襲撃してきた集団を一掃し、戦闘の方が総合的な消耗は大きいと判断したモモンガは第十位階魔法<
『漆黒の剣』から城塞が見えたらそこがエ・ランテルだと聞いていたので、モモンガはそれが見えて───
「でっ……ううん。巨大な都市とは聞いていたが、見ると聞くでは大違いだな」
でっかと言いかけて、セバス達の手前この物言いはあまり宜しくないと感じたのか無難な言い方に変更したモモンガ。彼が言うように、エ・ランテルは巨大な都市だった。
街全体を高さ100mはあるだろう壁が覆い、その内側にも複数の大壁が立ち並んでいる。城壁の上をよく見てみれば、何やら大砲のような物が複数配置されている。
「あれは普通の大砲ではないだろうな。何かしらのマジックアイテムだろうか?」
外敵───つまりはモンスターだ。この世界のモンスターは、モモンガ達が戦ったレベル帯が標準だとするなら、備えられた攻撃兵器はそれなりに強力な代物の筈。そう考えるモモンガだが、<上位道具鑑定>なりで調べない限りは断言も出来ない。
「モモンガ様。あの大門の横の人が並んでいる場所が、恐らく検問所かと思われます」
「都市に入るには、一度調べを受けなければいけない、だったな。全員、あそこに向かうぞ」
セバスが指さす先には、言葉通り検問所が設けられている。あそこで荷物検査や氏名の記入、都市に来た目的などを申告する必要があるので、モモンガ達は列に並ぶ。
「モモンガ様を、人間どもや亜人どもみたいな下等種と並ばせるなんて、失礼なやつらでありんす」
「気持ちは分かるけどさ、あんまりかとー生物とか、口に出さないでよね。モモンガ様も言ってたでしょ。騒ぎを起こしたり、揉め事になりそうな事はするなって。そんな事も出来ないんじゃ、シャルティアだけナザリックに返されちゃうよ?」
「それは嫌でんす……うぅ……」
アウラも内心ではモモンガ様をこんな風に並ばせて待たせるなんて失礼だなーとは思っているが、それを口に出すのは不利益。今回のエ・ランテル視察は、都市の戦力評価や社会情勢の調査。知りたいことが山ほどある。それらを調査する前に揉め事を起こしたりしたら、都市からの追放や、最悪捕縛される可能性も大いにある。そうモモンガに教わっているので、自らの感情は横におき、偉大なる御方の敵情視察───別に敵ではないが、気持ち的には似たような物───を邪魔しないように振舞うつもりであった。
「流れも速いから、そう気に病むでない。それに、こうやって並ぶ列を観察するのも、今回の視察の一つなのだぞ?」
モモンガはそう言いながら周りを見渡す。並んでいるのは人間種が多いが、事前情報通りに亜人もかなりの数がいる。中には先ほどモモンガを襲ってきていたのと同種族のゴブリンもいれば、全身を毛皮に覆われた二足歩行の獣人───あれがビーストマンかなとモモンガは思った───その他にも、ぶよぶよとしたスライムなどもおり、自分達で引いてきたのか荷車の中身を再度チェックしたりなどで時間を潰していた。
モモンガがNPC達と城壁上部の砲台や、城壁そのものについて話している内に列も進み、モモンガはいくつかある検問所の一つに入る。
「ようこそ。そちらにおかけください」
検問所の中には幾人かの兵士がおり、彼らに勧められてモモンガ一行は椅子に座る。全員が見た目は鉄製の鎧を着ており、モモンガはそれを見てちょっと疑問を持つ。この都市の住民は、推定『漆黒の剣』と同じ60台を想定していた。そんな街の兵士が、ユグドラシルの基準にはなってしまうが、一番グレードの低い鉄装備を纏っているのが不思議に感じたのだ。
(鉄……だよな。それとも、鉄に見えるだけで全く違う金属? 鉄だが、ユグドラシルとは違い、鉄が高品質? ……街に入ったら、武器屋なんかも覗きたいな)
