鈴木悟な見た目ではなくオーバーロードな骨だ。自分がリアルの地球の都市をうろつき歩いたら、それは新たな都市伝説が生まれてしまうだけだとモモンガは自嘲する。

 

(それでも……俺自身がどうと言うよりも、NPCを親に合わせてあげたい。自我を得た今だからこそ、産みの親と話させてあげたいんだ。それに……ウルベルトさんなんかは、こっちの世界の方が気に入るだろうから)

 

 リアルのエリートを憎んでいたあの人であれば、こちらの世界の心優しい人たちに触れたら、きっと朗らかに笑ってくれるだろう。

 

 そんな空想にふけっているモモンガの元に、一緒に読もうとネムが貰ったばかりの絵本(漫画)を持って近づいてきた。見た目はローブを着た骸骨の魔王にしか見えないモモンガ相手でも、この世界の子供は大して怖気づいたりしない。なにせエ・ランテルに行けばそこそこアンデッドも歩いているのだから。

 

 ネムと共に漫画を読んだり、ンフィーレアの最新試作──濃度999%を参考にして創り上げた新作酒を飲んだセバスがウクレレを引いたりとどんちゃん騒ぎになりつつも、カルネ村での一夜は穏やかに終わった。

 

 明けて翌朝。日が昇り始めると同時に、一行はトブの大森林に。日が差している筈なのに、『闇視』でも無ければ簡単に見通せない鬱蒼とした森を、一行は何の問題もなく進む。

 

 ナザリック組は自前の種族スキルで昼間のように見えており、ンフィーレアは調合したバフポーションで『闇視』を得ている。ダーク=ナイト・ラキュースは……暗黒面(ダークパワー)の恩恵で無問題らしい。

 

(いや……ダークパワーじゃなくて、ただの『闇視』じゃねえのそれ?)

 

 思うところがあったモモンガだが、ラキュースにとってはダークパワーらしいのでそっとしておいた。こういう時、下手に突いては駄目なのだ。彼女の世界があるのだから壊してはいけない……

 

 モモンガもそんな風に考えていたが──

 

「剣よ! 今こそ、その真の力を解き放て! はぁあああああ! 暗黒波動爆雷破!!!」

「腕が……うずく!!! があああ!! 光の力よ!! 頼む、今は抑えてくれ……」

「我が魔剣よ。力を吸い、真価を魅せろ!」

 

 ラキュースが何やら呟き魔剣キリネイラムを天に掲げると、彼女の体から黒い靄が吸い出される。それが剣に充填されると、刀身部分が漆黒に輝き始めた。

 

「いざゆかん! 我が半身よ! この一撃に全てを!! 暗黒光波式滅陣!!!」

「あいつ……うるさいでありんす……」

「でも、つ、強いね」

「たしかに強いけどさ……なんだろ、この釈然としない感じ」

 

 森の中で近づいてくる魔獣などを淡々と処理するモモンガらと違い、なんかラキュースがうるさかった。別に戦闘音がしているから、あの声で不利になることなどはない。むしろ初パーティを組むモモンガからすれば、事前に何かするんだなと分かる分、後衛としては助かっている……

 

(……なんだろ。見てるだけで恥ずかしい気持ちになる)

 

 モモンガの共感性羞恥さえ除けばだが。モモンガの古傷を抉り取る鋭い一撃の数々に、先ほどから精神安定化が一向に納まらない。治まったかと思えば、すぐさまラキュースが位階魔法とは違う何かを唱えだすからすぐに精神安定が発動してしまう。

 

(でもアウラが言う通り強いんだよなぁ……俺が見る限りでは、セバスの動きと遜色がないし。コキュートスに匹敵すると言うのも、あながち嘘じゃなさそうだ)

 

