転移後世界の仕様が変更されました   作:リセット

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レベル6 御方と僕

「申し訳ございません、モモンガ様! 我ら僕一同、御身にそのような負担を掛けていたなど!」

「……一人で勝手に勘違いして、お前達の事をよく知ろうとしていなかった私にも責がある。だからお前達。とりあえず面を上げろ。目立つ」

 

 モモンガとNPCの間にあった認識の誤差。それが知らず知らずの内に、モモンガに支配者としての役割を強いてしまっていた。モモンガとお互いにどう思っているのかを確認したことで、それに気づいたセバスとアウラが真っ先に平伏した。よく分かっていなかったシャルティアはアウラから事の真相を聞かされて顔面が真っ青に───元々真っ白な顔をしているので、青になっても分からないが───なって同じように平伏。マーレもおどおどしつつも自分達の大失態に気付き、震えながら土下座していた。

 

 それを見て、モモンガは自らのとんでもない勘違いは呑み込みつつ、通りで他の人に見られると面倒だと思い、さっさと顔を上げさせたかった。

 

(うわぁ……恥ずかしい。俺何一人で支配者とか悩んでたんだろ……て言ってる場合じゃないな。まずはこいつらをどうにかしないと。滅茶苦茶目立つ)

 

 モモンガ達がいるのはまだ工房街であり、商業区画に比べると人通りが少ないとは言えそれでも一目はある。幼い子供二人と、まだまだ成長途中ぐらいの少女が一人に、屈強な体格をした老人がスケルトン系アンデッドに平伏している姿は、それは目立つ。

 

 早く速くとモモンガがせっついたら、ようやくセバス達は顔を上げた。

 

「うーわ」

 

 一同の顔を見て、モモンガは呻く。全員、例外なく酷い顔をしていた。セバスなど何十時間も寝ていないかのような隈が眼の下に出来ており、シャルティアはまるで普通のアンデッドのように眼窩が窪んでいる。アウラなどこの一瞬で泣いたのか若干目が赤く、マーレはこの世の終わりを眺める幼子の顔だ。

 

 負担と言ったところで、モモンガがこの世界に来てまだ十日しか経っていない。確かにNPC達の態度にちょっと恐怖を覚え、どうすれば良いのかを悩んではいた。いたが、やはりまだ十日なのだ。精神的に苦痛を覚えるほどの日数は経っていない。だからモモンガは恥ずかしいが、それは自らの勘違いが恥ずかしいのであって、NPCへの悪感情などでは断じてない。

 

 しかしセバス達にとっては違う。NPCにとってモモンガに役割(ロール)を強いてしまったのは、あまりにも論外な行為。絶対的忠誠を捧げ、自らの命よりも尊き存在───至高の四十一人のために尽くし役に立つことこそが己の存在理由(レゾンデートル)。なのにモモンガの在り方を、これこそが偉大なる神々を率いた支配者の姿などと捻じ曲げて……許されるならば自死してしまいたいほどの羞恥と後悔が、シャルティア達を襲っている。しかし自らの命すら、モモンガの物なのだ。だから自死などとても……。

 

(忠誠心を口にしてくれていたけれど、どこかで俺は口先だけじゃないのか。そう考えてたが、ほんとに心から俺に忠誠を捧げてる……んだろうか)

 

 今にも死にそうな四人を見て、モモンガは多少は彼らの忠誠を信じても良いのかも。そう考えると同時に、今にも首でも吊りそうな面々をどうにか宥めようとする。

 

「お前達が後悔しているのは理解した。同じ言葉の繰り返しになるが、此度の件は私にも非がある。なので、僕を責める気など一切ない。だから立つんだ。こんな場所で膝をついていたら、一日が暮れてしまうぞ?」

「しかし……私はモモンガ様が、我らを創造された御方と共に、談笑されている姿を知っていました。なのに、デミウルゴス様の御言葉や、マーレ様の発言を訂正しなかった。我らは被造物であり、それに接する姿こそが支配者として相応しい。そう思ってです。そのせいで御身の御心に、不必要な負荷を背負わせてしまうなど……モモンガ様が御優しい方なのは百も承知です! ですが……だからこそ、我々は自らが許せないのです」

