この世界では枢軸国が連合国相手に辛勝しており、新たな冷戦が起こっている。
極東の大国、大日本帝国はアジアほとんどをその手中に収めた。アジアの堕落した覇者は新植民地主義を展開し、大東亜共栄圏は名目だけのものとなり、各地の植民地は搾取にあえいでいる。
大ゲルマン帝国ではオカルティズムと全体主義が融合し、総統の指導の下世界を手中に収めんとしている。だが総統も衰え、経済も低迷し、後継者が暗躍する今、彼らの「生存圏」は、ことごとく不安定になっている。
アメリカ合衆国、敗戦国であるにもかかわらず世界最大の経済力を誇るかの巨人は、自由と民主主義の砦として輝きを取り戻そうと孤独に奮闘する。だが、アトラスは天の重みに耐えきれずに石となる。急進的な国民進歩連盟が政権を握ったとき、自由の灯台はその灯を消すだろう。
もし気になれば、実況者さんの動画を見るのをおすすめする。
自分でするのは…ちょっとね
楽しいのは楽しいけど、(少なくとも私の環境では)重いしすぐクラッシュするし、進行できなくなるしで、あんまりオススメ出来ません。
やあやあ皆さんこんにちは。ボケ老人と化してしまった存在Xのせいで、記念すべき嫌がらせ転生被験者第一号と相成ったターニャ・デグレチャフです。
ぼやぼやとしていた意識もようやく固まり、周囲の状況を冷静に判断できるようになった私の目に飛び込んできたのは、おんぼろなラジオに向かって「ハイルヒットラー!」だの「ジークハイル!」だの完全にキマッタ目で叫んでいる修道女でした。ラジオの手前には本棚があり、聖書のほかには我が闘争*1や二十世紀の神話*2などが並んでいます。ラジオはおんぼろとはいえ、石造りの重厚な建物にある他の骨董品と比べれば、電化製品というだけで十分新しくはあります。彼女らの様子からして戦時下、それもまだドイツが優勢であり、ヒトラーが飽きられていなかった頃の第三帝国でしょうか?なんであろうと、まずはこの世界のゲームシステムを理解し、よりよい評価をもらわなくてはなりません。所詮社会は多少複雑になった猿の群れであり、故にこそコネというものが有効なのです。
分かったことをまとめましょう。現在は西暦1957年。そして私のいる国は
……そう、この世界ではナチが第二次世界大戦に勝利し、エンドジークを達成しているのです。大日本帝国は真珠湾に原爆を投下しアメリカと停戦。そのまま超大国三ヶ国による冷戦が勃発しています。このようなことになっているのは、史実と違いソ連の指導者にブハーリンがついたことで、工業化が遅れたことが一番大きな要因でしょうかね。こんなところでスターリンおじさんの偉大さを確認する羽目になるとはね。
敗北したソビエト連邦ではモスコーヴィエン国家弁務官区、ウクライーネ国家弁務官区、オストラント国家弁務官区などなど、東方生存権が確立され、残った国土には軍閥とも呼べないような山賊どもがいるそうです。が、ライヒはそんな彼らにも毎日のように空爆を行って、二度と再建できない様にとしているそうです。ナチス*3に言わせれば「
ライヒでは1950年代前半に経済危機が起こったのですが、その際旧ソ連の軍閥の一つ、西ロシア革命戦線がライヒに侵攻。西ロシア戦争が始まります。アメリカ、日本も彼らを支援するような非常に大規模な戦争であり、革命戦線は破竹の勢いで侵攻します。
その際
ライヒがなりふり構わず、ロシア人の反共勢力にまで取引を持ち掛けたこともあり、革命戦線は崩壊し、アルハンゲリスクこそ失陥したものの何とかライヒは持ちこたえました。
しかしこの戦争により、ライヒはより広範に奴隷経済に依存するように。指導権も衰え、アフリカの植民地も、ヨーロッパの属国たちでさえも、その指揮から抜け出そうとしています。再びの経済崩壊はすぐそこでしょう。
では、そんな斜陽国家にいる私はどうすべきか。
まず私こと、ターニャ・デグレチャフについてです。
国家社会主義の熱心な信奉者により運営されている孤児院に住まうターニャちゃんは、金髪碧眼のお人形のような6歳の幼女。まあつまり、彼らの所謂アーリア人ですね。ヒトラーのように金髪で、ゲーリングのように細身でゲッベルスのように背が高い*4、理想のアーリア人というやつです。
