ナザリック第六階層の闘技場。そこには六名の影があった。一人はモモンガで、フル装備の上で五人相手に向かい合っている。
残りの五人はセバス・アウラ・マーレ・シャルティア・コキュートスだ。こちらもフル装備の上で、モモンガと相対している。
「全員準備はいいな? ……私の新ビルドがどれほどのものか、試させて貰うぞ」
モモンガがスッと杖を構えたのを見て、五人とも戦闘態勢を取る。杖を握る手とは別、もう片方に乗せられた金貨が親指に弾かれて空を舞い、重力に引かれて地に堕ちる。
チリン。
透き通る金属音と共に、最初に飛び出したのはシャルティアで、続いてコキュートスがモモンガに接近しようとして──
「<
その前にモモンガはギルド指輪を使いつつ、転移で闘技場の観客席に避難。近接二人の攻撃は届かず空気だけをかき回す。
「シャルティア! あそこ!!」
「分かっておりんす!! <
すぐさま追いかける為、追いついてきたコキュートスと共にシャルティアは転移を発動。モモンガの傍に出ようとするが……一手遅い。すぐに出現する筈だったシャルティアとコキュートスの視界がブレる。
──<転移遅延>! 読まれていた!!
転移魔法に対する対策は、プレイヤーにとって当たり前の行為。直情型のシャルティアであれば、考えもせずに発動すると読んだモモンガは、無詠唱で<転移遅延>を仕込み済みだ。当然、稼いだ時間の間に地雷設置と──
「<魔法三重最強遅延化・
遅延魔法をトラップとして発動。それが終われば、すぐに飛行を発動してセバスとアウラの元に飛んでいく。途中でマーレが魔法を発動して撃ち落とそうとするが、今のモモンガの魔法防御は強固。上位魔法無効化Ⅲを捨てて、代わりに魔法耐性も積んである。マーレの魔法攻撃は大部分が削り取られ、ダメージ量は十分の一以下まで低下。
「<
捕縛に対する完全耐性を備えないセバスとマーレの動きが強制停止。唯一アウラだけはレンジャークラスのスキル特性で動けるが──
「
無詠唱転移で後ろに回っていたモモンガに触られ、大量の状態異常と負のエネルギーダメージを注ぎ込まれたアウラが戦線から脱落。続いて捕縛魔法で動けない二人も、アウラと同じ目にあい模擬戦から陥落。
「コキュートスとシャルティアもアウトだな」
ようやく転移完了した直後、無属性の爆発に巻き込まれた二人が翻弄される。ついでに遅延魔法も起動。青い戦士と紅い吸血鬼が<現断>に刻まれ一気にHPを失っていた。
「ふむ。新しいビルドは上々。100レベルを五人同時にして、問題なく戦況を有利に進められる。使い勝手も、元のビルドをスケールアップする形で組んでいるから、特に違和感もないな」
にぎにぎと自分の手を握っては開いてを繰り返し、今までの感覚とズレがないことを再度確認。諸々込みの再構築が上手くいったことに、モモンガは心の底から安堵する。
……<
その間、モモンガはエ・ランテルで仕事をする傍らでひたすら<星に願いを>の検証を進めた。何ができて何ができないのか。一日4回だけとは言え、万能の魔法がどれだけの事が成せるのかは今度のナザリック運営にも関わってくる。
色々と試した結果分かったのは──
(まずクラス付与だが、これは推測通りワールド職は不可能だった。それとエクリプスのような、複数の前提条件がいるクラスも直接付与は不可。しかし一度取得さえしてしまえば、前提クラスや種族を消滅させても残すことは可能。それに俺が知らないクラスの付与や置き換えも駄目だった……ユグドラシルは隠しクラスが多いからなぁ……wikiは熟読してたけど、あそこ乗ってる情報が古かったり偽装情報や出鱈目もたくさんあったから、情報サイトとしての信用度がなぁ)
それでも完全ランダムから、任意でのクラス変更が可能となったのは大きい。回数制限があるとは言え、完全理想ビルドに必要な条件が大幅に緩和されたのだから。
(それと種族の完全変更も不可能。種族レベルを消滅させてクラスレベルに変更は可能だが、必ず元の種族に必要な種族レベルが1は残る。俺のスケルトン・メイジとエルダーリッチは消滅させられたが、オーバーロードは無理だった。恐らく、アンデッドから完全に種族変更をしなければオーバーロードはそのまま。まぁ、無理に消す必要もないからこのままで良いけど)
他にもスキルを残したまま、レベルを消失させることも不可。これは魔法も同じで、下手にクラスや種族レベルを置き換えると、それに紐づいた魔法などが消えてしまった。実際、モモンガはこのせいでいくつかの魔法を失っている。
(消えても支障のない魔法だったから問題ないが……置き換え先で習得可能リストに乗ってさえいれば、そのまま維持されるしな)
……諸々を試したモモンガは、大体の<星に願いを>の仕様を把握した。ワールドアイテムでないと引き起こせないような、法則に反する行いはまず駄目。あくまでも通常のルール内に納まる範囲に限り、思うがままに願いを叶えられる……と言ったところだ。
