機動戦士ガンダム ジークアクス  船乗りの道導   作:海空陸一体

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 虐殺者とは負けた側の評価であり、勝者にとってみればそのものは英雄である。


第6話 ルウム会戦 後編

 宇宙世紀0079 1月24日

 

 サイド5・ルウムへ急行するCSAR隊は、脇目も振らず逃走してくる連邦艦艇を避けながら、戦闘があった宙域を目指した。

 その道中で、見覚えがあるサラミス級3隻の戦隊と会合し、情報収集に努めた。

 

「そうか……カニンガン准将は意識不明の重体か」

『はい、戦闘終盤に敵弾が『ネレイド』に直撃。その衝撃で頭部に怪我をされ、まだ意識が戻っていません』

「分かった。ところで『アオバ』は?」

『サー、被弾が重なり放棄せざるを得ませんでした。艦長以下、乗組員たちは分散し各艦で回収出来ました』

 

 状況を把握しようと努力し、疲労困憊ながらも報告する『フルタカ』の艦長を労う。

 

『我々はこのままルナツーへ撤退しますが、トウゴウ大佐は……戦闘宙域へ行かれるのですか?』

「私が言い出したとは言え、救難活動を主目的とする部隊だ。助けを待っているだろう友軍を見捨てて、帰投することなど出来ない」

『分かりました。カニンガン准将を無事にルナツーにお届けします』

 

 レーザー通信が切れると、『フルタカ』『カコ』『キヌガサ』の3艦は、船体がボロボロに成りながらもルナツーへの帰路に着く。それを見送ったCSAR隊は、艦隊速力を更に上げた。

 限定的ではあるが入手した情報から、前代未聞の被害が出ているのは間違いなく、早急に救難行動をするべきとトウゴウは判断した。

 

 

 

 それから約1時間、隊群を形成する1隻のレパント級フリゲートが、前方が真っ暗だと報告を入れた。それを聞いたトウゴウ大佐は、全ての見張り員に前方宙域の詳細を確認するように指示。見張り員たちが各々、双眼鏡を覗き込むとそこには想像を絶する光景が広がっていた。

 

見張り所より艦橋へ……前方宙域は星空が見えません…………見えるのは、黒煙の雲海と燃える艦の残骸ばかりです!

 

 モニター画面には、今もなお噴き出す排煙に炎が踊り狂う、連邦艦隊の墓場と化したルウム宙域が鮮明に映し出された。

 乗組員たちが絶句して立ち尽くす中、トウゴウ大佐は救難活動を宣言。呆然とする者もいるが、叱咤激励を飛ばされて大急ぎで動き出した。

 『フソウ』の下部ハンガーからスペースランチが負傷者輸送に駆り出され、病院船仕様のコロンブス級に運び込んでいる。工作母艦からはスペースポットの集団が大型切断機などの作業機械を装着し、撃沈破した艦艇から乗組員を救助しようと飛び出す。

 

「コロニー阻止の後も大変だったが、今回は酷すぎないか?」

「黙って操縦しろ、左340方向にデブリ。衝突に注意」

 

 2人組の陸戦隊員たちが操縦するスペースランチは、艦の破片や戦闘によって発生したデブリ群を慎重に避けながら、母艦から少し離れた場所を探索していた。

 

『スペースポットを回してくれ!通路が塞がってやがる!!』

『救助した艦艇から志願者を集え、動けるヤツは一人でも欲しい!』

『酸素残量は常にチェックしろ!作業に集中するのは良いが、熱中はするなよ!!』

『ランチが…ランチが足りない!負傷者が多すぎる!?』

『ポットを何機かこっちに寄越せ!?ランチだけじゃ間に合わん!』

『アホか!?その負傷者を助け出すのに作業用ポットが必要なんだろう!!』

 

 周波数を隊内無線に合わせていると、工作班指揮官と陸戦隊隊長が怒鳴り合うのが聞こえたので更に変える。

 

『…助け……助けて…』

『誰か……聞こえて…聞こえ……誰か』

『閉じ込められて…………開けてく…』

 

 無線機から流れてくるのは、2人が一緒によくやるホラーゲームに似た、助けを求める声だ。

 