多少ライヒでの生活が楽になるだろうことは嬉しいものの、逆にスラブ人などが反乱を起こした場合、アフリカなどで白人が殺されたように、ナチの関係者として殺されるリスク等もあるかもしれません。ほかにも様々考え付きます。全体的にはデメリットが上回っているでしょうかね。何よりライヒの滅亡がもはや運命づけられていることが痛いです。伍長殿*5が死んでも皆でお手々取り合って仲良くする可能性もあるが、存在Xがそんな生ぬるいことを許してくれるはずがありません。
やはり一番良いのは亡命でしょう。
旧ソ連軍閥は除外。食うや食わずやの現状というのはライヒのプロパガンダの可能性もあるが、敗戦し幾月も経っていない現時点で他国のような生活や安全保障を期待はできないでしょう。というか私のようにもろアーリア人は絶対に歓迎されない。歓迎という名の殺戮ショーが行われるだけです。
悲しいかな、我が祖国日本も除外。
戦中の軍部独裁のようなことをいつまでも続けているうえに、大東亜共栄圏は企業の私有地となり、国家の経済、技術、その他はすべて財閥によるものです。いつスキャンダルが報じられるか、そしてそうなった場合社会はどうなるか。少なくとも安定しているとはいいがたいでしょう。(というか絶対に目立ちまくりです… このょぅι ゙ょぼでーを舐めてはいけません)
やはり頼るべきは最後の超大国、アメリカ合衆国でしょう。この世界における自由と民主主義の最後の灯台であり、長い沈滞から抜け出そうとしているかの国は、共和党と民主党が奇跡の合体をしていたりと色々摩訶不思議アドベンチャーなことになっていますが、それでも世界最大の超大国であり、最も経済的に安定している国です。
何より私は可愛い可愛い女の子なのです。アンネフランク的なことを言っとけば、反ナチのアメリカ国民はきっと迎え入れてくれるでしょう。
ではアメリカに亡命するとして、そのためにどうすべきか。何をなすべきか。
アメリカ政府が私を受け入れるには、それによるメリットがデメリットを上回らなくてはなりません。等価交換の法則というやつです。当然ですね。
デメリットはアメリカとライヒとの関係悪化、またスパイの可能性などでしょうか。
では、私が提供できるメリットとは?
私は凡人とはいえ、今世においては下駄をはいています。また史実と大きく異なるとはいえ、未来に関する知識も持ち合わせています。
つまり、同時代人と比べてまあまあ優位な状態にあると言えるでしょう。その優位でもって成果を上げ出世し、情報と引き換えに亡命する…
うむ、なかなか良い感じだ。何より身の危険が少ないのが良い。
まずは来る1961年。ヒトラーユーゲント*6に入り、将来のナチ党員としての基盤を築くのを目標としましょう。
その後基準を満たしたらNSDAPに入党、歯車となるのは得意なのですから、全体主義の中でもやってはいけるでしょう。
ただ、ここで必要以上に愛国心とやらを見せてしまうと、後の亡命に響く可能性もあります。そこのバランス調整には留意すべきでしょうね。
その後はルドルフ・ヘス*7でも見習えばよいでしょう。
…まあ、後のことは後に考えましょうかね。
つらつらとそんなことを考え、紙にでも纏めようかしらと思ったころ、養母が私を呼びました。
「ターニャちゃん、ごはんよー!」
何故母親というものは、こう良い時にばかり声をかけてくるのでしょうかね。こんなところは、どの世界であろうと変わらないのでしょう。
私は将来に思いを馳せながらも、ハーケンクロイツとライヒスアドラーの見守る食卓へと足を運びました。
1962年
ちっちゃいお手々に王笏代わりのライフルを握りしめたターニャちゃんこと私は、
戦闘訓練は百歩譲ってよいとしましょう。どうせあの気狂いのナチスどものやることなのです。人道的配慮など期待できないのですから。
思想教育も構いません。私のうちには強固な科学的思考が宿っているのです。科学の欠片もないアーリア人至上主義*8者どもの戯言など、糠に釘です。
しかし、しかしさすがにこれはどうなのですか!?
