男の娘は奴隷商人です。   作:セパさん

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少女たちは休日を満喫するようです。

「な~~、アム~~!暑い、ビールが飲みたい!」

 

「買ってくればいいではないか、宝石を金貨・銀貨に換金したいならば5%の手数料を貰うが請け負ってもいい。銅貨に両替するなら別途で5%貰おう。両替の相場としては良心的だぞ。」

 

「そうではない!この時代のビールは味が薄い上に水っぽくて飲めたものではない。バルロドス王朝時代のビールを再現してくれ。アムならば出来るであろう?報酬は言い値で払おう。」

 

「わたしの見ていないところで何をしようと勝手だが、16歳未満の飲酒は法で禁止されている。貴女は戸籍上12歳だ。雇い主が従業員の違法行為の片棒を担ぐわけにはかないだろう。あきらめろ。」

 

「まぁ形骸化した法律ですし、罰則はないですけれどね。」

 

「ではよいではないか!それにわたしは1400年の時を生きているのだぞ!バーデン王朝が勝手に決めた年齢など知るものか!!」

 

「それでも法律上は12歳だ。どうしても飲みたいならばあと4年待て。」

 

「ウィーサ!アムが意地悪をするぞ。」

 

「仕方ありません、ウィリアム様の決定を覆すには余程の理屈が必要です。ちなみにわたしもまだ15歳だから代理を頼んでもダメですよ?」

 

「むぅ……。アムは酒を嗜むことをしないのか?」

 

「私的に飲酒するという行為には全く興味が沸かないな。だが黒魔術において酒が重要な役割を果たすことはあるな。【半人半獣の術】といって半人半獣を型取り土器を作り中に酒を入れ新月に木の下に埋め、満月の日に取り出したならば、その酒は術者が善人ならば薬に、悪人ならば毒に変わるという。」

 

「おお、アム!その(まじな)いに興味が沸いたぞ!」

 

「ただ酒が飲みたいだけじゃないのか?勤務に支障を来さず、わたしの目に見えないところでは何をしてもいいと言っただろう。我慢して口に合う酒でも探していろ、ビールだけが酒ではない。だが貴女は厄介ごとの種なのだから無暗に外出するなよ。移動商店を頼むなり、先輩に代理で買ってきてもらうなり……まぁ兎に角静かにしていろ。」

 

「ちなみにウィリアム様はその術式で薬になったのですか、毒になったのですか?」

 

「どちらだろうな、薬とも毒ともつかない劇薬が出来上がった。」

 

「それは何というか、ウィリアム様らしいですね。」

 

「そうか?途轍もない毒薬が出来上がるとワクワクしていたものだが、出来上がった品には落胆を覚えたぞ。」

 

「ウィリアム様は悪であることにこだわりがあるのですか?」

 

「別に拘ってなどいない。己の自己分析の甘さに落胆したにすぎん。」

 

「そんなことよりウィーサ、酒を買いに行こう!何がおススメじゃ?」

 

「何度も言うようにわたしもお酒については無知です。そもそもお酒など伯爵家で行われる豊穣祭や祝賀会などで伯爵婦人様に勧められ飲んだ経験しか御座いません。」

 

「ならば手当たり次第に買ってわたしが吟味すればよい。アム、このサファイアをひとつ換金してくれ!」

 

「承った。研磨方法は旧式、産地は流石にわからんが、色合いは見事なコーンフラワーブルー。それでこの大きさならば……産地不明であるのがサファイアとして致命的だな。金貨37枚と銀貨8枚といったところか。手数料として金貨1枚・銀貨7枚・銅貨10枚を引いて、金貨36枚と銅貨で90枚だ。」

 

「産地不明とは失礼な、ウアル産の一級品じゃというのに……。しかし銅貨というのはかさばるのぉ。まぁよかろう。ウィーサよ、金貨36枚あればどれだけの酒が買える?」

 