「無線、どこから飛んできてる?」

「チョイ待て…右3時方向のマゼラン級からだ」

「了解、マーカーを置くぞ」

 

 ランチを指示された目標に近づけてから、発煙筒を投下する。戦闘から時間がそれなりに経っているが、依然ミノフスキー粒子が濃く、発信器を設置しても電波が遮られてしまう。発煙筒はそんな状況であっても見つけられる光を放つので、必要不可欠な救難道具なのだ。

 

『おい、そこのランチ!次はソイツか?』

 

 しばらくの間、待っていると1機のポットが寄ってきた。

 

「無線感度、良好。そうだよ、このマゼラン級から信号が出てる。なるべく早めでよろしく」

『了解した。…お前ら!仕事だ、取り掛かれ!!』

 

 操縦しているのが班長なのだろう。ポットにワイヤーフックを引っ掛け、牽引される形で付いてきてた工作班員たちが、マゼラン級へ泳いでゆく。

 ポットも頭頂部のスポットライトでエアロックを探し出し、装着している作業キットを駆使し切断を開始した。

 工作機用の大型溶断機が派手に火花を散らすのを眺めていたが、微弱だが救難信号を受信し、発信下に向かうと、翼端とスラスターの一部が捥がれ漂流するセイバーフィッシュ。

 コックピットには気絶しているのか、パイロットが動かないまま座っていた。

 

「あぁー、ヤッコさん。仏じゃねぇよな?」

「知るか、さっさと助けてくるから待ってろ」

 

 相方が副操縦席から機体後部のハッチへと向かう。その間にランチを動かして、救助対象との距離を少しずつ縮めておく。

 

『ハッチを開けるから、静止してくれ』

「アイアイ」

 

 ゆっくりと減速すると、操縦室に無数にあるランプの一つが点灯した。上から叩くような音がしたかと思えば、相方がセイバーフィッシュへと向かって行った。

 

『おーい?生きてるか?』

 

 工具を片手にノックし反応を見ているが動きは無い。それで仕方なく、コックピット近くにある非常用機体脱出装置のボタンを探し始める。

 

『こいつだな。発破するから離れてろよ』

「了解、安全距離まで退避」

 

 ランチが影響を受けない程度に離れたを見て、ボタンを一回転させ奥に押し込む。すると、コックピットガラスと機体接着部の爆砕ボルトが点火し、ガラスピットが切り離された。

 

「生きてるか?」

『……息はあるな、出血も無さそうだ』

 

 見れる範囲を軽くチェックしつつ、シートベルトを取り外す。航宙機向けのパイロットスーツは、酸素タンクや衝撃緩衝材も内蔵しており、操縦席から引っ張り出すのに難儀しているようだ。

 

『クソォ、重いたらありしねぇ!』

 

 それでも陸戦隊仕込みの筋力トレーニングが功を奏したのか、なんとか引き抜く事が出来た。そのままランチの方に寄ってくるので、ハッチに入りやすいように機体の傾きを調整する。

 

「チクショウめ……重くて敵わないぞ」

 

 ハッチから機体後部の与圧室を経て、そのまま操縦室に戻ってきた相方に、エナジードリンクを投げ渡し、救助したパイロットのヘルメットを外そうとする。

 

「なんだこれ?固くて…外れねぇ」

「ん、それロック外したかのか?」

 

 相方に指摘されて、そう言えば航宙機パイロット用と陸戦隊用だと仕様が違ったな、と思い出してロックを解除する。

 

「あ?なんだ、このお河童頭?」

「…ヤッコさん、女だったか…」

 

 ヘルメットを外すと、まだ気を失ったままの髪型が特徴的な童顔の女性が見えた。相方は顔が見えず乱暴に扱ってしまったと後悔していたが、気にせず顔を優しく叩いて起こそうと努力する。

 

「おーい、寝坊助さん起きてくれ」

 

 それでも()()()()()()()()()()()()は起きる気配を見せなかった。困り果てた2人だったが、とりあえず母艦に帰投しようと決めた。

 その時であった。ランチをうっすらと大きな艦影が覆うと、ランチの警告灯が点滅した。

 

