「アルベドのやつ、うるさいでありんすね」
「仕方がない。この土地には、我らナザリックにとっても脅威と成り得る存在がいるかもしれないと言ったのは私なのに、張本人が外に出たいと言ったのだ。アルベドの立場上、反対するのは当然だろう」
あの後。モモンガがエ・ランテル行きを表明すると、アルベドは顔を真っ赤にして反対を宣言した。ナザリックとは、すなわちモモンガだ。たとえナザリックが落ちようとも、モモンガが生きているならそれでいい。なのに肝心要の神体であるモモンガが、脅威度も不明───少なくとも、平均レベル65の漆黒の剣が、斥候になるような土地に出かけようとするのだ。それは反対の一つや二つどころか、十でも二十でもして当たり前だった。
「しかし……よろしかったのでしょうか。モモンガ様の鶴の一声でアルベド様の忠言を封じられましたが、我々四人だけを供にしてのエ・ランテル行き。もう少し、僕を増やされても良かったかと思われますが……」
「なに、セバス? あたしたちだけじゃ、モモンガ様を守るのに不満だっての?」
「セバス、お前、モモンガ様の前で怖気づいているのか」
アウラが自分の能力不足を指摘されたのかと若干不満気になり、シャルティアは曲がりなりにも至高の御方───モモンガと同じ、41人のギルドメンバーに創られた身でありながら、最後まで残られた尊き御方の前で不安がるなどナザリックの僕らしくないと、怒りを露わにし始める。
「怖気づいてなど! 私は命を賭してでも、モモンガ様の盾となる所存です。ですが、デミウルゴス様とアルベド様が指摘されたように、もしも80レベルの戦士職が数十人で徒党を組み、モモンガ様を襲撃でもされれば、守り切れるかは……」
絶対に守り切れる。そう宣言するのが、至高の御方に仕える執事として正しい行動だ。しかし80レベル……例えば、デミウルゴスの配下である魔将が50や60も出現し、襲い掛かってきたらとてもではないが対処など出来ない。少なくとも、自分があと10人は欲しいとセバスは考える。
ここには自分の同格であるマーレ・シャルティア・アウラがいるが、それでも高レベルかつ十倍以上の戦力比を覆すとなると、恐ろしく難易度が高い。
しかも自分の身を守り切るではなく、モモンガの身を守るという条件なのだから、難易度は更に激増してしまう。
「それは……そうだけどさ」
「ううん。それを指摘されりゃ、妾としても辛いところでありゃんすが……」
アウラもシャルティアも、至高の御方により産み出された自分の力に自負がある。しかし、デミウルゴスに敗北した時の記憶を掘り起こされた事で、絶対に言い切るにはちょっと自信を無くしていた。
ついでに、このやり取りを見守っていたマーレはあわわとオドオドしていた。
これからちょっとパーティーを組むメンバーが、何やら責任感やらでブルーになっているのを見て、モモンガは上司として励まさなきゃいけないよなーと思いながら───
「セバス。それにアウラにシャルティアよ。お前達の不安はよく分かる。私も同じ気持ちだからな」
「えっ! モモンガ様も、その……あたしたちの能力が不安……なんですか?」
「え? い、いや、違うぞアウラ! お前達守護者の能力を不安視などはしていないぞ! だから、落ち込んだ顔を見せるのは止すんだ」
「そ、そうなんですか?」
「勿論だ、マーレよ。四人とも、たっちさんに、ぶくぶく茶釜さんにペロロンチーノさん。我が盟友が、手塩にかけて創造したお前達の力に、疑う余地など一切ない」
(手塩にかけすぎて、とんでもねえ性癖が突っ込まれてたりもするけどな。ペロロンチーノさんとぶくぶく茶釜さんなんて、ギルメンの中でも性癖優先組だったし。セバスは……たっちさんがそこまでNPCに興味なかったせいか、変な設定が組み込まれてないのが幸いだな)
ギルドメンバーの一人であり、同時にモモンガにとって親友と言えるバードマンと、彼の姉であるピンクなスライムを思い出す。あの二人がいたら、自らの意思で動くNPCを見てどう思うだろうかと。
