機動戦士ガンダム ジークアクス  船乗りの道導   作:海空陸一体

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 戦争とは古来より、突然に始まる。大多数の人々を、置き去りにして。


第2話 ブリティッシュ作戦・前編

 宇宙世紀0079 1月3日

 

 

 ジオン公国総帥ギレン・ザビの宣戦布告は、地球連邦上層部からはある程度、予測されたモノではあった。現地の諜報員に加え、ジオン側の協力者から提供された情報から、ジオン公国が戦争に向けて入念な準備をしていたのは明白であった。

 しかし、予測出来ていた者達でさえ、ジオン軍の実力を見抜くことは出来なかった。

 

 ジオン公国軍は二手に別れ、連邦軍へ奇襲攻撃を敢行した。

 ドズル・ザビ率いる宇宙攻撃軍は、パトロール艦隊及びコロニー防衛艦隊を。

 キシリア・ザビ指揮下の突撃機動軍は、グラナダ及びサイド1・2・4の制圧に。

 

 連邦宇宙軍は、ミノフスキー粒子を活用した奇襲に成す術がないまま、次々と撃破されてた。

 ミノフスキー粒子より、従来型の電波兵器が完全に無効化され、有視界戦闘を強要される連邦軍に対して、それを前提としたジオン軍は圧倒的な戦術アドバンテージを得ていた。

 

 

 大勝利を収めたジオン軍は、戦争計画を第2段階へ進めることを決定。

 ブリティッシュ作戦の決行を、各部隊に伝達した。

 

 突撃機動軍所属のアサクラ大佐は、部下である海兵隊を欺き、催眠ガスと偽った極めて致死性の高いGGガスを散布させた。

 これにより、ブリティッシュ作戦の要である、第8バンチコロニーの約2000万の住民は、即座に全滅。

 

 コロニー内の抵抗を排除したジオン軍は、撤収する海兵隊と入れ替わるように、工作隊と護衛部隊がコロニー外壁に接触し、入念な計算に基づいた角度にブースターを取り付けていった。

 作業は突貫で行われており、本来あるべき安全規定など省かれていた。一定の角度へ次々と装着される核パルスエンジンは、コロニーを異様な姿へと変貌させる。

 

 この時のジオン軍の護衛部隊は、ある意味で慢心の極地にあった。サイド2周辺の連邦軍パトロール艦隊にコロニー防衛艦隊は全滅させ、近辺に敵は居なくなったと認識していた。

 それを裏付けるように、骸と化したコロニー防衛艦隊が辺りを漂うばかりであった。

 

 

 

 その光景を、超長距離から見つめる艦艟の群れが居た。

 

 

 

 最初に気がついたのは、皮肉にも、取り付け作業中の初期型ザクであった。量産型と比べて、内部パーツの剥き出しが多い初期型は、戦闘ではなく工作用に改修されていた。

 

「あれは…?」

 

 ベテランが乗る初期型ザクは、天地つまり零度に対して80度の場所で作業をしていた。そのお陰で、頭部をさほど上下させなくても、コロニー直上から落ちてくる大重量物を見つけることが出来た。

 その数は、五つ。

 未だミノフスキー粒子の濃度は高く、レーダーでは捕捉出来ない領域からの、突貫。

 

 ザクのモノアイが捉えた物体は、機体備え付けのコンピューターが識別し、僅かな間を置いてコックピットに甲高い警告音を発した。

 モニターに表示された敵影の予測名を見たパイロットは度肝を抜かれた。

 

「マゼランだとぉ!?」

 

 その叫びと示し合わせるが如く、彼の母艦であるパプア級に、最大出力で放たれたメガ粒子砲が突き刺さった。

 白桃の光線は、補給艦であるパプアの船体を次々と串刺しにし、ついには中心部の動力炉に撃ち抜いた。

 

「パプアが沈んだ!?」

「マズイ!ムサイも狙われてるぞ!!」

「護衛は何をしている!?」

 

 爆沈したパプア級の近くで静止していた、1隻のムサイに雨のようにメガ粒子砲が降り注ぐ。当たれば良いの考えで放たれる4隻からの集中砲火は、ムサイを瞬く間に包み込んだ。

