機動戦士ガンダム ジークアクス 船乗りの道導 作:海空陸一体
もし何らかの危害があった場合、それは使う我々。
人間の不注意によるモノだ。
宇宙世紀0079 2月20日
地球連邦軍総司令部・ジャブロー地下要塞
「すまないね。ルナツーで忙しくしてる最中に、わざわざ宇宙から来てもらって」
地球上に存在する数々の軍事拠点の中で、唯一無二の広大さと堅牢性を誇るジャブロー。連邦軍本部を担うこの地下要塞には、多数の将官が詰めており連邦軍全軍を司っていた。
その様子から、ジャブローに勤務する高級将校たちは『ジャブローのモグラ』と渾名を付けられ、垂涎と侮蔑の対象となっていた。
ルナツーで敗戦処理や残存戦力の確認など激務をこなしていたトウゴウ大佐は、そのモグラの大将とされる人物に名指しで呼ばれ、大気圏降下艇に乗りジャブローへ降り立った。
「サー、それで何か御用でしょうかゴップ大将」
「いやなに、ジオンから勲章を貰った者が居ると聞いてな。一目、見ておこうと思って」
地球連邦軍統合参謀本部議長。制服組のトップでありジャブローの主とも言える、ゴップ大将は執務室備え付けのソファーに座りながら、呼び出した理由を何気なく話す。
「
「……単刀直入に申し上げるのであれば、最悪…に尽きます」
「ふむ、最悪か。
従兵も全て退出しており、ゴップ大将とトウゴウ大佐の2人しかおらず、必然的に階級が下のトウゴウが飲み物を用意する。
持参した茶葉を煎じていると、鼻を鳴らして匂いを嗅いだゴップがそれの産地を当てる。
「日本茶か、しかもこれは…君の地元のモノかね」
「産まれ故郷である、鹿児島の
コロニー落下により発生した大津波によって、沿岸部の茶畑は押し流されており壊滅的な状態であった。山間部でも栽培されているが、作付面積は平野部がかなりの割合で占めており、生産量的には全滅と判断される状態だった。
「うーん、日本茶らしいフレッシュな香りだ」
器に注がれた茶の匂いを味わいながらゴップは、チラリと対面に座ったトウゴウを見る。軍政家としてキャリアを重ねてきたゴップに取ってみれば、最前線から無事に生還したトウゴウは一目置く存在となっていた。
五体満足で帰ってこれた将官クラスで言えば、レビル大将やその他にもいるが、ジオン軍と3度交戦しながらも帰還出来た部隊は、彼の指揮下の戦隊しか今のところ存在していない。
「ジオンの新型兵器…報告書ではザクと呼ばれていたかな?君の目からはどう見えた?」
「敢えて申し上げるならば、あらゆる既存兵器を凌駕する事が出来る新時代の先駆け、と言うべきかと」
味の評価を伝える代わりに2杯目を求めたゴップの質問に、トウゴウは確たる実感を持って返答する。ザクは先触れに過ぎないことを知っているからこそ、断言することが出来る。あの人型機動兵器が行き着く可能性の中には、人類を滅ぼすことさえ出来るオンリーワンの機体すら描かれていたのだから。
その言葉を聞いたゴップは何度か頷くと、トウゴウを呼び出したもう一つの理由を伝える。
「明日、救出活動を称える式典をするから宜しく頼むよ」
「サー、式典ですか?」
「そうだよ。ザビ家のご令嬢があれだけ派手にプロパガンダを流したからね。連邦軍としても同様の事をしないといけなくなったし、何より議会から催促されている」
「議会から?」
「そうだよ。あれだな、君は助けた命の数ばかりに目を向ける
お代わりを受け取ったゴップは、連邦議会が式典をする事をなぜ求めているのか説明する。
そもそも宇宙軍が、地球連邦第4の軍隊と成立した事が大きな要因であった。連邦政府結成時に合併解消した旧各国政府軍の名残りがある陸海空の三軍。それに対して、新設された扱いの宇宙軍は、どうしても地縁や縁故採用等が目立つ三軍と比較した時、実力さえあれば出世する可能性が大いに残っていた。
それ故に、産まれの貴賤や貧富の差など関係なく能力重視であり、人類の生存には極めて厳しい宇宙空間での任務なので、志願制が基本的となっていた。危険は他の三軍とは別格とも言えるが、それを承知で志願してくる者が多く、軍隊とは縁も所縁もない新進気鋭の政治家の身内や、訳あって軍に入らざるを得なかった政府高官の親類などが入隊するケースも散見された。
「君の『アイランド・イフィッシュ』攻防とルウム敗戦後の救難活動で、五体満足かは置いておいて生きて帰れた彼等の身内は大勢いる。感謝を伝える場を設けて欲しいと、多数の要望が出ていてね。君を呼び出したのは、それが理由だよ」
余白が全く無い式典のスケジュール予定表を渡してから、器をテーブルへそっと置いたゴップ。
「で、どうだったかね?ザビ家の戦乙女は」
