男の娘は奴隷商人です。   作:セパさん

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少女は正義について考えるようです。

「何度も言うように貴様と取引する気などさらさらない!さっさと帰れ!」

 

「おお、アム。どうしたのじゃ?」

 

「ウィリアム様が声を荒げるなど珍しいですね……。」

 

「ん?ああ、すまない。醜態を見せたな。商売柄飛び入りで【商品】を買い取ってほしいという輩は少なくないのだが、余りにもしつこい上に、【商品】が違法のものでこちらも気が立っていた。」

 

「違法な【商品】ということは……誘拐した婦女や12歳に満たない子供ですか。」

 

「ああ、〝笛吹のメルン〟としてこの業界では悪名名高い子供売りだ。<魅了(チャーム)>を宿した笛を吹き、その音色につられた子供はメルンを親のように慕うという。やつの狡猾なところは、魅了した子供を選別し、浮浪児や悪人の子供ばかりを【商品】としていること。なので今のところはお尋ね者になっていない。しかし明確な違法行為を行っていることは間違いなく、そんなリスクの高いところから【商品】を仕入れるつもりはない。」

 

「なんてひどい……。」

 

「ひどい、か。わたしは商売上のリスクが高いと断じているだけで、メルンの善悪については思うところはないぞ。先も言ったように【商品】にされるのは浮浪児や消えても困らない悪人の子供。そのまま路上や親元にいたとしても先のしれた運命。それならば貴族の屋敷に売られた方が〝運が良ければ〟真っ当な職を与えられ、生きるための技能を学び、その人生を良きものに変えられるかもしれない。」

 

「運が悪ければ?」

 

「嬲られ犯され犬の餌か、はたまた重労働による身体・精神の変調か。」

 

「アムならばその子供たちを良き道へ導くこともできるじゃろう!何故行わない。」

 

「わたしは商人だ。慈善事業団体ではない。この世には到底信じようのない理不尽な境遇をもつ【商品】とは枚挙に暇がない。その全てを救う仕事があるとするならばそれは神様の領域だ。人間風情の我々が同情半分で首を突っ込めば必ず火傷する。それは身を以て知っているだろう、新人。」

 

「うむぅ……。ウィーサよ、仕事の話をしているときのアムは何だか目が怖いぞ。前からこんな感じなのか?」

 

「はい、わたくしもこの屋敷に来て一月ですが、お仕事の話をされるウィリアム様はいつもこんな厭世的な瞳をされております。」

 

「それは難儀じゃな、アムよ。一度脳の医者に診てもらったほうがよいのではないか?」

 

「リリアちゃん、ちょっと……。」

 

「喧しい、厭世家大いに結構、貴女らもこの商売を続けていれば自ずと理解する日も来るだろう。理不尽・冤罪・二次被害・堕落・裏切り……この家業はそんなこの世の不条理を集めた上になりたつ商売だ。下手な同情など一銭にもならぬことを努々忘れるな。」

 

「わたくしはウィリアム様の仰せのままに。」

 

「ふん、まぁわたしも奴隷(ヘム)を使っていた身分だ。その気ならばこれ以上綺麗ごとを言うつもりはない。」

 

「雇い主の意を弁えてくれるならそれでいい。飯にしようか、出来上がったら呼ぶので好きにしているといい。」

 

「思うのだが飯炊きなど、それこそ奴隷(ヘム)に任せればよいではないか。いや、アムは料理上手であるし、わたしとしては旨い飯が食えるので大変結構なことだが。」

 

「……衣食住を他人に委ねるのは好きではない。もちろん貴女らの給金をどうしようと自由であるから、外食をするなら一言言ってくれると嬉しい。食材が無駄にならずに済む。」

 

「いえ、わたしもリリアちゃん同様ウィリアム様のお作りになる料理を楽しみにしております。」

 

「……そうか、では3人分作るぞ。」

 

(アムは本当に変わっているな。過去に何かあったとしか思えん。)

 

(わたしもそう思うのですが、ウィリアム様は自分の過去を語ろうとしませんので。)

 

(過去奴隷(ヘム)になった経験があったとかか?見ろあの可愛らしいエプロン姿、あの女児にも似た容貌ならば娼夫としてどれだけ高値が付くか見当もつかん。)

 

(流石にそれはないかと……。黒魔術士として一流の腕前を持っておりますし、奴隷として捕らえられたとしても幾らでも抜け出せるでしょう。)

 

(しかし幼少期のことはわからないではないか。そもそも両親はいるのか?黒魔術は誰から習ったのだ?)

