機動戦士ガンダム ジークアクス  船乗りの道導   作:海空陸一体

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 物心ついた時から、この世界は地獄と化すことを知っていたら、貴方はどうする?

 悲惨な未来を変えようとするも、変わることで起きるかも知れない、未知の結末に足踏みしてしまう可能性は?

 出来る範囲で助けようとするも、助けられなかった者達からの怨嗟に、怯えることを考えたことは?


 これはそんな人生を歩んだ、1人の人間のお話し。


前章
第1話 不幸の始まり


 宇宙世紀0078 12月20日

 

 地球連邦軍が保有する数多の宇宙軍根拠地の内、最大拠点であるルナツーより出港する艦影。

 タグボート代わりの複数のボールに牽引されながら、船体のスラスターを吹かし、進路を少しずつ変えている。牽引ロープが外されると、巨大な4つエンジンノズルを輝かせゆっくりと加速し、ルナツーの管制圏から離れてゆく。

 

 その艦の後方には、1個戦隊4隻のサラミス級巡洋艦が艦列を組み、更にレパント級ミサイルフリゲート6隻が簡易的なコンバットボックスを敷き、2隻のコロンブス級輸送艦を護衛している。

 それを率いるのは、現時点で地球連邦軍最大の宇宙戦闘艦であるマゼラン級。特徴的な船体上下左右に据え付けられた巨大な連装砲塔。側面のサブブリッジや単装の両用砲、多数の対空機関砲が重厚感を醸し出している。

 

 マゼラン級『フソウ』を旗艦とする艦隊。地球連邦宇宙軍第8警戒艦隊は、ルナ2を出港し舳先をサイド2へ向けた。目的は急速に高まり続ける、ジオン・連邦間の開戦機運を受け、各コロニーの防衛戦力を増強する為である。

 コロニー駐屯軍への増援部隊を詰め込んでいる、2隻のコロンブス級が護衛されているのは、これが理由である。

 

 『フソウ』のメインブリッジでは、この宇宙戦艦を万全に操艦するため、多数の乗組員たちが異常が無いか目を光らせ、手足を動かし続けていた。

 

「航法管制システムの定期チェック、異常なし」

 

「レーダー探査により、航路上の異物等は確認出来ず」

 

「各推進用ロケットノズルの温度、適切な状態を維持」

 

 そんな忙しい彼等を見ながら艦長と話し込むのは、まだ若いながらも大佐の階級章を身に付けた将官。

 名は、トウゴウ・ヤイチロウ。

 

 父は、地球連邦東アジア・ニホン管区出身の連邦議員、トウゴウ・イチロウ。入婿であり、ヤイチロウの母である妻を若くして失い、一人で育て上げたシングルファッザーでもある。

 母方の血筋は、宇宙世紀となった連邦軍事史においても、名将として解説されている一人の海軍元帥の末裔である。

 

 父親の地位から得たコネクションと、母方の家系から向けられる畏敬の視線。

 

 これらは、ヤイチロウの人生に大きな影響を生み出した。彼が軍人を志した時は、周囲はむしろその血筋から見たら必然的と解釈し、積極的に支援をする。

 士官学校では、実直かつ勤勉であった為、教官たちからの評価は良好。

 連邦軍配属後は宇宙へと進み順調に昇進してゆく。そのスピードはヤイチロウの同期と比較しても、異常に速かった。これは、地球連邦軍の隠そうともしない腐敗が理由でもあった。

 ヤイチロウの出世に関わった数多くの連邦関係者は、彼の血筋と、父親であるイチロウに注目していた。

 文官は、ヤイチロウに便宜を図ることで、連邦議員である父親との知見を得ようとしたのだ。武官は、宇宙世紀前の戦いとは言え、歴史的の大勝を修めた名将の家系との繋がりを求めた。

 結果、ヤイチロウの出世は数多の関係者の間では、既定路線と化しており、トントン拍子で階級が上がった。

 

 その為、同じ大佐の階級章を身に付ける『フソウ』のドンである、ウィルソン・アンダーセン艦長と対等な立場で話し合いが成立しているのだ。

 

「このままサイド2へ向かうとなると、到着は予定通り5日後の1400ですな」

 

 その容姿は老練な紳士。軍服ではなく、クラシックスーツを着込んだ方が合っているアンダーセン艦長が、ヤイチロウに航路予定をそう告げる。

 

「えぇ。急な輸送計画ですが、無事に間に合わせられたのは艦長の尽力があったからです。改めて感謝申し上げます」

「いやいや、退役まであと僅かな私を、最後に旗艦艦長に座らせてくれた、ヤイチロウ大佐の配慮に答えようとしたまで。こちらこそありがとう」

 