 

 

 

 

 マゼラン級『フソウ』の戦闘艦橋は大忙しだった。40機を超えるスペースポットに負傷者輸送に活用しているランチ、救難信号を頼りに集まってくる脱出艇や置いてかれたセイバーフィッシュ。

 それら総てを統制しなければならず、周囲への警戒も疎かになってしまった。またミノフスキー粒子の濃度が未だに高く、レーダーが機能しておらず、目視に頼るしかない状態。

 撃破された連邦艦隊の隙間を這うように現れた、不明艦の接近を探知出来なかったとしても、仕方ないだろう。

 

「右舷5時方向、正体不明の艦艇!!」

 

 ランチや脱出艇が衝突しないように、血眼になって監視していた見張り員の声に、艦艇で動き回っていた全員の視線が、不明艦に向けられた。

 

IFF (敵味方識別装置)は!?」

「待って下さい、ミノフスキー粒子濃度が高くて信号が…」

 

 アンダーセン艦長に答えながら、通信士がダイヤルやボタンをいじくり受信機を操作するのを尻目に、トウゴウは突如として現れた艦を双眼鏡で隈無く観察していた。

 全長に対して大きな艦幅に、楕円形の船体から鳥のように伸びる翼。航空機のようなデザインは大気圏内での飛行を可能にしており、主翼とリフティングボディによる揚力と在来型の熱核動力を合わせた力技。その特徴的な艦型から、前世では根強い人気を獲ていた軍艦で間違いなかった。

 

「識別信号は…ジオンの周波数です!」

「艦種識別…該当艦無し!?ムサイ、チベ、グワジン級いずれも一致せず!」

 

 艦橋内が騒然とする中、不明艦は船体に据え付けられた多数の火砲を『フソウ』に向けた。

 

「全砲門、近接砲撃戦用意!急げ!!」

撃つな!!

 

 アンダーセン艦長の命令を、トウゴウ大佐が直ぐに取り消した。それに乗組員たちは驚愕した表情をし、どうすれば良いのか混乱する。 

 

砲術長、絶対にこちらから撃ってはならん!!

 

 更に釘を刺す合間に、ジオン艦はメガ粒子砲にエネルギーチャージを開始し、砲口がうっすらと輝き始める。アンダーセン艦長は殴り飛ばしてでも指揮権を取り返そうとするが、トウゴウの方が一歩速かった。

 

信号弾、三番!テェ!!」 

 

 その言葉で反射的にコンソールを叩く。『フソウ』から真上に打ち上げられた4発の信号弾が炸裂すると、淡い緑色の閃光で宙域を照らし出す。

 緑色の光で輪郭がハッキリと浮かび上がったのとほぼ同じタイミングで、()()()()()()()()()の砲塔が火を噴いた。

 

「敵弾至近!至近!!」

「作業ポット並びにランチ群に損害無し!」

 

 『フソウ』の船体を撫でるかのように、大小複数の黄金色の流星が宇宙の果てに消える。奇跡的に周囲にいる味方の被害もなかったが、状況は余りに絶望的であった。 

 

「信号弾、三番を再度打て!通信士、敵艦にレーザー通信だ。我に戦闘の意志は無い、と伝えろ!!」 

「ふざけるな!!トウゴウ大佐、貴官は『フソウ』と乗組員たちを犬死にさせるつもりか!」

 

 激怒したアンダーセン艦長が詰め寄るが、トウゴウは気にすることはなく、第二射の準備に入ったジオン艦を見つめ続ける。

 

「撃たないさ。もしあれが……()()()()()の艦ならば」

 

 何故か確信を得ているトウゴウ。アンダーセン艦長を始めとする艦橋要員は、疑念を抱いたがそれよりも目の前に敵艦の行動に目を見開いた。

 

「ジオン艦……メガ粒子砲へのエネルギー供給を中止したようです」

 

 2回目の信号弾が上げられたのと、繰り返し発信される停戦要請に、本当に連邦軍が戦闘の意思を持っていない、と判断出来たのだろう。ジオン艦の発射準備が出来つつあった各砲から、輝きがゆっくりと消えていた。