 

(それも不明です。恐らく話してはくれないでしょう。)

 

「小言で話すのは結構だが、全て聞こえているからな。わたしは地獄耳なのだ。」

 

「大変失礼いたしました!」

 

「なんだ、聞こえていたのならば一つくらい答えてくれても良いではないか。」

 

「答える義務はない。」

 

「このわたしを黒魔術の実験体にしておるのじゃ。得体の知れない人間にこの身を触られるのは非常に不愉快じゃ。少しくらい胸襟を開いてくれてもよかろう。」

 

「ではそうだな……黒魔術の基礎は両親から学び、あとは独学だ。そして両親は既にこの世を去っている。」

 

「それはその……お辛いことを聞いてしまいました。」

 

「わたしも1400年の時を駆けて両親はおろか血脈もどこぞにおるか分からぬ身。その心中お察しする。」

 

「別に同情を誘うつもりで言っていない。事実を述べたまでだ。……これ以上は何も話すことはないぞ。ほら、出来たぞ。伸びる前に食べてしまえ。」

 

「ほう、赤い汁に沈んだ麵料理か。海鮮がふんだんに使われているな。これまた珍妙な。」

 

「ペスカトーレという船乗りに伝わる麺料理だ。量は抑えたが唐辛子を使っているので辛いぞ。」

 

「あっちゅ!それに舌がピリピリする、でも旨い!」

 

「はい、大変おいしゅうございます。」

 

「そうか、舌にあったならば何よりだ。さて、今日の深夜【商品】の引き取りがある。それまで寝るなり休むなり好きにしていろ。」

 

「はい、かしこまりました。」

 

「は~い。」

 

 

 

「ニーフリヒ・オーエン 23歳 男性 小手工業者の子として生まれ、10歳で商店に奉公して各地を転々。19歳の時分、紡績工場の支配人となって、救貧院の労働者の処遇改善や機械化事業など数々の技術改良を進め、工場経営に成功。経営者でありながら労働組合活動を積極的に応援する社会改革家、社会主義者としての顔ももちあわせており、21歳で労働組合団体の書記長の座に就くも、商業組合からの弾圧や内部分裂によって、労働組合団体は瓦解。工場経営にも陰りが見え、賭博保険に手を出すもその悉くで大損。工場の売却を行うも、なお借金が残り、このたび職業斡旋のため金貨40枚にて案内する。 以上、相違はないか。」

 

「はい、ございません。」

 

「待ってくれ!俺は嵌められたんだ!労働組合の瓦解だって政府が手を回していたに違いない。賭博保険だって金塊輸送していた船が嵐もないのに沈没するなど、不自然極まるものばかり!王族や貴族の連中は、労働者の地位を高めようとする俺が邪魔になって始末しようとしたんだ!」

 

「じゃあ、金貨40枚はこちらに。確認したらこの書類に捺印してくれ。」

 

「はい、間違いなく。」

 

「おい、そこの女!貴様も王都の犬か!俺をこれ以上……」

 

「<麻痺(パラライズ)>。汚れがひどいな。おい、まずは【商品】を洗っておけ。新人にも洗い方を教えておくように。……前回のような粗相は間違ってもするなよ。洗い終わったら6号房室へ連れていけ。」

 

「はい、かしこまりました。」

 

「おう!わかったぞ!おい奴隷(ヘム)よ、わたしが手ずから身体を洗ってやるのだ、ありがたく思え!」

 

「浴室の場所……は既に分かっていますね。ではリリアちゃん、荷台で運びますよ。乗せるのを手伝ってください。」

 

「ああ、ほら荷台に乗るぞ。せーの!ふぅ結構重いの。」

 

「【商品】には基本黒魔術を宿した首輪が付けられているので大きく暴れることはないですが、不随意運動で四肢が動いてこちらがケガをする場合があるので、布製の結束バンドで後ろ手に縛ります。あまり締めすぎると痕が残ったり血流が悪くなるので、二本指が入るくらいには緩く。」

 

「このくらいか?」

 

「はい。このくらいです。では洗体用の服に着替えましょうか。……リリアちゃんはまだ自分のものを持っていなかったですね。」

 

「いや、アムが初日に用意してくれたぞ!この水をはじく不思議な下着だな?」

 

「ああ、用意されていたのですね……随分と布面積の少ないものを。」

 