知りたいことがまた一つ増えたと思いながら、モモンガは居住まいを正す。
「全部で5人ですね。通行証はお持ちですか?」
「通行証……いえ、残念ですが持ってはいません」
「では、身分などを証明可能な物はお持ちですか?」
「残念ですが、そちらも。私どもは旅の者で、つい最近こちらに来たばかりで……」
「そうですか……エ・ランテルのことは、どこかでお聞きに?」
「漆黒の剣という、この都市の探索者に教えて頂きました」
「漆黒……少々お待ちください」
そう言うと、兵士は何やら帳簿を取り出しパラパラとめくり始めた。数分経ったところで───
「漆黒の剣が調査に行かれた、ダンジョンの住人の方ですか?」
そう聞かれて、モモンガは少しギョッとする。彼らは自分達よりも早く都市に戻っている。だとしても、その情報がもう検問所の兵士にまで伝わっているとは……とは言え、精神安定化───モモンガは感情が閾値を超えると、強制的に平常状態に戻される───が働き、動揺は一瞬で無くなる。驚いた事はおくびにも出さず、モモンガは答えた。
「そうです」
「ああ、やはり。彼らが早く街に戻ってきたので、不思議に思い色々と聞いていたもので。もしかしたら、オーバーロードが都市を訪れるかもと。あなた方がそうなのですね」
「だと思います」
「では、漆黒の剣の方々の言葉を貴方達の身分証明とします。全員の御名前と種族を教えて頂けますか?」
「私はオーバーロードで、モモンガと言います。こちらが───」
「モモンガ様の執事をさせて頂いている、竜人のセバス・チャンと申します」
「私はモモンガ様の正妻、
「あんたはまた、正妻だなんて訳のわかんない紹介を……あ、えっと、あたしは
「よ、よろしくです」
「アンデッドが2名に……竜人は亜人種かな。それとダーク……弟?」
真祖やオーバーロードと聞いても普通に接していた人間種らしき兵士も、女の子の佇まいをしているマーレが弟と聞いて、は? と言わんばかりの顔をする。どうも異形種がいる事よりもそちらの方が気になったらしい。しかし今確認すべきはそれではないと思ったのか、一度咳払いをして兵士は気を取り直した。
「……モモンガさんが一行のリーダーでよろしいですか?」
「はい」
「では都市に入る前に、いくつかの質問と注意事項をお伝えさせて頂きます。まず、モモンガさん達は<
「すと……何?」
「ストレージ。
「……ひょっとして、アイテムボックスのことか? それならあるが……」
「そちらの中身を確認させて頂くことは出来ますか?」
「難しいですね。かなり大量に入れてあるので、全て出すとなると……」
モモンガはアイテムコレクターの気質があり、ユグドラシルで集めたアイテムを雑多に自分のインベントリに放り込んでいた。その量は膨大であり、全部取り出すだけで日が暮れてしまうだろう。なのでちょっとモモンガは難色を示してしまう。
「あ、あくまでもこれは質問事項の一つに過ぎず、難しいようであれば飛ばしても大丈夫な項目です。ただし、街にご禁制品を持ち込んだり、逆にストレージを悪用して店などから物品を盗難したら、非常に重い罰則が待っているのでご注意を」
「ご禁制……と言うと、どんな物が?」
「分かりやすい代物であれば、完全耐性以外で防げない強烈な毒性を持つ麻薬などです。個人使用にしても、使用許可が下りていない物を吸われたりすると、罰金があるので街中での薬品摂取はお勧めしません。と言っても、皆さんの中でそういった物を好みそうな方は、セバス・チャンさんぐらいですか?」
「いえ、私もそういった品は好ましいとは思いませんね」
「では、大丈夫そうですね。他には魔法の使用も基本は許可されておりません。街全体に工房などを除いて<
「承知した」
