【私立パラの丸高校 ヒーローアカデミア編】   作: 燃える空の色

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09.太陽のような人

 

 

「―――黒井?」

 

 午後の光が教室の床に長く影を落とす。授業の終わりが近づき、教室の空気がどこかそわそわと揺れている中、ひかるはふと窓の外を覗いた。

 そして、視線の先。広がっていたのは、日差しをも拒むかのような濃密な闇。しかもその闇は、まるで生き物のように徐々に広がっていた。

 

〈ぴかるん、これちゃっとやばいかも〉

 

 ポケットのスマホが震え、通知音が静かに響く。先日作ったばかりのトークアプリに、未来からのメッセージが届いていた。

画面をちらりと確認すれば、その内容は目の前の異常事態に直結していることが一目で分かる

 

「…先生、俺、ちょっと手洗い行ってきます!!」

 

「ウチも。へー子も来るっしょ」「もち」

 

「あ、おい!!」

 

 

 急ぎ足で教室を飛び出し、三人は廊下を駆ける。

 広い廊下に張り巡らされた窓からも、遠くに広がる闇が見える。

 それが一体何なのか、現時点では想像しかできないが、見里がこうして動くということは、つまりそういうことなのだろう。

 

 詳しいことは分からない。分からないが、多分、黒井が何かした。

 黒井とは短くない付き合いだ。少なくとも、今向こうで起きている現象が、黒井によるものであろうことくらい予想が着く。

 

「見里、黒井に何が…!」

 

 問いかけるひかるに、見里は少し間を置いて答えた。

 

「なんか〜爆豪?って子にぴかるんのこと色々言われて、マサがマジギレしちゃったっぽい」

「マサがそんなキレんの、滅多にないっしょ。よっぽど言われたんやね」

「そそ。で、このままだと雄英ごと全部飲み込んじゃうんよ」「やば〜」

 

「シャレになってねぇよ!」

 

 見里が見た未来が本当ならば、黒井がああなっている原因はひかるにあるということになる。

 馬鹿馬鹿しい話だが、ひかるのせいで、黒井は今、学校全体を呑み込もうとしているのだ。

 

 それに、過去に一度、同じような光景を見たことがある。

 

「……前の時と同じか、それ以上ってことか」

 

 これまでの人生において、ひかるは一度同じような状況を経験したことがある。

 当時の記憶は曖昧だし、ひかるは詳細こそ知らないものの、黒井が能力を使用し、辺り全体を呑み込んでしまった。

 けれど、その時は建物だけを呑み込んで、それ以上の被害はなかったはずだ。

 であると言うのに、より広大な敷地を持つ雄英さえも完全に飲み込むということは、恐らく、黒井はあの時よりもさらに力を発揮している。

 このままではあの時以上の被害が出るのは確実だろう。

 少なくとも、ああなった黒井を止められるヒーローを、ひかるは知らない。ならば、黒井を助けられるのは、ひかるしかいないだろう。

 

 

「急がねぇと…!」

 

「おけまる〜」「マサがいるとこ、多分グラウンドβっしょ。なら、あともう少しで…… 」

 

 そう話している間にも、徐々に闇に侵食された建造物が近づいてくる。

 ひかるは鈍く光を発しがら、全力で足を前に動かした。

 

―――俺の事で怒ってるとか

――――何やってんだよ、黒井…!

 

 

 

 

 三人がグラウンドβに到着した時、そこではオールマイトが闇に沈んだグラウンドβを前にして立ち竦んでいた。

 オールマイトが三人に気づくと、目を丸くして驚く。

 

 

「君たちは…それに、多々少年!?何故ここに!?いや、それより、ここは今危ない!早く避難して!」

 

「オールマイト、そういや雄英に…あーいや、そうじゃなくて!!俺の事は今どうでもいいんです。黒井と、あと闇川は……!!」

 

 

 ひかる達が到着したグラウンドβに広がるのは、正しく異様な光景───黒い街。

 グラウンドβそのものを取り込んだブラックホールは、未だ周囲を蝕み、拡大を続けていた。

 

 

「他の生徒たちはモニタールームで待機させてるが、黒井少年と闇川少女、そして轟少年と爆豪少年は、まだこの中に…!!」

 

「そんな…黒井!!」

 

 オールマイトから伝えられた事実に、ひかるがブラックホールの中に向けて手を伸ばす。

 

「待て、危険だ多々少年!!ここは私に任せて…ゴハッ!」

 

 一人ブラックホールに包まれたグラウンドβへと進もうとするひかるに、オールマイトが静止の声を投げかける。

 しかし、ひかるを止めようとしたオールマイトが咳き込み、口から出た血飛沫が宙を舞う。

 

「そんな体じゃどの道無理でしょ。…大丈夫です、他のやつはわかんないけど―――」

 

 ひかるの身体が燦々と煌めき、その輝きが、全てを吸い込む暗黒を照らし出し、光を纏ったひかるの手が、ブラックホールの中へと入り込む。

 

「―――俺なら、大丈夫なんで」

 

 街全体を呑み込んでいた暗黒――その一部が、硝子の様に罅割れた。

 

「なっ!!?」

 

「ぴかるんやる〜」「さすぴか〜」

 

「…じゃあ、行ってくる」

 

 一寸先は闇。しかし、ひかるはその闇を、黒井の闇を、照らし出す。

 三人に見送られながら、ひかるは一人、暗闇の奥へと突き進んでいった。

 

 

 

 

◇◆

 

 

 

 

 ぽこぽこと、まるで泡立つような音を立てながら、深海のようなその場所に、黒井は居た。

 

「……」

 

 暗闇の奥底で、黒井は一人、ぼんやりした意識のまま、蹲るように座り込む。

 

 ―――何も知らないくせに

 ――――ひかるを知らないくせに

 ―――――俺とひかるを、知らないくせに

 

 その心に浮かぶのは、誰に対してかさえ分からないような途方もない怒りと、虚無感と、物悲しさ。

 そして、ほんの少しの寂しさだった。

 

 ―――俺は、どうしたんだろう。

 ――――ここは、どこだろう。

 ―――――ひかるは、どこだろう

 

 明瞭としない意識のまま、何が起きているのかさえはっきりと分からない状況で、黒井はふと、ひかるのことを想う。

 ひたすらに、ひかるを想う。

 

──会いたいなぁ、ひかる……

 

 ひかるに会いたい、ひかると話したい、ひかるの声が聞きたい、ひかるに触れたい。

 ただただ一心に、ひかるのことを恋しく思う。

 

 

 

「───ぃ、ぉい──おい!…黒井───!」

 

「……え…?」

 

 

 気の所為、だろうか。

 ひかるの声が、あったかくて、優しくて、どこか不器用な、その声が。

 何者も通さない、全てを吸い込む暗黒の中でなお、ひかるの声が、響き渡る。

 

 

 

 曇天の空を割って射し込む陽光のように、その声は、暗い闇の奥底を照らし出す。

 けれどそれは、決して無理矢理なものでもなければ、黒井を傷つけるためのものではないのだろう。

 

 

 

 

 あぁ、だって。

 だって、この光は―――こんなにも、暖かいのだから。

 

 

 

「俺なんかのために、みんなに迷惑かけやがって………黒井!」

 

 

 キラキラと輝く、太陽のような人が。

 ひかるが、黒井に手を差し伸べて来てくれる。

 黒井もまた、そんなひかるに手を伸ばして。

 ひかるも、黒井の手を掴んで。

 

 

 

 

 ―――その手を、強く握りしめた。

 

 

 

 

 

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