 

 モモンガとは、NPCにとって最後までナザリックに残ってくださった慈悲の神。モモンガはNPCに失望されたらどうしよう……などと警戒していたが、失望されてしまったらどうしようと考えていたのはNPCもまた同じ。もしも慈悲なるモモンガにまで愛想を尽かされ出て行かれでもすれば、もはや自らの存在意義すら消失する。ゆえに怯えていたのはお互いに同じなのだ。

 

 マーレ達の心痛な表情───セバスなど男泣きしている───を見て、モモンガは───

 

「……では罰として、お前達に命ずる。まずは立て。それと歩きながら、私にお前達の想いを聞かせてくれ。それから、罪に対しどのような手を下すのかを検討する」

「………………承知致しました」

 

 ようやく観念したのか立ち上がったNPC達と共に、モモンガは工房街から探索者ギルドを目指すことにした。本当はこの世界特有の技術で作られているかもしれないポーションなどを薬品店に見に行きたかったが、どう見ても意気消沈しているNPCと話したいことがあるので、距離が遠いギルドを目的地としたのだ。

 

 道中ポツリポツリとアウラ・シャルティア・セバス・マーレはモモンガに胸中の気持ちを伝え、モモンガも静かにその語りを聞いた。

 

「そうか。お前達にとって、ギルドメンバーのみんなは父親であり、母親だったのだな。親に認めて貰いたく、また親の手伝いをして褒めて欲しい、か。考えてみれば当たり前の事。そこに考えが及ばないとは、私はギルド長失格だな」

「そんなことは! 我々僕こそがおろ───」

「良い。その気持ちに間違いなどない。親に会いたいのは、子として正しい感情だ。私とて、似たような感情を抱いた事は多々あるからな」

「まことですか!!?」

「意外か? 先ほどカジット殿のところでも伝えたが、私はかつて人間だった。それも今のように強い死の支配者(オーバーロード)ではなく、何の変哲もない凡人の人間だ」

「ぼ、凡人、ですか?」

 

 凡人と聞いても、ピンと来ないのかマーレは信じられないと言わんばかりだ。それは他の三人も同じなのか、不思議そうな顔をしている。

 

「私が強くなれたのは、たっち・みーさんやぺロロンチーノさん、ウルベルトさん、武人建御雷さん、あまのまひとつさん。多くの仲間に助けられたからだ。生前の私は大した生まれの家ではなく、両親も仕事であまり家にいなかった。幼少期の事はあまり覚えていないが、寂しい思い……をしていたと思う。母と父は私に少しでも良い生活をさせたいと教育機関に行かせてくれたが、無理が祟ってしまい病に倒れ……そのままこの世に戻る事はなかった」

「蘇生魔法で、蘇らせはしなかったでありんしょうか……」

「私が住んでいた場所では、蘇生魔法の使い手は貴重でな。蘇生をお願いするには、高額な技術料が必要だった。我が家の家計事情では、そんな大金を用意できない。父は仕事場から還らず、母は私の前で倒れ……家に帰ってくることはなかったよ」

「も、モモンガ様の御両親が、そんな……」

「それから私は一人で生きる事を余儀なくされ、幸い両親の残してくれた遺産で教育機関も卒業できた。そのおかげで職にもつけたが……今だから言えるな。あの時の私は、たしかに寂しい思いをしていたと。もう一度会えるなら、育ててくれてありがとう。そんなありふれた言葉を伝えたい。だから、お前達の気持ちも理解できるつもりだ」

 

 ……アウラが鼻を啜る音がする。モモンガが気持ちが分かると言ってくれたことが嬉しいのか。それとも、偉大なる神の両親の死に悲しんでいるのか。どんな感情を覚えているのかは不明だが、今この瞬間だけには同じような気持ちを抱いているのかもしれなかった。