「他には───」
エ・ランテルは多種族がいるので、種族間の争いになるような差別発言などの禁止。争いごとに巻き込まれたとしても、基本は自助努力を行わずに衛兵に通報。他にもシャルティアが真祖という事で、街中での吸血行為は身内相手でもNG、必ず宿などの人目に付かない場所で行う事などを含めて色々と言い渡された。
それらも全て終わり、ようやくエ・ランテル内に入ったモモンガはまず軍事施設を観察する。エ・ランテルはいくつもの城壁があるが、一番外側は外敵への警戒が必要という事もあってか、兵の詰所や武器庫などが立ち並んでいる。当然軍事施設なので至る所に見張りの兵がおり、全員漏れなく武装して侵入者がいないのかの警戒に当たっていた。
「アウラ、どうだ」
「全員、例外なく50以上です」
「想定内ではあるが、当たってほしくはない想定だったな」
魔法の禁止は遵守されており、確かにモモンガが無詠唱で<生命の精髄>を唱えようとしても、<魔法抑止領域>の効果か不発に終わった。しかしスキルは発動可能だったので、アウラに確認させたところ想定通り、エ・ランテルの兵はそこそこレベルが高いことを確認。想像通りではあるが、外れてほしい想像だなとモモンガは内心溜息をつく。
軍事用の外周部を抜ければ、聞いていた通り市民が暮らす居住区や商業区に到達。モモンガが周りを見渡せば、多くの人間や亜人がごった返しており、少ないながらも異形種なども姿が見える。その光景にちょっとだけ、モモンガは嬉しい気持ちを抱く。
(ユグドラシルだと、検問所前の列もそうだが、異形種と人間種が一緒にいるのは滅茶苦茶珍しかった。それがこの都市では普通の光景……すごいな)
ユグドラシルでプレイヤーは人間・亜人・異形のどれからか自分の操作するキャラクターを制作することが出来た。しかしながら、モモンガのように異形種で始めるプレイヤーは少ない。大抵人間でスタートするのが普通だった。そのせいなのか、マイナーよりの異形種は数が少ないせいか虐めや迫害を受けることが多く、モモンガもそういった差別でゲーム開始当初は非常に苦労した身。
ゆえに、どうしても感動してしまう。
「モモンガ様は、まずどこに向かわれる予定ですか?」
「そうだな……む。あそこに案内板らしきものがあるな。まずはあれを見て、それから向かう場所を決めようか」
通りを抜けた先。そこには広場があり、地図らしき物が描かれた立て看板が置かれている。モモンガが歩くのに合わせセバス達もついていき、全員で看板を確認して───
(読めん! これ、たぶんこの国の言語だよな。何書いてあるのか全くわかんね)
文字が全然読めなかった。モモンガはどうしたものかと思い、もしかしたらセバスやアウラなら読めるのだろうかと、一応問いかけてみることにした。
「セバス。この文字だが、お前には読めるか?」
「……申し訳ございません。私には、何が書いてあるのかは……」
「そのような苦渋の顔をするな。異邦の文字が読めないのは当たり前だ」
「も、モモンガ様も、その……読めないんですか?」
「ああ。見たことがあるならまだしも、完全に未知の言語となると、難しいとしか言えん」
ここで見栄を張って読めるなどと言ったら、なんだか取返しのつかない事態になる気がしたモモンガは、素直に読めないとNPC達に申告。
(むしろ俺が読めないんだから、自分達が読めなくても良いって思わせる方がいいかもな。しかし字が読めないのは問題だな。あれを使うか)
モモンガはインベントリからとある眼鏡を取り出す。
「それは何ですか?」
「どんな文字でも解読可能とするマジックアイテムだ。これなら……うむ。読めるな」
