男の娘は奴隷商人です。   作:セパさん

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御姫様よりも雇い主が気になるようです。

「四号房室へ商品入れておきました。」

 

「ご苦労様。」

 

「……ウィリアム様は彼女、失礼、例の【商品】に興味は湧かないのですか?」

 

 1000年も昔に滅びたバルロドス王朝時代より生きているという褐色肌をした少女。自称1400歳だというのに、その見た目は14,5歳、自分とそう変わらない。それは古代の呪術によって不老長寿を得たためか、はたまたミイラになって現代に蘇ったのか……。

 

「全く湧かない……とは言わないが、わたしは歴史学者でも年代記作家でもない。古代の呪術を解き明かせれば黒魔術史への大きな貢献となるだろうが、生憎わたしは他の仕事で忙しい。」

 

 ウィーサはウィリアムの言葉にどこか名残惜しい気持ちが宿っているように思えた。勘違いかもしれないが、何だか自分で言って自分に言い聞かせる、そんな違和感を覚えた。

 

「そうですか、何だか勿体ないような気もします。」

 

「そうだな。ああそれと、これは忠告だがこの【商品】を預かっている間、休みの日でも一人で出かけることはおススメしない。必要なものがあれば取り寄せるし、本や雑貨、菓子の類が欲しいならば移動商店を呼んでもいい。」

 

「それは……」

 

 そこまで言って、この【商品】は反体制・反王政の過激派組織に莫大な資金提供をしていた存在であることを思い出す。資産は全て没収されたようだが、隠している財宝がまだあるかもしれない。そうでなくても〝滅びたバルロドス王朝時代の末裔〟など、現体制に反対する者として奪還したい存在だろう。

 

「……わたしたちは今、とんでもない爆弾を抱えているのですね。」

 

「だから言っただろう、〝細心の注意を要する【商品】〟だと。」

 

 ウィーサは戦慄と嘔気を覚える。理屈の通じない相手に命を狙われる現実とは、15歳の少女が受け止めるにはあまりにも重々しいものだった。

 

「まぁわたしの屋敷はいい意味でも悪い意味で名が通っている。相手も軽々に襲ってはこないだろうよ。……顔色が悪いな、眠れそうにないならば睡眠薬を調合してやろうか?」

 

「お願いするかもしれません。」

 

 結局ウィーサは布団に入ったものの胃に重くのしかかるような気持ちの悪さに耐えきれず、ウィリアムから精神安定剤と睡眠薬をもらって微睡(まどろみ)に入った。眠りに入るその最中、ウィリアムはいつも居間か広間にいて、この一週間眠っている姿を見た記憶が無い事に違和感を覚えた。

 

「おはよう、薬は効いたようだな。朝食が出来ている。」

 

「あの……、昨日ふと思ったのですが、ウィリアム様が眠っている姿をこの一週間みたことがないのですが、いつ休息を取られているのですか?」

 

「元々睡眠の質は浅いほうでな、椅子に座って眠っていることが多い。横になると逆に眠れない性質でな。」

 

 何だかこの得体の知れない雇い主ならば不眠不休の邪術でも使っていると言われても驚きはしないが、どうやら少しは人間的な部分もあるようだ。

 

 コンコン と ノックの音がした。ウィーサは昨日の今日でビクリと身体を震わせる。

 

「わたしが出よう……、何用じゃ?」

 

「お届け物です。」

 

 その言葉を聞いたウィリアムは玄関に置いていた書類に目を通す。

 

「わかった、すまないがそちらの覗き穴から目を出してくれるか?」

 

「はぁ、はい。」

 

「<魅了(チャーム)>。その荷物の中身は何だ?」

 

「……わたしは運んできただけなので中身はわかりません。」

 

「そうか、どこから運んできた?」

 

「ホーファー運送ノボラ支局、第二倉庫からです。」

 

「わかった、玄関口に荷物を置いてそのまま次の仕事に励んでくれ。」

 

「かしこまりました。」

 

 玄関口から人影が消えたことを確認する。

 

「<傀儡錬成>。」

 

 玄関口に藁で構成された人の身はある人形を創り出すと、そのまま置かれている荷物を傀儡に開けさせた。その瞬間、ドカン という爆発音が轟く。商売柄玄関は頑丈に作られているので損傷はないが、創り出された傀儡は跡形もなく四散した。

 

「小包爆弾か、確かにこの時間荷物がくるよう予定を入れていたから、運送会社の倉庫ですり替えられたな。金貨30枚で買った特注品の魔石だというのに勿体ない。」

 

「勿体ないと言っている場合ですか!?やはりこの【商品】は危険ですよ!今からでも国に帰しませんか?」

 

「命を狙われる程度のことで騒いでいてはこの家業など出来ん。それに仕入れ値は0で売値は金貨5000枚という破格の仕事。何よりわたしは一度受けた仕事を自分の都合で取り止めたことはない。今回も業務を全うするだけだ。」

 

「そうですか、そうですよね。しかし昨日の今日でこんなことが起きるなんて、あと14日、相手が何をしてくるか。それに荷物を取るだけでもこれだけの手間を毎回かけるなんて……。」

 

「……?今のやり取りはわたしが荷物を受け取る際、今回の【商品】に関係なく毎回やっていることだぞ。別に苦ではない。安心しろ食料なら150日は籠城できるだけの貯蓄がある。全部毒でないことは確認済みだ。とにかく爆発事故については警邏隊に報告しなくてはな。」

 

「一度、家のドアを開けるのですか?」

 

「それも危険なので任意の聴取には扉越しに話すとしよう。なに、わたしの屋敷でこういった事件が起こるのは初めてではない。巻き込まれた人間もいないようなので、すぐに終わるだろう。」