(喜ぶ……うーん、ないな。100%悶えるわ)
性癖だの若き日のリビドーを詰め込んだだの、そういったあれこれは黒歴史となり、いつか過去から追いついてきて自らを刺すのだ。モモンガも、宝物庫に封印している黒歴史にざっくりやられたのでよく分かる。あれのダメージは凄い。
「も、モモンガ様?」
「うん? ああ、すまないマーレ。少し、ぼーっとしていたようだな。さて、では話を戻すとしようか。確か、セバスの申し出は僕を増やしたらどうだろうか、だったな。私の私見だが、これは愚策としか言えない」
「え、と。数が増えれば、その分だけ、その、モモンガ様を守る盾が増えるから、守りやすくなる……なるのに愚策、なんですか?」
「マーレの言葉はある意味正しい。今の我々が警戒しているのは、こちらの戦力を上回りかねない数の強さだ。それに対抗するとなれば、数を潰せる個か、同じく数を用意するしかない。しかし、個となると、今すぐに用意するのは中々困難な話だ。では数を用意出来るかと言うと、これも難しい」
「で、でも。ナザリックには、まだまだたくさん僕がいますよ?」
「あくまでも数がいるだけであり、私が要求する水準を満たす僕ではないな」
モモンガが要求する水準。それは最低でも『漆黒の剣』に相当する戦力だ。今のところこの世界で出会った意思持つ存在はあの調査隊だけであり、戦力の基準は彼女らを物差しにするしかない。
(エ・ランテルからナザリックまでは数十キロ。その道のりの間には、モンスターが出るとツアレニーニャさんから聞いた。そのモンスターがどの程度のレベルかは不明だが、平均レベル65の『漆黒の剣』なら踏破可能。これと同等の戦力となると、どうしたって守護者レベルじゃないと連れていけない)
ナザリックに所属する戦闘可能なNPCは、階層守護者などを除くと65レベルもない。一部の料理長や鍛冶長は70を超えているが、彼らは生産職のため戦闘に出すには力不足。
では80レベルを超える金貨を消費して召喚する傭兵モンスターならどうかと言うと、状況対応力に不安が残る。NPCと違い、モンスターとして召喚される個体は魔法の習得数などが少ない。散々例に挙げている魔将にしても、使用可能な魔法数はたったの18。プレイヤーと同じシステムで作成可能なギルド拠点NPCなら、100レベルにすれば最大で300もの魔法を覚えさせられる。300対18。10倍以上も違うのだから、それは対応力も雲泥の差がある。
「私の水準を満たせない僕を連れていても、言っては悪いが足手纏いになってしまうだけだ」
「でも、モモンガ様。たとえ御身の御眼鏡に適わなくとも、その玉体をお守り出来るのであれば、私たちは喜んで肉盾にでもなりんす!」
「その心遣いは嬉しいが、些か消極的過ぎるな、シャルティアよ。最初から肉盾前提で、お前達を使うつもりなどない。お前達僕は、我が盟友の子らなのだぞ? それを最初から囮になど……私の誇りが許せん」
「も、モモンガ様! 我ら僕如きのために、そのような情けを……」
何が琴線に触れたのかモモンガには一切不明だが、セバスは懐からハンカチを取り出し目じりを拭い始める。アウラやマーレも、良かったねお姉ちゃんと肩を抱き合っている。シャルティアもちびすけ、これが我らが偉大なる御方でありんすと感極まっていた。
(俺の言葉がどれだけ刺さってんだよ! いや、そりゃあ、あえて囮にはしないけどさ。流石に命が危なくなったら、躊躇なく逃げるけども)
大仰な反応で疲れる事もあるが、それらを差っ引いてもNPCのことはそれなりにモモンガの中で大事な存在だ。なにせ彼の大親友であり、もう一度会いたいと願うギルドメンバーの忘れ形見なのだから……
とは言え、命を懸けてでも守りたいかと言われたら、守りたいが現実的に無理なら諦めざるを得ないので、モモンガは曖昧な笑顔を浮かべるだけだ。
とにもかくにも、モモンガを含めた即席5人パーティーはナザリックを出発。『漆黒の剣』にエ・ランテルを目指すのであれば、この街道を通ったら良いと教えられた場所まで出てきた。