 実際、アンダーセン大佐は連邦軍の従軍規定に引っ掛かる寸前であった。秒読みの段階に来ていた紳士を引き抜き『フソウ』の艦長に据えたのは、ヤイチロウの根回しによるモノであった。

 

「まあ、老いぼれた自分がこうして艦長席に座れるには、相応な理由があると予想はしていますがね」

 

 制帽のズレを直しながら、艦長席の座り心地を確かめるアンダーセン艦長。周囲で動き回る乗組員たちを流し目で確認している。

 

「只でさえ、サイド3との関係が悪化しているのに、このタイミングでの部隊増強。確かに、疑い深い人種から見たら開戦前夜そのものですから」

 

 アンダーセン艦長の疑念に、明言はせずとも戦争が間近に迫っていると答えるヤイチロウに、艦長は少しだけ驚いた顔をする。

 

「そこまで言い切れる段階だと?」

「はい。既にサイド3...ジオン公国が戦時体制に移行してるのは、現地情報員から伝わってます。ジオンが覚悟を決めたのは間違いないでしょう」

「大して我々は、平時の状態のまま臨むわけですか」

 

 肩を竦めながらアンダーセン艦長は、連邦軍の現状を指摘する。

 事実、地球連邦とジオン公国の国力は、それ程までに隔絶しており、連邦軍及び連邦議会の上層部は戦時動員に関して、必要なしと判断していた。

 また、ジオンとの戦闘行為は、宇宙に限定される考えが一般論であり、積極的に動員が行われたのは宇宙軍のみと言う状態であった。

 

「トウゴウ大佐は、この戦争が前評判通りに進まない、と考えておいでで?」

「むしろ、計画通りに進んだ戦争など歴史上、一度たりともありません。最終的な勝利は得ても、失ったモノが大きな過ぎた戦争は、数え切れないほどです」

 

 トウゴウはそう答えると、自室に戻ると告げ、メインブリッジから退室して行った。それを見送ったアンダーセン艦長は、席に深く座り込むと瞼を閉じながら、大変な時期に引っ張り出させれたものだと、深くため息をついた。

 

 

 

 

 そうして第8警戒艦隊は、予定通り5日後の12月25日にサイド2へ到着した。艦隊は、輸送した駐屯軍増援部隊の下船と各艦への燃料補給を、慌ただしく同時並行で行なっていた。

 

 その間、トウゴウ大佐はサイド2自治区上層部を表敬訪問する傍ら、サイド2を構成する各バンチから避難民を募集。特に、ある特定の数字を持つコロニーから重点的に集められた。

 しかし、前線と化す可能性が高いとは言え、産まれ故郷であるコロニーから離れる事を嫌がる人々も数多く、集まった避難民は1000人前後。また、あるコロニーからの避難民はその半数に当たる500人を超える程度であった。

 そして避難民の大多数は子供と母親であり、孤児院から半ば強制的に連れ出したのも多かった。

 

 この行為に、サイド2上層部は非難の声を上げたが、トウゴウ大佐は無視を決め込み、艦隊を進発させた。

 

 第8警戒艦隊がサイド2を離れたのは、12月31日。

 艦隊が、避難民を乗せたコロンブス級を中心に球形陣を組む中、マゼラン級『フソウ』の自室からサイド2を形成する多くのコロニーを見つめるトウゴウ。

 モニター越しに見るコロニーは、人工重力を生み出す為、一定の速度で回転している。

 

 人類が造り上げた人工天体の中には、1基当たり500万以上の何の罪も無い人々が、今もなお暮らしいる。

 

 愛する家族と一緒に、平和に過ごしている。

 

 今を生きている。

 

「すまない……」

 

 モニターの画面に一滴の雫が落ちる。それは涙である。トウゴウの固く閉じた瞼から、零れ落ちる涙である。

 

 

 涙が滴り落ちるコロニーの外壁に刻まれた番号は、8。

 

 

 もし、自分にもっと力があればより良い結果を出せただろう。もっと地位があれば見捨てることもなかっただろう。もっと勇気があれば……こんな悲惨な未来を辿ることは無かっただろう。

 

 

 そのコロニーは、アイランド・イフィッシュ。

 

 

「ごめんなさい……」

 

 彼は、天才ではない。

 彼は、名将ではない。

 彼は、勇者ではない。

 彼は、英雄ではない。

 彼は、彼は、彼は、彼は、彼は、彼彼彼、かれかれかれ…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 彼はニュータイプではない。

 

「ゴメンナサイ……!」

 

 彼は、21世紀の記憶を持つ転生者である。

 

 

 

 

 

 

 




 次回:ブリティッシュ作戦発令



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