「正直そこらの酒場ならば全てを買い上げてもまだお釣りがくるかと。高級宿屋で扱うような品や貴族御用達となればもう少し値は張るでしょうが。」

 

「……今夜〝偶然〟酒を多く取り扱う移動商店がやってくるかもしれないな。貴女らが何を買うかはわたしのあずかり知らないところだ。」

 

「おお、アム!話がわかるではないか!」

 

「何度も言うように貴女は特別な立場にある。無暗な外出は控えるべきだ。」

 

「そこまで心配してくれるならばビールくらい作ってくれてもよかろう。頭が固いのぉ。」

 

 

「ほぉ荷台の中だというのに、ご丁寧に商品が陳列されておる。中々面白いの。」

 

「馬車を閉じ込める形になってしまい申し訳ございません、売買が終わりましたら裏口を閉じているシャッターを開けますので。」

 

「大丈夫大丈夫、ここに来るのは初めてじゃない。それにしても君たちがウィリアムさんの雇った使用人か、これまた別嬪さんを雇ったものだ。」

 

「うふふ、お世辞を言っても何もでませんよ。」

 

「店主!この綺麗な細工のされたボトルに入っているのはなんじゃ?」

 

「お目が高いね。それはスリーリバースで蒸留された最高位のブランデーだ。酒精は40%と高めだが、果実に似た香りがあって貴族や豪商にも愛用されている逸品だよ。」

 

「ぶらんでー?というのはわからんが旨そうじゃな。これを貰おう。そこの透明な酒と琥珀色の酒、葡萄酒もすべて貰っていこう。ビールは……飲んだことのない銘柄を一応試してみようか。すべて包んでくれ。あと燻製肉とチーズ、腸詰を貰おう。」

 

「おいおい、この琥珀色の酒は151プルーフ……酒精83,5%のラム酒だぞ。お嬢ちゃんにはちょっと早いんじゃないか?」

 

「構わぬ、酒に呑まれるような柔な身体は持っていない。」

 

「そうかい?じゃあ、全部合わせて金貨3枚と銀貨7枚、銅貨で46枚だ。」

 

「何だそれっぽっちか!面倒なこと言わず荷台にある全てを買い取ってしまえばよかったな。まぁよい、なくなればまたアムに頼むだけじゃ。ほれ、金貨4枚。釣銭はいらぬ。」

 

「いえいえ、ウィリアムさんに怒られてしまいますよ。」

 

「わたしの私的な買い物じゃ、アムに口外もせん。」

 

「困りますよお嬢さん、あの方は金勘定には滅法厳しいんだ。今後ご利用されなくなってしまいます。」

 

「むぅ、わたしの言葉を信用してくれないというのは不愉快じゃが、確かに誠実な商売人のようじゃな。仕方ない、釣銭を受け取ろう。」

 

「リリアちゃん!口論している暇があるのでしたら荷物をリリアちゃんの部屋に運ぶのを手伝ってください。」

 

「ああ、すまぬ!では店主、いい買い物をさせてもらった。またよろしく頼む!」

 

「ええ、こちらこそご贔屓くださいませ。」

 

 

「ふむ!この〝らむ酒〟という酒は確かに酒精が強いな。だが鼻から抜ける何とも良い香りが癖になりそうじゃ。〝ぶらんでー〟というのも葡萄酒とは違う爽快な果実の香りが凝縮されているかのようだ、程よい酸味があり甘すぎず喉を通るキレも心地よい。」

 

「あの……リリアちゃん、お茶じゃないんですから、そんなガバガバと呑んで大丈夫ですか?」

 

「全然。ウィーサこそまだ果実酒を一杯しか呑んでいないではないか。」

 

「わたしはお酒に強くないので、それに急なお仕事が入った場合酔って対応することをウィリアム様がお許し下さるとは思えませんし。」

 

「ふ~ん。聞くところによるとアムに金貨1500枚の借金を抱えておるのだったな。それも以前の雇い主の放蕩貴族をかばってまで。何故そんな馬鹿な真似をしたのじゃ?」

 