「モモンガ様。このまま徒歩で行かれますか?」
「ああ。馬車などは非常に目立ち、道中でモンスターに襲われる危険性が増すから、通常は徒歩での移動が基本らしい。我らにとって、ここは不慣れな土地だからな。モンスターに遭わずに済むのであれば、越したことはない」
「至高の御方が徒歩など、恰好がつかないでありんすきが……それなら、<飛行>で空路を飛ぶのはどうでありんしょうか?」
「空を行くのも、お勧めしないとのことだ。ロックバードや、フライング・スカイ。シャークネードなどの飛行モンスターの縄張りが多く、迂闊に飛び込んだらお陀仏らしいぞ」
「あー……地上戦ならまだしも、あたしたちじゃ空中戦は分が悪いね。ギリギリシャルティアがなんとかなるぐらい?」
「シャルティアでもキツイだろうな。エ・ランテルに近い事もあって高難度のモンスターは少ないが、それでも150や200の飛行型モンスターの目撃例がそこそこあるとのことだ」
「難度ってなんですか?」
「この世界のレベルの呼び方だ。あくまでも目安らしいが、ツアレニーニャさんが難度に換算するなら170から210。この数値を参考にするなら、難度1が0.3レベルぐらいになるかな」
「ゲッ! なら、難度170は51で、210が63? 地上戦なら余裕だけど、そのレベルに機動力を活かされたら、大分しんどいかも」
「その通りだ。だから最善なのは、街道を通り地道に歩くことだな」
「分かりんした!」
あくまでも難度のレベル換算は目安に過ぎないので、鵜呑みにすれば痛い目をみる。空中を行くのは愚策であり、地上を行くのが安全なのだ。
(転移魔法を使う手もなくはないが……)
位階魔法による転移は、一度行った場所であれば登録され、いつでも瞬間移動が可能になる。それ以外にも、目視可能な場所であれば転移することもできる。これを繰り返せばエ・ランテルに行きやすいだろうが、モモンガはこの手を使う気はあまりない。
なにせモモンガが欲しいのは情報なのだ。転移で移動するよりも、徒歩で移動する方が地形などを覚えやすい。自らの足で稼ぐからこそ見えてくるものもある。
(営業活動は足をつかってなんぼだ。サラリーマン舐めるなよ)
もはやサラリーマンではないが、モモンガの経験は大半がサラリーな営業マン。過去の経験から学び改善するからこそ経験とは生きるのだ。
歩き始めてから3時間。一行は歩きっぱなしだが、特に疲れた様子はない。アンデッドであるモモンガとシャルティアは、種族特性として疲労ダメージが無効化される。残りの三人は、100レベルの肉体が産み出す脚力と体力が長時間の運動を実現させてみせる。
「この道。非常に歩きやすく舗装されているな」
「そうなんでありんす?」
「昔、ぺロロンチーノさんに熱く語られたものだ。こういった異世界転移……のテンプレで飛ばされるのは中世ヨーロッパで、土の地面しかないだとか、なんだとか。それと比較すると、この道は───」
モモンガが目の前に続く長い道と、今まで歩いてきた道を振り返る。街道として『漆黒の剣』に案内された道はしっかりとした石で舗装されており、街道が草や土で覆われたりしないように腰程度の高さで擁壁が作られている。
道沿いには20m置きにポールが立てられていて、そこにはランタン───恐らく外灯が吊るされている。これ以上ないほどに整備された歩きやすい道であり、仮に馬車などで移動したとしても快適な旅が可能であろう。
「土の地面……でも、どう見てもきちんと石で舗装されてるよう、私にはみえんしたが。あのぺロロンチーノ様が間違われた? ……そんなわけがありんせんし。う~訳が分からんす」
「ぺロロンチーノさんの話は、あくまでも一例だ。実際にそうであるかは不明で、私達が見ているように現実はそうではなかった。そういう事だ」