 

「さて。では、まずお前達に下す罰だが、当分の間は保留とする」

「な! な、なんでですか? 僕たちは、その、モモンガ様にご迷惑をかけて……」

「先ほども言ったであろう。お前達の気持ちは分かると。それなのに不用意な罰を下してしまっては、私のギルド長としての名が廃れてしまう。それにな───」

「それに?」

「この世界で、僕に私的な罰を下しているほどの余裕はない。ここにいる四人も見たであろう。この地に住まう住民は、我らナザリックの総力をもってしても侮って良い相手ではない。現状ですらその有様なのに、まだまだ集めなければならぬ情報も多く、知らなければならない事柄も多い。我らナザリックに、私的感情で責を問うほどのリソースはないのだ」

 

 これはモモンガの本音だ。都市の衛兵は50レベルが当たり前。ここに来るまでにアウラに確認させていたが、都市住民は例外なく30レベル以上。一部には70なども混ざっていて、武器屋を覗けば遺産級の装備が置かれている。モモンガにそんな気は一切ないが、もしもこの都市相手にナザリックが戦争などすれば、どれだけの資財を消費する羽目になるか……そんな環境で、ナザリック内部である意味仲違いのような真似をしている暇など、どこにもない。全員が同じ方向を見て尽力せねば、どこかで決定的なボタンの掛け違いがあり得るやもしれないのだ。

 

「しかし、それでお前達の気が晴れないと言うのであれば、私は一つの命を出そう。今日ここであったことは、ここにいる五人だけの秘密とし、他の僕に話すことを禁ずる」

「な! それでは、私達はまだしも、アルベド様やデミウルゴス様を始めとした、ナザリックの者は御身の事を誤解したままになります!」

「それが狙いだ。皆は私の事を、支配者として認識しているのであろう? それが実は違うと知れたら、ナザリック内部で混乱が産まれるのではないか?」

「それは……そうかも。デミウルゴスなんて頭が良いのに、勘違いしていたなんて知ったら、その場で腹を掻っ捌くかも」

「え!? ノータイム切腹すんの!」

「アルベドさんも、そ、その。意気揚々とモモンガさ───モモンガさんのことを、すっごく褒め称えてたから、もしも自分の間違いを背負わせてたことを知ったら、その───」

「首を掻きむしり、頭がおかしくなって死ぬんしょう」

「そんな猟奇的な死に方すんの!!」

 

 あと誰が死ぬと思う、そうでありんすねと、色々な意見が出される。それらを聞きながら───

 

(こいつらの感情重くない? ぺロロンチーノさんが好きなエロゲヒロインでも、こんなヤンデレ早々いないぞ……やったことないから想像だけど)

 

 激重感情にちょっと引いていた。とは言え、少しはNPCの内情も知れたので、モモンガは今後の方針を決めるのによしとしようと思った。

 

「な、なるほど。大変貴重な意見ばかりで、私は嬉しく思うぞ」

「お褒めに与り恐悦至極に存じます!!」

「誉め言葉では……もう誉め言葉で良いか、なんかめんどくさいし。とにかく! ここでの話は五人だけの秘密とし、この土地でのナザリックの生活基盤が整うまでは話す事を禁ずる。現状、私はナザリック内部が混乱に陥りかねない事象を好ましくは思っていない。なので、今後もお前達の前では支配者として振舞い、ナザリック内部でも崩す気はない。分かったな。あと、さっきマーレが思い出したが、セバス以外はさん付けするように」

「……承知致しました。モモンガ様の真実を、我らの胸の中だけに留める。これほどの罰は、中々お目にかかれません」

「こ、こんな恐ろしい罰を考案するなんて……流石はモモンガさん。感服いたしんす……」

「えぇ……罰は保留すると言っただろ。ただ黙っているだけでも、僕にとってはそんなに苦痛なのかよ……」

 

