転移後世界の仕様が変更されました   作:リセット

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レベル32 求道③

 コキュートスとブレインが面と向かって対峙する。ブレインの獲物は太刀。アダマンタイトにルーンが刻まれた代物で、ランク判定としては聖遺物相当。魔法武器以外に対する高い耐性を持つ──魔法武器でも、低レベル装備だと通用しないコキュートス相手にも十二分に通用する装備だ。

 

 対するコキュートスは、ランポッサの時と違い持つ武器は全て聖遺物級に留めている。あくまでもどの程度の実力なのかを見る手合わせなので、下手に神器級や伝説級を持つとコキュートス従来の実力が見えにくくなる。それを見越しての聖遺物装備だった。

 

「セバス。それにアウラ。ブレインさんとコキュートスにステータス上の差はそれほどない。それは事実だな?」

「はい。偽装などが無ければ、スペックは互角です」

「スペックだけなら互角……しかし、レベル差は存在する。ブレインさんが60なら、100のコキュートスが非常に有利だ。普通なら」

 

 ここはユグドラシルではないので、レベル差補正があるのかどうかは不明だなとモモンガはボソッと呟く。DMMO、つまりゲームであった頃は、レベル差による補正値があった。

 

 基本的に似たようなビルドで10レベル離れると、ステータスやこのレベル差補正などにより、レベルが低い側の勝率は皆無に等しかった。

 

 ブレインのレベルが本当に60なら、コキュートスとの手合わせなど意味がない。しかし、それは同じビルドの話。デスビルドで最上位に揃えているなら、60でも100相当のステータスになる。

 

(ユグドラシルビルドなら、60だと総計は400前後。1.5倍でも600になって、1.6倍なら640。コキュートスが650から660だからステータスとしては同等。だがレベル差補正があるなら、コキュートスが有利。とは言え──)

 

「ブレイン様がランポッサ様の直弟子ならば、あの方と同じく倍化の武技をお持ちなのではないでしょうか?」

「その可能性は高い。あれを使われたら、補正値があったとしてもすり潰されるな。それにランポッサさんがいなければ、『両翼』……つまり、ブレインさんと、ガゼフさんとやらがこの国での最強候補に挙がるらしい。となると……使えるんだろうな。能力全解放とやらを」

 

 能力値2倍のバフ。非常に恐ろしく、同時にモモンガにとって魅力的な武技だ。もしもブレインもあれを使えるならば、この武技は専用特技などではなく、誰にでも扱える汎用的なスキルと言う事になる。そして自分達も武技を使えるようになるなら──

 

(戦力拡大に繋がる。万人が扱える技術体系の恩恵は大きい。武技による強化が行えるなら、リビルドに拘る必要もなくなるから、良いことづくめだ)

 

 そんなモモンガの思惑とは別に、コキュートスは目の前にいるブレインを非常に警戒していた。

 

 ──握手をした段階では分かり難かったが、こうしてお互い装備を手に向かい合うと凄まじいな。この錬気……シャルティアを相手にしているつもりで挑まねば、私は死ぬな

 

 正眼に構えたブレインからは、濃密な剣気が立ち昇っている。コキュートスの本能が、シャルティア──つまり、ナザリックに於ける総合戦力最強格の守護者に匹敵すると警報を発する。手を抜ける相手でも、油断して良い相手でもないぞ、と。

 

 シンっと空気が張り詰めて鎮まり──

 

「参ル」

「来い」

 

 コキュートスが飛び出す。風を置き去りにした疾風の踏み込み。握られたハルバードが左上段から振り下ろされ、もう片方の戦斧は右上段から。当たれば城壁すら一撃で分断される剛撃だが──

 

「当たんねえよ」

 

 ガゼフやランポッサ、その他この都市には剛力の持ち主など幾らでもいる。その全員が当然のように技量も兼ね備えている。コキュートスの剛撃はそれらと比べてそん色ないが……あくまでもそん色がないだけ。決して超えてはいない。ハルバードは体を半身ずらして避け、戦斧は刃で滑らせて受け流す。その動きにより、コキュートスの体が斜め前に引っ張られる。