 天地方向から来る攻撃に反撃しようにも、ムサイ級の特異的の兵装配置が原因で、成すがままであった。

 船体が引き裂かれように四散するムサイ。

 

 しかし、衝撃からいち早く立ち直った僚艦が、反撃に転じようと動き出す。

 

「上げ舵イッパイ!」

 

 艦首の下部スラスターを全開にし、静止状態から動き出した。

 その直ぐ後方を8本の光線が掠めた。

 

 

 

 

 

 

 

 天地から180度方向へ加速を続けながら、逆落としの突撃の先頭を突き進む『フソウ』。8門の主砲から放たれるメガ粒子砲が、敵艦の後方を通過してのを見て、アンダーセン艦長は舌を巻いた。

 

「やはり、レーダーが機能しない状況での戦闘は、奴らに一日の長があるか」

 

 もし敵艦がそのまま停止した状態ならば、直撃していた筈の砲撃が外れた。

 その光景を見つつ、更なる追撃を加えようとする。

 

「主砲はこのまま砲撃。速射砲を最寄りの敵艦に撃ちまくれ!」

 

 照準を敵艦の動きに合わせて修正しつつ、メガ粒子砲が火を噴く。

 マゼラン級『フソウ』に加え、追従するサラミス級『フルタカ』『カコ』『アオバ』『キヌガサ』は、持てる火力を全力投射し続けながら、第8バンチに肉薄しようとしていた。

 

「駄目だ。艦長、やはりレーダーがホワイトアウトしたままです!ミサイルに目標諸元を入力出来ません!!」

 

 火器管制を統括するコンソールを操作する、砲雷長の言葉は想定された事態の中で最悪に近かった。

 

 攻撃前に考えられた即席の計画では、火砲は敵艦艇や機動兵器を撃破もしくは牽制し、ミサイルにてコロニー外壁に取り付けられつつある核パルスエンジンを破壊を目論んだ。

 その計画が破綻した。

 これを受け『フソウ』率いる戦隊は、事前に決めていた次の行動へ移行する。

 

「味方艦へレーザー通信!進路を維持し、最大戦速で離脱するぞ!!」

 

 未だ隊列が乱れきっている敵部隊に向けて機関全開で突撃し、そのまま敵中を喰い破り、加速し切った状態のままサイド2から離脱する。

 作戦の主目標である核パルスエンジンへの攻撃が、不可能と判断された時点で、逃げるための攻撃へと変わる。

 

「ミサイルは発射自体は可能なのか?」

「可能です!」

 

 アンダーセン艦長の隣の提督席で、黙って周囲の状況を観察していたトウゴウ大佐の問いに、砲雷長が答えると、トウゴウは発射準備を命じた。

 

「無誘導にて発射用意、散布角は指定の数値を元に設定」

 

 トウゴウは提督席備え付きのコンソールから、砲雷長へデータを送ると、通信士に同じ命令を、僚艦のサラミス級に伝えさせる。

 

「目標は各艦の進路上で最接近する艦艇。対象無き場合は、自爆モードを設定し、デコイ代わりにばら蒔け」

 

 トウゴウの次の言葉は、彼の先祖の教え子たちが幾度の戦いにおいて、発してきた号令であった。

 

「全艦、雷撃戦ヨーイ」

 

 

 

 

 

 

 

「クソッタレ!?」

 

 5隻の連邦軍艦艇から降り注ぐ弾丸の嵐は、チベやムサイ級など母艦もだが、MS隊にも関係なく被害を与えていた。後先を考えていない加速に次ぐ加速。その状態から撃ち出される実体弾は、物理法則の概念に従い、発射元の速度が上乗せされる。

 

「マチス機の右腕が飛んだぞ!」

 

 ザクの120mmマシンガンよりは小さいとは言え、艦艇に搭載される対空砲は、それに準ずる大きさを持っている。つまり、当たれば効果があるのだ。

 

「こちら第2小隊、被撃墜は無くも損傷多数!一時離脱を具申する!?」

 