 モモンガはちょっとした悪戯程度の気持ちだが、セバスらにとってこれほど難しい事はない。偉大なる御方の心中を話す事を許されず、仲間達が無邪気にモモンガを偉大なる支配者だと持て囃すのを黙って見守らなければならないのだ。それがモモンガの心労になっていることを、語る事を禁じられながら……

 

 これは文字通り、精神を削る拷問と言っても良い。きっと、デミウルゴスやアルベドがいかにモモンガが凄いのかを、その頭脳を遺憾なく発揮して今後は語ってくれる。それが実は間違いだと知りながらも、訂正することを許されないのだ。それはもう長期的な拷問でしかなく、どれだけ心を痛めるのか。

 

「うぅむ……それでは一つ、条件を加えよう。先の話だと、私の前では語られていない、ナザリックの僕同士の間だけで通じる会話などもあるのだろ。それを私に報告するんだ」

「密告……という事ですか?」

「そこまで深刻な話ではない。あくまでも、ここにいる四人以外が、どう私の事を考えているのか。それを知りたいだけだ。ナザリックに帰り次第、マーレ以外にもギルドの指輪を渡そう。マーレの分含めて、私の私室に直接転移できるよう、プロテクトも解除しておく。今後は何か重要な話があれば、私の部屋で報告するように」

 

 あと、転移する前にちゃんと俺に連絡もするんだぞとモモンガは付け加える。

 

(俺の知らないところで、どんな評価をされているのか。それを知れるのは、この先ナザリックのリーダーとしてやっていくならかなり役に立つはずだ。それにまぁ、あれだな。さっきは目の前でも支配者として振舞うとは言ったけど、私室でくらい素で話してみても良いかもな。ずっと演技するのは疲れるし)

 

 自分が道化を演じていたのは黒歴史にしたいが、1組織の社長として今後やっていくなら、それなりの振る舞いは求められるだろうから、その練習として結果オーライだとモモンガは納得することにした。

 

 しかし───

 

「ですがモモンガ様。デミウルゴス様やアルベド様は深い知慮の持ち主です。我らだけですと、あまり不審な行動をしていては勘付かれるやもしれませぬ」

「そうか。そういった方面では、二人とも知恵が働くのだな」

 

 でも勘違いしていたじゃんとは、モモンガも言わない。曲がりなりにも、二人とも頭脳労働では最高レベルと設定されていて、計算能力や記憶力など遺憾なく発揮しているのだ。そんな二人を騙すとなると───

 

「こちらにも頭脳方面に優れた味方が欲しいな」

「も、申し訳ありません。僕たちは、そういった頭の良さだと、あまり役に立てなくて……」

「気にしないでいーよ。マーレはまだまだ、シャルティアに比べたら頭が良いんだから」

「なんだとちびすけぇ! ぬしと私では、そこまで頭の出来は変わらんでありんしょうが!!?」

「待て待て。初っ端から喧嘩をするんじゃない。しかし頭脳、か。アルベド達に対抗できそうなIQの持ち主なんて───」

 

 モモンガの言葉が止まる。いた。一人いた。これ以上なくモモンガの味方になって、なおかつこの五人パーティに足りない頭脳面を補強できそうな人材が一人いる。いるのだが───

 

(あいつか。あいつか。あいつかぁああああ……)

 

 はぁああああ!とモモンガから溜息が漏れる。

 

「どうされましたか?」

「いるわ。一人だけだが、心当たりがある」

「なんと! まことですか!?」

「うん。いるんだけど……あいつなぁ……」

 

 その人物を思い出しながら、モモンガは盛大に溜息をもう一度吐く。その人物をどうするかに関してはナザリックに帰ってからにしようと、モモンガは一旦忘れる事にした。

 

 ともあれ。

 

 モモンガの心境やらを知った四人と共に、モモンガは『漆黒の剣』が属する探索者ギルドを目指すのであった。




モモンガさん、ちょっとだけ気が楽になるの巻。ナザリックのみんなには内緒だよ

シャルティア・アウラ・マーレ・セバス:今作の役得組
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