目をグルグルさせているシャルティアの横目に、モモンガは整った街道───国が整備したと思わしき道なので、国道と呼んでもいいだろう。非常に大規模に整備されているという事は、それだけ連邦が持つ総合的な国力は優れている事に他ならない。
そして……優れているのは、国力だけでなく個人もだった。
「あれは……農村か?」
「のようですね。畑と農民らしき人間が見えます」
ある程度歩いていると、ぽつぽつと家屋らしき建物が複数立っているのが見えてくる。その家屋の周辺にはセバスが言うように、かなり大規模な畑が広がっている。
都市の周辺に農村があり、人間や亜人が口にする食物が栽培される。そうおかしな話でもなく、第一次産業に詳しくないモモンガでも簡単に想像できてしまう光景だ。だが……ここからが普通ではなかった。
「む! 気温が急に変化した」
「あ、も、モモンガ様! こ、これ! たぶん、<
「<天候操作>。第六位階魔法か」
モモンガはマーレの言葉を聞いて、それらしき魔法を使っている人物がいないかを探す。すると、何やら鍬を天に掲げている老人がいた。彼が鍬を右に左にするたびに、頭上の雲が動いて位置を変える。そうこうする内に老人は満足したのか、鍬を下した。
「ようし! それじゃ小僧ども。今日も耕す時間だぞ!」
「言われなくても分かってるぜ!」
老人が呼びかけると、20歳になるかどうかといった若者が数名腕まくりをしながら畑に向かう。彼らは農具を手に大地に降り立ち、凄まじい速度で畑をほじくり返し、土の状態を整えていく。あれだけの速度で畑を耕す。それはどれだけの体力なのかと興味を持ったモモンガは、<生命の精髄>を使う。
「30以上」
かなり高い。無論モモンガからすれば低いが、それでもそこいらにいる農民が30を超えるというのは中々高いだろう。農民という事は生産職なので戦闘職に比べると強さは劣るが、それでも30あるならナザリック・オールド・ガーターと真正面から戦っても問題ないレベルだ。
別の方面に目を向ければ、眼鏡をかけた少女が土のゴーレムを産み出し、農作物らしき野菜が詰まった箱を運ばせている。そちらは<魔力の精髄>で見たら、ゴーレムクラフター職を修めた人間種の35から40レベル相当のMPを保有していた。
(ただの農村に見えるけれど、実は隠れた実力者が集まった隠れ里! ……なわけないよな。連邦の農村に住む人間種は、最低でも30レベルはあるのか? こういうのって、優秀な人間は都心部に出て、そうでもない人は田舎に残るとか言うよな。つまり、そこまで優秀ではない人。普通の人間種でも、30から40レベルはあると考えても良いのだろうか)
そうなると、連邦の持つ国力はますます高いことになる。この国に何人住んでいるのかは知らないが、もしも1000万人以上の人口を持ち、それら全てが30以上あるなら。もしも、優秀な人間が人口の1%───10万人以上いて、それら全てが『漆黒の剣』と同じ65相当なら。
「この偵察では、気を抜けんな」
「え?」
「気にするなアウラ。ただの独り言だ」
道中ふと見ただけの農村からでも、得られる情報は数多い。フィールドワークから得られるものというのは、予想以上に多いのだ。
(ツアレニーニャさん達の話を聞いた時点で、このぐらいは想定していた。けど、実際に目の当たりにすると思うところがたくさん出てくる。エ・ランテルの視察、何一つ見落とせないぞ)
そこからも快適な道が続いており、思ったよりも速く歩けたがそれでも数十キロとなると一日では辿りつかない……流石にナザリックの主である自分が駆け足で進むのは、僕の手前バツが悪い気もするというモモンガの心情もあったが。
時間が相当経っていて、日が暮れ始めたので一行は街道を外れて森近くで野営の準備を始める。シャルティアモモンガのアンデッドコンビは寝たりする必要もないので、夜が本番ではあるのだが、今回は人間種であるアウラとマーレがいるのできっちりと休憩を取るつもりだった。特に二人ともまだ子供であり、しっかり寝てすくすく育ってほしい気持ちがモモンガにはある。