 それを見て安堵の息をしながらトウゴウは、手空きのランチを1機、準備するように伝えた。

 

「トウゴウ大佐、まさか敵艦に乗り込むつもりか?」

 

 内心の隠しきれない不安を滲ませたアンダーセン艦長の質問に、少しだけ微笑みながら返答する。

 

「この場を乗り切るには…()()を説得するしか方法はない」

 

 

 

 

 

 状況は悪化していた。非武装艦も含めれば9隻のCSAR隊であったが、ジオン艦は最寄りの仲間を呼び寄せたのか、テブリ群を抜けてきたムサイ級2隻が、彼女の船の後方に陣取る。ムサイ級はそれぞれ多数のランチを牽引しており、それらを艦載機と見られるザクが監視していた。

 連邦軍・ジオン軍の間には危うい緊張感が満ちる中、トウゴウが乗るランチは、ジオン軍の指揮官か居ると思われる艦へ向かった。

 

「なかなか良い動きだな」

 

 母艦に向かうランチに志威行動として、かなり近い距離で戦闘機動を披露するザクの編隊を評価する。直線運動からデブリを足場にして、急旋回を行なった後にスラスターを駆使して制動。

 荒々しくも無駄を感じさせない熟練の動きに、彼らの練度の高さが見て取れる。

 

「大佐、前方の艦……『リリー・マルレーン』と名乗る艦から、ガイド・ビーコンを受信しました」

 

 操縦士が強張った表情をしながら案内されていると告げる。そのまま誘導に従うように指示を出すと、トウゴウは彼女の艦を目を向けた。

 リフティング形状の船体側面にある展開式カタパルトには、スクランブル待機と思われるザクがおり、そのモノアイでこちらを見ている。ムサイ級は多数の機体がしがみついていて、ザクマシンガンやバズーカを手に持って、即応出来る状態であった。

 

「泣く子も黙る『宇宙の蜉蝣』か……」

 

 ランチはそのまま誘導信号に従って、ザンジバル級機動巡洋艦『リリー・マルレーン』の格納庫へ案内される。格納庫内は整然としており、彼女の指揮統制力の高さを物語っていた。それを見たトウゴウは、これ程の部隊を使い捨てとして酷使した、ジオン軍の内実の薄さを嘆いた。

 ランチは降車場に着くと伸びてきたアームで固定される。アナウンスで降りるように促され、ランチの外に出ると、一人の大男が直立不動で待っていた。

 

「本官は地球連邦宇宙軍、トウゴウ・ヤイチロウ大佐です」

「ヤー、ジオン公国突撃機動軍、デトローフ・コッセル中尉であります」

 

 互いに敬礼しながら身分を明かすが、トウゴウは目の前のコッセルを名乗る将校に、目を細める。映像の中のコッセル大尉と現実のコッセル中尉。大尉の方を思い出しながら見比べると、かなり若々しく見える。袖が破かれ鍛えた腕の筋肉が露出させた姿が印象的だったが、今の中尉はそんなことはなく、しっかりとした軍服を着用していた。

 

「少佐は貴賓室にてお待ちです」

 

 コッセル中尉が先導する背中を追うように、トウゴウも歩き始める。

 『リリー・マルレーン』の艦内通路は、マゼラン級と比較しても、かなり広めに造られている印象を持った。ザンジバル級の設計が、ジオン本土であるサイド3と地球間の長大な補給線を維持することを目的としているのが一因だろう。広々とした通路だけを見ても、長時間の航海による乗組員たちの精神的・肉体的疲労を考慮しているのが分かる。

 

「大佐殿、余りジロジロ見るのは歓心しませんよ」

「あぁ、気に障ったら済まない。これ程、艦内が綺麗な状態を維持出来るのを見てると、この船の指揮官が良い人物なのだと思ってね」

「……それは…ありがとうございます」

 

