転移後世界の仕様が変更されました   作:リセット

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レベル38 黄金希望お披露目会③

「気を取り直して、お次はこれですわ」

 

 広い部屋に案内された一同の前に、今度は四角く大きな箱が紹介される。箱の正方形部分にはガラスがはめ込まれていて、これまたなんだろうと大半は訝しむが、マーレは──

 

「は、働く車だ!」

「なに?」

「働く車だよ、お姉ちゃん! アッシュールバニパルにも、幾つか本が置いてあるんだよ!」

「トラックだな、これは」

 

 見た目は随分違うが、操縦席付きのコンテナトラックだとモモンガは当たりを付ける。

 

「その通りです! これは大型貨物車ですわ! 動力には、以前モモンガさんにも御見せした蒸気機関を小型化したものを採用!! 物流に革命を起こせます!」

「物流と言うと、輸送って事だよね? 蒸気機関が何なのかは知らないけど、それってそんなに革命的なの?」

「勿論ですアウラ様! 現在の連合国の輸送は、人力に頼っています。自動で回る車輪を搭載した荷車などもありますが、そう言った物はそこまで出力がありません。マジックアイテムの基本は、魔化に使われた魔法や使用される魔力量で出力が左右されます」

「高出力のマジックアイテムに使われる素材は、どうしてもオリハルコンやアダマンタイトなどの高級金属か、あまり出回らない貴重なモンスター素材が必要になります。そうなると、どうしても値が張る商品になりますので大して売れませんわ。ルーンにしても、やはり高級品……」

「しかーし! この蒸気機関搭載貨物車は違います! 使われる魔法は<水生成>や<沸騰>などの低位階魔法で、蒸気による圧力にしても機関部に水属性への耐性を付加すれば問題! ありません!! アダマンタイトが破裂するような圧力が発生しても、鉄でも十分に耐えられます!」

「ピストンやカムなどもパーツ毎に耐性付与と<保存>しておけば、摩耗しない永久機関にもなれます。蒸気を介する事で、低位階魔法で高位階魔法を利用するのと同列の効果を齎す。これが蒸気機関の真価なのですわ!!」

 

 従来であれば高級品にしか持たせられなかった効果を、普及品で再現させる技術。それが蒸気機関なのだとモモンガは教えられた。仮にこの貨物車を魔法だけで造ろうとすれば、とてもではないが一般的な商人向けの荷車にはならない。しかしアッシュールバニパルに納められていた科学技術本の記述を応用すれば、従来のマジックアイテムを上回る物品を安価に仕上げられる。

 

「科学なる技術体系。綿密に計算された数式を用いる科学と、術式を用いる魔法。二つを融合させれば、飛躍的な技術発展が望める。これこそが、今回得た中でも最高の結果かもしれません」

 

 火薬燃焼などそのまま応用できない技術もあるが、魔法による燃焼を組み込めば別の形で再現できる。パンドラの知識──ナザリックの最古図書館の蔵書は、ラナーにとって祝福であり恩寵だ。ギルドメンバー達が持ち寄った本は、著作権が切れていたり廃れた古い技術しか描かれていないが、枯れた技術に位階魔法やルーンを利用すると、途端に新しい技術ツリーに発展する。

 

 モモンガらは試験コースもあると言う事で、全員代わりばんこにトラックを運転する。

 

「ここだ! インド人を右に!!」

「なんでありんすかあれは!?」

「ほう……まさかあの技をお使いになられるとは、モモンガ様もどうして芸達者ですな」

「知っているのかセバスさん!」

 

 途中ヴァーチがシャルティア運転トラックに引かれたり、ダーク=ナイトがトラックと融合したりと色々あったが、わいのわいのと新型貨物車の試運転を全員で楽しむ。それらを眺めながら、パンドラは──

 

 ──楽しそうで何よりです、モモンガ様。やはり貴方様には、笑顔こそが良く御似合いです

 