「モモンガ様。本当に野営でよろしいのですか? グリーンシークレットハウスなどを使えば、ナザリックの外でも快適に過ごせるはず。御身をこのような土の上で休ませるのは、私どもとしては非常に心苦しいのですが」
「この世界の平均的な強さは、思った以上に高い。人間種があのレベルであり、空を縄張りにする飛行型モンスターが50や60もあるなら、地上に出現するモンスターも同様に高いであろう。そんな環境で、グリーンシークレットハウスのような防御力に不安が残るアイテムで過ごせば、外から襲撃された時に対応がどうしても遅れてしまう。<
「勿論でございます! 御身の憂慮に気付けぬ身が恥ずかしいばかりです……」
「これから、そういった事を学んでいけばいい。私とて、この世界でどうするのが正解なのかを模索している最中なのだからな」
一日歩いただけでいくつもの発見がある。それらに対し、ナザリックはどう向き合っていくべきなのかは今後の課題なのだ。疑問に感じたのであればきちんと自分に相談し、共に解決法を探していくのが正しい姿。そう考えているからこそ、こうやって聞いてくれることはモモンガとしては嬉しかった。
「この辺りであれば、仮に襲撃があっても気づきやすいかと思います」
「では、ここを今日のキャンプ地とする」
場所が決まれば木を集め火を起こし、鍋を火にかけたらセバスがマーレとアウラの料理を作り始める。残りの4人は何もしない……と言うか、何も出来ない。ゲームアバターである
それはモモンガだけではなくNPCも同じだった。どうもスキルが絡む行動を行おうとすると、対応するスキルがないと必ず失敗してしまう。しかし、ゲーム内の設定であるフレーバーテキストに調理が出来るや掃除が出来ると書き込んであると、なぜかは分からないがスキルが無くとも失敗はしない。そしてこの5人の中で調理が可能なのは、執事としてのスキルが完璧と設定されていたセバスだけである。
(この辺の仕様がどうにも不便なんだよな。元々作られている料理を火にかけるだけとかなら俺でも大丈夫だが、一からの作成となるとスキルが必須……この世界の住民も同じなのだろうか?)
その辺りもエ・ランテルで探らねばならんなと思うモモンガだったが……シャルティアと何やら話していたアウラが急に真顔になり、鼻歌を歌っていたマーレに静かにするようにジェスチャーし始めた。
「ん? どうしたんだアウラ」
「こっちに、複数人近づいてきています。それもかなりの速度で」
「なんだと!」
アウラはレンジャーの
アウラの言葉を受けて、セバスもナイキ・マスターが習得可能な『気の探知』で彼女が指さす方向を探る。
「アウラ様の仰られるように、まっすぐここを目指していますね。数は……30いますね」
「あたしはもうちょっと多いと思う。35かな。5人は潜伏スキル持ちなのかも」
「セバスよりも、アウラの方が探知力であれば上。隠密や潜伏を持つ相手がいると考えるのが定石だな」
モモンガはさてどうするかと戦闘思考に切り替える。こちらに向かってきているのであれば、狙いはどう見ても自分達だ。それも速度が速いのであれば、どう考えても襲撃としか思えない。
迎え撃つか。それとも転移などで距離を離すか。答えは───
「マーレは向かってくる相手がモンスターであれば、私の合図で広範囲魔法を使えるよう準備を。シャルティアはスポイトランスを装備して私の護衛に回れ。アウラは弓を装備。範囲殲滅から逃れた相手を狙撃しろ。特に隠れた相手がいるなら、それを一番に狙え。セバスはアウラの前衛を務めろ。私は転移魔法をいつでも使えるようにしておく。それと隠れている相手への対策もな。<
「迎え撃つのですね!」
「いい加減、我らの戦闘力が通じるのかのテストも必要だったからな。戦力実験の良い機会だ」
相手が不明なのが懸念事項ではあるが、今回は見送ろう今回は見送ろうとなぁなぁにしていたらいつか後手に回ってしまう。
「明日やろうは馬鹿やろう。ぷにっと萌えさんの言葉だったかな」