 まさか敵である連邦軍から、称賛されるとは想像しなかったのだろう。面食らった顔をしつつ、なかなか言葉が出なかったが、コッセル中尉はそう返してきた。

 それで少しだけ気を緩めてくれたのか、彼の故郷であるサイド3・第8バンチコロニー『マハル』の話をしてくれた。嬉しそうにふるさと(マハル)での思い出を教えてくれるコッセル中尉。トウゴウもそれに合わせながら、出身地であるニホン自治区の記憶を語る。

 話し合ってた2人だったが、それに注意が散漫になっていた。突然、通路の脇から手が伸びてきて、コッセル中尉の袖を掴んだ。

 

「中尉……」

「ヨーク軍曹か!いきなり掴むなよ、ビックリしたぞ」

 

 コッセル中尉は注意をするが、髪が乱れ頬が痩せこけた青年は藁にも縋るように様子だった。

 

「中尉、助けて下さい。あの日から……眠れないです」

「そりゃ...軍医から睡眠薬を処方されたんだろう」

「はい……貰えました。けど、あの時……」

 

 ヨークと言う名の若者は、黙り込みながら自分の両手を見つめる。震えが制御出来てない様子を見るに、PTDS(心的外傷後ストレス障害)を患っているのは明らかであった。コッセル中尉は近くにあった艦内電話で医療班を呼び出していたが、ヨーク軍曹がトウゴウ大佐を見つけたのに気が付かなかった。

 目の前に居る人物が、地球連邦軍の制服を着ているを見たヨークは、弱々しい表情をしながら腰のホルスターから、拳銃を抜くとゆっくりと拳銃を構えた。

  

「あんた……アースノイドだよな?俺を……俺達を殺しにきたのか」

「いや…停戦の話し合いに来た」

「嘘つけ、アンタを知ってるぞ。『アイランド・イフィッシュ』の工作部隊を攻撃した戦隊の指揮官だろ」

「なにしてる、ヨーク軍曹!?」

 

 通話を終えたコッセル中尉が事態に気づくと、その体を2人の間に割り込ませる。それに構わず拳銃を向け続けるヨークは、乾いた笑い声を上げながら話す。

 

「首を吊るしに来たんだろう。それともギロチンで落とすのか?」

「…………」

「あの瞬間まで、アレの中身があんなのだなんて知らなかった。分かるか…画面越しにコロニーの住民達が、悶え苦しんで枯れ木のようになっていくのを……俺は見てたんだ」

 

 黙ったままのトウゴウを、焦点が合わない目で見つめながらヨークは語る。震えながら拳銃を構えているが、いつ撃鉄を弾きかねない状態に、コッセル中尉は動けずにいる。

 

「自分は晒し首にされるのは……嫌だ!」

 

 そう叫ぶと、拳銃を自らの脳天に突きつける。コッセル中尉が止めようとしたが、間に合わず引き金が引かれた。

 

 

 

 

 

 海兵隊・シーマ艦隊旗艦『リリー・マルレーン』での発砲事案は、瞬く間に艦全体へ広がった。艦の責任者でもあるシーマ・ガラハウは、動揺する部下たちを落ち着かせるのに専念し、客人を出迎えることが出来たのは、30分以上が経過した後だった。

 

「お待たせしてしまい、申し訳ありません。トウゴウ大佐」

 

 揺らいでいた艦の秩序が持ち直すまで、貴賓室で待たせる形となり開口一番、頭を下げて謝罪するシーマ少佐とコッセル中尉。

 

「シーマ少佐。貴女にとっては辛い事ですが、私はこのとおり傷もないので大丈夫ですよ」

 

 言外に、詫びを受け入れたから頭を上げて欲しい、とトウゴウが漏らす。それを聞いてシーマは姿勢を戻し、改めて挨拶をする。

 

「ジオン公国突撃機動軍、海兵隊所属シーマ・ガラハウです。階級は少佐を拝命しています」

 

 トウゴウは頷いてから、自分とシーマ少佐の2人だけで会談をしたいと申し込んだ。コッセル中尉は難色を示したが、目の前で事案を起こしてしまった非をあり、部屋の外で待つことを了承した。中尉が廊下に出てゆき扉が閉まるのを見届けると、トウゴウは口を開いた。

 

「まず、最初に若き命を、冥府に旅立たせる結果になってしまい謝りたい」

「……ヨークは前から精神が不安定な面がありましたので」

 

