男の娘は奴隷商人です。   作:セパさん

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邪術の刻印を刻むようです。

「ううう……頭痛い。ここはリリアちゃんの部屋?ああ、昨日酒盛りに付き合って、そのまま眠ってしまったのですね。ちょっとリリアちゃん、起きてください。朝ですよ。」

 

「んぁ!?ふぁあ。もう朝か。昨日は久々に……それこそ1400年ぶりに酒を浴びるだけ呑んだな。〝ぶらんでー〟と〝らむ酒〟は是非また吞みたいものだ、それに葡萄酒も(おり)のない綺麗な味で悪くなかった。ただ、ビールの味だけは慣れん。以前の組織にいたとき酒場に立ち寄ったことがあったが、客のほとんどはビールを吞んでいたぞ。何故あんな味の薄い水のような酒をありがたがるのか理解に苦しむ。」

 

「それは、リリアちゃんのいた時代のビールと現代のビールでは製造方法が違いますから、別のお酒と言っていいでしょう。ああ、頭が痛い。部屋も空き瓶で散乱しているし……。リリアちゃんはあれだけ呑んで平気なのですか?」

 

「果実酒一杯しか吞んでいないのに本当ウィーサは柔じゃな。わたしはどうということはないぞ!」

 

「本当に蟒蛇(うわばみ)ですね。それとも【聖骸の術】によるものなのでしょうか。まぁ兎に角部屋の片づけをしませんと。ガラス・金属・生ごみを分別してウィリアム様にお渡しすれば、ウィリアム様が魔術の媒体として使うか捨てるか判断してくださいますので。」

 

「アムのやつ、ゴミの始末まで行っているのか!?それこそ使用人や奴隷(ヘム)の仕事ではないか。」

 

「わたしも最初は申し訳ない気持ちになったのですが、他ならぬ雇い主のご命令ですので。……なので使用人として分別くらいはしっかりいたしましょう。」

 

「ああ、何より部屋が汚いとアムが怒りそうじゃ。ウィーサ、手伝ってくれ。」

 

「ええ、構いませんよ。」

 

 

 

「……これまた随分な量を飲み干したものだな。常人ならば死んでいるぞ。」

 

「ふん!わたしを甘く見るな!酒に吞まれる柔な身体は持ち合わせておらん。」

 

「まぁいい。朝食だが……新人は置いておいて、貴女は軽いものの方がいいだろう。それと頭痛薬と胃薬を調合している。食前薬なので、今のうちに飲んでおけ。果物ならば食べられそうか?」

 

「あ、はい。ありがとうございます。果物でしたら喉を通りそうです。それに薬まで……。」

 

「二日酔いの状態で仕事に入られても困る。どうせ流されやすい貴女のことだから無茶な飲み方をするだろうと準備していたが、無駄にならずに済んでよかった。」

 

「待て!わたしが悪者になっていないか!?ウィーサは果実酒一杯しか吞んでおらんぞ!」

 

「体質的に酒精を受け付けない者もいる。従業員同士交流を深めあうことは結構だが、節度を弁えるように。」

 

「かしこまりました。次からは仕事へ支障が出ないよう、お茶を飲ませていただきます。」

 

「むぅ……それにしてもバルロドス王朝時代と異なり現代では薬は安いのか?ましてアムほどの術士が調合した薬など、砂金よりも価値が付くではないか。」

 

「え!?そうなのですか。わたし、薬については明るくなく。」

 

「1400年前と違い、薬学が発展し、中間階層の庶民でも手の届く値段となっている。とはいえ安易に手に出来るものではないし、長患いに罹り長期の服薬が必要となれば最悪だ。バーデン王国の破産理由の第2位が医療費というほど塩梅だ。」

 

「もう飲んでしまってアレですが……。今飲んだ胃薬と頭痛薬だけで金貨での支払いが必要だったりします?」

 

「さぁ?少なくとも余りもので調合した薬なのでわたしの懐が痛む訳ではない。そしてわたしは薬師ではない、値段などないよ。従業員が効率的に働くための投資としては安いものだ。」

 

「その……ありがとうございます!」

 

「感謝はいらないから二日酔いを治せ。リンゴと珈琲を準備している、どちらも酒精の分解や代謝を促す働きがある。砂糖とミルクは好きにいれろ。そして昼食まで横になれ、夕方には【商品】の受け渡しがある。」

 

「はい、かしこまりました。全力で治します!」

 

「ふむ、少し変わった商品なので取り扱いを学ぶように。」

 

 

「エリーゼ・ソランダー、17歳女性。 要塞都市ラミスにて出生。ソランダー家は代々続く武芸の一族であり、本人も幼少期から剣術を指南され育つ。14歳で独り立ちをして冒険者の道を歩み、A級冒険者パーティ【ダフ・デック】にて剣士として活躍。しかし半年前【ダフ・デック】のリーダーがオークに襲われた村の討伐依頼を行う際、村での金品の略奪と村人への姦淫を行ったことから【ダフ・デック】全員の冒険者ライセンスを剥奪され、同時にエリーゼ・ソランダーもソランダー家から絶縁される。罪に問われることはなかったが、再就職が難しく、浮浪者として路上生活をしていたが、通りがかった男性に襲われそうになったところを反撃し、相手に脊椎損傷の重傷を負わせ、過剰防衛の罪にて執行猶予付き禁固半年・罰金金貨5枚の刑に処される。また民事でも慰謝料金貨20枚が課せられる。しかし金貨25枚に対し支払い能力がなく、この度職業斡旋のため、金貨30枚にて案内する。 以上、相違はないか。」

