機動戦士ガンダム ジークアクス  船乗りの道導   作:海空陸一体

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何かを始める時、一番大変な事は何だと思う?

それは無から一を作り出す事だよ。


第9話 ゼロから1へ

 宇宙世紀 2月28日

 

 地球連邦軍総司令部・ジャブロー地下要塞

 

 天然の地下空洞を利用する形で構築されたジャブロー。大小無数の空洞はブロック毎に分割されており、なかでも比較的に広大な空間が密集したエリアは、宇宙艦艇用ドックとして整備された。

 その一角に建てられたビルの会議室。そこへ集まった、ルナツーから降りてきた宇宙軍将兵たちに、ジャブロー勤務の艦船部門やヤシマ重工、タキム重工、ヴィックウェリントン社を始めとする各軍需メーカーから派遣された、現場組と事務・技師チームが小声で話し合っていた。

 

「ジオンの地球降下が間近なのは間違いないのか?」

「あぁ、グラナダに大量の物資にHLV、新旧問わず多数の輸送船が集められてる」

 

「ジオンがどこに降下するのか、軍は予想出来ているのか?」

「情報部は北半球ではないかと予想しているが、詳細は分からん。連中の降下コースが判明するまでは、皆目見当がつかないし」

 

「陸軍が迎撃に失敗した場合に備えて、生産設備や人員の退避を準備しているが、御社に受け入れ体制はどうなっている?」

「余り無茶は言わないでくれ。こっちもコロニー落としの被害収拾に掛かりっきりだ」

 

 軍民関係なく話題に上がっていたのは、直近の脅威であるジオン軍による地球降下作戦。連邦軍にとって身も蓋も無い話だが、宇宙軍主力艦隊の大多数を喪失し、制宙権を失っている現状では、それを妨害する事さえ難しい。

 その為、宇宙軍はルナツーへ引き籠り、本土防衛の為に陸海空の三軍が、泥縄式に準備へ奔走していた。

 

「ブリティッシュ作戦……あれさえ無ければ、このような事態には」

「仕方ないだろう。コロニーの住民、2000万人がまだ中に居る状態で、質量兵器に転用するなど狂人の考えだ」

「それを思い付くギレン・ザビの発想力。とてもではないが、常人のソレから逸脱している」

 

 この場にいる者たちは、コロニー落としに使われた『アイランド・イフィッシュ』の人々が、毒ガスで全滅させられた事を知らない。

 それについて連邦政府・軍上層部は箝口令を敷いていた。連邦軍将兵の士気を向上させるプロパガンダに活用する案もあったが、余りに刺激が強すぎると判断された。

 

「すみません、遅くなりました」

 

 そこそこ話が進んでいたが、会議の主催者であるトウゴウ大佐が、大量の資料を抱えた状態で入室する。その後ろに隈の下が真っ黒に染まった秘書が付いてきた。

 疲労が隠せない秘書に、集められた者たちは唖然としたが、黙々と準備を進めている姿に何も言えなかった。 

 

「本日、各々が極めて多忙である中、この場に集まって頂き感謝申し上げる」

 

 挨拶と自己紹介をある程度で済ませると、トウゴウは手元のコンソールを操作し、会議室の大画面モニターを起動させた。 

 モニターに映し出されたのは、多数の稼働データと直立した状態のMS-06ザク。120mmザク・マシンガンや280mmロケット砲など、各種兵装のデータも表示される。

 

「サイド3……ジオン公国の宣戦布告から始まった本戦争ですが、当初の想定とは異なり、我ら連邦軍は敗北を繰り返しています」

 

 映像は切り替わり、ミノフスキー粒子により開戦前まで築き上げてきた戦術や兵器が無力化され、多数のザクが仕掛ける近接戦に翻弄され蹂躙される、マゼラン級やサラミス級から成る連邦軍艦隊。

 それを見て、苦い顔しているのはメーカー側の人間が圧倒的に多く、むしろ軍人の方が達観していた。

 

「前世紀から積み重ねられてきた戦術は、ミノフスキー粒子下で形骸化し、目視による有視界戦闘がこれからの主たる戦いとなっていくでしょう。それに対応する為、我々も変わらなければなりません」

「……変わるとは、どういった意味で?」

「相手の土俵に合わせる、という事です」

 

