「フェーニ・ハスカット 28歳 男性 カリフの街にて農家の貧困家庭に第二子次男として出生。12歳まで農業の手伝いをして過ごすも、冒険者に憧れを抱き王都へ出向き鍛冶屋の見習いとして剣技を磨き、15歳でC級冒険者パーティ【檸檬の歌】のリーダー兼剣士として日銭を稼ぐ。しかし18歳の時分より盗賊ギルドとの関係を持ち始め、【檸檬の歌】も違法性の高い仕事を請け負うようになり、19歳で逮捕、強制労働3年の刑に処され投獄。出所後は麻薬に耽溺するようになり盗賊ギルドからも追放、実家からも絶縁。麻薬欲しさに窃盗を繰り返す日々を送っていた。23歳で二度目の逮捕。薬物取締法違反と窃盗の罪で強制労働4年を課せられる。出所後は路上生活者として薬物欲しさに高利貸しからの借金を繰り返す。本人に支払い能力はなく、この度職業斡旋のため、金貨2枚にて案内する。 以上、相違はないか。」
「御座いませんとも。いやはや、わたくしもこんなヤツに金貨2枚もの大金を貸すなど頭がどうかしていましたかね。無事返済できてなによりです。」
「元々うちへ売りに来る予定だったのだろう。御託はいいので書類に捺印を頼む。」
「よろこんで。」
「おい、【商品】を3番房室に連れていけ。麻薬の禁断症状で暴れるかもしれないので縄で縛ってな。」
「はい、かしこまりました。ウィリアム様。」
「麻薬狂いか、金になるものなのか?まぁよい。ほれ
(ウィリアム様の扱う【商品】は大体が金貨で数十枚規模のものですが、たまにこういった二束三文の【商品】が納品されることも御座います。)
「ウィリアム様、【商品】を3番房室へ入れておきました。前科2犯、麻薬中毒者とのことですが、どこに売るのですか?」
「カリフの街にちょっと変わった錬金術師がいてな。鉄からオリハルオンを錬成する方法だの、ホムンクルスの作り方だの賢者の石の作成だの、夢みたいなことばかり言って実験をしている。もちろん一度も成功したことはないし、成功すると誰も思っていない。だがそいつは男爵家の次男坊でな、熱した剣をぬくい水の代わりに人体に刺して鍛えるだの、他人への骨の移植実験だの、意図的に感染症へ罹患させる実験だの、かなり狂った実験をしても揉み消す権限があり、その実験データを金にして暮らしている。錬金術師としては三流だが金払いは一流、そいつに売れば金貨3,40枚にはなるだろう。仕入れ値を考えれば上手い商売だ。」
「しかし……それでは【商売】に取り返しのつかない障害が残るか、最悪死んでしまうのでは?」
「確かに〝債務奴隷〟への傷害・虐待・殺害は法律で禁止されている。だが死んだところで〝錬金術の実験中に起こった不慮の事故〟だ。そもそも工船作業員だって鉱山採掘だって人死にが頻繁におこる現場だからこそ【商業】が成り立つ。実にザルな法律だ。商売がやりやすくて助かる。」
「確かにわたくしもウィリアム様に雇われるにあたり奴隷に関する法律は一通り見直しました。しかし〝債務奴隷〟に関しては〝売り払われた金銭額を返済すれば自由の身になること〟〝故意の殺害・傷害・虐待が禁止される〟以外に明記はございませんね。」
「ほぅ、
「貴女が過ごしていた1400年前と異なり社会運動が活発となった。例えば【商品】を使い食事を抜いて何日目に餓死するか賭けをする……なんて真似をすれば罰せられる。」
「しかし今回の
「自ら〝錬金術の発展のため志願〟したのだから合法だ。」
「なんじゃそれは、詭弁もいいところではないか。」
「〝バーデン王国は奴隷にも配慮をしている人権国家である〟というお題目のために取ってつけたような穴だらけの法律だ。とはいえ嗜虐的に痛めつけられたり、殺されることはないのだから全くの無駄ではない。」
「まぁアムのところに売られてくる
「そうだな、粗悪品の麻薬で身体はボロボロになっている。まず薬物を抜いて傷ついた臓器もある程度は戻さないといけないな。まぁ1週間もあれば大丈夫だろう。」
「1週間ですか!?麻薬依存の治療とはどんなに時間がかかっても1,2年すると聞いておりますが。」
「治すわけではない、命を落とさないための荒療治だ。離脱症状で死なないよう少量の麻薬を使い、管で胃に直接栄養と滋養強壮の薬を流し込む。それと人格も荒廃しているのでいっそのこと摩耗させてしまおう。それだけすれば禁断症状で死ぬこともないだろう。今回に限っては心神喪失状態の方が高く売れる。」
「アムはこんな商売やめて医者になればどうじゃ?いや、今回は治しているわけではないのじゃが、薬も作れる、人体・精神にも詳しい。奴隷売買より余程儲かる上に感謝までされるぞ。」
「わたしのような邪術師が人の狂いを治すなど烏滸がましい。それに治癒は神殿の独占業務だ、目を付けられる真似は避けたい。」
「お言葉ですが、奴隷商人も十分目を付けられるお仕事であるかと……。」
「少なくとも医者と違い黒魔術の趣味に没頭していても何か言われることはない。そんなわけで二人には1週間看護業務を手伝ってもらう。しかし思った以上の出費だ。治療費・人件費を考えれば金貨50枚以上で売れてくれないと困るな、まぁあの金勘定に疎い馬鹿ならばそれくらい交渉できるだろう。」
(そう言ってウィリアム様は微笑みを浮かべます。その清く澄み切った眼眸は容貌も相まって深窓に育った姫君を思わせる美しさですが、余りにも棘の多い茨の花で御座います)
「素晴らしい!実に素晴らしいよウィリアムさん!丁度ホムンクルス作成のため筋肉、神経の移植実験の被検体が欲しいと思っていたところだったんだ。麻酔が無いとやっぱり暴れて困るからね、最初から意識のない被検体は実に好都合だ。」
「そうか、では金貨55枚でどうだろうか?」
「錬金術の発展のためならば安い投資だ、その値段でいただこう。」
(良い身なりをした恰幅の良い男性がウィリアム様の言い値で【商品】を買いました。この後ウィリアム様の発する言葉も大体想像が付きます。きっと……。)
「なんだ、言い値で買うのならばもっと吹っ掛ければよかった。」
(……と仰るでしょうね。)