 言葉を濁す彼女に対して、ストレートに事実を突きつけることにしたトウゴウ。

 

「彼は悔やんでいた。『アイランド・イフィツシュ』の住民を殺したのは自分だと……シーマ少佐、貴官の部隊が毒ガス散布の実行部隊だった、違いますか?」

 

 その詰問にしばらくの間、口を固く結び考え込んでいたシーマであったが、確信を抱いているように見えるトウゴウの態度に観念したのか、肩を落としながら力なく頷いた。

 

「……我々、海兵隊は何も知らなかったのです」

「アサクラ大佐に騙されたと?」

 

 名目上の海兵隊最高指揮官であるアサクラ大佐の名前を出すと、シーマ少佐の両目が怒りに満ちた眼光へと変わった。

 

「そうだ!アイツが私達を虐殺者に仕立て上げたんだ!?自分だけ本国へ栄転して責任を全部、アタシ達に押し付けて!!」

「しかし連邦政府は、処刑台に昇らせる手頃な生け贄を探し出すだろう」

「……それが海兵隊だと?…ふざけんじゃないよ!!」

 

 怒りを爆発させてはいるが、理性は残っているようで、貴賓室に置かれている給湯器に歩いてゆくシーマ少佐の背中に、ある誘いの言葉を掛ける。

 

我が連邦政府は、シーマ・ガラハウ少佐を始めとする『マハル』出身の海兵隊全軍の戦後亡命を認めるものである

「……エイプリルフールには、早すぎますよトウゴウ大佐」

 

 歓迎用に煎れた紅茶を注いだ、ティーカップを置きながら鋭い目付きをするシーマ少佐。彼女からして見れば夢物語の話だったが、トウゴウは更に言葉を重ねる。

 

「ジオン公国に強制的に徴兵された海兵隊、とカバーストーリーを準備している。また『マハル』の住民にも補償の用意を…!」

 

 次の瞬間、胸ぐらを掴まれて吊るし上げられるトウゴウ。憤怒に溢れた目をするシーマは、内心で隠し続けてきた感情をぶつける。

 

「冗談は程々にしな!そんな虫の良い話があるわけない!?それにアタシ達はコロニー落としの主犯だよ!中にいた市民を全員、毒ガスで処分した極悪非道だ!!それを受け入れるなんて嘘っぱちを……!」

ならば本官はどうなのだ!!

 

 そう叫び返すトウゴウに驚いて目を見張る。続けて出てくる言葉にシーマは驚愕した。

 

私は!貴官ら海兵隊が『アイランド・イフィツシュ』にGGと呼称される毒ガスを散布するのを、知っていた!!

 

 それが耳に入ってきた途端、シーマの両手から力が抜け、トウゴウは床に崩れ落ちるがそのまま続ける。

 

「私はコロニー落としが実行されるのを知っていた。その為の弾頭として選ばれたのが『アイランド・イフィツシュ』を知っていた。事前準備として住民2000万人を全滅させられるのを知っていた」

「それなら何故!?止めなかったんだ!」

 

 止めてくれたら、私達は史上類を見ない悪行の実行役に成らずに終わったのに、と胸の内で叫ぶシーマ少佐。

 

「信じられるのか?開戦前に、()()()()で地球人類の半分が死滅する、と言って信じるのかシーマ少佐」

「それは……」

「私は怖かった。誰も信用出来なかった。口を閉ざしたまま過ごしてきたんだ」

 

 この世界が宇宙世紀だと分かった時に、真っ先に感じたのは絶望だった。誰がたった一週間で50億人が消し飛ぶ、地獄に生まれ直したいとは思わない。この世界で得た肉親である父親にすら、明かさなかった葛藤と悲壮感。

 

「共犯者にならないか?シーマ少佐」

 

 トウゴウの言葉は甘い毒だと直感した。しかし、付き従う部下達と彼女自身の安全を確保するには、それしか方法が無いように思えた。

 彼女は差し出された手を、握り返すことで承諾の意思を伝えるほかなかった。

 

 

 

 

 