ゲーム内では古代言語イベントをクリアするために使われていた眼鏡であり、これを使えばどんな文字でも読める。その効果は異世界の言語にも対応していた。しかしこれはモモンガも一つしか持っておらず、ナザリックの宝物庫にもギルドメンバーが残していった数十個分しか収まっていない割と貴重品だ。
「どれどれ。ここが現在地だから……なるほど」
「何か分かりましたか?」
「とりあえずではあるがな。まずはあそこの通りをまっすぐに行くと、工房街に通じていて、そこにツアレニーニャさんが言っていた、アンデッドの魔術工房があるみたいだ。それに武器屋などもあるかもしれん。それと先に両替商に寄って行こうか」
「武器……でありんす? ナザリックに武器ならいくらでもありんすが……」
「シャルティア……あんた、まさかモモンガ様が武器が欲しくて行くと思ってんの? あたしたちは、し・さ・つ。視察に来てるんだよ? どんな連中が住んでるのかーや、どんな戦力がいるのかーとか。そういうのを知りに来てるの。なら、武器や防具がどんな物が売ってるのかとか、知っておかなくちゃまずいでしょ」
「そ、それぐらい私にもわかりんす! ただ、ちょうぅと! ちょっと疑問に感じただけでありんしょうや!!?」
「あ、あのお姉ちゃんもシャルティアさんも、あんまり大きな声を出してたら目立っちゃうよ……」
シャルティアとアウラ。二人は設定で犬猿の仲と設定されている。本当に仲が悪いわけではないが、創造主にそう設定されているので、こういったキャットファイトは二人の間でよく発揮されてしまう。しかしマーレが言うように、少しシャルティアの声が大きかったのか、なんだなんだと注目を集めてしまう。
若干恥ずかし気に顔を覆うモモンガだが、それも感情安定により一瞬で鎮静化。すぐに冷静さを取り戻し、二人に対して───
「騒々しいぞ、アウラにシャルティアよ。あまり注目されるような真似は慎むんだ」
「も、申し訳ありませんモモンガ様!」
「分かったなら良い。それと、この街ではあまり様づけをしないように。執事であるセバスは恰好からして執事そのものだが、二人とも今は───」
セバスはいつも通りの執事服だが、残りの三人は外行きに着替えるという事でぺロロンチーノと茶釜が作っていた、ピンクのドレスや白を基調とした町娘風の装いに着替えている。アウラもまた、村にでもいそうな少年の恰好だ。
「普通の恰好で、私のことを様づけするのは、ひょっとするとこの世界の常識ではおかしなことかもしれん。なので、エ・ランテル内に限り様ではなく、せめてさんで呼ぶように」
「む、無理ですよ! モモンガ様をさん付けで呼ぶなんて……」
「ウー……セバスが羨ましいでありんす」
ちょっと不満げな顔をする三人だが、モモンガが命じる以上逆らえはしない。両替商に行くまでの間に、さん、さん、さんと発声練習をして───
「モモンガさーーーん……モモンガさーーん……モモンガさん。これで大丈夫ですか?」
「グッドだアウラ。その調子で頼むぞ」
わいのわいのとやりながらも、モモンガ一行は両替商のところまで行く。
「これと交易硬貨を交換してもらいたい」
「あいよ……こりゃ、また変わった金貨だな。あんた旅人かい?」
「そんなところだ」
モモンガが渡したのはユグドラシルの金貨───それも後年期仕様だ。ユグドラシルには二種類の金貨があり、大規模アップデート以前と以降でデザインが変更されている。モモンガは前期仕様の金貨に思い入れがあり、そこまで思い入れもない後期仕様なら問題ないかと差し出したのだ。
「それじゃ、本物の金貨か調べますかね。<道具鑑定>」
両替商のいるところは魔法使用可能エリアであり、彼は鑑定系魔法でユグドラシル金貨を調べる。ふむふむと頷いてから───
「本物の金だね。交換先は交易金貨よりも、使いやすい銀貨や銅貨で良いかい?」