 

 この都市の武人達であれば、ここから武技を使って無理矢理体勢を整えたりするが……コキュートスは()()武技を習得していない。ユグドラシルの攻撃スキルは、あくまでもゲームとして実装されたスキル。蟲王が習得するスキルに、体勢を整えるようなものはない。なにせそう言った戦闘の駆け引きは、DMMOには不必要だからだ。慣性の僅かな動きや重力の影響は、ゲーム内では再現されない。だから、その手に対処可能なスキルもない。

 

 創造主により武器術の達人として設定されているコキュートスだが、それはユグドラシル基準での武器術。この世界でも武技抜きであれば一級品の技量を持つコキュートスだが……武技込みの戦い、それも同格相手に慣れていないが故に、簡単に隙を晒してしまう。

 

「こいつは……なるほどな」

 

<一閃>

 

 何に思い至ったのか、ブレインが言葉と共に白刃を奔らせる。コキュートスの外骨格は100レベル相当の耐久性を持つが、それに耐えられなかった。下部右腕が三寸ほど斬り込まれる。

 

「グゥウウウウウ! バアッ!!」

 

 激痛を堪えて、刀を振り抜いた直後の硬直狙い。コキュートスの全身から冷気が放出され、近くにいるブレインを凍らせようとする。しかし──

 

<即応反射><破魔両刀>

 

 ブレインは慣性制御で強制的に体勢を整え、ついでにもう一つ武技を発動。握る太刀が青白く輝き、振り払われると冷気が尽く消失する。

 

「ソレハ!」

「破魔の剣ってやつだ」

「クッ! 冷気ハ通用センカ!!」

 

 もう一度試しに冷気を放出するコキュートスだが、先ほどと同じように冷気は祓われる。

 

「あれは……属性攻撃に対するレジスト効果か?」

 

 似たようなスキルはユグドラシルにもあった。一定時間の間だけになるが、使用者の物攻を参照して属性攻撃への防御として活用されていた。恐らくそれに似た武技だろうとモモンガは推測する。

 

 そこからも両者のやり取りは続く。コキュートスはスキルや四本腕を駆使して攻撃し、時には防御を。

 

 ブレインもスキルらしき攻撃を行うが、見たところ武技の方が多用されている。それらを観察しながら──

 

「状況は……どう見てもコキュートスに不利だな」

「……なぜ、ここまで差が生じるのでしょうか? 見たところ、ブレイン様はあの倍化の武技は使ってないご様子。であれば、ステータスが同様で、かつレベルが40は高いコキュートス様の方が有利な筈ですが……」

「いや、むしろ予想通りではある。レベル差補正があったとしても、あれが有利に働くのはダメージ判定部分だ。速度などには影響がないから、見切って躱せるならそもそも補正による差は殆どでない。補正値によるメリットがほぼ無くなれば、あとは技量と能力値と手札の切りあいが勝敗を分ける」

「読みあいだとコキュートスに不利……と言う事ですか?」

「手札差がある以上どうしてもな。スキル数はレベルが高いコキュートスの方が多い。しかし、あいつの持ち味は戦士でありながら、魔法や属性攻撃を純物理の間に挟み、相手を翻弄する準魔法戦士的な戦い方だ。この都市だとその強みが大分潰れる」

 

 これはモモンガも抱えている問題だが、連合国の都市で戦闘をする場合、攻撃に魔法を用いるビルドは<魔法抑止領域>の関係上著しい制限がかかってしまう。コキュートスであれば冷気を放出して相手に距離を取らせてから、氷弾などの魔法で注意を逸らし、その隙に踏み込んで本命の一撃などを叩き込む多彩な戦闘方法が取れなくなる。

 

 現在モモンガらがいるのはランポッサと試合をした第一訓練場とは違い第三訓練場だが、ここはどうやら<魔法抑止領域>の影響にあるようでコキュートスは従来の戦闘が出来ていない。もっとも──

 

