転移後世界の仕様が変更されました   作:リセット

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レベル31 求道②

「あんた達が、師匠が言っていたガゼフに用がある新人たちか。すまねえな、疑うような眼を向けちまって」

 

 最初はなんだこいつらとでも言わんばかりの目を向けていたブレインだが、ランポッサからこれを見せたら良いと渡されていた紙を手渡したら態度が軟化。よろしくなと気さくな挨拶をされた。

 

「しっかし俺が教官役ねぇ? 前に適性がないと言われたが、どういう風の吹きまわしだ?」

「不都合だっただろうか?」

「そうじゃねえが、師匠の事だし、何か考えがあってのことか……いいぜ、俺も武器の手入れだけじゃ腕が鈍る。師匠に比べたらまだまだ青二才だが、今後ともよろしくな」

 

 ブレインがコキュートスに手を差し出す。それが握手を求めてると気づいたのか、コキュートスも同じく手を出す。二人の手が組み交わされて──

 

「へぇ……やってるね旦那」

 

 握手を通じてコキュートスの練度を計ったのか、ブレインが面白そうな相手を見つけた顔をする。

 

「私ノ技量ガ分カルノカ?」

「なんとなく程度ならな。難度だけならガゼフ並みか? けど──」

 

 なんか妙な感覚があるなと口の中で小さくブレインは呟く。コキュートスがこの都市にいる武芸者と比較しても上位とは見抜いたのだが、どうにも違和感が拭えない。その感覚が何なのかは分からなくて、ブレインは少しだけ首を傾げたくなった。

 

 そんな二人のやり取りを見ながら、モモンガはこっそりアウラに問うてみた。

 

「ブレインさんは何レベルだ?」

「ええと……低いです。60前後しかありません。でも──」

「でも、ステータスは高い。コキュートスに負けないぐらい。そうだろ?」

 

 アウラが言い淀んだので、その続きをモモンガが口にする。その言葉にはいとアウラが答えた。

 

(これでデスリビルドの実例四人目か。ガゼフさんとやらも同じだろうから、それで五人。この調子だと、他所でもリビルドを実行した者はいるだろうな……実際連邦だけで何人いるんだろうか?)

 

 自死によるものなのか、それとも他殺によるものなのかは不明だが、立て続けにリビルド実例が出て来た。これで全員な訳がないとモモンガは見当を付けている。間違いなくまだまだいるだろうと。

 

(あーやめやめ。ここでうだうだ考えても意味がない。まずはパンドラに相談だ。それと……デミウルゴスにも言っとかないとまずいよな。変に暗躍されても困るし。アルベドもそろそろ謹慎を解くべきか? 外には出せないが、ナザリック内であればまだ……でも牢から出したら、アルベドが暴走しないように見張りがいるんだよな──)

 

 リーダーとして考慮しなければいけないことが増えてきて、若干モモンガのキャパシティをオーバーしつつあるが、今はラナーのところにいるパンドラに相談すれば大体なんとかなるので、そこまで負担になっているわけではない……不穏なところはあるものの、モモンガの身の安全等に最大級の配慮をするデミウルゴスもいるのでまぁ……と言ったところだ。

 

 アルベドはどうあがいてもアルベドなので、モモンガは一番頭を悩ませている。これでアルベドに全責任があるならまだしも、彼女の性格があんなことになっている要因の一端は、モモンガにもある可能性が高い。だから一方的に糾弾するには、どうにも気が引ける状態だ。

 

 ふるふると首を振ってネガティブな思考を追い出し、モモンガが気を取り直そうとしていると──

 

「そんじゃ、ま、一本やっていくか?」

 

 ブレインが刀を取り出したのを見て、アウラとモモンガはヒェッっと慄く。宮殿なら安全だと思っていたら、まさかの申し込みである。安息の地はこの都市にはないとモモンガは悟った。

 

「決闘カ?」

「俺の指導で武技を学ぶんだろ? 旦那は良い腕をしてそうだが、それでも実戦でどれぐらいの技量なのかを見ておきたい。それにコキュートスの旦那も、実力が不確かなやつから教われねえだろ?」

