「ウィリアム様って男の子だったの!?……ですか?」
ウィーサがテグレクト家に雇われて翌日の朝、あまりの衝撃に敬語も忘れてしまっていた。
「むしろ何故女と思っていた。確かに闇の神に帰依しているため黒魔導士として女装はしているが、違和感など山ほどあっただろ。」
え?どこ?と思いながらウィーサは改めてウィリアムを見つめる。ウィリアムはその様子に気分が悪いとばかりに鼻を鳴らした。
「それよりも朝食を作っている。食べるならば卓に座るがいい。」
「えっと……ウィリアム様の手作り?メイドが一緒に卓を囲んでも良いのですか?」
「貴族の礼儀作法は面倒で好かん。一緒に食事した方が効率的だろう。」
不機嫌な様子だが、ぷんと膨れた姿は年相応の少女にしか見えず本当に昨日の少女……否、少年と同一人物なのか頭の中に疑問符が沸き上がる。あと意外?なことに料理はとても美味しいものだった。本当にこんな少年が悪辣非道な人身売買を?
しかしそんな疑問は朝食の後、すぐに晴れることとなった。〝躾も兼ねた最初の業務〟として与えられた仕事は、奴隷に使う首輪の実験台だった。
ウィーサはヒューヒューと喘鳴し、滝に打たれたかのように汗を噴き出していた。思考は枯渇ともとれない飢餓感にもにた絶望に支配され、焦点を失い、瞳孔は拡大と収縮を繰り返し、瞳からは涙が諾々と漏れている。先ほど食べた朝食は〝胃の中の内容物〟として床に吐瀉されている。
「うむ、奴隷の首輪にはやはり即死機能ではなく、精神的に痛めつける黒魔術を宿したものが良いな。麻薬の副作用・離脱症状のみを再現した苦痛の塊でありながら、肉体的に一切の欠損がない。これは素晴らしい。」
「は、ふぃ、ひゅ、はず、はすし、はすして。」
「ああ、実験は終わりだ。後は量産するだけなのだが……。」
ウィーサは永遠にも思える絶望的な拷問を終え、奴隷の首輪を外された。時計の針を見れば10秒も経っていない。週休3日制で月額金貨15枚という破格の待遇にも納得してしまう。毎日こんな塩梅では遠からず命を絶ってしまうかもしれない。
「ふぅふぅ……。ウィリアム様、わたしは毎回このような実験台として使われるのでしょうか?」
「試作品の実験台は今後も願うだろうが、それよりもわたしが貴様に目を付けたのは黒魔術の適正だ。」
「適正?」
「ああ、黒魔術に……まぁ邪術と揶揄されるこの術式を扱うには本人の気質によるものが他の魔法よりも圧倒的に大きい。人間生きていれば殺したい人間の一人や二人いるものだが、そんな陳腐な次元を超える〝負の感情〟を抱えている。……ウィーサ。貴女は伯爵夫人から絶縁状の解除書状を一人託されたようだが、それは信頼故か?それとも貴女ならば奴隷の身代わりになっても構わないという厄介払い故か?」
椅子に踏ん反り足を組むウィリアムはニヤニヤと意地の悪い微笑を浮かべる。スカートから延びる脚はどこか妖艶で、生粋の女性であるウィーサをして倒錯的な複雑感を抱かせた。質問に対し真っ向から反論したい気持ちはあったが、それが根拠を持たない感情論であることを察し、観念したかのように首を項垂れる。
「後者でしょうね。わたしは本来魔導士として雇われていたのですが、思うような結果を出せず、一年を過ぎたころにはメイドの仕事を割り振られておりました。」
「魔導士など引く手あまたなのだから辞めてしまえばよかっただろう。」
「そうですね。本当はそれが一番の手だったのかもしれません。わたしは伯爵夫人様直属で、日々奥様の
「かといって金貨1500枚の代わりに自分がなるなど大言壮語、あまりに突飛だな。フフ、貴女にはもっと深い闇がありそうじゃ。しかし今日の詮索はここまでとしよう。【陰】の素質があり、根に闇を持っている。黒魔術師としては合格だ。」
そう言ってクツクツと笑うウィリアムは年相応の少女のように可愛らしく、それが逆に不気味だった。
「それにしてもわたしが黒魔術ですか……。四大魔法さえ
「機序が違うのでなんとでもなろう。まず奴隷を扱うので、基礎的な護身術から教えよう。<
詠唱の瞬間、ウィーサは視力を失い前後不覚に陥る。そして徐々に視力が回復し……。
「この魔術の後、奴隷がオスならば股間でも蹴ってやればどんなに暴れていようと〝だいたい静かに〟なる。メスならば叫び声がうるさいので<
「えっと……それはありがたいですが、それはどこで?」
「丁度二束三文の値が付いた人間種のオスがこれから運ばれてくる。それを実験台としよう。」
「<
「ふぶぅうううう!!!!!」
後ろ手に縛られた半裸の男が叫び声をあげてのたうち回る。
「<
「はい!」
「ではもう一度!」
ウィーサは自分の3倍は生きているであろう屈強な男性が悶え苦しむ姿を見て、奴隷を扱っている嫌悪感が徐々に薄れていくことに、そしてそれ以上に自分の内面から湧き上がるあってはならない感情……
〝自分よりも劣った人間をその手で屈服させる〟という大凡どうしようもない倒錯的な背徳感が背中を走っていく快感と高揚感に当惑し、なお一層恐怖を覚えていた。