「それを抜きにしたとしても、ブレインさんの方が上だろうな」

「それはどうしてですか?」

「潜り抜けた修羅場の数だ。本格的な死闘を何度もしているだろうブレインさんと、ナザリック外との戦闘経験は大侵攻の時ぐらいしかないコキュートス。どちらの方が上かなど語るまでもない。言ってしまえばプレイスキルが全く違う」

 

 ……コキュートスは設定を与えられているので、本当の素人と比較すれば上位の技能を持つ。だが、その技能を真に活かせる機会など殆どない。モモンガも格闘技などを全く知らないで確かな事は断言できないが、設定による武器術と猛者たち相手に培われた武器術。より優れているのはどちらかと言えば、経験を得て多数の修正をされた後者だろうと当たりを付ける。

 

(ヘロヘロさんといったギルメンのプログラマー達が良く言ってたな。最初から完璧なプログラムなんて存在しない。何度も修正して、ようやく仕様通りに動くとか。仮にコキュートスの近接設定が機能していたとしても、何度も修正パッチが当たっているであろうブレインさんとの間には差がある筈だ)

 

 だからコキュートスの方が追い詰められている。本当に細かいフェイントや、先読みの応酬。ステータスやスキルが関わらない、技量の面で蟲王が読み負けているのだ。

 

 尾を振り払って懐に潜り込もうとしたブレインを追い払い、コキュートスは息を整えようとする。対する剣士は汗もかいておらず、呼吸に乱れもない……多数の死闘を経験し、体の動かし方を最適化し続けるブレインと、その時点での達人として産み出されたコキュートス。その差が出る一幕だった。

 

「グ……素晴ラシイナ。ソレホド差ガ無イト思ッテイタガ、蓋ヲ開ケレバコノ様カ。一体、ソコニ至ルマデニドレホドノ死闘ヲ体験シタノダ」

「この手合わせの前に、俺の鍛錬法について聞いていたな。蘇生を使ったとか。概ね正解だ。師匠やガゼフ、それ以外にもこの都市にはわんさか強い奴がいる。そいつらと何度も何度も戦って、死んで、殺してを繰り返した。死にたくなけりゃ強くなれ。それがこの都市の暗黙の了解だ。望むところで死なないように、相手が何をするのかを読めるように自然と鍛えられたぜ」

「ソウカ……私ノ予想ハアタッテイタカ……ソレダケデナイ。クラス構築トハ別ニ、技術モマタ、コノ都市デ暮ラス中デ研ギ澄マサレタカ」

 

 悔しそうにコキュートスは語る。刃を交えて語れば、おのずと己の力量がブレインに劣っていることぐらい判明する。ランポッサはステータスの部分が圧倒的に上回っていたから、食らいつくことすら敵わなかったとしてもまだ納得はいく。しかし、能力値が同格のブレイン相手ですら、ナザリックで随一の武器戦闘に長けた己が届かない。

 

 ……事実として、本気で武道を修めんとする達人相手には届かない現実。それがコキュートスのプライドを……偉大なる創造神に、最強であり至上として疑わなかった御方から賜わった、己を構成する数々が無意味である現実が、あの墳墓こそを絶対にし唯一無二と信じたいNPCの心情を粉々にしようとする。

 

 息が切れているのとは別に、武器を握るコキュートスの手が震える。それは己への怒り。

 

 この世界の水準が高いと、デミウルゴスは何度も警鐘を鳴らしていた。暗躍癖のある同僚が、真価を見極めるまでは迂闊に行動できないとボヤくのをコキュートスは数回聞いている。

 

 その時のコキュートスは、素晴らしい武芸者がいるのだなぐらいにしか考えていなかった。この都市に来てセバスと一目連が試合するのを見ても、自分ならどう戦い()()()()()しか思考になかった。

 

 最強と呼ばれるランポッサ相手にしても、少しは善戦できるだろうと高を括り……今はその直弟子相手に、己だけが息を切らして無様な姿を晒している。

 

 ──これに怒りを抱かずして、何が武人か。何が強さか

 

 思えば、この世界に来てから自分は本気で訓練しただろうかとコキュートスは自問する。非戦闘兵である僕たちに稽古をつけていたが、自分の腕を磨くことはしただろうかと。

 