「ソレハ……ソウダガ……」

 

 決闘と聞いて、どこかコキュートスには影がある。つい数時間前の彼ならば、強者との戦いとなれば喜び勇んで挑んだだろう。しかし……つい先ほど、他者の介入が無ければ死んでいた遥か格上との戦いを経験したせいで、少しだけ自信を無くしていた。

 

 果たして、この小さな腕で何が成せるのだろうかと。

 

 その様子にん?と疑問を持ったブレインは──

 

「師匠とやりあったか?」

「……アア」

「そうか。それで心へし折られた口か、旦那は」

「その口ぶり、ブレイン様は、他にもランポッサ様との決闘で、傷心された方を見た事がおありなのですか?」

「幾らでもな。師匠に戦いを挑みたがるのは、大抵自分の腕に自信がある連中だ。村一番の喧嘩自慢とか。そいつらは俺こそがこの国で一番強いと自負しているから、武神祭以外でもこの都市に来る。大半は街中での決闘で、自分が森の中で思いあがったゴブリンだと痛感するが、そうでないやつもいる。そんな輩が宮殿に来ては、師匠に喧嘩を売るんだ……そんで思い知る。自分は弱いって」

 

 今の旦那みたいにな。そう言って指さされたコキュートスは、何も言い返せなかった。ブレインが今言った言葉は、コキュートス自身が自覚している。偉大なる主によって与えられた強さ。確かな自信を持っていた強さ。それが打ち砕かれたのだ。

 

 その様子に思うところがあるのか、ブレインはさらに言葉を続ける。

 

「……旦那に偉そうに言ってみたが、心が折れかけたのは俺も一緒だ」

「ブレイン様も……ですか?」

「武神祭でな。当時俺は自分が一番強いと自惚れてた。事実、俺は参加者をなぎ倒して決勝まで進んだ。そこでガゼフとやりあったら、殆ど互角……少しだけあいつの方が上だったかもな。結局、決着がつく前に、当時の今よりも血気盛んだった師匠が飛び込んできて、ガゼフ諸共叩きのめされた……初めてだったよ。大戦を生き延びた亜人や異形ならまだしも、同じ人間種で互角に戦えるやつも、60を超えてるのに異常に強い爺さんも」

「それで心が折れかけた?」

「正しくは折れてたな。こんな強いやつがいるのに、なんで俺は自分が最強だなんて思っちまったんだろうな……そんな風に思っちまったよ」

 

 懐かしそうに語るブレイン。彼は自分の敗北を語っているが、その顔には照れくささは多少あるものの、悔しさなりは滲み出ていない。そんなこともあったなと、ある種の思い出を綴る穏やかさだ。

 

「ナゼ? 一度折レタ剣ガ、ドウヤッテモウ一度再起シタノダ?」

「理由ねぇ……折れた俺の隣で、師匠に喰らいつこうとするガゼフ(馬鹿)がいたからかな? あいつ、俺と同じで全く師匠に叶わなかった癖に、それで諦める気もなかったのか何度も挑んで……それを見ていたら、俺は何してんだろなって……で、気が付いたら師匠相手に、刀抜いて挑んでいた」

 

 諦めないガゼフに感化されたのか、ブレインも同じように一度ならず何度も何度もランポッサに立ち向かった。それでも一切届かず、ボロ雑巾のようにされた二人だが……その姿に、自分と同じように死を何度も乗り越えられると確信し、ランポッサは二人を直弟子にした。その確信は間違っておらず、ブレインとガゼフは元は95はあったレベルを1まで落とし、リビルドを行って60近くまで戻している。

 

「あー、つまりあれだ。一度負けたからってクヨクヨすんな。初見で師匠とやりあうなら、俺やガゼフが行うのと似たような鍛錬が必要だからな」

 

 似たような……と聞いて、コキュートスは目を閉じて考える。その鍛錬とは、自分が考えているのと同じ訓練なのだろうかと。

 

