男の娘は奴隷商人です。   作:セパさん

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国際情勢について知るようです。

「ほれ!わたしが手ずから淹れた珈琲じゃ、ありがたく飲むがよい。」

 

「リリアちゃん!お客様への口の利き方!」

 

(ウィリアム様の屋敷で働くこと3か月。今まで厨房に入ることが許されていなかったわたしとリリアちゃんですが、お湯を沸かすことと紅茶・珈琲を自分で淹れることだけは許可を頂きました。今日は珍しく屋敷に客人が来ております。とはいえ新規のお客様ではなく、以前ウィリアム様から金貨100枚を借りようと訪れたウィンストン・ミットフォードなる高利貸しの男です。以前のように甘味の準備などはなく、珈琲もリリアちゃんに淹れさせたことから、ウィリアム様としては歓迎すべき客ではないということでしょう。前回は隠れていたリリアちゃんですが、今回は〝余計な口出しをしない〟ことを条件に同席を許されました。)

 

「して、身の振り方は決めたのか?」

 

「はい、ミットフェード金融を畳むことにいたしました。屋敷・事務所を競売にかけ、手持ちの債権書類もすべて同業者に売りましたが、金貨27枚の負債が残る形です。利息は年に金貨7枚となり、普通に働いては返せないかと……。」

 

「工船作業員なら半年の航海を2回、鉱山採掘ならば1年半といったところだな。これまで良質な【商品】を卸してくれたよしみだ、金貨30枚を貸すので借金の返済をして、残りの金貨3枚を純粋な職業斡旋の手数料とさせてもらい、比較的良好な職場を見繕ってやる。」

 

「比較的ですか……。」

 

「なんだ?オンボロで明日にも沈む保険金がタップリと掛かった工船で働く方が好みか。わたしはそれでも構わないのだが。」

 

「いえいえ!とんでもございません。」

 

「では金貨27枚を渡すのでこれで借金を返してこい。戻ってきたらすぐにでも湾岸都市リアンから出航する工船で働けるよう手筈を整えておく。……もし逃げ出すようなことがあれば、今度は【商品】として扱わなければならなくなるので、わたしの好意を無駄にしないでくれよ。」

 

「もちろんです。では、ありがたくお借りいたします。」

 

(そう言ってミットフェードさんはウィリアム様から借りた金貨27枚を手に屋敷を去っていきました。)

 

「なんじゃ、わたしの淹れた珈琲を一口も飲まず。全く無礼なやつじゃな。ミルクと砂糖を貰うぞ、わたしが飲もう。」

 

「悠長に珈琲なんて飲んでいる精神状態ではなかったのだろう。それにしても新人は静かにしていたな、話を厄介にさせると危惧していたのだが。」

 

「あんな狐面を娼夫にするほど趣味は悪くない。それにアムが手筈を整えておるのなら邪魔はせん。うむ♪旨い。淹れたてならばもっと美味であったろうに勿体ないのぉ。」

 

「それにしても工船作業員といえば鉱山採掘や高所作業員に並ぶ危険労働の代表ですが、〝良質な職場環境〟などあるのですか?」

 

「工船作業員の仕事とは大きく分ければ2種類になる。一つは鱒や鮭、蟹といった海産物を水揚げし、船内の工房で缶詰や乾物へ加工する作業。二つ目は水揚げした海産物に偶然混じった紅玉魚・虹海月といった宝石的な価値のある海の宝を船内で保存加工する作業。飯を食う時間と一日4時間の睡眠時間以外は全てこの作業にあてられる。中でも死因の8割は水揚げに伴う海難事故、残り2割が過労死だ。わたしがこれからやつに紹介するのは、バーデン王国が国家事業として行っている工船だ。民間の商売気が強い工船と違い、嵐や波の高い日には休みを貰えるし、飯だって栄養価のあるもの与えられる。……まぁ他の工船の死亡率が2,3割なら、国家事業の工船は1,2割といったところか。十分良心的だろう?」

 

「はぁ……。国家事業でもやはり死人は出るのですね。」

 

「海に面しているというのはバーデン王国の国際的優位性だ。人口問題、食糧問題、更には輸出業としても重要な使命となる。だからこそ死人がでようと【商品】を使おうと、高い給金で作業員を集め、工船事業を積極的に行っている。海の上に浮かんだ逃げ場のない労働環境だから脱走者の心配もないしな。元は伯爵家で魔術師をしていた貴女や宝石を生み出す新人には到底想像も出来ないだろうが、何の特技も持たない人間が劣悪とはいえ衣食住が保証され、半年で金貨15枚を丸々手に出来る仕事など他には早々ない。この商売をするならば金貨1枚稼ぐのがどれだけ大変なことなのか市営の暮らしを体験するのもいい経験となるぞ。」

 

「そうですね、わたくしも今ほどではありませんが、伯爵家で過分な給金を頂いておりました。」

 

「わたしが安酒場で給仕でもするのか?そんな真似は御免被りたいものじゃ。」

 

「……まぁ言ってみただけだ。屋敷を不在にされ契約の仕事を放棄されても困るからな。」

 

(わたしたちが話し込んでいると、借金を返し終えたミットフェードさんが屋敷に戻ってまいりました。いつの間に手配をしていたのやら、そのまま工船作業員となるべく馬車に揺られ旅立っていきます。生存確率は80%~90%、それを二回。わたしは無事を祈ることしかできません。)

 

「さて、厄介ごとは済んだな。二人はもう休んでいいぞ。」

 

「まてアムよ。国際的優位性と言っておったが、バーデン王朝以外に国があるのか?」

 

「なんだ、反王政組織に3年もいながらそんなことも習わなかったのか?バーデン王国はアーデル教の総本山であるアーデル皇国、100年前に出来たトーランド帝国が隣接している。とはいえ両国とも敵対関係にあるわけではなく、戦火の火種となるものは今のところない。……無いが、貴女の所属していた反王政組織に資金援助をしているのは間違いなく両国だろうな。どの国にも戦争が無くなっては困る軍人派閥や過激派とはおり一枚岩ではない。」

 

「ふむぅ。本当にわたしは金蔓でしかなかったのだな。初めて聞いたぞ。何なら〝バーデン王朝とは権力を集中させた独裁国家であり、無辜の民は重税と圧政に苦しんでいる〟と聞いていた。」

 

「そして〝バルロドス王朝の復権こそ民を平和へ導くための道標〟という甘言に躍らせれていたわけか。貴女はもう少し頭が良いと思っていたのだが、評価を改める必要があるな。」

 

「無礼を言うでない!1400年も昔から聖骸として蘇ったのじゃ、少ない情報から現代を知るだけでも一苦労であったのだぞ。」

 

「まぁ他国の話を出して〝圧政を強いるバーデン王朝の崩壊〟というお題目に懐疑心を抱かせないため意図的に隠されていたのかもしれないな。まぁ仲間の情報ばかりを鵜呑みにするのではなく独自に手に入れた地図くらい確認しておけとは思うが。」

 

「むぅ……。それを言われてしまえば何も反論できん。」

 

「ウィリアム様はアーデル皇国とトーランド帝国に赴いたことはあるのですか?」

 

「一応な。とはいえ他国の民を【商売】にすることや、【商品】を他国に売買することは法律で固く禁じられている。今のところわたしが関与することはない。大人しく国内で慎ましく商いをしているさ。」

 

(ウィリアム様は法律や契約を必ず順守されます。誠実な商売人……といえばそれまでなのですが、どうにもわたくしには〝強い力を与える代わり、契約には絶対に従属する〟と言い伝えられる悪魔のように思えて仕方がないのでした。)

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