 

 ウィリアムが通信の式をつかい警邏隊を呼ぶと、確かに調査は呆気なく終わった。〝この家業は全てが自己責任、自分の身は自分で守れ〟……ウィーサは以前ウィリアムより告げられたこの商売の鉄則を反芻するほかなかった。

 

 青磁を思わせる古美術品のような美しい褐色の肌、手足を拘束する縄は一時的に入浴用の手足を結束する程度の緩いものになって、口枷も外され、ある程度の自由を確保している。

 

「なあ、君たち。取引をしないか。間抜けなバーデン王朝の連中はわたしの資産を全て没収した気でいるようだが、わたしの持ち合わせる財宝の一部と、身分を保証する徽章のひとつが没収されたに過ぎない。君たちがわたしを奴隷(ヘム)に堕とすことで幾ら稼ぐか知らないが、わたしならばその2倍でも3倍でも出せる。そんな女中業務から解放され、一生を遊んで暮らせるぞ。」

 

 ウィーサは撥水性のある薄着を、ウィリアムは玉のような肌が見え隠れするほどに薄い使い捨ての白いローブを羽織り、【商品】の洗体に勤しんでいた。洗体業務は本来一人で行うものだが、【商品】が特別なため、二人がかりでおこなっている。

 

 【商品】は誘惑、勧誘、恫喝、(おもね)り、同情を誘う悲嘆話など千変万化な顔を見せ、様々訴えている。しかし、ウィーサもウィリアムも無言を貫きひたすら【商品】を洗っていく。

 

「……髪を洗うときはこの香油をつかえ。」

 

「なんとも懐かしい香りだ。我が王族家に伝わり、王族以外が使用することを法で禁じた品ではないか。まだ現代に残っていたとは。いや、この3年でみたことがない。貴女が調合したのか?バルロドス王朝に対する慧眼感服する。呪術師と推察する、腕も一流なのだろう。ではわたしがどうやって1450年もの年月を経てここにいるのか興味は湧かないか?その呪法を教えることも(やぶさ)かではないぞ。」

 

「……この香油いい香りですね、わたしも使いたいです。」

 

「【商品】のついでに歴史学者に売るつもりで、バルロドス王朝時代の文献をもとにわたしが調合したものだ。材料が希少で、少量しかない。一瓶金貨25枚と銀貨3枚になるが、特別に売ってやろうか?」

 

「やっぱりいらないです。」

 

 【商品】はわなわなと震えだし、慟哭(どうこく)したはじめた。

 

「貴様らぁ!人の話を聞けーーーーーーー!!」

 

「もういいだろう。このまま食事にするので口枷も手足の拘束もいらぬ。拘束を外す際は気を付けろ、手を嚙まれるぞ。」

 

「人を犬のように……どこまでもふざけた奴らだ!誰が貴様らの作った食事など口にするものか!」

 

「……そしてもし食事を口にしないようならば、鼻から管を通し胃に直接流動食を入れることになるので、わたしはその準備をしておく。四番房室へ戻しておいてくれ。」

 

「やっぱり食べる!そんな野蛮な真似はやめてくれ!」

 

 夜も深まり【商品】も寝付いたころ、ウィーサはぐったりと机に倒れ伏していた。ウィリアムは遅い夕食を二人分持ってきて、机に金貨2枚と銀貨4枚を置いた。

 

「これは?」

 

「超過勤務手当と危険手当だ、本来今日は休日であったというのに、散々な目に遭わせたからな。」

 

「いえ、あの【商品】の扱いについて早く知りたいといったのはわたしですし、ある意味〝私用〟ですので……。」

 

「わたしは雇用主であり、貴女が貴重な人生の一部を労働に回した以上、時間に見合った対価を支払う義務がある。黙って受け取れ。」

 

「では遠慮なく。それにしてもバルロドス王朝の財宝伝説に、不老長寿か蘇りの古代呪術……。この情報を冒険者ギルドに売るだけで金貨5000枚など簡単に稼げそうですが。」

 

「それはわたしが依頼された仕事ではない。そしてどの商売でも【商品】から報酬を二重取りする輩というのは一気に信用を失うものだ。なので貴女も守秘義務は守るように、もし破るようならば雇用主として〝相応の制裁〟をしなければならなくなる。」

 

「もちろん口外はいたしません!というか……誰も信じてはくれませんよ、こんな話。あ、今日のお魚のスープ、癖があるけれど美味しいです。この細切りにした肉を入れたパイも。随分と豪勢ですね、これも超過勤務手当ですか?」

 

「いや、【商品】に出した品のあまりだ。バルロドス王朝時代中期に王族に出されていたという品を再現してみた。流石に羊肉を串刺しにして廻し焼きなんて出来なかったので、オーブンでローストしたものだがな。」

 

 香水の調合といい、今食べている料理といい、やはり雇い主はバルロドス王朝時代にまるで無関心という訳ではないようだ。【商品】に合わせているなんて言われればそれまでだが、どこまでも合理主義な雇い主にしては後ろ髪を引かれるような言動に思えて仕方がない。それは黒魔導士としてこれほどの逸材を手放してしまう未練からくるものか、

 

 何より黒魔導や呪術に対する見識をもち、相手が何者であろうと自衛する手段も実力も、設備も整っているのだから、そこらの歴史学者に渡すより、雇い主が【商品】を調査をしたほうが余程有益ではないかと思うのだが、その心中はウィーサでは推し量れない。徹頭徹尾〝商人〟として振る舞うに至るまで、目の前の少女にも似た少年は、どんな人生を歩んできたのだろう。

 

 ウィーサは古代から来たという【商品】よりも、目の前の雇い主のほうが余程謎めいた存在に映った。

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