 トウゴウ大佐が弁舌を振るう中、沈黙していた集団の内ある一人が手を上げて質問すると、条件を一致させると返答と共に、モニターが別のデータを映し出す。

 ソレを全員が目を細めてジッと見分していたが、勘の良い者はそのデータがこれまで会戦で、連邦軍が出してきた膨大な損害の代償に得た、戦闘に関するモノだと察した。

 

「これからの連邦軍宇宙艦艇が必要とするのは、電磁波が無効化または著しく弱くなる環境において、戦える状態を整える事です」

 

 撃沈破または被弾したが、生還した艦艇から抽出した生の戦闘データ。被弾による損傷、誘爆を防いだ構造、艦内ブロック毎の生存率。

 そして最も、重要視された艦艇の対空砲による敵機の撃墜確率など、夥しい犠牲の上で連邦軍が手に入れた指標である。

 

「得られたデータによれば、我が軍の艦艇による対空砲の命中率は3%を切っている、と推測できます。これは前世紀の第2次世界大戦時とほぼ同等であります」

 

 ミノフスキー粒子によって、高度に自動化されたレーダー迎撃システムが機能不全に陥り、個艦防空さえ儘ならなくなった宇宙艦隊など、手足を捥がれたも同然であった。

 緊急処置で対応しようと努力したが、AMBACシステムによって高い機動性を発揮出来る、モビルスーツに対応出来る筈もなく、連邦艦は成す術もなかった。

 

「レーダーが使えない状態で、対空砲は目視または予備のレーザー照準機に頼るしかなく、その精度は心許ない」

 

 ミサイルと対空砲の中長距離防衛システム。その破綻は、近接戦を強いられた連邦宇宙軍の戦術ドクトリンの敗北であり、ジオン公国軍の戦略的奇襲が成功したことを意味していた。

 

「で、どうするのですか?」

 

 その連邦軍の要求に沿って、数々の艦船を納入してきたメーカーの技師が問い掛ける。各メーカーからしても、自分たちが造り上げた製品が、一方的にヤられるのは面白くなく、それぞれ対応策を協議している段階であった。

 

「先祖返りを」

 

 モニターに新しく表示されたのは、第二次世界大戦時にアメリカ海軍が運用したMk.37 砲射撃指揮装置。射撃用の関連装備が体系化され、対空戦にも有効性が発揮された代物である。

 

「ジオン軍のMSとミノフスキー粒子の組み合わせは、第二次世界大戦の艦隊防空における戦闘条件を、擬似的に再現しています」

 

 数多くの兵器が急速に発達した第二次世界大戦。その中でも航空機は飛び抜けた存在感を示した一つだ。

 大空を制した航空機は、翼下にある全てのモノを圧倒した。爆弾や魚雷、ロケットなど多種多様な武器を装着し、歩兵を薙ぎ倒して、戦車や火砲を吹き飛ばし、戦艦を轟沈させた。

 

 海上戦において航空機は、従来の戦術を一変させてしまった。それまで海軍戦力の象徴だった戦艦の価値を沈め、自らの巣である航空母艦を、国家の権威にまで引き上げた。

 

「我々が直面しているのは、過去の諸先輩方が目の当たりにしてきた転換点そのものである、と私は確信しています」

 

 画面に二つの記録が並行で流される。右は第二次世界大戦において猛威を奮った航空機の数々で、左はMSの脅威を前に散ってゆく連邦軍の姿。

 

「先祖返りか……」

「モビルスーツと航空機、立ち位置は確かに類似している」

「しかし今から始めて間に合うのか」

「トウゴウ大佐はそこまで言うからには、何かしらの案をお持ちで?」

 

 会議室のメンバーが隣接している者と議論をしている中、将校の一人が質問を投げ掛ける。

 

「MSの運動性に、追従可能な射撃管制装置を新規開発します」

 

 その答えとして再びMk.37が出される。先程と違うのは、Mk.37の隣にザクの頭部構造が比較対象として、一緒に表示されている。

 

「二度に渡るジオン軍との戦闘において、大小の損傷はあれど複数の敵機動兵器の鹵獲しています。ザクの頭部内部機構はその運用ドクトリンに沿った構成ですが、基本的には従来兵器の延長線にあり、それを再構成し艦艇防空用に最適化させます」

 

 ザクやザク以降のジオン系MSの特徴である巨大な単眼レンズ。それは赤外線探知や高倍率ズーム機能など、巨人の目となるよう設計されている。火器管制用の捕捉補正も可能なモノアイを、個艦防衛に適した射撃管制装置に作り直す。