 ──私は……弱い。日常的に己を追い込み、剣を研ぎ澄ませる彼らと、なぜ勝負が成立すると思い込んで……

 

 一般人相手ならば、コキュートスの方が絶対的に強い。きちんと考えられてくみ上げられたビルドと、設定で与えられた一流の戦闘技術は嘘をつかない。しかし……超一流と比べれば、なんとも儚い陽炎のようで……

 

「こっちも一つだけ聞いて良いか?」

「ナンダ?」

「旦那は魔法で造られた人造生命……か?」

 

 ブレインの問いに、その場にいた全員が目を剥く。なぜそれに気づいたのかと。

 

「……ナゼソウ思ウ」

「太刀筋が人造生命体特有なんだよ。ゴーレムにしろ、何にしろ、そう決められて産み出された生命の剣とでも言えばいいのか。道場剣術とも違う、あまりにも綺麗な太刀筋。旦那はデス・ナイトってアンデッドを知ってるか?」

「知ッテイル」

「なら話が早え。あれは、まぁ盾を使う技術が上手い。初見なら惚れ惚れするぐらいにな。でも良く観察すれば、あまりにも綺麗すぎる技術なんだ。本能として、盾の使い方が上手い。旦那の剣筋や武器の使い方はそれに近い。最初から、そう言う風に武器を扱うよう、設計された動きだ。あー、つまりあれだよ」

 

 ガシガシと片手で、どういえば伝わるのかを考えながらブレインは──

 

「はっきりと言えば、旦那の中にあんたそのものな剣が見えない。ガゼフにしろ師匠にしろ、己の太刀筋があるもんだが……やりあって見えるのは、教科書通りの振る舞いだ」

 

 教科書通りと言われて、コキュートスは黙る。己が人工生命かと問われたら、人工ではなく神工だと訂正したいぐらいで、創り出された生命なのは間違いがない。

 

「だから……どういえばいいんだ? 分かりやすい……すげえ読み易い。旦那はあれだろ、あんまり実戦経験もないな。フェイントの入れ方も捌き方も素直過ぎる」

「ダカラ弱イト?」

「弱い……いや、都市にいる並の連中よりかは断然強いと思うぜ? でも読み易いんだ。その辺を師匠は何か言ってなかったか?」

「……若人ト。私ヲ見テ、ソウ断ジテイタ」

「若い……あ、そういう……旦那は産み出されてそこまで年数が経ってない口か」

 

 刀を交えた件と、ランポッサの発言からブレインはコキュートスが見た目以上にまだまだ若いのだと察していた。若輩者の武芸と言われたら、太刀筋の素直さにも合点がいくと納得する。

 

 納得するブレインとは別に、コキュートスは少し怒りを露わにする。若い……と言われても、彼自身の意識では結構な老齢なのだ。それこそモモンガにもしも子供が出来たら、自分が爺やになりたいと思うぐらいには……

 

「私ヲ愚弄スルノカ!? ブレイン殿、貴殿ガ想像シタ通リ、私ハ偉大ナル御方ノ手デ、コノ世ニ生ヲ授カッタ。ソノ御方ハ、私ヲ年老イタ武芸ノ達人トシテ創造サレテイル。ソノ私ヲ若者ナドト……」

「そんなつもりはねえよ。けどよ、たぶんあんたは産み出されてから、そこまで時間が経ってねえだろ? なら、若人で良いんじゃねえか? ……えっと、モモンガさん。コキュートスの旦那は、あんたを様付けで呼んでたよな。旦那が言う御方ってのはあんたのことか?」

「うぇ!」

 

 ブレインとコキュートスのやり取りをぽかんと見ていたモモンガは、いきなり自分に話を振られてドキリとする。ドキリとしたが精神安定により一瞬で立ち直り、事実を言うべきか否かを思考して──

 

「……違う。私ではない。コキュートスの造り手は、私の友人だ」

 

 事実を口にした。モモンガが制止する前に、コキュートス自身が人工生命であることを認めているのだから、ここで否定してもしょうがないと言う判断だ。

 