「……一ツ問イタイ。ブレイン殿、汝ガ行ウ鍛錬トハ……蘇生ヲ活用シタ、レベルダウンニヨルクラス構築ノ事ダロウカ?」

「なに!?」

 

 コキュートスの発言に、ブレインではなくモモンガが反応する。現状、思いつきはしても実行はする気の無かったデスリビルド。それをコキュートスが口にするとは思っていなかったからだ。プレイヤーならゲーム時代に多数行っているから思い当たっても、NPCにはそうそう思いつかない概念の筈。そう思っていたのに、実際には全く違った。

 

「それをどうやって知った?」

「……デミウルゴスカラ教エテ貰イマシタ」

「デミ……ああ、そうかクソ! あいつなら思いついてもおかしくはないか」

 

 この世界の住民のレベルダウンを画策していたナザリックの軍師。殺して蘇生すればレベルダウンをすると知っているデミウルゴスならば、この仕様を活用すればビルド構築に利用できるとすぐに勘付いてしまう。それに気づいたモモンガが、よりにもよってあいつが知ってしまっているのかと頭を抱えたくなる。

 

 ブレインに断りを入れてから、コキュートスを連れて部屋の隅までモモンガは移動して──

 

「それを……既に実行しているのか?」

「マダデ御座イマス。今スグハ、ナザリックノ防衛力ガ低下スル故行エナイトデミウルゴスカラハ伺ッテイマス。ソレニモモンガ様ノ許可ナク行エル案件デハナイト言ッテイマシタ」

「私の目が届かないところでやる気はないか……ならば、まだましか」

 

 これでモモンガがあずかり知らぬところで、もう実験をしていますとなったならモモンガの御怒り案件であったが、どうやらデミウルゴスはそこの筋は通す気でいたのか検討はしても実行には移らなかったらしい。そのことに安堵するモモンガを見て──

 

「……モモンガ様ハ……我ラニ、ビルド再構築ノ機会ヲオ与エクダサイマスカ?」

 

 コキュートスが嘆願を述べた。それを聞いてモモンガは駄目だと言おうとしたが……すぐに言葉は口から出てこなかった。数回言い淀んだあと──

 

「今は……今は駄目だ。デミウルゴスが懸念しているように、ビルド再構築を行うならば時間が必要になる。仮に全員が1レベルまで落ちれば、防衛力が落ちすぎる。まずはナザリックの僕が全員、最低でも80レベルになるまでは保留するべき案件だ」

「承知……致シマシタ」

 

 モモンガは答えを先延ばしにした。ランポッサを見る前であれば、行うべきではないと断言出来た。命を使ったリビルドなど正気ではないからだ。けれど実例の存在と、行った個体の単体脅威度。これらを考慮するのであれば、ナザリックの強化案としてデスリビルドは有用だ。

 

(……連邦の住民は、皆理知的だ。敵対するような人達とは思えない。だから俺個人がどうこうと言う意味でなら、別に警戒する必要はない。けど、一組織の長としては、リスクに対する備えは絶対に必要。俺個人の心情を抜きにするならば、将来的に自殺リビルドはしておくべきだ……でも──)

 

 長として……あるいはナザリックの主としてモモンガが命じれば、NPCは喜んでリビルドを行うとモモンガ(鈴木悟)は睨んでいる。今までの忠誠心とやらを考慮するなら、むしろ自分の命を差し出してでもモモンガを守る盾を増やす事こそ、忠義の発露だとでも言わんばかりに。

 

 しかし……しかしモモンガにとって、僕に自殺しろと命令するなどストレスの塊のような行為。ユグドラシル時代はデータに過ぎなかったかもしれないが、コキュートスのように今ここにいる彼らは生きているのだ。蘇生するのだから潔く死ね! と身内に言えるような人物であれば、モモンガはたった一人でナザリックの維持資金など稼いでいない。

 

 これが誰かの策略であればそちらを恨めるが、あくまでもゴーサインを出すかどうかはモモンガの手に委ねられている。モモンガにとって恩人であり、同時に友人たちであるギルドメンバーが遺した影法師。ある意味彼らの子供と言える僕を、モモンガの命で殺させるのだ。

 

(……ナザリックの長としてなら、ある程度戦力が整ったところで、一人ずつリビルド作業に入らせるべきだが……俺に選べるのか? こんな選択肢を?)

