機動戦士ガンダム ジークアクス 船乗りの道導 作:海空陸一体
勝利こそが我等が生き残る、たった一つの道である。
諸君、歴史を生むべし。
宇宙世紀0079 1月12月
地球連邦宇宙軍・艦隊根拠地・ルナツー
ギレン・ザビ総帥の宣戦布告から始まった、ジオン公国と地球連邦の闘いは、早くも一週間以上が経過していた。戦争は既に億を超える死者を出しており、敗戦が続く地球連邦では厭戦感情が高まっていた。
そのような状況下で地球連邦軍は、ジオン軍がサイド5・ルウムに侵攻し第2次ブリティッシュ作戦を目論んでいる、と情報を入手した。
地球連邦政府は、ルナツーで待機中の宇宙軍に対して、コロニー落としの再来を阻止するように厳命。
これを受け、地球宇宙軍最先任指揮官であるヨハン・イブラヒム・レビル中将は、各艦隊司令官並びに幕僚たちを呼集。
ルナツーの作戦会議室には、地球宇宙軍の現場指揮官たちが集まりレビル中将の到着を待っている中、トウゴウ大佐も会議室に到着した。
トウゴウは会議室を見渡し、空いている下座に行こうとする。それを第二艦隊の参謀が呼び止めた。
「大佐、あちらの席に」
参謀が案内したのは、先のコロニー落とし阻止戦の時、指揮下に加わったティアンム中将の隣であった。トウゴウが戸惑っていると、中将は視線で早く座れと指示してきたので、遠慮がちに着席する。
話を切り出したのは、ティアンム中将からだった。
「この前は済まなかったな。最後に助けられた」
「サー。申し訳ありません、なんの話か分からず……」
困惑した表情をしているトウゴウに、ティアンム中将が眉をしかめると、会話が聞こえたのかテーブルを挟んだ先に居るロドニー・カニンガン准将が笑い声を上げる。
「中将、ソイツは気が抜けている時はトコトン抜けるから、ストレートに伝えた方が良いですよ」
「カニンガンは知っているのか?」
「知っているもナニも、私が士官学校四年次の時に入ってきたルーキーですよトウゴウは」
控え目に笑いながら自分の後輩だと告げる准将。それに頬を赤く染めつつ、少しだけ反撃しようとするトウゴウ。
「オニギリを紅茶に合うからと、握らせたのは貴方以外は誰も居ませんよ」
「その分、オマエが卒業した後、宇宙軍に引っ張ってやっただろう」
「いきなり副官にさせられ、挙げ句の果てには、ほぼ毎日、握り飯作るとは思いません」
「それは作ってくれるライスボールが旨かったからな」
いくら口撃しよう、軽くいなされるトウゴウを見て、会議室に集っていた将官たちは、微笑ましい表情になる。
ティアンムも思わず笑ってしまったが、一呼吸を置いて気持ちを落ち着かせてから本題を告げた。
「コロニー破壊が失敗に終わった後に、キサマは戦域に残り、私の部下を救助してくれた。この場を借りて、感謝を告げたくてな」
「閣下、あれは自分の独断で……」
「だとしても結果的に、私は生き残っていた兵士達より、残存艦の撤退を優先した。大佐が撃沈破された将兵の命を救ったくれたことで、自分の面子も保たれた」
艦隊指揮官として取れる優先順位で動いたとは言え、戦場に残った部下達を見捨てたのは事実であり、それを拾い上げてくれた事に恩を感じていた。
謙遜するトウゴウであったが、その言葉の裏にある感謝の念に、素直に嬉しい気持ちになれた。
「レビル閣下が入室されます!」
部屋の外から警備兵の声が聞こえると、全員が一斉に立ち上がり、扉の方に向き直る。扉が開いて、レビル中将が入ってくると、揃って敬礼をする。
レビル中将も答礼しながら、一番奥の席へと向かう。そのまま席に座ると、周囲に着席するよう促す。
「まず、集まってくれた事にありがとう、と伝えたい。身内に不幸があった者も少なからずいる中、連邦軍人の責務を果たそうとする諸君らに労いの言葉を掛けるべきだが、情勢がそれを許してくれない」
レビル中将の言葉に、会議室に居る何人かの将校の顔色が曇る。ブリティッシュ作戦の被害は未だ集計中で、膨大な犠牲者の量に調査が全くと言うほど、進んでない地域があるぐらいだ。
「ある程度、耳にしていると思うが、ジオン軍が第2次ブリティッシュ作戦を計画していると、情報部がキャッチした。また、ジオン軍がソロモンと呼称する旧資源衛星から観測される排熱量が、急激に上昇している」
従兵がレビル中将の説明に沿うように、モニターを操作しソロモンの観測データを表示すると、将官たちの注目が集まる。
「これらの情報から、サイド5へのジオン侵攻は確実であると推測される。我が連邦宇宙軍は、これを総力を以て撃滅し、制宙権を取り戻す」
ルナツーに集結する地球連邦艦隊の戦力は以下の通りであった。
レビル中将直卒の宇宙軍第一艦隊。