背もたれに身体を預け目を細目ながら質問する顔は、それまでの昼行灯の顔つきとは打って変わって、統合参謀本部議長を務める軍人のソレになっていた。
「前評判通りの女傑だと、本官は感じました」
ザビ家次男、サスロ・ザビがダイクン派との暗闘で倒れてから、ジオンの諜報関係を一手に担ったキシリア・ザビ。冷酷無比かつ果断な判断力を有する彼女は、連邦の慢心もあったとは言え、開戦まで『ブリティッシュ作戦』やモビルスーツの存在を隠し抜いた。
「彼女の周りは、忠誠を誓う側近で固められていました。キシリア閣下が公職に就いたのが10年前だと考慮するならば、驚異的なスピードだと考えられます」
「人心掌握に長けていると?」
「サー、忠誠心がザビ家ではなく、キシリア・ザビ個人に向けられていました」
その評価を聞いて、片手で顎を撫でながら考え込むゴップ。飴と鞭を使い分け自身の手駒を搔き集めたのは、容易に想像がつく。普通なら何処かに抜け穴が出来て、そこから情報漏洩等の不祥事が起こり得るが、それを察知出来なかった又は欺瞞を見抜けなかった連邦の怠慢に、思わず溜め息をしてしまう。
「その彼女が地球侵攻の総指揮を執るみたいだが、トウゴウ君の見解を聞かせてくれないか?」
ある程度の人物評が分かったところでゴップ大将は、ジオン軍が重力戦線と銘打った地球侵攻作戦について、戦場帰りの意見を求めた。
「先に結論のみを述べても?」
「構わんよ」
「初戦は大敗しますが、最終的には連邦軍が勝利判定をもぎ取るでしょう。地球上では」
「地球上ね……宇宙は分からない、と言ったところか。それにしても判定か」
つまり決定的な勝利を納める事すら難しい程、連邦軍は敗退を重ねる、とトウゴウは示唆していた。参謀本部議長の席を温めている身としては、面白くない意見ではあるが軽視する愚か者ではないと自負していた。
「やはりミノフスキー粒子か」
「はい。現在、人類が使用している全ての電磁波を吸収し、電波技術を無力化してしまうミノフスキー粒子。その効力は宇宙空間だけではなく、地球本土でも及ぶでしょう」
「ん~参ったな。となると、
ぬるくなった茶で喉を潤しながら、徹夜続きの参謀達を更に酷使することをさらっと決めたゴップに、トウゴウはある要望を伝える。
「その防衛案、複写させて頂いても宜しいでしょうか」
ゴップはゆっくりと中身を飲み干した器を置くと、片目を瞑って先を促した。
「先の捕虜交換の際に、キシリア・ザビと個人的な秘密協定を結びました」
「……ふむ、その手土産を用意する必要があると?」
「サー、それに加えてこれ等の物品を揃えて頂きたく」
カバンから取り出された一枚のリスト。差し出されたソレを一瞥したゴップは、書き込まれていた品々に怪訝な表情を崩せなかった。
「これが手土産に?ジオン軍が必要としているモノとは掛け離れて過ぎてないかね?」
「はい。確かに戦争を遂行するのに必要不可欠な物資ではありませんが、戦いの勝者には無ければならないモノです」
何らかの確信を抱いている様子のトウゴウに、頬を人差し指で搔きながら手配してみると告げる。要求された物品はゴップとしては、大した手間もなく集められるモノばかりだ。
リストをテーブルに放り出すように置くと、ゴップは統合参謀本部議長としての職務として、トウゴウに一枚の辞令を渡した。
「……第8警戒艦隊の解散ですか」
そこには開戦以来、数度の戦いと救難任務に従事してきた部隊の解隊が記されていた。結成当初はマゼラン級『フソウ』を旗艦に11隻の艦隊だったが、今では戦力補充を名目に引き抜かれ、ジャブローに降り立つ前に確認した編成表では、『フソウ』ただ一隻がカウントされている有り様であった。
「どうやらレビル君に嫌われてしまったみたいだね、トウゴウ君は」
僅かではあるが呆れを滲ませた笑みを浮かべるゴップに、少しだけ頷き返すトウゴウ。
理由など分かりきっていた。先のルウム会戦において、自身の側近に取り立てる誘いを断られた上に、自らは捕虜となり敗軍の将と化した。それに対して、敵味方双方から仁義に満ち溢れた将校と称賛されるトウゴウ大佐を見て、レビル将軍の心中が揺らいだのは仕方ない事だろう。
「今のところジャブロー守備隊付きのポストが、君の転属先になるから」
宇宙の舞台から地上の裏方への異動。ジャブローに転属する事はキャリアを重ねる観点から見れば、良いことのように普通なら受けとるが、今回に限れば事実上の左遷に等しかった。
「暫くは、お偉方の接待で忙しくなる。秘書を付けさせるから、今日はゆっくり休みたまえ。明日から忙しくなるよ」