 シーマ・ガラハウ少佐率いるジオン軍海兵隊と、トウゴウ・ヤイチロウ大佐指揮の連邦軍CSAR隊の緊張は、頂点に達しつつあった。両者共に目的は多少違えど、救助活動を命じられている中、互いに睨みあっている状態は大きなストレスを感じる要因となった。

 隻数ではジオン側は劣っていたが、ザンジバル級『リリー・マルレーン』を旗艦としムサイ級2隻であるのを考慮すれば、連邦側の戦闘艦がマゼラン級『フソウ』にレパント級ミサイルフリゲート4隻のみなので砲火力で勝っていた。その上、非武装のコロンブス級輸送艦を守る必要がある、連邦軍はその行動が制限される。

 いつ暴発してもおかしくない状況下で、『リリー・マルレーン』に乗り込んだトウゴウ大佐とシーマ少佐から布告された、共同宣言にその場に居る全ての人々が驚いた。

 

『連邦及びジオン両軍に達する。現時刻以て本宙域は条件付きで停戦を発令された。またこれより双方、協力し合い救難活動に従事せよ』

 

 宣言を聞いた者達の大部分は安堵の息を漏らした。ごく一部で騙されているのでは、と懸念の声を上げるのも居たが、救助活動を再開すると自然消滅した。

 ルウム会戦にて沈んだ連邦宇宙艦隊の数は、どれだけ少なく見積もっても200隻を超えており、その中では多くの生存者が助けを待っていた。

 

『ここを切断されば良いのか?』

『そうだ!レンタル品だから壊すなよ!』

『なんだよ……連邦さんもケチ臭いねぇ』

 

 工作母艦から吐き出された大量の各種機材は、トウゴウ大佐の命令によりシーマ艦隊へ貸し出されていた。

 スペースポット用に準備されていた機材を装備したジオン軍のザクが、連邦軍の作業用ポットからの指示を受けてマークされた箇所に溶断する。切り離された部分をランチが牽引し、開いた穴にポットが潜り込む。

 

『こちらフリゲート艦『ラマダ』。これより暗礁部に侵入し、次の救助地点の捜索設定を行う』

『巡洋艦『フォルダル』より『ラマダ』へ。参考になるか分からないが、ワレの救助記録を送る』

 

 レパント級フリゲートが小柄な船体を活かして、残骸の合間を通ろうとすると、ムサイ級軽巡洋艦からデータが送られてくる。

  

『リサイクル出来そうな艦は見つかったか?』

『何隻かありました。エンジンがブッ飛んでるサラミスが3隻に、艦橋が蜂の巣にされたマゼラン級が1隻です』

『よし!ならソイツらを連結するぞ。有線ケーブルで遠隔操作してやれば、航行システムが生きてるサラミス級をマゼラン級の推力で引っ張ってやれ!』

 

 殆どのザクが共同救助に奔走する中、連邦軍は再生可能な艦を選び出しているが、最低限残されていた武装しているザクはそれを黙認し見逃している。

 

『おーい、海兵隊さん。この大破したザクはどうすんだよ~』

『……右腕と両足は使えそうだな。切断してくれないか?予備部品にする』

『あいよ~』

 

 海兵隊のパイロットから言われた通りに、工作班が壊れたザクに群がり解体してゆく。蟻にバラバラされた獲物の如く機体は、それぞれジオン側と連邦側に分配され、ジオン軍は大した手間もなく再利用が出来る部品。連邦側は損傷が酷くジャンク品にしかならないモノを、堂々と母艦に収納していた。

 この時、連邦軍・ジオン軍双方が互いに相手を見て、舌を巻いていた。

 連邦軍はモビルスーツの柔軟な運用性に、その認識を改めざるを得なかった。人型の延長線上にある鋼鉄の機体は、スペースポットでは不可能な作業を軽々とこなしており、小さなデブリなら装甲ではね除ける事が出来た。

 ジオン軍は連邦の物量を再確認していた。工作母艦から出たり入ったりを繰り返すポットの集団に、救助した人員から志願者が加わり救難隊の数は増してゆく。

 

「ヒヤヒヤしたぞ大佐。私としては戦わずに解決出来て安心したが」

 