ティアンム中将率いる第二艦隊は、コロニー落下阻止戦で損耗していたが、コロニー防衛艦隊やパトロール艦隊の残存艦艇、ルナツーにてモスボールされていた艦艇の早期復帰により、寧ろその戦力を増していた。
更に、第三から第六艦隊に加え、ジャブローから打ち上げられた地球軌道艦隊を合わせて、300隻以上の大戦力であった。
「艦隊編成だが、ティアンム中将の第二艦隊に前衛を任せたい」
「了解しました」
「第三及び軌道艦隊は、私自身が直卒しこれを第一連合艦隊とする。副将はカンニガム准将だ。第四・五・六艦隊は第三連合艦隊を形成せよ」
各艦隊司令官は特に疑問を持つことなく、命令を受領する。最も実戦経験が豊富な第二艦隊が、最前線に立つのは当然と考えられており、ティアンム本人もそれを受け入れた。
第二艦隊はそのまま第二連合艦隊と呼ばれることになったが、レビル中将は第8警戒艦隊の配置について口にした。
「トウゴウ大佐の艦隊だが、
その言葉に会議室がざわめく。実質、艦隊ではなく戦隊規模である事を考えれば、レビル中将の直近まで近づけるのは、トウゴウ大佐の今後を考えれば大きな意味を持つ。
だからこそ次の瞬間、会議室の空気が凍る感覚を全員が共有した。
「レビル中将、残念ながらそれは不可能です」
後輩であるトウゴウへ、訝しい視線を送るカニンガン准将。彼がこう言った際は、何らかの理由があるのを経験で分かっていたので、口を挟むようなことはしなかった。
断られたレビルは、ゆっくりと問い掛ける事にした。
「ナゼかね?」
「サー、本官の乗艦である『フソウ』ですが、機関不調の予兆があります」
「ふむ……その報告を耳にした覚えがないが?」
「私のトコで留めていました。通常航行こそ可能ですが、戦闘には不安がありますので」
その答えに、レビルは判断に迷った。本来であれば叱責するべきだが、トウゴウ大佐の第8警戒艦隊は開戦以来、ほぼ負けなしであり、士気が下がりつつある連邦軍にとって、数少ない勝ち星を得た部隊。
それ故に、相当な無茶をしているのは、レビルの下まで報告に上がっていた。
「分かった。第8警戒艦隊は戦争が始まってから、サイド2での強襲、コロニー落下阻止と連戦してきた事を考えれば、長期間の休息と整備補給が必要なのも当然の理。……しかし、今は1隻でも戦力が欲しい」
宇宙軍最上位及び派閥のトップとしての、規範や利益などを考慮しながら、トウゴウに戦力引き抜きを告げた。
「トウゴウ大佐の部隊から、サラミス級1個戦隊を転属させ、カニンガン准将の『ネレイド』直掩に充てる」
言わばこれは鞭だ。組織としての統制から見た場合、トウゴウの行為はサボタージュと見れるが、レビルはそれを黙殺することにした。その代わりに、実戦経験を積んだ戦隊を副将であるカニンガンに預けることで、処罰をすると同時に戦力の補填を行う。
「サー。レビル閣下、お願いが一つあります」
「ナニかね?」
「戦闘救難を専門とする部隊に、ご興味はありませんか?」
これに喰い付いたのは、その効果を実感したティアンム中将で、レビル将軍に積極的に部隊設立を薦めた。
「先の戦いで、戦闘後の救難活動に多くの困難があるのが露呈しています。また、それを専門とする存在が居ると将兵たちも知っていれば、より戦いに専念出来るでしょう」
ティアンム中将の説得もあり、レビルは救難行動を主体とする専門部隊の創設を決定。指揮官をトウゴウに任せる事を周知したのを最後に、会議は解散した。
「トウゴウ。危ない橋を渡ろうとするな、て何回も言ったろ」
「すみません」
レビル将軍が退室するのを見送ってから、カニンガンは後輩を叱った。一歩間違えば更迭の可能性があっただけに、気が気でなかった。
「それにしても何故、誘いを断ったのだ?」
同じように気に掛けていたティアンムが問う。受け入れていれば、側近として取り立てられる未来が待っていた。それを蹴ってまでナニをしたいのか。
「『フソウ』の機関トラブルは事実です。それを隠したまま戦闘に参加するのは、危険なので」
答えをはぐらかすトウゴウに周囲は、問い詰めても納得する返事は聞き出すことは出来ない、と悟った。
「例のモノ、見に行きませんか?」
それが何なのか分かった二人が頷くと、トウゴウが先導する形で、ある場所に向かう。その後ろをカニンガン准将とティアンム中将が続き、更に幕僚団が列を作った。
多人数でも乗れるエレベーターに詰め込むように入ると、扉を閉めエレベーターはルナツーの下層部へ降ってゆく。
「ルウムでの戦闘、どうなると思われます?」
エレベーターの駆動音だけが響く中、一人の参謀が次の戦いについて聞いてきた。周囲の視線が一気に集まり、その答えを聞き漏らすまいとしている。
「勝負は時の運……と言うが、君はどう思う?」