 自らの創造主が、心の底から楽しく遊んでいる。支配者として振舞う姿も美しいが、今を全力で生きている姿もまた、パンドラにとって得難い光景だ。それらが実現したのはモモンガが、この地を気に入り融和路線の舵を取ったから。もしも舵取りを間違えていたら……

 

 パンドラはチラリと横のラナーを見やる。彼女と交わしたいくつかの言葉。それらをパンドラは少し回想する。

 

 

 

 

 

「ここの魔法陣を少し改造してみたらどうでしょうか? もし私の計算通りであれば、蒸気の圧力封鎖効率が0.2%は向上するかと」

「やってみましょう……ここより、こちらの方がよろしいのでは?」

「どれどれ……」

 

 パンドラがラナーのところに預けられてから数日後。モモンガ達がリ・エスティーゼで太陽王やブレインと模擬戦をしている頃に、天才二人は蒸気機関の効率化を進めていた。

 

 ラナーは上機嫌に魔法陣を改造する。今までも他者と共同開発をしたことはあるが、その中でもパンドラの頭脳は別格だった。技術力と言う意味では連邦の職人に劣るが、発想や閃きの分野では最高位で己に匹敵する人材。そんな人物との共同戦線を、思いの外ラナーは楽しんでいた。

 

 機嫌良さそうに鼻歌混じりに術式を弄るラナーに、そろそろ伺っても良いかと考えたパンドラは、一つ質問を良いですかと投げかけた。

 

「どうされましたかパンドラさん?」

「これは私の推測に過ぎません。間違っているなら、間違っていると否定してくださって構いません……選ばれたのはモモンガ様です。ですので、私は必要以上に貴女様を攻める気はありません。しかし、ボタンが一つ掛け違えば、良い未来は無かった……我々がこの世界に転移し、モモンガ様が『漆黒の剣』の皆さまに出会われ、この都市を訪れた。そこで歴史を知り、共感し、エ・ランテル領の住民になることを決定された……どこまで、貴女様の想定でしたか?」

 

 その質問に、ラナーはすぐに答えない。想定とは何なのか。一体何の質問なのか測りかねている……訳ではない。どう答えたら、目の前の人物が納得してくれるのか。それを計算しているのだ。暫し無言で魔法陣の調整をしてから──

 

「いつからですか? と聞くのは無粋ですわね。パンドラさんは賢い御方。この都市に何度も足を運んでいれば、おのずとそれに辿り着く。それでもあえて聞かせてください。いつから、その疑問を持たれましたか?」

「違和感は、エ・ランテルに来て、三日目辺りからですね。この都市の領主、ジルクニフ様は多忙な方です。正直に申し上げれば、旅人に過ぎない我らに、会う必要などありません。部下に命じて処理すればいい。なのに、直接面会をされた上で、マジックアイテムを用いて何かを判別された。これはどうしてでしょうか?」

「……そうですね。ジルはとても、とても忙しい生活をしているわ。一度は私のところにエ・ランテルで領主をしてはどうかと打診がありましたが、あんな忙しい仕事をしていては、開発も研究も滞ります。私でも忙しいと感じる量なのですから、ジルにはもっと大変。それでも、モモンガさんと会う事にしました」

「でしょうね。ならば、想定されることは一つ。モモンガ様とお会いになることが、この都市の領主にとって、重大だった。都市運営に関わる人物が、他の仕事を後ろに回してでも、モモンガ様を御優先なされた。その理由は、この世界の昔話を読み解けば簡単に辿り着く」

「正解です。八欲王と六大神。どこからともなくこの地に現れて、大きな影響を残した神話の存在。彼らはどこから来たのか。何をしたのか」

「それが答え。ジルクニフ様は、我らの正体に勘付いていた。違いますね、彼だけではない。六大神が遺した国……法国。あそこも、元プレイヤーが興した国であれば、どこから来てどのような存在なのか察してみせる。この国では流行っていませんが、それでも六大神話の聖典は出回っています……警戒していたのでしょう? かの国の闇神を弑した八欲王のように、我らも同様ではないかと」