 

「……どう思う?」

「無理に対空砲を増設するよりは効果的かと。火器とその弾薬を追加するとなると、船内容量と睨めっこする必要があります。管制装置ならまだ最低限の変更で行けます」

 

 メーカーの造船技師は自信を持って答える。MSが大暴れする中、艦艇強化は幾つものアイデアが出されては、その度に駄目だしを受けて消えていた。一番の理由は工数の増加であり、二番目に容量限界があった。

 対空火器の増設は、船内構造を弄くり回す必要があり、潜水艦と同様に空気が漏れてはいけない密閉構造である宇宙軍の艦艇には、かなり難しい課題であった。

 

「平時なら時間を掛けて解決する事が出来ますが、今は戦時です。先の会戦で多数の艦艇の穴埋めに、とにかく数が要求される中、大規模な改修は不可能に近いです」

 

 開戦直後のサイド防衛にブリティッシュ作戦、ルウム戦役で戦力の大多数を損失した連邦宇宙軍は、残存戦力の保持と速やかなる補充を必要としていた。

 

「この仮称『零式射撃管制装置』は、その答えになると私は確信しています」

 

 ザクの頭部構造を形成する各パーツは分解され、Mk.37に再構成される。それを船体側面のサブブリッジに装備したサラミス級とマゼラン級の3Dモデル。

 

「Type0 FCSはミノフスキー粒子により無力化した、レーダー連動の防空システムを代替として、我が連邦軍にとって必要不可欠な装備となるでしょう」

 

 

 

 

 話し合いと言うよりは、トウゴウ大佐のプレゼンの場と化した会議室。そこには最初には垣間見えなかった、熱気が満ちつつあった。 

 それほどまでに、Type0 FCSは大きな期待を寄せられていた。運用側は、本システムを使用する人員を用意する必要はあれど、最小人数の増員で済む。造船メーカーは最低限の艤装を追加するだけで、生産ラインをそのまま活用出来る。

 

「火器管制官は、正確性より反射神経に優れたヤツが良いな。確か救助された航宙機のパイロットで、復帰困難と診断された連中を割り当てられないか?」

「可能です。いずれかの四肢を失って再戦力化が絶望的な者を当たってみます」

 

「サブブリッジに配置出来れば、そのまま予備戦闘指揮所としても機能するんじゃないか?この零式射撃管制装置、簡易としては優秀だぞ」

「原型がMk.37 砲射撃指揮装置て言ってたな。いま調べたが、こいつ駆逐艦から巡洋艦、戦艦全てに搭載されていたのか」

「旧暦の産物だが、モダナイズすれば直ぐに治具を掻き集めて試作出来るな」 

 

 会議が始まった当初は、諦めを滲ませていた参加者たちであったが、その眼には火が灯っていた。会議に参加する前は、ズタボロに叩き潰された連邦宇宙軍の惨状に、気力を失っていたのだ。

 そうした中、反撃とまでは行かないが抵抗する手段を見出ださせた事で、その胸の内にあった火種が点火したのだ。

 

 メーカーの者達は持参のPCを活用して、次々と意見を出し合いながら、Type0 FCSの概念図をパズルのように組み立ててゆく。

 宇宙軍の将官は、人事課の事務官に適性がありそうな者を探し出すよう提案している。

 

 一気に喧騒が増した会議室に、パン!と音が響き渡る。全員の視線が音の出所に向くと、両手を合わせた状態で佇むトウゴウが、注目が集まったのを確認し口を開く。

 

「会話が弾んでいる中、申し訳ないのですがもう1案あります」

 

 そう言いながら懐からUSBメモリを取り出し、それをコンソールに接続すると、多数のファイルが表示されたが、その内の一つをクリックした。

 

「皆様のご承知の通り、我が軍大敗の要因なのはモビルスーツであるのは明らかです」

 

 ジオン公国が積極的にプロパガンダ映像として流している、ジオン軍主力艦艇のムサイ級巡洋艦から、多数のザクが発艦してゆく映像。母艦との連携攻撃により、格上であったマゼラン級戦艦を容易く撃破するシーンは、ジオン国民のみならず、連邦政府に悪感情を抱いていたスペースノイドを熱狂させた。

 

「ジオン軍は第一線級の戦闘艦から輸送用の支援艦艇まで、ほぼ全ての船をMS母艦として設計し運用しています」

 