「何故でしょう……。自由になりたかったのかもしれません。」

 

「金貨1500枚の借金を負うのが自由?」

 

「わたしは伯爵家の中でも伯爵夫人であるシャラント=ルーハイン様直属の魔導士として雇われました。しかし奥様は癇癪がひどく、日々それに怯える毎日。ある日奥様のためお作りした魔道具が気に食わないという理由からメイドへ身分も格下げになりました。メイドになってからも奥様の癇癪は収まるどころか、わたしは目を付けられ日々怒鳴られ叱られ……わたしは奴隷の身分ではありませんでしたが、その精神性は奴隷に近いものだったのかもしれません。そしてこの屋敷にお嬢様を奪還するため命令され書状を運んだとき、お嬢様の身代わりとなれば奥様から解放されるのかもしれないという破滅願望を孕んだ考えが過ったのです。……もちろん、この屋敷で本当に〝奴隷〟という【商品】の末路を見た後では愚かな選択であると分かっていますが。」

 

「ふむ、主人に恵まれないというのは不幸なものよの。その点アムはどうじゃ?」

 

「大変良くしていただいております。週に3日も休みがあり、実労働時間も少ない。何よりウィリアム様自身理不尽な理由でお怒りになる方ではありませんから、精神的にも楽になりました。リリアちゃんはどうですか?」

 

「大変充実しているぞ。こうして自由に酒を嗜むなど、前の組織では考えられなかったからな。思うにやつらはバルロドス王朝の復権という甘い誘惑を口にするだけで本気になどしておらず、わたしを金蔓としか思っていなかった。なにより現代の飯や酒がこんなに旨いものだというのはここに来て初めて知った!アムの手料理は過去3年、組織の拠点で振る舞われたどんな料理よりも美味だ。」

 

「それはわたしも同感です。しかしウィリアム様はどうして手料理に拘るのでしょう。衣食住を他人に委ねることを厭われておりましたし、趣味と言われればそれまでですが。」

 

「毒殺を恐れているとか……しかしアムならば毒を識別する(まじな)いくらい身につけているじゃろう。金なら既に一生遊んで暮らせるくらいにはあるだろうに、全く変わったやつじゃ。」

 

「そうですね。何故奴隷商人に拘るのかも気になります。そもそもどうして奴隷商人になったのか、初めて売った【商品】は誰だったのか……。それを知ることが出来ればウィリアム様の心に巣食う闇も解き明かせるかもしれません。勿論話してなどくれないでしょうが。」

 

「全く、難儀なやつじゃな。おお!この酒は確かに強い、しかし悪戯に蒸留を繰り返した酒精が高いだけの火酒ではなく柑橘に似た香りがするぞ。ほらウィーサ、一口吞んでみろ!」

 

「これ、酒精が83,5%ですよ!?火を付ければ燃えるレベルじゃないですか!そんなもの口にしたら倒れてしまいます。」

 

「なんじゃ、わたしの酒が呑めないのか!?」

 

「何を露骨な酔っ払いの常套句を話しているのですか?リリアちゃん酔っているでしょ?」

 

「酔ってなどいないわ!全く、付き合いが悪いの。」

 

「それだけの蟒蛇(うわばみ)に付き合えるのは余程の大酒飲みか大馬鹿だけです!」

 

「修業が必要じゃな。」

 

「だから言ったでしょう、わたしはお酒に弱いのだと。そもそも修行でどうにかなるものではありません。どんな理論ですか!」

 

 

 

 

「これがバルロドス王朝時代のビールか。粘度が高く、褐色となるのだな。麦芽の香りが強く、酸味がある。酒精は10%といったところか。なるほど確かに現代のビールとは似ても似つかない。飲むパンに近いな、塩気の多い燻製肉やつまみの類よりも、一般的な食事に合うな。うむ、悪くない。それにしても……あいつらはこれだけ大声で話せばこちらに聞こえることを考えないのか全く。……初めて売った【商品】か。ふふ、懐かしい。」

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