 ラキュースが剣を振るう度に旋風が巻き起こり、モモンガにヘイトを向けようとしていた狼型の魔獣の首が飛ぶ。ラキュースが掌をかざすと、そこから白と黒が混ざり合ったらせん状の光線が飛んで、マーレに矢を向けていたゴブリンの胸に風穴を空ける。

 

 言動面にさえ目を瞑れば、きっちりと前衛として彼女は働いてくれている。今のところ、モモンガがストレスを覚えるような未熟な動きもない。普段から色んな傭兵と組んでいるらしいので、初めての相手でも問題なくチーム戦が出来るのだろう。

 

「<魔法二重抵抗難度強化(ツインペネトレートマジック)心臓掌握(グラスプ・ハート)>!」

 

 モモンガが両手を握りしめると、ラキュースに狙いを変えようとしていたゴブリン・シャーマンらしき二体が抵抗すら出来ずに即死する。首を斬り落とされるゴブリンや魔獣を見て、逃げようとする個体も何体かいたが──

 

「<時間停止(タイムストップ)>。<魔法三重遅延抵抗難度強化(トリプレットディレイペネトレートマジック)真なる死(トゥルー・デス)>」

 

 モモンガが得意とする、時間停止からの遅延即死により瞬殺されている。逃げる相手を追いかけて殺すのは野蛮に見えるかもしれないが、こちらの手札を知った相手を逃がして良い道理はない。ラキュースも警告して来たならまだしも、不意打ちで狙う相手に容赦がないのか追撃して潰していた。

 

 その光景を……時間停止中は()()()()止まっていたラキュースを見ながら──

 

「やはりか……即死魔法と時間魔法が無駄にささるなこの世界」

 

 現地世界の即死魔法と時間魔法に対する耐性の低さ。それが自分の考察通りであったことに、モモンガは安堵する。

 

 モモンガがエ・ランテルの視察をしてから既に一週間以上が経っている。それだけの時間があれば、この世界のレベル周りの仕様や、クラス取得・種族レベルに関する調査も進む。

 

 ナザリック内で一般メイドを含む低レベル組を、フレンドリ・ファイアーを利用してレベル上げを行わせているが、それで分かった事がいくつかある。まず、レベルの上がりやすさはユグドラシルに近いと言う事。

 

(メイド組の何人かは既にレベル22近くまで上がっているが、自動湧きモンスターの最大レベルは29。今のところ順調ではあるが、ユグドラシルと同じならそろそろ上がらなくなる頃だ。外で捕まえて来たモンスターを狩らせても良いが……それよりも職業(クラス)取得がランダムなのがなぁ)

 

 現地の住民以上に、クラス周りの仕様に詳しいのがモモンガだ。マスターソースを使えば、現在NPCが何のクラスを取得しているのか把握できる。デミウルゴスとコキュートスから報告を受けているので、モモンガは全員分を覚えた。覚えたからこそ……ランダム獲得仕様に若干苦戦している。

 

 今のところ一般メイドであればクラス獲得に加えて、種族レベルのホムンクルスも上昇している。この種族レベルは自動獲得が今のところないので問題ないが、クラスに関しては違う。例えばとあるメイドには槍を使わせてレベル上げをしているのだが、これで槍兵(ランサー)だけ獲得するのかと言ったら全然違った。

 

 彼女は現在レベル19なのだが、その内訳はホムンクルスが6レベル・ランサーが4レベル、戦士(ファイター)が5レベル、軽戦士(フェンサー)が4レベルだ。一見は戦士系列だけで纏まっているが──

 

(これ微妙ビルドなんだよな。普通どれか一つだけに絞って15レベルまで上げて、そこからハイ・ランサーやチャンピオンに派生させた方が強いし。下位職で無駄にレベルを逼迫させてるから、このまま仮に100レベルになったとしても強さと言う意味では若干微妙。当初の予定ではそこそこ上位職が取れるかと思ってたけど……難しい)

 