 当たらなくとも回避行動を強要し、掠めれば動きを一瞬だけ動きを拘束し、1発でも直撃すれば被害を出させる。

 

「たった5隻に!!」

「待てブルノ!?」

 

 スラスターを駆使して弾雨を抜け出す1機のザク。

 対艦バズーカを装備する機体の型式はMS-06C、核弾頭の使用を考慮したモデルであった。

 旗艦に接近するザクに気がついたサラミス級から、ミノフスキー粒子で無力化されている対空ミサイルが飛んでくる。

 ザクは回避行動をせず、そのままマゼラン級へ突貫する。レーダーが使えないミサイルなど、見かけ倒しに過ぎない。そう判断していたが、ミサイルはザクと一定の距離まで接近すると爆発した。

 

「クソッ!」

 

 直撃はしなくとも、機動が乱れる。レーダーによるVT信菅が無力化されているならば、爆破タイミングを手動にて入力し、一定の距離で破片と爆発の傘を作る。

 それがミノフスキー粒子下の戦闘において、編み出された苦肉の策であった。

 

「この程度で!」

 

 乱れたのは一瞬だけ。

 人型由来の高い機動性で直ぐに体勢を立て直し、バズーカを構えるザク。280mmの大口径対艦バズーカに装填されているのは通常弾頭に非ず。

 

「クタバレ!!」

 

 発射された核弾頭が真っ直ぐ、マゼラン級に向かって行くのを見て、ザクの若きパイロットは笑みを浮かべる。敵は密集している。これなら5隻纏めて葬れる。

 

「え…?」

 

 その笑みが凍りついた。

 核弾頭がマゼラン級の艦首に直撃し砕け散った。起爆しない事に固まるが、それは余りに致命的な遅れだった。

 彼のモニターには、画面一杯まで広がるマゼラン級の艦首が映っていた。

 

「ブルノー!?」

 

 ザクのパイロットが失念していた事は、核弾頭の影響を避ける為に、必ず安全距離が設定されている事だ。

 

 ジオン軍が相手にしてきた地球連邦軍は、パトロールかコロニー防衛が主な任務だった。動きが遅いか、退くことが出来ない状態だ。

 しかし『フソウ』が先頭を務める部隊は違う。機関を焼き切れんばかりに噴かし、船体強度が許す限りの速度を出そうとしている。

 信管の作動する前に、その安全距離内にマゼラン級が飛び込んできた。

 

 つまり、距離を見誤ったのだ。

 

 凄まじい光景と共に痛々しい金属音が響き渡る。それを見たムサイ級の艦長が慌てて回避行動を取る。

 

「か、回避!面舵60!!」

 

 70トン弱のザクに、全備重量6万トンを超えるマゼラン級がラムアタックする。ザクの上半身は粉砕され、下半身はコロニー側へ弾き飛ばされる。

 そしてマゼラン級の進路上には、命知らずの体当たりを恐れたムサイ級が、無防備の横腹を晒していた。

 マゼラン級から白煙が上がり対艦ミサイルが発射されると、サラミス級各艦も最寄りの敵艦に向かって撃った。

 

 ミサイル攻撃を受けて混乱するジオン軍を尻目に、戦隊は最大速度でサイド2宙域から離脱した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 同日 ジオン突撃機動軍制圧下、グラナダ上空

 

 グワジン級グワジンの執務室。

 その空気は、重苦しいモノであった。

 

「えぇー…パプアとムサイが1隻ずつ撃沈され、ザク1機を撃破されたとのことで」

 

 サイド2からの報告を読み上げる士官の頬から冷や汗が流れる。何故なら、同じ報告書を手元に置きながら、口頭での報告を求めた本人は、腕を組み目蓋を閉ざしながら考え込んでいる様子だからだ。

 

 唾を音を出さないよう飲み込みながら、報告を続けようとすると執務室の扉が開き、青い表情をした部下が駆け寄ってきて耳打ちする。

 

「…先程の報告に一部訂正が生じました。大破したムサイですが、退艦命令が出されたようです。これにより撃沈判定のムサイは2隻となります」

 

 粛清。

 その二文字が頭の隅をよぎりながらも、士官は報告を続けるしかない。

 