「そうか。でも友人か……旦那は何歳なのか、あんたは知っているのか?」

「……知らないな」

「へぇ……その反応、ほんとは知っているな。ま、旦那が実際に何歳なのかはおいておくか。それにしても武芸の達人として創造されている……ねぇ?」

「ナニガ言イタイ? ブレイン殿ヨリ劣ル私ガ、武芸ノ達人ナノガオカシイカ? ソノ思考ハ、私ダケデナク、私ノ創造主ヲモ侮辱スル行為ダ」

 

 コキュートス自身は、自分が強いなどと口が裂けても言えない。しかし創造主を……武人建御雷が与えた設定を疑われて、黙っているつもりもない。せめて今の発言ぐらいは撤回させようとする。

 

 その様子に本当に侮辱なんてするつもりはないブレインは、違う違うと手を振って──

 

「いいや、そんなつもりはない。お前さんの創造主が何を想い、何をあんたに期待して産み出したのかは知らん。けどな──」

 

 侮辱するつもりはない。しかし、ここから口にする言葉は、ブレインとしての本音だった。

 

「こうあるべしなんて決められた剣で、師事を請われるのはまっぴらごめんだ。自分で磨き上げた剣こそ至高……とまでは言わねえが、誰かに決められた道ではなく、自分の足で道を決めて歩きださねえ奴に、教えてやれる事なんてねえ」

「……ドウイウ意味ダ」

「どうもこうもねえよ。言葉の意味まんまだ。旦那はどうして武技を学びたくてここに来た。創造主により与えられた、武芸の達人って要素に新しい技を追加したいからか?」

「違ウ。モモンガ様ノ御力ニナリタイカラダ」

「モモンガ様の御力……それは旦那自身が考えた事か、それとも産み出された存在としての責務ってやつか?」

「……ソレハ……」

 

 武技を学びに来たのは、将来的にそれがナザリックの益になるからだ……とは流石にコキュートスも言えない。別の下心があると勘付かれても面倒なのは分かるからだ……では、この理由を抜きにした時に、果たして自分はどうして武技を習得したいのかを考えて──

 

「即答できねえか……」

「すまない、ブレイン殿。話の途中で悪いが、それは重要な話なのだろうか? 武技を学ぶだけであれば、コキュートスにどのような理由があれ、それほど関係がないように思えるのだが」

 

 ブレインが急に言い出した謎の問いかけ。それに対して、何が言いたいんだこいつと思いながらも、努めて平静にモモンガは言葉を紡ぐ。その問いに対して頭をガシガシと掻いて──

 

「重要な話だよ。師匠を通じてガゼフに師事を請いに来たが、紹介されたのは俺だろ? ……正直に言えば、俺はガゼフほど優しく教えてやれねえ。リ・エスティーゼに来て、教えを乞う相手に情けはかけられん。この都市の流儀に則り、徹底的にやる。それこそ、旦那には俺と同じ鍛錬も行って貰うつもりだ」

「な!? ブレイン殿と同じ鍛錬……それは、まさか……デスリビルドの事か!?」

「デス? ああ、蘇生を使った修練のことをそう呼んでるのか」

 

 闘いに従事しようとする身で己が弱さを棚に上げるのは愚の骨頂。痛い思いをしたく無ければ、痛い思いをせぬように強くなれ。痛くなければ覚えませぬ。訓練と言えど……むしろ訓練だからこそ、実戦と変わらない痛みの中で、己が実力を研ぎ澄ませる事こそ肝要なのだ。これがリ・エスティーゼの流儀である。

 

 ブレインの雑さとは……これを新兵にも適用してしまう点だ。ガゼフ以上に強さへの執着心がある彼は、ガゼフと違い容赦がない。ガゼフはまだ手加減して教えられるのだが、ブレインの扱きはこの都市の標準を若干超える。だからこそやりすぎだとランポッサにも怒られて、武器倉庫で手入れをしているのだ。

 