トウゴウに労いの言葉を掛けながら、立ち上がろうとするゴップ。しかし、耳に入ってきたその声に否応なしに身体が止まる。
「『V作戦』の補強案をご献策致します。ゴップ統合参謀本部議長」
鼓膜を震わせる言葉に間違いがないか、ゆっくりとしていた頭が急速に活性化するのをゴップは感じる。腰を浮かせていたのを巻き戻すように下ろす。
ほんの僅かだけ乱れた内心を悟られぬよう、重心を据えて手を組み落ち着いているように振る舞う。
「どこで、それを?」
「……やはりV作戦の立案は、レビル将軍の帰還直後から始まっていましたか」
ゴップの問いに、答えになっていない独り言を呟くトウゴウ。足元に置いたままのカバンから、先のリストよりも圧倒的に分厚い書類の束が取り出されると、それはゴップの眼前に置かれる。
険しい視線をトウゴウに向けてから、ゴップは指先を表紙に書かれた案の一文字をなぞる。
「『Z』ねぇ……」
「Z計画。旧暦時に未完で終わった枢軸陣営の2つの計画案から名前を拝借しています」
「未完て言葉は好きではないな……なるほど、だからZか」
軍政家のキャリアを歩んできた上で、未完成は禁句であり避けるべき羅列だったが、それ故にただ一文字に込められた意味を察することが出来た。
「3回目の『Z計画』は、最前線で戦う将兵達が必要としている武器を、この戦争に間に合わせる事が目的としています」
トウゴウの説明を聞きながら表紙を捲り、2枚目に記された簡素な概要文と章毎に分類された提案を読み取る。3枚目以降の詳細を流し読みし、気になった点は質問を重ねた。
気がついた時には、会談は予定時間を大幅に超過し、ゴップ御付きの秘書が内線を入れた事で、2人は一拍の休憩を取ることにした。
すっかり冷めきった茶を煎れ直しているトウゴウの背中をチラリ見てから、立ち上がったゴップは執務用のテーブルから一枚の書類を取り出す。それに修正を加えてからソファーへと戻る。
「トウゴウ君。さっきの人事異動だけど、私の権限で変更させてもらう」
新しい茶湯が入った器を配膳し終わったトウゴウへ、訂正し直した書類を渡す。
| 宇宙世紀0079 2月20日 地球連邦宇宙軍 トウゴウ・ヤイチロウ大佐 地球連邦軍統合参謀本部議長付きへの転属を命ずる |
|---|
「……確かに拝命致しました」
勝った。
トウゴウが頭を下げながら抱いた心中であった。追い出しに等しい守備隊付きとは全く意義が異なる。
実のところ第8警戒艦隊の解散と、ジャブロー異動に関して父親経由でトウゴウは情報を入手していた。
それを耳にした時、最初に感じたのは
「レビル君は、私から上手く説得しておくよ」
ゴップとしては『Z計画』は有用に見えたのもあるが、それ以上にトウゴウ大佐のある種の特異性を買っていた。また死線を潜り抜けた手駒が増えるのは、悪いことでは無かった。
その日を以て、ルナツー所属からジャブローへ転属となったトウゴウ・ヤイチロウ宇宙軍大佐に対して、地球連邦軍総司令官レビル将軍は複雑な心境であったが、ゴップ大将の子飼いとなっては手が出せない状態であった。
その上、自身が構想し作成中の『V作戦』を補助する目的と言われたが、それにしては規模が逸脱している『Z計画』の内容を見て、自分の計画をダシに使われたとレビルは感じた。
しかし、それを妨害する事は出来なかった。既に多くの連邦議員から内々に賛同を得ており、議会において戦時計画として予算が確保されている状態であった。
レビル大将の机に置かれた『Z計画』の概要書。秘匿されている『V作戦』とは違い、内外へ公表される予定の『Z計画』。策定された数々の計画案に目を通すと、その対象は悪く言えば無遠慮であった。囮目的とは言え、荒唐無稽なモノまで入り交じっていた。
それに溜め息を漏らしながら、腹心の一人に直通電話を掛け、テム・レイ大尉を呼び出すよう伝えた。
| 宇宙世紀0079 『Z計画』 作成者/地球連邦宇宙軍 トウゴウ・ヤイチロウ大佐 第1案:宇宙艦艇の近接防空火器、統制射撃管制装置の開発 第2案:既存艦艇の船体流用による、MS運用母艦の建艦 第3案:歩兵運用可能な対MS用の有線誘導ミサイルの急造 第4案:新型陸戦兵器の製造 第5案:水中戦用の新造機の試作及び量産化 第6案:ミノフスキー粒子下に対応した警戒機の作製 第7案:大口径破砕砲システムの構築 |
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ジオン軍地球降下作戦まで11日。
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