(レベル上限を100以上にとか、直接ステータス操作などはルール外だから無理。クラスの付与に関しては、時間はかかるが最終的には取れるからルール内。ただし一度にたくさんのクラス変更は、願いの範疇を超えすぎるからこれも無理。どちらかと言えば、時間が必要な行為に対する短縮ブーストとして運用する方が正解かな)
出来る事はそれでも多いが、逸脱し過ぎると無駄打ちになる。ともあれ、モモンガは自分自身を実験台にビルドを再構築した。ロマン構成は維持しつつ、元から持っていた神器装備群が腐らないよう強化に納めたより実戦向きのスタイルに。
今までなら完全魔法職にしていたが、<魔法抑止領域>のことを想えば、多少は戦士職にも振る必要があるので魔法戦士職も少しだけ修めてある。
と言っても、まだまだ試作段階だ。スキル周りの細かい調整をしようとしたら、あと2週間分は<星に願いを>を注ぎ込まないといけない。加えて最上位の中でも、より強力な隠しクラスの研究に、失った魔法の補填とやることは山積みだ。
(俺がコキュートスに出した条件の①から③。これを満たそうとしたら一ヵ月……試行錯誤も考慮するなら二ヵ月。<星に願いを>が一人につき240回分は欲しい。と言っても、ビルドだけに回すのは勿体ない。素材変換で神器装備用の資材収集に、ナザリックの全体強化と使いたい用途が正直めちゃくちゃ多い。使用回数制限さえなければ……)
当初を想えば贅沢な悩みではあるが、ナザリックのリーダーとしてはどうしても使用回数があと20回分ぐらい増えないかなーと考えてしまう。そんなモモンガに、パチパチと拍手をしながら、観客席にいたデミウルゴスが近づいてきた。
「素晴らしいご活躍に、このデミウルゴス大変感服させて頂きました。御身の心身に宿る新たなる力は、この地に住まう強者が相手であっても、決して劣らない……どころか、上回っていることでしょう」
「どうかな? 武技によるバフを使われたら、まだまだランポッサさんの方が上だ。それに潜り抜けた死線もな。私はチートで厳選期間を短縮させた分、血で血を拭う闘いには不慣れだ。素のステータス面では並んで、スキルも多少は吟味した分有利だが、武技の分どうしてもな……やるつもりなど毛頭ないが、ランポッサさんと本気で死闘をすれば、亡くなるのは私の方だろう」
リビルドによる強化。これを行った──それもクラス厳選まで含めた理論値型よりにしたモモンガは、まだ完成はしきっていないものの、現時点でスペック面だけ見れば素のランポッサやキーノを上回っている。けれど、それはあくまでもクラススキルや最上位クラスビルドによるスペックで上回っただけ。
武技による
(キーノさんは不明だが、もしもあのバフ状態のランポッサさんと戦える領域にいるなら、とてもではないが今の俺でも真正面からだとすり潰される。セバスらと有利に戦えたのも、全員の手札を握っているからだ。闘い方もこうする、ああすると知っているからこそ。初見でなおかつ相手もリビルド勢だとするなら、どんな手札を持つのか晒させてからだ……)
本当に戦う気などこれっぽっちもなく、相手が先に殴って来たらとりあえず然るべき機関に通報予定のモモンガは、有体に言えば戦闘は避けれるなら避ける予定だ。それでもいざと言う時のために備えとして思考はする。警戒も怠らない。その上で、彼らが目指そうとする明るい未来を共に掴みたい。
モモンガがグッと拳を握っていると──
「も、モモンガ様の防御を、ぜ、全然抜けなかったです……」
「ん? ああ、マーレ達も回復したか。状態異常を大量に付与したが、体の方は大丈夫か?」
「とりあえずはなんとか……うー、でもまだ手が痺れてる」
「999%の時に匹敵する体の重さです」
「あれって、今の俺が使う状態異常並かよ……二度と呑むんじゃないぞ」
しれっと衝撃の事実が発覚したので、セバスに釘を刺しておく。心得ておりますと執事は言うが、なんか勧められたら呑みそうだなこいつとモモンガは考えつつ──
「シャルティアとコキュートスも……大丈夫そうだな」
よたよた歩くコキュートスに、シャルティアが肩を貸して向かって来た。二人ともちょっとボロボロになっているが、見たところ命に別状は無さそうだ。模擬戦で殺してしまったら洒落にならないので、その点には少しだけモモンガはホッとする。
「全員聞くのに支障は無さそうだな……これがリビルドを行った100レベルの強さだ。ランポッサさんと戦ったコキュートスには言うまでもないが、リビルドした現地の住民は最低でも現時点での私レベル。武技を含めたらこれ以上。今のところ私が行った方法以外でのリビルドとなると、恐らくの話になるが、この地の住民にとっても心理的ハードルが高い。故に少ないとは思うが……いないわけではない。だが……それを踏まえた上で、この場に集めた六人には伝えておく。私はリビルドを強要するつもりはない。あくまでも、当人の意志を以て行うものとする」