「だがな……流石に、自分で決めてないやつに強要は出来ない。こうしろと命令されてきた相手に、死んで覚えろとまでは言わねえ。だが、俺は最強を目指す者として手加減は出来ない。教えるからには、俺も本気で取り組むつもりだ……だからこの話は無しだ。言っちゃあ悪いが、よほどの覚悟が無いと出来るとは俺も思わん。悪いが、俺に師事する話は無しだ」

 

 師匠には俺から謝っておく。そう言って頭を下げるブレインを見て、モモンガは残念……とは思わない。実際にやる前に、その危険性をこうして教えてくれたのだから、むしろ感謝したいくらいだ。

 

「そう言う事でしたら……すまないブレイン殿。迷惑をかけてしまい」

「別に迷惑じゃねえよ。むしろ俺が師匠から殴られるぐらいだ」

 

 そう言って笑い合い別れようとして──おもむろに

 

「……ブレイン殿。デスリビルドヲ行エバ、私ハ強クナレルノダロウカ」

「コキュートス?」

 

 コキュートスは動かなかった。ブレインは既に刀を納めているが、青い巨人は武器を握りしめた自分の手を見つめている。

 

「私ハ……私ハ弱イ。己ガ創造主ニ強キ従者トシテ産ミ出シテ貰イナガラ、ブレイン殿ニモランポッサ殿ニモ届カナイホドニ……今ノママデハ、私ハ何モ成セナイ。コノママデハ、私ガ私ヲ許セハシナイ。ブレイン殿……容赦モ加減モ辞サナイト言ウ貴殿ノ元デ学ベバ、私ハ強クナレルノダロウカ」

「……コキュートス。それをする必要はない。お前に苦労を掛け過ぎたようだ。お前がデスリビルドを行う必要などない。良いから行くぞ」

 

 モモンガがコキュートスに武器を納めるよう促すが、装備をインベントリに戻しただけでその場からは動こうとしない。

 

「そりゃ……教える以上は、俺も手加減はしない。旦那が強くなれるまで、本気で取り組むつもりだ」

「有難イ。ダガ……ソウダナ。ブレイン殿ガ言ウヨウニ、私ニハ決心ガナイ。強クナレル方法ガ見エテイルノニ、ソノ方法ヲ実行スル決心ガ」

「そりゃ、またどうしてだ」

「ソレハ………………」

 

 コキュートスはモモンガを見た。どうして思いついても、それを実行できないのか。その理由をモモンガには語っている。モモンガは今すぐには許可出来ないと言ったが、それとは別にコキュートス自身の踏ん切りが付いていない。

 

 コキュートスはブレインを見た。最強を目指すと宣言したこの人物であれば、己の悩みに対してどのような答えを返すのだろうかと自問して──

 

「ブレイン殿。一ツ、オ願イ申シ上ゲタイ事ガアル。強サニ憧レタ貴殿ニ、我ガ懊悩ヲ相談サセテハクレマイカ」

「相談……まさか! コキュートス!! その相談は不必要だ。私は許可するつもりはないぞ」

「モモンガ様。今ダケハオ許シクダサイ。私ノ悩ミヲ……聞イテイタダキタイノデス」

「コキュートス! あんたの我儘でモモンガ様の手を煩わせる気!? モモンガ様が許可しないって言ってるんだから、大人しく言う事を聞きなさいよ!」

 

 モモンガとアウラが制止の呼びかけをしても、コキュートスは願として動かない。セバスはアウラの言葉はまだしも、モモンガの命にすら()()()()()()()()コキュートスに驚愕する。僕が偉大なる創造主の言葉に、自らの意志で歯向かったのだ。

 

 似たような事例にデミウルゴスやアルベドもいるが、彼らの根底にあったのはモモンガの──敬愛する至高の御方のためにと言う感情だ。対してコキュートスは、()()()()()にモモンガの命に背いた。それはNPCには決してあり得ない事象であり、セバスが心底驚くに値する行為だった。

 

 悩みを聞いて欲しいと言うコキュートスと、我儘を言うなと怒る二人の様子に面食らったブレインは仕方ねえなと気を取り直して──

 

「旦那が何を悩んでるのか言ってみろよ。相互理解、それが連邦の流儀だからな」




現地住民によるお悩み相談室開催(2回目)
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