「それも正解です。法国の神官長様方は、100年周期で訪れる神の国の住人に酷く怯えていました。また八欲王のような悪しき魔王が来訪すれば、どんな災いが訪れるのかと」

「……それは神官長だけではないでしょう? 亜人の長や異形の主も同じ。大戦を経験し、平和による繁栄の蜜がどのような味なのかを覚えた今、火種が投下されるのを好まない……単刀直入に聞きます。『漆黒の剣』がナザリックを訪れた時、後詰はどれだけいましたか? 私は2500人ほどと読んでいますが……さて?」

「5000です。難度220以上の兵力が5000人ほど待機していました」

「ああ……」

 

 5000と聞いて、必要以上に感情を表に出さないパンドラだが、内心は恐ろしい事ですと呟いていた。

 

 難度220と言う事は、レベル換算で75以上。それだけの兵力が5000となると、ナザリックの防衛システムをフル稼働させないといけない。2500想定でも著しい消耗が強いられるのに、その倍となればどれだけの資金が消費させられたか……しかも連合国の軍事力を考慮すれば、それで打ち止めではない。

 

 ──もしも、モモンガ様ではなくアルベド様が『漆黒の剣』に対処して、拘束・拉致・拷問・殺害……それらを行っていれば、スレイン法国はこちらを激しく糾弾……では済まない。人類守護を掲げる彼らは、『漆黒の剣』救出を大義名分に、5000の軍隊を先兵として攻略する。初手で拷問なりを行えば、連邦も我らを庇おうとはしてくれない……最悪の結末が待っていましたね

 

 連合国相手に凌げるほど、ナザリックの兵力は決して高くはない。仮に……の話になるが、ナザリック地表部に陣を敷かれて籠城戦を余儀なくされれば、その時点でナザリックは干上がる。補給の目処がない籠城戦など、緩慢な自殺と変わりない。

 

 ──連合国が弱者であれば打って出る手もありますが、それをするにはこの地には強者が数多くいますからね。もしもそうなっていたら、我らの命とナザリックを差し出し、モモンガ様の御命だけは見逃して貰うしかなかった

 

 ナザリックには出入口が一つしかない。そこで出待ちをされ、リスポーンキルをされたら手の打ちようが無くなる。もしもあの時、モモンガに報告せず、アルベドだけで侵入者に対処していれば……確実にナザリックは滅んでいた。それが理解できるからこそ、パンドラは内心で冷や汗をかく。

 

 あの瞬間、自分達は踏み絵をやらされていたのだ。外敵か否かを試されていた。その事実に、パンドラは少しだけだが心がざわつく。試されて内心落ち着いていられるほど、流石に精神は成熟していない。あと一歩のところに、敬愛すべき主を殺しうるトラップが設置されていたのだ。どうして落ち着いていられようか。

 

 とは言え──

 

「法国は進軍しなかった……モモンガ様の対応は穏やかだった。だからですね?」

「八欲王のように、侵略行為及び支配行動に移らない。なのであれば、不必要に戦端を開くことこそが、むしろ災いを呼び寄せます。モモンガさんはこの国を気に入られて、私たちと共に歩む道をお選びになられた。その事実さえあれば、心から歓迎する。それが連合国の在り様ですから」

「良い在り方だとは思います。その根底があったからこそ、モモンガ様は一住民として、毎日を楽しそうに過ごされておりますから……」

「……私からも一つ宜しいですか?」

「どうぞ」

「なぜ、私にその疑問を問いかけたのかしら? 問いかける相手としては、領主のジルの方が相応しい……なのに、一研究者でしかない私に確認を?」

「ああ、その件ですか。簡単ですよ。ラナー様は偶然を装い接触したのでしょうが、幾らなんでも早すぎます。ヴァーチ様の商いに付き合う形でエ・ランテルに来たようですが、調べた限りではヴァーチ様が都市間を渡すペース。これが少しだけズレています。普段はリ・エスティーゼで研究開発を行うラナー様が、なぜかこのタイミングで偶然エ・ランテルにいて、まだ駆け出しに過ぎないモモンガ様に接触を計られた……暗躍も結構ですが、それをするには貴女様の知名度は高すぎる。早い段階で、直接モモンガ様の本質を御知りになりたかったのでしょうが……」