「それで頼む」
一応漆黒の剣からレートなども教えてもらってはいるが、それでも両替してもらった貨幣が、多いのか少ないのかはモモンガには見当がつかない。とりあえずはこの街で使える貨幣が手に入っただけでも良しとしようと納得する。
それからしばらくして、工房街にたどり着く。先ほどまでいた広場や商業区に比べると閑散としているが、それでも幾人かとすれ違う。彼らは一様に腰に剣を下げていたり、剣呑な雰囲気を醸し出していた。
そんな者達を横目に、モモンガは武器屋らしき看板が吊り下げられた店を発見。中に入ってみる事にした。
「お、いらっしゃい。何かお探しかい?」
「あなたはここの店主か? 少し武器を探していてな。何かいい物はないだろうか?」
「武器、ねぇ。あんたは見たところマジックキャスターだろ。後ろの嬢ちゃんと坊ちゃんはまだ子供。そっちの……あんたの付き人の爺様は───」
髭を生やして、顔が濃い中年の店主は上から下までセバスを観察する。
「へぇ。あんたの付き人、只者じゃねえな。かなり高名な武人と見受けられるが」
「う、うむ。彼はセバスと言い、私の護衛も兼ねている人物だ。ここに来るまでの間に装備が壊れてしまってな。せっかくなので、新調しようと立ち寄らせてもらったところだ」
「そいつはいいね! 武器は強いやつに使われてなんぼ。いいぜ、よさげなのを紹介してやるよ」
この店主は、アウラのように一瞥しただけでセバスが手練れと見抜いたのか、機嫌よさげにしている。それを見て、自分達が識別できるようにこんな一介の店主ですら相手の能力を見抜く力を持つのかと、若干の警戒心をモモンガは持つ。
ともあれ、店主が機嫌よく見せてくれるなら好都合。モモンガはさっそく武器や防具を見せてもらう事にした。
「早速で悪いが、この店にある中で一番いい物品となると何になるだろうか?」
「一番良いのを頼むってか。一見さんにはあんまり下ろしちゃいねえが……ま、そっちの爺様が使うなら良いか。うちのとっておきを一つ見せてやるよ」
そう言って、店主はカウンターの奥に引っ込んでしまう。その間に、モモンガは壁に飾られている剣を一つ手に取ってみる。
「見た目は……鉄の剣だな」
「あんまり、そ、その強くなさそうです」
「あたしには鈍らに見えるね」
「コキュートス様であれば、一目で剣の質も理解出来るのでしょうが、私では皆目不明としか言えませんね」
「……そう言えば、工房では加工のために魔法が使えるようになっていると言っていたな。ひょっとしたら……<道具上位鑑定>」
モモンガが魔法を唱えると、阻害される事無く発動。<道具上位鑑定>は文字通り、道具の効果や製作者などを判定する魔法だ。この効果によりモモンガはこの剣の材質や、魔法効果などが付与されているなら理解できるようになる。
「……マジか。材質は鉄なのに……ランク判定は
モモンガはちょっと驚く。この世界の金属がどうなのかは不明だが、ユグドラシルにおいて鉄は九つあるアイテムランクの内、一番下の最下級に属する。それで剣を創ったところで、普通は最下級のままなのだ。もしもランクを上げたいのであれば、上位生産職がスキルを使って産み出す必要がある。つまり───
(ユグドラシルと同じ判断をするなら、これは上位鍛冶職による作成品。この都市には、上位職の生産系クラス持ちがいることになる)
これは考えてみれば当たり前の事。兵士達が50レベルあるならば、当然職人たちとて50レベルはあるだろう。50レベルの特化型生産職ともなれば、相応のアイテムを創り出せる。人材だけでなく、物品もそれなりに高品質な物がこの都市では普通に手に入るのだ。
また一つ、慎重に動かなければならない理由が一つ増えたなとモモンガが思案していると、店主が何やら木箱を一つ抱えて戻ってきた。