これを聞いて、シャルティアとマーレとアウラは一瞬だけだがホッとした顔をした。コキュートスも悩んだ、どこまで己で決定して良いのかのジレンマ。それがある以上、心理的なハードルは現地住民と変わりがない。
「それともう一つ。これはデミウルゴスも含めた話になるが、当人にリビルドの意志があっても、私とパンドラが面接し、不適切だと判断すれば取り行わない」
「不適切……なるほど。アルベドの例もありますからね」
この発言に少しだけデミウルゴスがピクリと反応したが、異議は唱えなかった。アルベドと言うあまりにも不適切な例が存在するからだ。
大前提として、外に対する敵意が強い僕はリビルドさせられない。とてもではないが、お外でヒャッハー! したり人間さんを殺すのが大好きだよ! な子らを強化など以ての外だ。
無理に仲良くしろとまでは、モモンガも強要はしない。しかし現在の彼が掲げるのは、この地に根を下ろし、共に手を取り合って新たな明日を創造する融和路線だ。ウルベルトが心の底から憎んだ企業連合のエリート達のような、独占と支配による強硬路線ではない。
(ウルベルトさんにしろ、たっちさんにしろ、この世界に来て喜んだり嬉しそうにしてくれるのは、きっと仲良く手を繋いでみなで楽しそうにしている姿だ。俺が感動したみたいに……その路線は崩さない)
下手に僕を強化して、彼らが外で暴行などに走ったりしたら、その目論見は御破算となる。それは外への高い警戒度を持つデミウルゴスとしても、やって欲しくはない凶行だ。現時点のナザリック戦力で外と全面戦争をすることになれば、破滅するのはこちら側だときっちり計算している。しかしデミウルゴスが駄目だと言い、モモンガも止めろと念押ししていても、うっかりどこかで暴発する危険性は多々ある。それが可能性として付き纏う以上、リビルドを行う対象はどうしても精査が必要だった。
「それと、コキュートスのリビルドだが、本当に良いのか? 一応、お前にも面接はして貰うが、間違いなく通りはする。それなのに、この地の住民と同じ方法でリビルドをするなど……」
「申シ訳ゴザイマセン、モモンガ様。御身ノ御厚意、誠ニ心ノ底カラ感謝シカアリマセヌ。デスガ、コノ地デ育ツ彼ラト同ジ目線ニ立ッテコソ、私ハ私ガ目指ス領域ニ立テルト思エルノデス。ソレニ、死闘ヲ通ジテコソ、我ガ技量モソノ鋭サヲ増シマス……我ガ創造主デアル武人建御雷様モ、コノ場ニイレバ同ジ方法ヲ選バレタト、私ハソウ思ウノデス」
「建御雷さんなら……やるかもしれんな」
モモンガは強くなる方法にそれほど拘りがなく、最終的に勝てば良かろうなのでチート連打でリビルドをしたが、建御雷はかなり拘るタイプだったので、やるかやらないかで言えばやるだろうなとモモンガは想いを馳せる。それと同じ拘りをコキュートスが貫きたいと言うならば、その意志を尊重するだけだ。とは言え──
「それでも、辛くなったら必ず相談するように。今この場で宣言したのを翻すことになったとしても、私はその判断を責めるつもりはない。お前が精神を擦り減らしながら訓練する羽目になれば、私は現地流のデスリビルドではなくナザリック流に切り替えさせる。それと、現地流でやるにしても蠱毒は必ず使用すること。良いな?」
「御意」
「良し。それでは、デミウルゴスよ。まずリビルドに関する情報解禁だが、お前から見て問題ないと考えた僕には明かしても良い。その上で、当人の意志を確認し、リストに纏めておいてくれ。後日面接を行い、合否を決定する」
「承知いたしました」
「それとセバスだな……セバスはリビルドに忌避感はない。で良かったな?」
「ありません。私の現在の主はモモンガ様です。モモンガ様の御役に立つためであれば、この身を捧げられます」
「それは自分の意志とは言い難い気もするが……それも自らが選んだ道ではあるか。では、セバスはパンドラが戻り次第、面接を行ってから再構築に入ってもらうぞ」
「御意!」
とにもかくにも、これでリビルドに関するナザリックの方向は決定した。使用回数に制限がある以上、全員を一斉に強化は出来ない。また不適切な人物にも行えない。それらに思考を費やしながら──
(そろそろパンドラのやつも、ラナーさんのところから解放される。あと数日あれば、良い感じに仕上がりそうですと言ってたからな……楽しみにしててくださいと言っていたが、あいつとラナーさんは何作ったんだろうな?)
モモンガ強化回(発展途上)
モモンガ:スキル仕上げとか細かい調整はまだ残っており、クラス厳選に関しても使用感から詰める部分に余地がある。装備効果などを活かす為、元の死霊系ロマンビルドをベースに再構築。魔法戦士系のクラスなどを組み込んである。習得魔法数が減ってしまった
コキュートス:現地型リビルドに拘りあり。仕事の引継ぎなどがあるので、その間はブレインに待ってもらっている
セバス:ナザリックリビルド勢第二号予定。コキュートスの拘りに一定の理解があるが、時間がかかる為現地式を断念