 

 パンドラに相談はするつもりではあるが、それでも選ぶのはモモンガの判断だ。だから悩み──

 

「お前は……リビルドを行いたいのか?」

 

 コキュートスに問うてみた。言い訳の余地がない敗北を期したコキュートスなら、実行したいと答えるだろうと予測しながら……しかし。

 

「……………………分カリマセヌ」

「分からない?」

 

 返ってきた答えは断言ではなかった。

 

「私ノ、私ノ力ハ武人建御雷様ガ入念ニ計算シ、コレデアレバ十分ダロウト御創リ下サッタ尊キ力デス。デスガ私自身ガコレヲ否定シ、新タナ力ヲ得ヨウトスルノハ……正シイノデショウカ」

 

 自らの創造主の考えを自ら否定し、自分で思う最強に造り替える。これは僕として正しいのだろうか……それとも間違っているのだろうか。例えば刀を振る技術を磨く。例えば新たな知識を増やそうとする。これは今の延長線上にある力ではあるが、リビルドとなれば根っこからの改造となる。仮にモモンガが命じるのであれば行えるが、それでも創造主の事を想えば悍ましき行為そのもの。将来転移技術が発展して建御雷に会えたとして、そこで否定でもされようものなら……きっと自分は立ち直れないとコキュートスは自戒する。

 

「正しいかどうか……それはコキュートスだけの考えか?」

「イイエ。一般メイド達ヲ鍛エテイマスガ、彼女ラヲ始メトシタ非戦闘員ノ僕モ根底ニハ似タヨウナ思考ガアルト思ワレマス。コレハデミウルゴスノ考エデスガ、非戦闘員トシテ産ミ出サレタ僕ガ、死亡前提ノ構築ヲ行エバ酷イ苦痛ニナルダロウト」

「まぁ……プレアデスならまだしも、一般メイドはあくまでも侍女として設計されているからな。戦闘行為そのものまでならまだしも、死亡前提のリビルドは設計外過ぎるか」

 

 単純にレベルアップして、モモンガを守る防衛戦力の一員となる。ここまでならまだ、主人のためにいざと言う時には盾となる召使いとして誤魔化せる。しかし本格的な鍛錬……それもデスリビルドを行うようなガチ戦力となると、それは一般メイドの設計コンセプトからは外れてしまう。偉大なる創造主から与えられた自らの在り方(設定)。それをどこまで逸脱していいのか、NPCも測りかねている。

 

「……ままならんな」

 

 心情云々を抜きにすれば、デスリビルドはするべきだとモモンガの理性は囁く。それはNPC達も同じで、モモンガを守る盾は増やすべきだと……しかし本能の部分が、どうしても否定してしまう。

 

 モモンガはある種の親心から……僕は子心から。答えが早々でない疑問に対し、これ以上二人で意識を割いても時間の無駄。そう考えたモモンガは、部屋の隅からセバスらの元に戻る。

 

「ほう……この槍、中々良い代物ですな」

「だろ? これは昔ランポッサ様が実際に使っていた物で……話は終わったのか?」

 

 戻って来た二人に気づいたのか、ブレインは刀を手に握り立ち上がった。

 

「長話もなんだ。俺も人を育てるのは苦手だから、まずはコキュートスの旦那とこれで語り合いたい。どうだ?」

 

 再度一本どうだと誘うブレインに、コキュートスは暫し思考し──モモンガを見たら良いぞと首を振ったので──

 

「デハ、オ願イ申ス」

 

 ブレインとの決闘を受け入れた。




設計思想やコンセプトってどこまで貫くべきなんだろうね回

デミえもん:思いつきはしたものの勝手に実行したらモモンガさんがおこになるからまだやっていない

アルベド:氷結牢獄で謹慎中
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