 『フソウ』に戻ったトウゴウを出迎えたアンダーセン艦長が、笑顔を見せながら肩を叩く。

 

「彼女……シーマ少佐が()()()()()()だったからな。腹を割って話せば理解してくれたよ」

 

 艦橋の窓際に立って『リリー・マルレーン』を眺めるトウゴウ。その格納庫から複数のランチが出てくると、『フソウ』へ向かってくる。捕虜となっていた連邦軍将兵が乗っているのだ。それを解放する代わりに、連邦軍は救助したジオン軍MSパイロットを引き渡していた。

 

「……それで人型機動兵器、ザクの回収はどれくらいだ?」

「ジオン軍…失礼しました。海兵隊から不要だと判断されたジャンク品ばかりなので、細かく調査する必要がありますが……3~5機は組み立てられるかと」

 

 近くにいた技術士官に聞いてみると、目測であると念押しされたが見積りを答えてくれた。但し、組み立てられるだけで戦闘は論外であり、まともに動くかも怪しいと言われた。

 それで充分だとトウゴウが考えていると、通信士が駆け寄ってきた。

 

「大佐、ティアンム中将から電報です。第ニ艦隊はあと2時間余りでルウム宙域に到着する予定とのこと」

「了解した。シーマ少佐に連絡してくれ、共同救助は1時間後に切り上げる。我々はこのまま救助を続行するが、海兵隊は離脱するように伝えよ」

 

 そして1時間程度が経つと、シーマ少佐率いる海兵隊は、救助されたMS操縦士と多数のザクのパーツを抱えて離脱して行った。

 一方、トウゴウ大佐のCSAR隊は救難活動を、第二艦隊と合流するまで続けた。ティアンム中将は長時間に及ぶ救助活動で疲労した部隊の様子を考慮し、CSAR隊をルナツーに帰還させることを決定。

 修理可能と認定された損傷艦を曳航しながら、大量の傷病者を抱えてルウムを離れるトウゴウ大佐の部隊。旗艦である『フソウ』の艦内通路にも負傷した将兵達で溢れており、多数の血球が漂っている有り様だった。先導してくれる陸戦隊員が居なければ、自室にたどり着く事は難しかっただろう。

 

「……これで救えた命は何人だろうか」

 

 部屋に入るなり無骨なベッドに身体を横たえる。目の前にあるベッドの天井を見ながら考えを巡らせ、シーマ・ガラハウに言い放った自らの言葉を反芻する。

 誰が正しく間違えているのか、境界が分からなくなったこの世界。生き残る為にやれる手段を取らなければならない。

 

「宇宙世紀?50億人が死んで、どうやって宇宙で夢を語れる?」

 

 トウゴウの呟きに答えてくれる者など居ない。

 CSAR隊がルナツーへと帰還した前後に、地球連邦政府は停戦勧告を受諾。南極において協議を開催するされる事が決定された。

 

 

 

 

 

 




 長かった。字数が1万文字超えたのは初めてだったし、書いていて思った。これ分割した方が良くない?
 自分でそう思いながら書き終えたら、前回から二週間以上経過していた……。

 GQuuuuuuX本編、終わったけど良かった点もあればちょっと1クールで締めるには、勿体無いと感じた。
 この船乗りの道導を書き始めたのも、物足りないと感じたのが切っ掛けでした。

 シーマ様出したのは、バスクのパワハラ野郎が出たんだから、シーマ様と言う女傑を登場願うのは良いよね、と考えたからです。

 真面目な話をすると、楽しみにしていたPCゲームが発売されて、そっちに熱中してました。次話ももしかしたら長くなるかも知れないので、気長にお待ち下さい。

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GQuuuuuuX本編 ガンダム2号機鹵獲、これによる本来の地球連邦軍量産型MS・『ジム』の不登場。それによる地球連邦軍の代用機体について。構想中ですが、SEEDの『ダガー』を代用して考えています。『ダガー』が『ストライク・ガンダム』の量産型の更に簡易生産モデルの設定なので、『ジム』の簡易型として『ダガー』を考えてます。

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  • ダガー・シリーズ  NO
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