素手での格闘戦主体のセバス以外が武器を構え、待ち構えていたところに集団が姿をみせる。小さな子供ぐらいの人影が20体に、3mほどの巨体を持つ人影が10。それらは非常に醜悪な見た目をしており、一目で何なのかがモモンガにも分かった。
「ゴブリンとオーガとトロール」
ユグドラシルでも非常にポピュラーなモンスターであり、モモンガも何十、何百と葬ってきたモンスターだ。えてしてゴブリンは弱いモンスターで、オーガやトロールも高レベル地帯に行かない限りは大した敵でもなかった。しかしここは異世界。ユグドラシルと同じと認識したら、しっぺ返しにあってもおかしくはない。
「アウラ! やつらのレベルは!!」
「ゴブリンは20から30! オーガとトロールはどっちも45以上……一体だけ63がいます!!」
「チッ! そこそこ面倒なやつがいるか」
アウラは目視している相手のレベルを、色で認識できるスキルを保有する。その正確さはセバスすら上回っており、彼女が63と言うなら事実だろう。オーガやトロール種の63。ユグドラシルの基準に乗っ取ればかなりタフだ。モモンガが位階魔法の最上位───第十位階を最強化し、三重化まで重ねてようやくワンパン出来るかどうか。
「武器を手にして、眼が血走ってるな。どう見てもこっちを狙っているようにしか見えん。仕方がない。マーレ! 迎撃開始だ!!」
「は、はい! <
マーレが手に握る杖を地面に叩きつけると、疾走していたゴブリンの真ん中辺りが微かに青色に光り、次の瞬間には強烈な冷気が発生する。巻き込まれたゴブリンたちは一秒で肉の芯まで凍り付き、一気に20の内14体が即死した。しかし6体は逃れていたのか、死亡した仲間の方に目を向ける。その隙を狙い───
「仲間がやられたからって、気を取られちゃ駄目じゃないかなー」
アウラの矢が飛ぶ。数は六本。寸分たがわず残ったゴブリンの頭を吹き飛ばし、こちらも即死させた。その光景を見て、30ぐらいまでならばまだまだ即死させられる範囲内で、ユグドラシルとそうは変わらないのだなとモモンガは認識した。
「の、残りのおおきいのも、やっちゃいます! <
残り十体を殺すために、マーレは再度範囲攻撃魔法を仕掛ける。今度は悪の生物に特攻のある攻撃魔法だ。太陽のような輝きと灼熱が炸裂し、白い光が半球状に顕現。オーガやトロールが光に呑み込まれるが……体が焼けながらも、亜人達は光球から抜け出して走り抜けてくる。オーガの表情には怒りがあり、自らの肉体を焼いた小さな生物に対する憤怒があった。
亜人達の疾走はモモンガからしても素早く、一気にこちらとの距離を詰めてしまう。オーガは手にした粗末な棍棒を投擲するような恰好を見せるが───
「ふん!」
マーレの前衛に付き、オーガを上回る速度で懐に飛び込んでいたセバスがその前に膝を殴りつけた。100レベルのモンクの拳は、鋼鉄……どころか、最上位金属ですら砕く。オーガの左足が千切れ、地面に向かって倒れていくところに───
「せい!」
アッパーが振り抜かれ、首から上が消滅した。
(セバスなら45レベルのオーガ相手なら確実に仕留められるか。俺の知るレベルと、強さに差異はなさそうだな)
戦況を見守るモモンガだが、なぜかそんな彼に向かってアウラが振り返り、いつの間にか矢を番えていた。
「ちょ! ちびすけ! 何を───」
「潜伏しているやつがいるっていったでしょ!」
そんな言葉と共に、モモンガの背後に向かって矢が飛ぶ。モモンガの背後で何かが破裂する音がした。彼がそちらを見てみると、上半身と下半身に綺麗に分かれたゴブリンが一体絶命していた。
「……この距離に近づかれるまで私でも分からないか。<
「了解です!」
モモンガの指示を受けて、アウラは目を凝らし感覚を凝らし、隠れた敵を見つけては狙撃していく。その光景をシャルティアは少し悔しそうに眺めていた。
「どうしたシャルティア?」
「く、悔しいでありんす! わ、私はモモンガ様の護衛をめ、命じられたのに……この距離で、気づけないなんて」