「あら? ヴァーチの商いを早めさせた件にも、既に勘付かれていたのですね」

「出来るでしょう? 貴女様なら」

「はい!」

 

 にこやかな笑顔で認めるラナーに、パンドラは全くと呆れて帽子を深めに被る。どんな風に情報を広め、仕入れや契約のタイミングを操作すれば、少年のエ・ランテル訪問の時期を決めることなど容易い。パンドラの目の前にいる少女は、己が関与したのだと気づきにくい様に立ち回っている。しかし、裏を探れば辿り着けるように足跡は残している。その意図は──

 

「我らナザリックの誰かが貴女様の意図に気づけば、恩を貸し付けられる。そこも考慮に入れた上で、暗躍されましたね?」

「はい!」

「……やれやれ。私たちはモモンガ様含めて……我らだけでなく、法国やジルクニフ様。『漆黒の剣』もですね。全員、貴女様の掌の上で踊ったのですかな」

「それは違います。パンドラさんが仰ったように、モモンガさんご自身がお選びになった。その意志を尊重したかった。それがお分かりだからこそ、アクターさんはこの場で私を糾弾していない。違いますか?」

「……ふぅ。どうして私の周りにいる知恵者は、誰もかれも素直でないのやら」

「あら? アクターさん以外にも、知恵者と呼べる方が?」

「……貴女様と気が合うと思いますよ。妙に暗躍しようとするところなど、特に。いつかお会いしてみてください。それとですが……あまりモモンガ様を踊らさないでください。私も内心良いとは思っていませんが、その暗躍が無ければ、モモンガ様は良き未来を掴み取れていない。だから、今は納得します。ですが、我らナザリック一同は、モモンガ様に敬意を払い忠誠を誓っています。好悪に関わらず、モモンガ様が謀に巻き込まれるのを好ましくは思いません。くれぐれも、そのことだけは留意してください」

「承知いたしましたわ。今後は、パンドラさんに相談した上で行わさせて頂きます」

「……モモンガ様にも相談可能な内容であれば、必ずあの御方も同伴ですよ。それでは、貸しの件ですが……そのままにしておくと、貴女様にはたっぷり利子を付けられそうなので、早速返済させて頂きます」

 

 そう言うと、パンドラは一冊の資料を取り出した。それを見て、まぁとラナーは声を挙げた。

 

「これはラナー様の古い研究資料ですね。一通り目を通させて頂きました……技術的問題があるため、凍結させていた発明品。これを完成させてみたくはありませんか?」

「それは……完成させられるなら、完成させたい逸品ですが、始動用のスターターに成りえる動力源が無いため断念した開発品よ。パンドラさんなら、それの動力源に相応しい何かを御用意出来るのですか?」

「確証はありません。ですが……少なくとも、あと百年以内にはこれを実現させたい。違いますか?」

「……それにもお気づきでしたか」

「気づかざるを得ません。今の連邦が……もっと言えば、連合国が抱える大きな問題。大戦から200年以上が経ち、豊かな文明を築き上げた連合国。しかしながら、その豊かさが致命的な問題に繋がってしまう。せめて……自動蘇生と高位階信仰系魔法さえなければ、自然と間引かれてもう少し後ろに問題を引き延ばせた」

 

 だからこそ、これとこれを元にした計画が必要なのですよね? そう問われて、ラナーははいと頷く。この先必ず必要になるであろう、ラナーの生涯でも、最大級の発明となる未来そのものとしか表現できないそれを完成させたいのだと。

 

「ラナー様は……プラズマと聞いて、思い当たることはありますか?」

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