男の娘は奴隷商人です。   作:セパさん

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御姫様に変化があったようです。

 太古の昔に古びた王朝からやってきたという特別な【商品】を預かって10日が過ぎた。過激派組織の動きだが、初日に小包爆弾が投函された以外、テグレクト邸を直接襲う人間は今のところいない。商売こそ後ろ暗いものだが、名実ともに一流を冠する黒魔術士の要塞を襲うのは愚策と判断したのか、それとも何か別のことを企んでいるのかは知る由もないことだが、一つ変化があるとすれば……。

 

「なぁ今日の飯はなんだ?先日出されたティラピアのシチューは大変に美味であったぞ♪それとも飯は湯あみの後か?女中二人がかりで湯浴みを手取り足取り行われるというのは昔を思い出して中々悪くないものだ。ああ、一人は女中ではないのだったな。あの容貌を持ちながら男であるとは、1400年の時を生きるわたしでさえ考えつかなんだ。わたしの娼夫として飼ってやってもよいぞ。給金は破格のものを約束しよう。」

 

 ……【商品】がウィリアムとウィーサに懐いているということだろうか。ウィリアム曰く誘拐犯症候群と呼ばれる症状のひとつであり、〝【商品】が商人に好意的な感情を抱く心理状態〟を指すストレス障害に該当するものとウィーサは説明を受けた。雇い主はよくある話と気にも留めていない様子であったが、慣れていないウィーサにとってはこれだけ好意的に接してくる相手を【商品】として徹するのが難しくなりかけていた。

 

「むぅ~~。つれないのぉ。もう10日の付き合いなのだから、おしゃべりくらい付き合ってくれても良いではないか!」

 

「……。」

 

 ウィーサは無言を貫きながらもどこか申し訳ない気持ちを隠せなかった。

 

「なるほど、それで悩んでいると。」

 

「はい……。何というか……一人の尊厳ある人間と見てしまい、どうしようもない罪悪感を覚えるのです。」

 

「今まで、と言っても実労は一週間だが、売買してきた全ての【商品】に当てはまることではないか、何故あの【商品】を特別扱いする。」

 

「それは……。」

 

「好意を向けられているからではないか?自ら【商品】に墜ちた自業自得の有象無象ならばいざ知らず、〝自分に対し友好的に接してくれる友人〟を売買するとなれば心が痛むからな。」

 

「そう!それです!」

 

「しかしわたしも貴女もあの【商品】の友人ではない。学術的な興味の対象として大変興味深い【商品】であり、わたしもらしからぬ真似をしているのは自覚している。しかし【商品】と【商人】、その一線は超えるな。何度もいうようにあの【商品】の真なる仲間は反王政のためならば無辜の民を巻き込んだ虐殺さえ問わない頭のおかしい連中であり、彼女を研究するのは歴史学者か年代記作家だ。」

 

「それも勿体ないように思うのです。この10日、過激派組織が襲撃してくる様子はありません。それはウィリアム様のお力と風評故でしょう。歴史学者に売ったところで、その歴史学者が今度は狙われる。それならばウィリアム様があの【商品】を精査したほうが余程有益ではありませんか?」

 

「初日に言ったであろう。わたしは他の仕事に忙しい。」

 

「……何故、そこまで奴隷商人に拘るのですか?即座にバルロドス王朝時代の王族が使っていた香油を再現し調合してしまう技術と知識、黒魔術についても一流なのでしょうが、歴史・薬学にも精通していなくては出来ない芸当です。そこらの歴史学者など比較にならないでしょう。」

 

「過分な評価に言葉もない。わたしはしがない奴隷商人、好きなものは金だ。古代の神秘など、金貨5000枚の報酬の前では比べるべくもないよ。」

 

「その割には質素な生活をされておりますね。黒魔術に必要な魔石や魔道具・媒体以外に大金を使っているところを見たことがありません。」

 

「〝金が好き〟と言っただろう、金を使えば減ってしまうではないか。何か矛盾したことを言っているか?」

 

「いいえ、わたしのことを指して〝闇が深い〟なんて言って……、どっちですか全く。」

 

「この家業をするならば同業者を深く詮索することは推奨せん。」

 

「わたしの過去については興味津々でありませんでした!?」

 

「わたしは雇い主だ、従業員の来歴に目を通すのは当然だろう。」

 

「……ズルいです、まったく。」

 

 そう言ってウィーサは深くため息をついた。

 

 そして15日が無事に経過し、【商品】を受け渡す時間がやってきた。裏口に停められた馬車の周りには【商品】の受け渡しには珍しく屈強な護衛団が刺客に目を光らせている。

 

「金貨で5000枚、そしてバルロドス王朝時代の香油が一瓶で25枚と銀貨3枚、20瓶の買い上げで金貨506枚と。合わせて金貨5506枚、間違いなく確認した。」

 

「こちらもバルロドス王朝時代の生き残り……確かに受け取りました。」

 

「では交渉成立だな。この用紙に捺印してくれ。」

 

「はい、確かに。」

 