トウゴウは扉側に向かって立っている。背中越しに質問を返された為、参謀は自身の見解を述べた。
「コロニー落下阻止、以前の自分なら、我が連邦宇宙軍の勝利を疑うことなど考えもしないでしょう。ですが…」
エレベーターの降下が止まる。その階はルナツーでも、セキュリティが格段に高くなっているブロックだ。扉が開くと、重装備の警備兵が直立不動で彼らを迎えた。
エレベーターから降りると、複数の警備兵が手持ち式センサーを使い一人ずつ検査してゆく。網膜・指紋・静脈認証と多重検査を経て、クリアした順に奥へと案内される。
「今は負ける可能性も考慮せざるを得ないと?」
「はい」
その先にあるエリアは、臨時の研究拠点となっており、ジオン軍の新型機動兵器が天井から吊り下げられていた。それを取り囲む形で、足場が組み上げられており、多数の技術者たちが羽虫のように群がっていた。
「MS-06 ザク。それがコイツの正式名称だそうです」
「ザク…か」
沈黙したままのザクを見ながら、ティアンム中将が悔しさを滲ませる。コロニー攻防戦でその脅威を身を以て体験していた。
「艦艇の被弾痕から推測するに、使用兵装は100mm以上の大口径弾や300mmクラスの対艦ロケットがメインでしょう」
この緑の巨人が操る武器は、その大きさに比例し相応のサイズがあった。現物が無いとは言え、ある程度の推測は可能だった。
「飽くまでも自分の予想ではありますが…」
そう言いながら振り返り、微笑しながら語り出す。その予測が現実ではなく、
「ジオン軍は各サイド及びグラナダ攻略に、戦力を分散させていました。……恐らくルウムでの決戦は、あの巨人が群れを成して襲ってくる、と考えた方が良いかと…」
それを聞いた彼らの脳裏には、宇宙を我が物顔で翔び回るザクの姿が浮かんだ。
宇宙世紀 1月22日
ソロモン・グラナダからジオン艦隊出港の報を受け、レビル将軍は全艦隊へ出撃を号令。
サイド5にて前進守備に就いていたティアンム中将率いる第二艦隊が前衛として進発し、ルナツーより第一・第三連合艦隊が発進。空前絶後の規模である為、ルナツー制宙権内での陣形形成を断念する程であった。連合艦隊は強行軍でサイド5・ルウムへと急ぎつつ、徐々に戦列を為した。
連合艦隊の進発から遅れること約6時間。
ルナツーから、小規模な部隊が進発。トウゴウ大佐が乗るマゼラン級『フソウ』を指揮艦に、レパント級ミサイルフリゲート1個戦隊4隻、工作母艦・病院船として急遽改造されたコロンブス級4隻から成る、計9隻の
工作母艦の格納庫に、大量の工作用スペースポットと限界一杯まで積め込まれた各種機材。病院船は、増設された手術室や各治療設備に過積載している血液パックの山。
これらはまるで、ルウムでの激戦を暗示しているようであった。
ご愛読して頂いている皆様に、この場を借りて感謝申し上げます。
ルウム会戦ですが、ORIGINの日付やストーリーを基本に、ファーストの設定を叩き混ぜて、オリジナル設定で描いています。
十人十色と言葉がありますように、皆様それぞれの認識があると思います。それを踏まえて、かなり独特だと自認してますが、この『道導』を楽しんで下さい。
ルウム会戦
戦力設定
ジオン公国軍
ドズル中将直卒・ジオン軍本隊
改ムサイ級・総旗艦『ワルキューレ』
ムサイ級巡洋艦×52隻
総数53隻
ジオン軍MS強襲軍団
グワジン級戦艦×4隻
チベ級重巡洋艦×26隻
パプア級補給艦×22隻
ヤップ級大型輸送艦×4隻
ザク×1276機(過積載状態)
地球連邦軍
ティアンム中将・第二艦隊(増強一個艦隊)
マゼラン級戦艦×18隻
サラミス級巡洋艦×52隻
レパント級ミサイルフリゲート×24隻
コロンブス級輸送艦×6隻
戦闘機14機×16飛行隊=224機
レビル中将直卒・第一連合艦隊
マゼラン級戦艦×32隻
サラミス級巡洋艦×102隻
レパント級ミサイルフリゲート×36隻
コロンブス級輸送艦×12隻
戦闘機14機×34飛行隊=476機
第三連合艦隊
マゼラン級戦艦×28隻
サラミス級巡洋艦×86隻
レパント級ミサイルフリゲート×28隻
コロンブス級輸送艦×8隻
戦闘機14機×20飛行隊=280機
CSAR隊
マゼラン級戦艦『フソウ』
レパント級ミサイルフリゲート×4隻
コロンブス級輸送艦×4隻
工作用スペースポット×48機
誤字脱字の報告。
感想・ご意見をお待ちしています。
ルウム会戦の戦闘後に登場させる人物
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シーマ・ガラハウ
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フォン・ヘルシング