「待たせたな、アンデッドの兄さん」
「それは?」
「これかい? これが家にある中で一番の高級品。かのファイアルーン工房の傑作。棒の芯材をオリハルコン、その周りをミスリルで固め、十のルーンが刻まれた一品だよ」
そう言って木箱から棒が取り出される。見た目は木で出来た棒で、なんの変哲もない物に見える。芯材がオリハルコンとミスリルらしいが、目視できるのは木だけだ。
「ルーン?」
「知らないのか? ルーン技術による魔化が施されてるんだよ。数あるルーン工房の中でも、とびきり腕がいいファイア印。こいつは他の店でも、早々お目にかかれねえぜ」
知りたいのはどこの誰が作ったのかではなく、ルーンの事だよとモモンガは言いたい。言いたいが、店主の物言いからルーンとやらは普通に名の知れた技術らしい。なので必要以上に根ほり葉ほり聞くのは躊躇われる。
(ルーン。ユグドラシルにもルーン文字はあったが、あくまでもゲーム内ではただのフレーバーテキストで文字には何の効果もなかった。けれど、こっちの世界ではルーン文字が何かしらの効果を生むのだろうか。知りたいことが山ほど増えていくな)
「この棒を、魔法で詳しく調べてもいいだろうか?」
「お、偽物かどうか疑ってんだな。まぁ、ファイア工房製品は偽物も多いし、疑うのも無理はねえか。良いぜ、幾らでも調べな」
「感謝する。<道具上位鑑定>……ッ!」
先ほどの剣と同じように魔法で調査して……モモンガは本気で驚く。
(これはミスリルとオリハルコンだろ! ……チ。鎮静化か、鬱陶しい感覚だ。まぁ良い。それよりも……この棒が
遺産級。それはユグドラシルにおける上から四番目の品質判定だ。プレイヤーが持つ装備であれば、ギリギリこの辺りから及第点と呼べる代物であり、強さだけで言えば大したことも無い。しかし問題なのはオリハルコンやミスリルを使った装備が、遺産級もあることだ。ユグドラシルの判定では、ミスリルが下級でオリハルコンが中級相当。それを二種類使っているからギリギリ上級と言えるかもしれない。それを最上級生産職が加工したところで、最上級にギリギリ届くかどうか。なのにルーンとやらが刻まれたこの棒は、遺産級判定。
これは由々しき事態と言える。ユグドラシルではありえない事であり、同時に一つの可能性がモモンガの中で生まれる。もしもルーン技術とやらが、装備品の判定を二段階押し上げるなら。オリハルコンなんて柔らかい低級金属ではなく、もっと上位の金属。例えば一つ上のアダマンタイトを使えば聖遺物に届くのでは。もっと上位の金属───それこそ七色鋼と呼ばれる、ユグドラシルでも最上位の金属を使いルーンとやらを刻んだら……
「店主。これは幾らだ」
「その反応。気に入って頂けたようですね。そちらは───」
価格はかなり高く両替してもらった硬貨が全部吹っ飛んでしまったが、それでも良い買い物ではあるとモモンガは納得する。ルーンというこの世界の独自らしき技術の物品が手に入ったのだ。これは研究資料として必要なものであり、ナザリックの益になる。だから無駄遣いなどでは断じてない。
(うん。珍しいからって衝動買いしたわけじゃない。これは必要経費。必要経費だから)
……生来のレアアイテムコレクターな気質を見せながらも。モモンガ一行は武器屋での視察を終え、今度はアンデッドの魔術工房とやらを目指すのだった。
レベル制限がない+クラス獲得がしやすい=上級生産職爆誕
・この世界の市場:高レベル生産職によるマジックアイテムが多数生産されている。市場に流れる数も多いので、原作と比べると安価に高品質なマジックアイテムが購入できる。ただし製作に貴重な素材が必要な代物や出回りにくい物品は、依然高級品扱い