 一般メイド41人に武器を持たせてレベリングしても、上位職を取れたのは数名のみ。刀を使う最上位職である剣神を持つメイドが一人、モンク系列の最上位であるマンオブスティールを持つのが一人出てきたが、全員合わせて合計697レベル上昇させても、最上位職をいきなり取れたのは二人だけなのだ。

 

 とてもではないが、種族レベルを除いた全クラスを上位・最上位で揃えるなど不可能。

 

(エ・ランテルで聞いた話によれば、死亡すると蘇生魔法が無くとも、肉体にある自動蘇生魔法で蘇られる。ユグドラシルと法則が同じなのであれば、5レベルダウンの恐らくシステム復活になるのかな? これや蘇生魔法を多用して、上位や最上位が取れるまでレベルダウンさせればいずれは揃えられるだろうが……出来る訳がないだろ! 幾らナザリックの防衛力を強化したいからって、あの子らに死ねだなんて……)

 

 自動蘇生や蘇生を使ったビルド構築レベリング。これ自体はユグドラシルでも日常茶飯事だった。モモンガだって理想の死霊術師ビルドのため、こちらの方が良いかもしれない……やはり元の方がと何度も試行錯誤している。しかし、これは条件さえ満たしていれば自分の好きなクラスや、種族を取れるユグドラシルの仕様だからこそ出来た事。ある程度の方向性があるとは言え、ランダムな仕様からビルドを構築しろと言われたら発狂するほどの難易度になる。

 

 そもそもランダムなのはクラスだけではない。何のスキルが取れるのかも、かなりランダムなのだ。ユグドラシルならクラスを決定した後に、このスキルを取得すると選べた。しかしこの世界にそんな仕様はない。マスターソースもあくまでも確認に使えるだけで、好きなクラススキルや種族スキルを選べるわけではないのだ。

 

 だからこそ即死魔法や時間魔法を含めた、特殊ステータスに依存する魔法がよく効く。これらに対する対抗手段は、装備品で耐性を上げる・スキルで耐性を補強する・ステータスの総合耐性を上げて素で耐えるの3つだ。このうち、スキルによる耐性がランダムなせいでピンポイントに対応する耐性が揃えにくい。

 

 なので基本的には、装備品とステータスに頼るしかない。けれどゲームと違い、そうそう簡単に装備が揃う訳でもない。市場にこの手の魔法に対する装備品が出てくるのを待つしかないのだ。

 

 とは言っても、高レベルになれば相応に総合耐性も高い。先ほどのラキュースのように数秒は時間を止められても、効果時間中ずっと停止させるのはよほど時間系に特化して無ければ不可能。即死に関しても通るかどうかは、抵抗難度強化しても運しだいだ。

 

 しかしながら、そんなことはモモンガにとってはそこまで重要な問題ではない。ユグドラシル時代であれば、時間停止や即死や魅了などの確殺魔法に対して備えるのは道理であり、効かない方が普通だったのだから……だから問題は──

 

(レベルダウンを使ったビルド構築。とてもじゃないが、こんなの実行させられない。ユグドラシルで当たり前に行われたのは、()()()()()()()()()()()()()。どれだけゲームアバターが傷つこうが、リアルで操作している肉体が痛むわけじゃない。死んだところで、またレベル上げの手間があるなーぐらいで済む。けれどここでは違う。傷ついたら体は痛むし、死ねばその恐怖だって──)

 

 モモンガは自分の手を見る。骨しかない手だが、仮にこの手をセバスやシャルティアに本気で握られたら、相応の痛みがある。生身の人間に比べたら痛覚が一定以上は遮断されるのだが、それでも痛みは多少あるのだ。死ぬとなればそれ以上の痛覚信号を受ける事になる。

 

 マスターソースを使えばギルド長であるモモンガのデータも確認できるので、やろうと思えば彼もリビルドは可能だ。可能だが──

 

(無理だ。一番手っ取り早いのはセバスやコキュートスに袋叩きにして貰う事だが、無抵抗で殺されろだなんて……そもそも俺が死んだとて、自動蘇生は働くのか? 蘇生魔法は効果があるのか? NPCもそうだ。復活できるのか?)

