「【聖骸の呪術】……聞いたことが無いな。」
「そうか、途絶えた術式であるならば構わぬ。バーデン王朝の連中に我らの秘伝が伝承されるなどあってはならないことじゃ。ふむ!バルロドス王朝を再現した料理も見事であったが、この時代の料理も悪くない。魚を包み焼きにしているのは薄く伸ばした錫か?白パンも臭みがなく小麦の香りが鼻腔を抜けていく!」
「リリアさんはその【聖骸の呪術】を受け3年前この地に蘇ったと。」
「そうじゃ、当時は戦争奴隷の減少と労働力が不足から暴動が多発していての。幸か不幸かわたしは呪術師としての素質があったらしく、父上の命令により、ネフィティ家の血脈を途絶えさせないためわたしに白羽の矢が立つこととなった。寂しくひもじい生活じゃったぞ、一切光の差さぬ一室に閉じ込められ、与えられる食事は木の皮と水とドロドロと濁った気味の悪い液体のみ。やがて餓死したわたしは聖骸となり、3年前お湯を掛けられ蘇った訳じゃ。なぁ、お代わりはあるか?」
「まぁ話が終わるまで待て。……所々認識の不足があるようだな。お湯を掛けただけで蘇生というのも信憑性がない。うむぅ、恐らく口にしていたものは松の皮と聖水と
「そうじゃな……。誰も話し相手になってくれず非常に寂しかったぞ。おお!このスープは
「暗闇に孤独……宝を探し出すという能力でも、黒の雌鶏の秘術に酷似しているな。」
「ウィリアム様、黒の雌鶏の秘術とはどのようなものなのですか?」
「暗闇で覆った部屋で雌鶏に卵を産ませ、孵化した雛に一切の愛情を与えず暗闇に放置させると、やがてその雛は財宝を探し出す雌鶏に育つという術だ。とはいえ外界から隔離された雛はその悉くが死んでしまい、1万回やって1回成功するかどうかというほど黒魔術の中でも1,2を争うほど難易度と費用対効果の見合わない術式だ。わたしでさえまだ成功させたことはない。」
「人を鶏扱いするな無礼者!それにわたしは宝の在処を探すなんて陳腐な能力を持っていない、わたしそのものが宝なのじゃ!」
「人間誰しも、自分自身が宝だ。」
「そういう意味ではない!全く、一流の黒魔術士と聞いていたのにとんだ節穴よ。まぁ見ておれ、わたしが手をかざすとあら不思議、ジャラジャラジャラ♪」
「これは、ダイヤモンド!?それに他の宝石も……」
「ダイヤ、ルビー、サファイヤ、トパーズ……磨き方こそ旧式だが、一粒一粒が
「リリアちゃんは宝石を無限に生み出せるのですか!?」
「秘密じゃ♪金の卵を産む鶏は、金を産まなくなったら捌かれるのが世の常であるからな。」
「……さっき人を鶏扱いするなと言っていなかったか?」
「さて、友好の証じゃ。好きなものを好きなだけ持て。」
「断る。わたしは商人、自分の生活は自分で賄う。人から施しなど受けられんよ。」
「雇い主がその意向らしいので、わたしも遠慮しておきます。」
「なんじゃ、皆喜んで受け取っていたというのに変わり者じゃな。では自分で持っておくとしよう。何か袋はないか?」
「見た目の数十倍物が入る魔法を宿した袋がある。このルビーひとつで売ってやってもいいぞ。」
「ではそれを貰おう!あと能力を使ったら腹が減った、お代わりはまだか?」
「まずは売買が終わってからだ。それにしても宝石を生み出すことは出来ても、一度生み出した宝石を体内に再び回収することはできないのか。」
「ほう、良質な皮を使っているな。いい買い物をした。さて、とはいえこの時代だと宝石は換金しないと買い物に使えないのじゃろう?わたしにはその伝手がない。以前いた組織では末端の連中が勝手に換金してくれていたのでな。」
「ではシュテルネッカーなる組織に金銭援助というのは……。宝石を渡していたのですか。しかし調査局に目を付けられているほどの犯罪集団、どのように金貨に変えていたかわたしでは想像が出来ませんね。リリアちゃんも法律上は自由の身になったとはいえ、特殊な立場にあります。迂闊に宝石屋や質屋へ持っていくはよした方がいいでしょう。」
「バーデン王朝の連中め、わたしを半年も牢獄に入れながらまだ飽き足らんか。」
「リリアちゃん本人の異質な来歴もありますが……。リリアちゃんの生み出した宝石を資金源として無辜の民の命が危険に晒されたのです。本来であれば死罪や終身刑に処されてもおかしくないとウィリアム様から伺いました。貴女は王立調査局、そして犯罪も厭わない反王政集団の二つから狙われる立場となります。」
「それは……ちょっと困るの。」
「だから厄災の種と言っただろう。ほら、お代わりだ。先もこの使用人が言ったように貴女は二つの厄介な組織から狙われる立場にある。幸いなことに先の爆発事件で死んだものとされている。しかし遺留品の不自然さから生存の可能性が浮上してもおかしくない。……というか馬車一騎とその護衛団丸ごと吹き飛ばし、民家にまで被害が及ぶほどの爆発の渦中にいながら、なぜ生きているのだ?」
「わたしは3年も奴らの拠点にいたのだぞ?奴らが扱う爆発の呪いの癖については把握している。そうしたら案の定馬車に呪いの気配がするではないか、わたしは運搬されている途中何度も〝爆発するぞ、危ないぞ〟と声を掛けたが、連中と来たらわたしの忠告を徹頭徹尾無視するのじゃ。仕方なくわたしは爆発に備えて守護の
「なるほど、それは余程高度な魔術師でなければできない芸当だ。少なくとも先輩の使用人には不可能だな。」
「……クビにしないでくださいね。」
「まぁどんな能力があるにせよ、わたしの元で働くならば別の技能と心構えが必要になる。このあと新人研修をする。覚悟しておくように。」
「で?いつ苦しくなるのじゃ?この窮屈な首輪は。」
「……本当に何ともないのか?」
「ああ、別に。」
「貴女の先輩は涙を諾々と流しながらのたうち回り、嗚咽し嘔吐していたぞ。」
「そうなのか、アハハ、ウィーサは軟弱じゃな。」
「いえ、奴隷の首輪が発動しないなんて聞いたことがありません。ウィリアム様、これはリリアちゃんが術式を解析して無効化しているのですか?」
「いや、術式は確かに発動している。【聖骸の秘術】による弊害か?……どうやら検証する事項がまた増えたな。」
「<
「むぅぅぅぃ!」
「アハハ!
「むぁふは……。」
「おっと勿体ない。」
「きゃ!リリアちゃん!何をしているのですか!?」
「はひって……、んっくん。呪術の貴重な媒体じゃ、呪術師として何か間違えた真似をしているか?奥にまだ残っておるな、はむ♡」
「はひいいいい!」
「むは、のたうち回るな飲みにくい。」
「ウィリアム様、放っておいていいのですか?」
「太古の呪術には血液を筆頭とし、体液が貴重な媒体として使われていた。掃除の手間が省けるのだから好きにさせておけ。」
「ウィリアム様も……あるのですか?……その、飲んだこと……。」
「答える義務はない。それにしても……うちでやっていけるのか?簡単にクビにも出来ないし、困ったな。」