「ブリティッシュ作戦への影響は?」

 

 突撃機動軍司令官キシリア・ザビからして見れば、自分の状態に気がつかないほど、混乱している士官の事など眼中に無かった。

 それよりも、肝心のアイランド・イフィッシュの状況について把握したかった。

 

「は!幸いな事にコロニー自体への損害は確認されていません。しかし、装着作業中の核パルスエンジンにザクが…」

 

 報告書に添付された解像度が粗い写真には、ザクの下半身がめり込んだパルスエンジンが映っている。余りの絵に気がつかない内に、キシリアの顔が忌々しそうに歪む。

 

「被害の把握と、そのザクの下半身により、核パルスエンジンの取り付けは、現場指揮官の判断により中止しています。これにより、第8バンチの()()()()()()()()()()()()()()()()()()に影響は免れないもので」

 

本国への回航はない

 

 士官の言葉に被せる形で、キシリアはそれを否定する。

 それに怪訝な表情を隠せずにいる士官。彼が作戦開始前に聞かされていた計画では、催眠ガスでコロニー内の連邦軍の抵抗を一時的に排除し、その間に第8バンチを本国へ持ち去ると。

 それが否定されたとなると、別の目的が?

 

「核パルスエンジンの修理は、何時間掛かる?」

「…少なくとも、予備のモノに取り換える必要がありますので、明後日までは掛かるかと」

「ブリティッシュ作戦の遅延は、可能な限り抑えなければならない。よって、明日の2300までに発動出来る状態にせよ」

 

 余りの無茶苦茶な命令に目眩がする。予備のエンジンに交換する作業に加え、取り付け済みのモノは残らず損傷等が無いか、全て点検しなかればいけない状況。

 頭を抱えそうになるが、キシリアは士官の心中など知らんと言わんばかりに、執務室から退室させる。   

 

「…我らジオンに、止まることは許されんのだ」

 

 サイド2・第8バンチコロニー、アイランド・イフィッシュ全体に一定の間隔で装着される核パルスエンジン。

 人の住む人工大地から、人が産まれた地球への攻撃兵器へ転用されるコロニーの姿。

 

 それは決めた事だ。

 

 サイド3・ジオン公国と地球連邦の国力の差は、余りにかけ離れていた。それを埋めるには、大量虐殺の罵りを受けようと、ブリティッシュ作戦を完遂させることが重要であった。

 

「許せとは…とても言えぬな…」

 

 既に、コロニー内の2000万余りの住民を、毒ガスを用いて処理した。各サイドへの攻撃を鑑みれば、この時点で1億以上の死傷者が出ている計算があった。

 

「戦争の全ては、この一撃で左右される」

 

 作戦は徹底的に隠匿された。各段階で関わりが出てくる軍人軍属問わず、意図的に流されたカバーストーリーを信じ込むように、意識の誘導をおこなった。

 退室した士官が、その最たる例だ。

 彼は、自分が知らず内に、前代未聞の作戦に関わっているとは思わないだろう。

 

「国力で劣勢なジオンが勝つには…」

 

 いつ頃からだったか。

 今は亡きサスロ兄上の顔を思い浮かべながら、サイド3が平和的に自立する方法を、家族で議論していた頃だったか。

 やがてザビ家が実権を掌握し、自立防衛の為に防衛隊を発足させた時からか。

 ミノフスキー博士の研究により、モビルスーツの実用化に目処が立ってからか。

 

「我らスペースノイドの独立の為…」

 

 周囲から冷酷な女と言われ続け、自らも役割を果たそうとしている内に、いつの間にかそれに縛られている。

 

「すまない」

 

 第8バンチの住民達の痕跡は、ジャブローと共に消え失せ、コロニー落としの名と共に歴史に刻まれるのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




 サイド2付近の岩礁宙域に潜み、第8バンチに展開するジオン艦隊へ攻撃を仕掛けるトウゴウ大佐。
 戦闘後、ルナツーから緊急発進した第二艦隊へ合流。
 コロニー落下を阻止すべく、戦陣へ加わるのであった。



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