 

 確証が無い状態で死亡は出来ない。仮に蘇生可能だとしても、何回死ねばモモンガが思う理想ビルドが完成するのか……

 

(恐らく百回や千回じゃきかない。仮に俺が理想ビルドに組み直すなら、スケルトン・メイジの1レベルは仕方ないとしても、その他を最上位種族と最上位クラスのみで構成するなら……課金ガチャで何回大当たりを引くのと同じ確率がいるんだ? しかも、その上で目的のスキルも引けるまで……とてもじゃないが、現実的なプランじゃない。こんな気の遠くなる作業に……しかもほぼ自殺同然の行為にNPCを付き合わせられない。『強欲と無欲』に<星に願いを>を組み合わせたらいけるか? ……これも現実的じゃない。どれだけ経験値が必要になるのか)

 

 超位魔法<星に願いを>。この魔法で選べる項目の中に、条件が必要なクラスを条件無視で取れる。それがあった筈だとモモンガは思い出すが、この魔法の使用には経験値を消費する。幸い経験値を貯蔵できるアイテムがナザリックにはあるが、これに超位魔法用の経験値を貯めるのにどれだけの時間が必要になるのか……

 

(ユグドラシルなら高レベルモンスターを無限に狩れたが、この世界のモンスターは自然に幾らでも湧くわけじゃない。どこかで頭打ちになる……それに、やはり自殺に付き合わせられない。一番楽なのは俺が即死魔法で殺す事だが──絶対に嫌だ)

 

 だから無理と言う結論にしかならない。仮に差し迫った脅威があったとしても、自らの手でNPCを何人も何回も抹殺するなど、まともな精神構造をしていたら無理だ。それは殺害だけでなく、自決にしても同じ。理想の自分になる為に、自殺を繰り返すなど正気じゃない。そもそも低レベルの時にレベルダウン量をミスったら、その瞬間に完全な死亡(ロスト)が決定するのだ。

 

(まぁ……唯一助かる点は、この世界の人たちもたぶんビルドに関しては同じな点か。当初は条件無視で幾らでも上位クラスを取れると考えていたが、そう言う訳じゃなさそうだし。警戒すべき要素が減ったのは良い点だろ。仮に自殺ビルドの存在に気が付いたとしても、実行するやつなんてまずいない。どう考えたって、こんなの気が狂ってないとやらないぞ)

 

 ユグドラシルにも強さを求めるあまりビルド構築にのめり込む変人は多数いたが、彼らだってリアルに死んでやろうとまではしない。AOGにも武人建御雷など最強に拘る人はいたが、彼らだって命を賭けてでも極めようとするかと言われたら……違う。

 

 だから、モモンガの結論としては自殺リビルドを実行したものはまずいない。そうとしか考えられない。と言うか、いて欲しくない。

 

(仮にそんなのがいたとして、そいつと揉め事になった時、何したら止められるんだ? 死んでも止まらないんだぞ? うん。いないない。そんな頭がおかしい奴いる訳がない)

 

 強い弱いではなく。自殺リビルドなんて実行するような異常者と……あまりにも強さに対するメンタルや思考が常人とは違い過ぎるやつとか、絶対に揉めたくないとモモンガは考えないようにした。

 

 すぐ傍にいる推定レベル86でレベル100であるコキュートスに匹敵する、暗黒面と光明面両方備えたとか言う、かなりの変人の方は見ないようにしながら──




モモンガさん:その可能性に思い至るも、やり方がクレイジー過ぎてリビルドは封印した

ダーク=ナイトさん:前世の力を取り戻す為、ランポッサの話を聞いて少しだけクレイジーリビルドを実行した人。親に見つかって泣きながら止められた。流石に反省した模様
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