「お~~い!女中と女中に似た2人!神の巡り合わせがあったらまた会おうではないか!!今度会った時は名前を教えてくれ!」

 

 ウィーサもウィリアムもこちらに笑顔で手を振る【商品】を無視する。金貨の詰まった箱をウィリアムの作り出した傀儡が運び終えたのを確認し屋敷に戻る。

 

「本当、神の巡り合わせがあったならば別の形で会いたいものです。」

 

「……終わった【商品】の話はするな。後味が悪いだけだ。」

 

「それもそうですね。」

 

 次の瞬間、耳を(つんざ)く程の爆発音が轟いた。

 

「……襲われたのでしょうか?」

 

「だろうな。今の規模ほどの爆発ならば【商品】とて跡形もあるまい。どうやら奪還を諦め口封じに出たようだ。いくら神殿でも四散したとなれば復活もできまい。」

 

「彼女を助けられなかったのですか……。」

 

 ウィリアムは淡々と、しかしウィーサからみればやや悲しげに見える様子で呟いた。

 

「彼女?誰のことだ?」

 

 ウィーサは何度か見た、雇い主の厭世的な瞳に言葉を詰まらせる。こうして〝細心の注意を要する商品〟の取引は幕を下ろした。

 

 

 

 

 ドンドンドン!と扉を叩く音が響く、ウィーサはいよいよ襲撃が来たかと怯え竦んだ。

 

「誰だ全く。…………。」

 

 雇い主は玄関に誰がいるか式神を通じて見たのだろう。何とも言えない沈黙をした。

 

「お~~い!!開けてくれ!わたしじゃ!わーたーしー!ネフィティ=リリアじゃ!」

 

「え!?」

 

「開けるな、厄災の種だ。」

 

「相変わらず冷たいのぉ。まぁ聞け!わたしはこの度あの胡散臭い革命集団と手を切ることにした。この半月色々と考えたのじゃが、奴らはわたしを金蔓としか思っておらず、挙句こちらは何一つ口を割っていないというのに、裏切り者として始末しようとしてきた。そんなやつらにバルロドス王朝の復権など託すことは出来ん!そこでだ!造詣も深い貴殿・貴女らこそわたしの力を託すに相応しいと判断した!どうじゃ!?金貨5000枚でわたしを奴隷(ヘム)にしたのだったな、ならばその3倍の価値があるぞ!呪術についても知る限りのことを教えよう!」

 

「あの爆発で死ななかったなんて……本当に不老不死?」

 

「知ったことではない。そのうちいなくなるだろう。放っておけ。」

 

「ウィリアム様、差し出がましいようですが、彼女は既に【商品】ではなく、我々も【商人】ではない。ならば彼女は……ネフィティ=リリアは黒魔導士テグレクト=ウィリアムを訪れた〝依頼人〟なのではないかと。」

 

「……貴女も小賢しい理屈をこねるようになったな。」

 

 ウィリアムは心底面倒な顔をしながら玄関の扉を開いてリリアを家の中に入れ、すぐに扉を閉めた。

 

「近所迷惑だ!それに何とか王朝の復権にわたしが手を貸せることはない。他を当たれ。」

 

「おお!やっと目を見て話をしてくれたな。ふぅん……何故女子の恰好をしているのだ?確かに女児にしか見えん容貌だが趣味だったのか?湯浴み場でアレが透けて見えたときは目を疑ったぞ。」

 

「女装をしているのは、わたしが闇の神の帰依者だからであり、黒魔導士の正装である。」

 

「そうかそうか、それは失礼なことを言った。ところで昼飯は何なのだ?この半月では出なかったが酒は造れるか?この時代のビールは不味い上に味が薄くて敵わん、貴殿ならば再現できるじゃろ!?」

 

「話を逸らすな、ここに貴様の居場所はないと言っている。だから居ね。」

 

「……ではしょうがない、しばらく奴隷(ヘム)に戻るとするか。そこの女中、わたしの居住区に案内せよ。」

 

「もう、諦めてはいかがでしょうか?」

 

 それはウィーサが発した台詞であり、リリアにではなく、ウィリアムに向けられた言葉だ。ウィリアムはがっくりと項垂れる。

 

「もう貴様は【商品】ではない。……ここは奴隷商人を営む黒魔導士の本店、わたしが店主のテグレクト=ウィリアムであり、横にいるのが見習いの使用人だ。」

 

「改めまして、ウィーサと申します。」

 

「おお!初めて名前を交わしてくれたな、知っているだろうがネフィティ=リリア。バルロドス王朝王族の血脈を引く者である!」

 

「王族に用はないが、使用人ならば募集している。衣食住の世話は雇い主として請け負う、ただし見習いの間は賃金は出ないし、勝手に部屋や屋敷から出ることも禁ずる。……それで良ければ面倒をみよう。」

 

「わたしが使用人だと?……まぁ奴隷(ヘム)よりは幾分かマシか。では昼飯にしようではないか!今日はどのような美味を振る舞ってくれるのだ?」

 

 陽気にはしゃぐ少女はこうしてテグレクト邸に身を置く使用人となった。

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