先日私のもとにユーゲントの大尉*9がいらっしゃって、「ターニャ・デグレチャフ同志、我々は貴官の成績を非常に高く評価している」
「……光栄であります」
「女だというのに卓越した状況判断、戦闘能力、また軍規を引き締め、士気を高め、さらには思想的にも非常に優秀だ」
「恐縮です」
「そこでだ、貴官には第12SS装甲師団に移籍してもらい、近々実戦を経験してもらおうと考えている。なに、実戦といっても訓練と変わらん気楽なものだ。安心し給え」
もはや絶句するほかありません。子供を訓練させるというのもそうですが、そもそも私は女であり、生物学的に、こと筋力という面では男に劣るのです。そんな者を実戦に参加させるのはあまりにも非効率でしょう。いや、まあナチズム自体が非常に非効率な思想ではあるのですが。それを踏まえても非効率でしょう。
が、拒否しようとする私の前に差し出されたのは正式な人事の書類です。私のような若造が拒否できるような内容ではありません。
大尉のにこにこ笑顔が恐ろしいです。
当然求められている答えは
「謹んで拝命いたします」
幾多もある不平不満を心の中でぶちまけながらも、むりやり笑顔を作って書類を受け取ります。どうせ私はいつかアメリカに亡命し、こいつらとはオサラバするのです。
……私は官僚コースに進みたかったのに、なんで着々と軍人としての道を歩んでいるんでしょうか。
うん、改めて思い返してもひどいですね。なぜ人事は私のようなごく普通の一般幼女を連れ出すのか。
まだ移籍には時間がありますが、今から気が重いです。
「ピーンプ*10!貴様らは何になりたいのだ!」
訂正、SSへの移籍だけでなく、ここでの訓練もその要因でしたね。横目で見ると、新兵くんが兵長に詰められています。
「はっ、兵士であります!」
「だというのになんだそのブーツは、なんだそのボタンは!なぜ汚れているのだ!貴様それでも総統閣下に仕えるアーリア人か!教育してやる!!」
上級兵長殿の罵倒が近づいてきます。シバかれている彼が多少かわいそうではありますが、次は我が身です。
とはいえ私は遅刻もしていませんし、汚れもありません。嫌味程度は言われるでしょうがきっと大丈夫です。
ターニャが自らの楽観的な思考を後悔し、同時に兵長のいちゃもん付けに関する天才的能力に皮肉交じりの敬意を表しているころ、薄暗い部屋に二人の男が向き合って話し合っていた。
第十二SS装甲師団師団長、パウル・プファイファー准将と、それを構成する連隊のうち、ターニャの配属される第26SS装甲擲弾兵連隊連隊長のエーリッヒ・フリーツハイン中佐である。
スマートな、いかにもドイツ軍人といった容貌であるフリーツハイン中佐が発言する。
「プファイファー准将、私といたしましては、やはりターニャ・デグレチャフを部隊に加えるという意見に反対であります」
「なぜだね?……と聞きたいものだが、まあ確かに女を軍務に加えるというのはどうにも外聞が悪い」
「それだけではありません。『ヒトラーユーゲント*11』は若年が多いとはいえ、それでも最低でも17歳程度。訓練や治安維持が主と言え、体力的に劣る小娘が耐えられるとは思えません。それに……」
少し言いよどんだフリーツハイン中佐の言葉を、プファイファー准将が引き継ぐ。
「それに、ちと常識的すぎる?」
「ええ、まあ」
プファイファー准将はため息をつきながら、「まあなあ、それに関しては私も憂慮するところではある。が、しかし上の決めたことでもある。きゃつら、最近ご婦人方がうるさいからって宣伝効果でも狙っているのだろうが、下らんものであれその決定を今更ひっくり返すことなどできんよ」
フリーツハイン中佐は、「上がわざわざ一団員の所属を決めたのですか?師団長ならば拒否することもできるはずです!」となおも食い下がる。
彼の言うことにも一理はある。彼らは武装親衛隊であり、党の私兵だ。准将の発言が真実だとするのなら、圧力をかけたのは宣伝省だろう。ヒトラーユーゲント射撃賞を授与された、ほとんど唯一の女性*12ということに彼らは目を付けたのかもしれない。
だが、宣伝省はあくまでも政府組織。親衛隊に強制する力はないのだ。
プファイファー准将は再びため息をつき、乱暴に立ち上がって「やめたまえ、もう決定されたことだ」とだけ言って部屋を出て行った。
中佐は身じろぎもせずに彼の背中を睨みつけていた。
「人を説得しうるものは書かれたことばによるよりも、話されたことばによるものであり、この世の偉大な運動はいずれも、偉大な文筆家にでなく、偉大な演説家にその進展のおかげを被っている」――アドルフ・ヒトラー「我が闘争」序言より