「ウィーサの来ている胴体を覆う型やアムのようなローブは窮屈で敵わん。どうせ洗い終えたら自分の身も清めるのだから裸で良いといったのだがアムが許してくれなくてな。この洗い着に落ち着いた。」

 

「それはまた……。では着替えが終わりましたら、【商品】を洗体用の椅子に乗せます。身体を洗う際はお湯は末端から中心にかけて。髪を洗う際は爪で頭皮を傷つけないよう、指のお腹で洗うように。」

 

「……中々面倒じゃのう。」

 

「【商品】は娼館へ売る場合もございます。汚れの溜まりやすい部分は念入りに。必要ならば手や指も使って。……ウィリアム様が申し上げたよう、決して遊ばないように。」

 

「別に遊んでなどいない!呪術師として勿体ないからあの場で媒体を無駄にする真似をしなかっただけじゃ。それにしても高尚な理屈をこねていた割に、わたしの玉体に反応するとは男というのは悲しい生き物よのぉ。どれ玉袋がこそばいのか?念入りに洗ってやろう。ほれほれ。」

 

「だから遊ばない!不慮の事故は仕方ないですが、ちゃんと掃除するように。」

 

「〝ちゃんと掃除〟すれば良いのだな。わかった。」

 

「本当ですか、全く。……洗体が終わったらタオルでしっかり水気をとって、熱と風の魔道具で髪を乾かせばおしまいです。服は基本着せませんが、商品を売り渡す前などは洗体後に服を着せる作業があるので、その時にまたお教えしますね。」

 

「ああ、ウィーサ。頼むとしよう。アム!奴隷(ヘム)を洗い終えたぞ。」

 

「ご苦労。貴女らも湯浴みをして着替えてこい。」

 

 

「着替え終わりました。」

 

「ああ、サッパリしたぞ。それにしても奴隷(ヘム)の身体を洗うというのは重労働だな。疲れた。床に座らせて適当に水を掛けるだけではダメなのか?」

 

「ダメだ。【商品】として預かった以上、売り手が付くまで最高の品質を保つ義務がある。」

 

「しかし労働者に権利を……ですか。商業組合から圧力があったというのは事実のようですが、本当に王都や貴族からも圧力がかかったのでしょうか?」

 

「さぁな。少なくとも面白くない存在ではあっただろう。だがその後賭博保険で身を崩したことについては擁護のしようがない。ただひとつ分かることはあの【商品】の理念・信条とは金貨40枚で売り飛ばされるだけの価値しかなかったということだ。」

 

「うむ、反乱の芽は育つ前に摘み取る必要がある。国が国として機能する為には、民は不可欠じゃ。民がいなくては国は成り立たず、国がなくては王はない。しかしあくまで民は統治される存在であって、民が領分を超え(まつりごと)に口を出すなどあってはならぬ。」

 

「リリアちゃんも……。はい、元王族としての意見大変参考になります。」

 

「あの商品だが、湾岸都市リアンに工船作業員として金貨70枚で売る。一度の航海が半年ほどでその賃金が金貨15枚程度だから、まぁ5~6回も航海すれば自由の身になるだろう。」

 

「では彼……失礼、あの【商品】は20代のうちに自由となるのですね。」

 

「どうだろうな。工船業務は過酷な仕事だ、一度の航海で2~3割は死ぬ。勿論胴元は作業員にタップリと保険金をかけているから取りっぱぐれることはないだろうが、【商品】の安否は神のみぞ知る。」

 

「こんなこと今更とわかっているのですが、あの【商品】は本当に嵌められたのでは。」

 

「我々のあずかり知らないところだ。あの【商品】は艱難辛苦を乗り越えて社会運動家の旗手となるかもしれないし、海の藻屑となるかもしれない。だが生憎わたしはこの世の正義に興味はない。……ただ、悪を働く者には相応の裁きがあるようだ。」

 

「と、申しますと?」

 

「〝笛吹のメルン〟が正式にお尋ね者となり懸賞金がついた。奴がまたこの屋敷に来るようならば懸賞金目当てに捕縛しよう。」

 

「しかし違法な【商品】が乗っているのですよね。それはどうするのですか?」

 

「さぁ?衛兵や警邏隊、それを管轄する貴族の仕事だ。わたしは取り扱う気はないよ。」

 

「ウィリアム様は……何を正義とお考えなのですか。」

 

「金だ。それ以外、わたしの行動指針はない。」

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