 例えるなら、連邦宇宙軍は砲火力を重視した打撃艦隊であり、ジオン公国軍はMSの多機能性を前提とした空母艦隊だった。

 

「対して我が軍に於いては、MSの運用可能な艦艇はコロンブス級輸送艦やアンティータム級補助空母のみです」

 

 一年戦争末期のソロモンとア・バオア・クー攻略戦で、サラミス級やマゼラン級の甲板に露天駐機で無理矢理、大量に搭載されたジムは、多数の映像作品で表現されていた。

 そして連邦軍のMS運用が本格化したのは、サラミス改やアレクサンドリア級が就役した後であり、それまでは輸送艦ベースのコロンブス改と高コストかつワンオフに近い設計のペガサス級系統が主であった。

 

「また艦船局やメーカー側と情報交換した結論としては、コロンブス級やアンティータム級では、MSの単艦運用は現時点では設備的に困難だと」

 

 外伝作品の一つでは、コロンブス級が物資集積やMS搭載をサラミス級は補給整備と分担していた。戦争中に連邦軍の中で機動的に活動出来たMS部隊は限れており、大体はペガサス級母艦を有する一部の独立部隊のみであった。

 例外的な艦艇として、コロンブスを縦に連結した『ビーハイブ』などの艦もあったが、戦闘・補給・整備のサイクルを、一貫して行える運用母艦をトウゴウは欲していた。  

 

「そこで本官は、サラミス級の改造を提案します」

 

 サラミス級巡洋艦の3Dモデルがピックアップされ、コロンブス級輸送艦が併せて表示される。

 一同が驚愕したのは、そこに写し出された三隻目の奇形とも呼べる姿であった。何故なら、サラミス級の船体にコロンブス級の格納庫がサイズアップしてポン付けされた格好なのだから。

 

「この艦も『零式射撃管制装置』と同様に、旧暦の海軍艦艇を参考にした母艦であります」

 

 インディペンデンス級航空母艦。第二次世界大戦において、クリーブランド級軽巡洋艦の船体を流用した軽空母だ。正規空母のエセックス級に劣ったが、改造艦としては必要充分な航空機運用能力と、巡洋艦譲りの軽快さを活かし、アメリカ機動部隊の一翼を担った。

 

「仮称『パイ』級MS母艦は、サラミス級の船内にモビルスーツ関連設備を置くのではなく、外付けつまりコロンブス級の格納庫をMS運用に再適化した状態のを設置します」

 

 甲板にあった速射砲やVLS、艦橋などは全て撤去されており、サラミス級の船体長228mに覆い被さる形で、延長されたコロンブス級の格納庫があった。

 

 『パイ』級MS母艦の内部は、改造元であるサラミス級と大きな差異はなく、短期間の習熟期間があれば実戦投入が可能な設計であった。甲板にあった各兵装の跡地は、MS用の弾薬庫に流用されており、艦橋があった場所は格納庫から飛行甲板兼用の新甲板まで全通の、MSサイズの超大型エレベーターが設置された。

 飛行甲板は、前部に2機の露天式カタパルトが設置されており、後部にはボックス状の緊急着艦装置が鎮座していた。

 大胆にも船体側面には対空砲しか設置されておらず、メガ粒子砲やミサイルランチャーは一門も設置されていなかった。艦対艦を直援機に任せる一種の切り捨てである。

 艦橋はコロンブス級のをそのまま使用しており、艦首に鎮座している。

 

 徹底的までに、既存艦の建艦ラインを流用する事を主眼に置いた設計。データ上ではあるが、パーツ共有率は80パーセントを超えていた。しかし実際に建造し運用すれば、細かなズレが発生して共有率は下がるだろうが、それも許容範囲で収まるだろう。

 

「この母艦の目的は、これから再生される宇宙艦隊へMSの傘を提供することを第一に置いています。ジオン軍のザクにより壊滅的な打撃を受けた、我が軍に必要充分な回答であると自負しています」

 

 会議室にいる全員の視線は、『パイ』と名付けられた航宙母艦。醜ささえ感じさせる単一的なその全容は、MS運用をどうするべきか頭を悩ませていた彼らの胸中に、一つの波紋を生み出すものであった。

 




 連邦軍側のMS母艦について、改めて調べてみたら、一年戦争時の新造艦がペガサス級しかほぼ無い事を再認識。(外伝作品を除いて)

 そら、数で押せる大規模作戦はともかく、小回りがモノを言う機動戦で負け越すのも納得。


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