 

「はい、ございません。」

 

「ではこの書類に捺印を頼む。……おい、【商品】を2番房室に運んでおけ。」

 

「かしこまりました。ではこちらへどうぞ。」

 

「さぁ来い!安心しろ、思ったよりは快適な場所じゃぞ。」

 

「さて……剣士としては一流なのだろうが、その力を発揮させる場所が無い。となれば顔立ちも整っているし、肉付きもいい。娼館でいいか。しかし襲ってきた男に重傷を負わせた過去もある。このままでは娼婦として売り物にならんな。」

 

「ではどうされるのですか?やはり剣士として金貨30枚分になるようギルドに売るとかですか?」

 

「いや、一度ライセンスを剥奪されている以上、奴隷だったとしても難しいだろう。しょうがない、余り好きではないが、淫紋でも刻むか。」

 

「淫紋って……。」

 

「黒魔術のひとつだ。一口に淫紋と言っても数多い。〝術者に恋をさせるもの〟〝異性に対する好感度が急増するもの〟〝隠微な気持ちを抑えられなくなるもの〟〝触られ抱きしめられれば短時間相手に好意を抱くもの〟〝性的興奮を誘発させるもの〟中には変わり種として〝忌避感の強い行為に過剰な興奮を覚えるもの〟〝絶頂のたびに記憶を消してしまうもの〟と、数多い。……まぁ3つくらい刻んでおけば娼婦として売るのも容易いだろう。」

 

「ほう!淫術の(まじな)いとはそんなに進歩したのか。わたしの時代ではアレを隆起させたり、淫乱な気持ちにさせる2つくらいしかなかったぞ。」

 

「技術の発展とは1に戦争、2に情痴と医療とはよく言ったものだな。ということで2人とも両足を開くように縛り付けて、抑えていてくれ。神経を過敏にさせる関係上、神経系を遮断する<麻痺(パラライズ)>とは相性が悪くてな。説明を聞いていたと思うが、元A級冒険者、生半可な縛り方ではケガをするぞ。」

 

「ふーー!”ふーー!”」

 

「本当にすごい力……。リリアちゃん、わたしが押さえていますから、鉄格子に縄を括ってしまってください。」

 

「了解したぞ!」

 

「こんなものか。あとはナイフで衣服を切って脱がせてくれ。ナイフの刃を【商品】に向けないように。傷つけるなよ。」

 

「はい、かしこまりました。」

 

「おい、アム。下着もか?」

 

「全部だ。よし、準備は良いな。淫紋の刻み方は2人にも教えるし、練習もさせるので今はよく見ておくように。」

 

「はい。ちなみに一度刻んだ淫紋とは永遠に効果を発揮するのですか?」

 

「永続的な効果を持つものも彫れなくはないが、買い付けた倍以上の値段……金貨70枚くらいで売れればそれでいい。本来1年もあれば稼げるだろうが、淫紋はどれだけ弱い術式でも3年は効力を発揮する。仕方がないので3年で効果の薄れるものを刻む。……よし、こんなものか。足の拘束を戻してくれ。蹴られないよう気を付けろ。」

 

「流石、手際がいいですね。」

 

「この短時間でこれほど綺麗な(まじな)いの刻印を3つも刻むとはやはりアムは一流じゃな。」

 

「兎に角今日の仕事は終わりだ。あとは効果のほどをみてわたしが娼館と交渉をする。」

 

 

「おはよう。【商品】の様子は見てきたか?」

 

「ええ。何というか……その……凄いことになっていましたね。手足が拘束されているからか、鉄格子にその……自らを押し付けて……。」

 

「わたしも見てきたぞ!媒体が床に流れるのが勿体ないのぉ。わたしが〝偶然〟舌を出して口を開いていたら待っていたかのように押し付けてきたぞ♡。悦んだ声をあげて身体を震わせ悶えておったわ、膝をガクガクと震わせ最後は立っていられなくなっていた。イシシ。」

 

「新人、【商品】で遊ぶなと何度言ったらわかる。……淫紋は彫って数日が一番効果を発揮する。身体に馴染むまでここに置いておき、それから売るとしよう。1年契約で金貨70枚程度にはなるだろう。」

 

「しかし残り2年もあんな身体にされて……。その後はどうするのです?」

 

「さぁ?娼婦を己の天職とするか、それとも刻印の誘惑に打ち勝って剣士にもどるのか、はたまた路上生活者に戻り春を売って生活するか。未来のことはわたしにはわからないし、興味もない。」

 

「それにしても……あの【商品】は何も悪いことをしていない。いうなれば二次被害の犠牲者ですよね。天罰が下るべきは強盗と強姦を働いたリーダーだというのに。」

 

「それは御尤(ごもっと)もな理屈だ。しかし、一流の剣技を持ちながら曖昧模糊とした生活を送り、その技能で己の人生を良きものに変えなかったのは何でもないあの【商品】だ。冒険者ギルドだけが冒険者の道ではない。フリーランスの傭兵になるなり、魔物を討伐してその肉・皮・骨を売るなり幾らでも生計を立てる術はあったはずだ。罪人の汚名を被せられ後ろ指をさされる日々を言い訳として堕落した末路とはこんなものだ。神は自らを助けるものしか助けない。」

 

「ウィリアム様はその冒険者としての道しるべをお示しになられないのですか。」

 

「手っ取り早く金になる方法が一番だ、わたしは暇ではない。」

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