「気にすることはない。私の魔法でも感知できなかったのだから、恥じる必要などどこにも……それに、このゴブリンは先ほど簡単に死んだゴブリンよりも、レベルが高い可能性がある。それこそあの───」
モモンガがセバスと接近戦を繰り広げるオーガやトロールを指さした。
「オーガ達と同じように、50レベルはあるやもしれん。そのレベル帯でこういった隠れ身系に特化しているなら、アウラのようなレンジャーでもなければまず見つけられん。だから、お前が気に病むことはないのだ」
「でもぅ……」
「それに私が多少傷ついても構わん。お前には<
通常の回復魔法をアンデッドであるモモンガは受け付けないが、代わりに純粋な負のエネルギーを与える魔法でHPを癒すことができる。シャルティアが使える<
(今後は戦闘がある度に、近づかれた時の対策にトラップ系の魔法を使っておくか? でもこの世界では、フレンドリファイアーが有効。下手に魔法を使えばNPCを巻き込みかねない。かといって、俺の使える魔法だと、特化型のアサシンや幻術系マジックキャスター相手だと力不足なのが痛い)
思いのほか面倒な手合いだと感じながらも───
「さて……そろそろ私も攻撃に参加するとしようか。<
モモンガが狙うのはトロールだ。トロールは非常に高い再生能力があり、現在セバスに殴られ蹴られボコボコにされているが、純粋物理で殺し切るのはかなり難しい。再生能力を封じられる酸属性や炎属性の攻撃で仕留めるのがセオリー。モモンガが狙うのはセバスが相手をしているのとは別の個体。トロールの体が突如として業火に包まれ、全身を焼き切ってしまう。再生能力を阻害するだけでなく、炎属性は弱点でもある。レベルが離れているマジックキャスターからの高位階弱点魔法を受けて、焼き切れたトロールはそのまま炭の塊に……ならない。まだ動いていた。
「む? あれが63レベルのトロールだったか。やはり頑丈だな」
「ならば、私が止めをさしんす。<
シャルティアが使ったのは第十位階の攻撃魔法。文字通り体を内部から破裂させ、抵抗に失敗した相手を即死させる。63ともなれば通常なら抵抗し即死を免れるレベルだが、モモンガの魔法により弱っているトロールには難しかった。元々腹が出ている外見をしているトロールだが、その腹が一気に風船の如く膨れ上がる。それを手で押さえて止めようとするが、膨張は止まらない。
ボンッ! 破裂音をさせながら、トロールの内臓が周囲に散らばる。あたりには血煙が舞い、強烈な臭気を漂わせた。
「あははははは! たーまやーですね、モモンガ様!」
「かーぎやー……とでも返せばいいかな?」
汚い花火を見て嬉しそうに笑うシャルティアに対し───
(あれ、人間だった頃の俺が見たらグロ過ぎて卒倒してたな……とりあえず、俺たちの戦闘力はこの土地でも通用する、で良いかな)
マーレとセバスのコンビにより、残りのオーガやトロールもしめやかに爆散して絶命していく。アウラも索敵必殺が終わったのか、セバスの加勢に参加していた。
(けど、俺の魔法一回では殺し切れなかった。即死魔法ならまた違ったかもしれないが、抵抗されて失敗するかもしれないから過信は出来ない。一体一体なら怖くはないけど、今のモンスターみたいなのが普通だとしたら、連戦をしていたらMPがすぐに底を突いてしまう。戦闘が避けられるなら、基本は回避するようにした方がいいな)
ナザリックの地表部を調査に来た、エ・ランテルからの客人である『漆黒の剣』。あの人たちが穏やかな性格であり、またこちらも最初に捕縛などの対応をしなくて良かったと、自分の判断を内心モモンガは褒めるのであった。
この世界でモンスターと戦闘したらどうなるのか回
ユリ・ドッペル(51レベル)にオーレオール(100レベル)バフ+ユリのために創られた装備類
上記が魔法最強化したモモンガの朱の新星を5発喰らってもギリギリ耐えられるので、12レベルも高いトロールなら装備品とバフが無くてもギリ2発までなら耐えられると想定しています