【私立パラの丸高校 ヒーローアカデミア編】 作: 燃える空の色
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暖かな夕陽に照らされて、黒井正義の意識は現実へと浮上する。
目を見開けばそこに映るのは知らない天井だ。
「知らない天井だ……」
「何言ってんの?お前」
チャンスと思い、人生で一度は言ってみたかった言葉を口にする。
すると、ガラガラと扉が開く音と共に、聞き馴染みのあるツッコミが聞こえてきた。
「あれ、ひかる!?」
上半身を僅かに起こし、声のした方に向き直ると、そこには呆れた様子の少年にして黒井の『友達』――多々光がいた。
ひかるは「はぁ」とため息をついてから、黒井の横たわるベットの隣に座り、敷地内にある店で買ってきたであろう果物の皮を剥き始める。
「ひかる、俺、なんでここにいるの?授業は?戦闘訓練は?」
そう聞くと、ひかるは更に呆れたような顔をして、「黒井、お前覚えてねぇの?」と言って、
「お前個性暴走させて、グラウンドβ丸ごと飲み込んじまったんだよ。幸い、直ぐに納まったから大事には至らなかったけど…」
淡々と、黒井の身に何が起きたのかを説明する。
ひかるの脳裏に浮かぶのは、街ひとつが闇に覆われたその景色。
遠くで光りが一瞬の内に消えるのが見えて、同じように様子を確認した未来と平と3人して授業を抜け出して急いで来てみれば、そこに広がるのは異様な光景―――に支配された街。
ひかる達が到着した頃には、オールマイトが黒井の元へ向かおうとしていたが、しかし何も出来ずに立ち往生していた。
無理もない。黒井の放つブラックホールに飲み込まれてしまえば、ほとんどの人間は碌に意識を保つどころか、一度入れば抜け出すことすらできないのだから。
「あ…そうだった……俺、爆豪にひかるを馬鹿にされて、それで……」
次第に、黒井の記憶も蘇ってくる。
爆豪の煽りを受け、黒井は怒りに飲まれて無差別にブラックホールを展開し…文字通り、全てを呑み込もうとした。
困惑した様子の黒井を見て、ひかるは眉を下げる。
「…あのな黒井。オールマイトから、爆豪がなんて言ったか大体聞いた…けど、別にいいだろ。事実なんだし。それよりも、俺のせいでお前が苦しんだり、怒られたり。そうなる方が、俺はずっと…」
「…っでも!!」
「でもじゃない。もし、もしだけど。あのまま暴走して、雄英退学にでもなったらどうするつもりだったんだよ」
ひかるがそう言い放つと、黒井は何か言おうと口を開き…しかし、声を発することなく押し黙る。
「……ごめん、ごめんひかる。俺、ひかるにも、みんなにも、迷惑かけちゃって」
顔を俯き、らしくない弱音を口にする黒井を見て、ひかるは困ったように頬をかく。
「……まぁ、俺の為に怒ってくれたのは、嬉しかったから、その…ありがと」
そう言って、ひかるは照れくさそうに小さく微笑む。
「――うん!!」
黒井もまた、満面の笑みでそれに応えた。
「なんか、こう…照れくさいな」
「えへへ…」
お互いが笑顔を向けあって、2人はどこか照れくさくなり、同時に顔を背ける。そして、顔を背けた先に、二つの人影があることに気づく。
「青春さね…」
「青い、あまりに青い…!そして、素敵!!」
キャ〜ッ!と黄色い悲鳴をあげて、タイツで全身を覆ったような、年齢制限ギリギリの衣服に身を包んだ女性…ミッドナイトは自身の体を掴み、捻じるようにクネクネと不規則に動く。
「え、いや、いつから…!?てか、なんで」
「ミッドナイト先生に、リカバリーガールまで!?なんでここに!?て、ていうか、もしかして全部聞いて───!?」
思わず頬を赤らめ、黒井とひかるは慌てるように叫ぶ。
そんな二人を見て、大人の女性2人はさらに笑みを深めた。
「もちろん、最初からよ!」
「そこの普通科の子がここに来る前から、アタシはずっとここにいたさね」
───マジで最初からじゃねぇか
突如押し寄せる羞恥心の嵐。ひかるは、今にも死んでしまいたい気持ちでいっぱいだった。
「そ、それで!!?ミッドナイト先生は、なんでここに…!?」
「ああそうそう。急な青臭さに襲われたせいで、完全に忘れてたわ。……ひかるくん、ちょっといいかしら」
「あ、はい」
ミッドナイトに呼ばれ、ひかるは保健室の外へと連れ出される。
必然的に、保健室にはリカバリーガールと黒井の二人きり。
迷惑をかけてしまったみたいだし、感謝のひとつでも伝えた方がいいだろうかと黒井が悩んでいると、先にリカバリーガールが口を開く。
「あんた、名前は?」
「えと、俺、黒井正義です!みんなからは、マサって呼ばれてます!!」
黒井が元気よく自己紹介すると、「そうかい」と一言放ち、リカバリーガールはどっさりと椅子に座る。
「あんた、よっぽどあの子のことが好きなんだね」
「…え、え!?」
「別に、変に詮索しようってわけじゃないさね…戦闘訓練、あの子のこと言われて暴走しちまったんだろ?」
「――……はい」
そう言われ、黒井が思い出すのは爆豪とのあのやり取り。
具体的に、ひかるがどうと言われた訳では無かった。
ひかると爆豪が話しているところさえ見たことない以上、恐らく、二人はなんの関わりもないのだろう。
爆豪は、ひかるについて何も知らない。
けれど……
「…許せなかったんです、ひかるを、馬鹿にされたことが」
「……そうかい」
黒井がそう言い切る。
ふと、沈黙が流れた。
「黒井ー?…って、なにこの空気」
「あ、ひかる!!」
少し気まずそうにしながら、ひかるが再び保健室に足を踏み入れる。
「それじゃ、邪魔者は退散するさね」
差し伸べられた救いの手に飛びつく黒井を他所に、リカバリーガールは早々と退席して行った。
去りゆく背中を見送って、ひかるは困惑した表情を浮かべたまま、再び黒井の傍に座る。
「なんなんだよ…」
「ねぇひかる、ミッドナイトはなんて?」
「あ、あぁ…なんか、お前のお母さんが迎えに来るから、それまで待ってろって」
入学して二日目で個性を暴走させてしまった上、気絶までしていたのだ。当然、黒井の母に連絡が行ったらしく、迎えが来るらしい。
ミッドナイトに呼び出され、ひかるはそう告げられた。
───それに、あの子、色々不安定そうだから。ちゃんと見てあげてね。
「………」
「どうしたの、ひかる?」
「…いや、なんでもない。それじゃ俺もそろそろ……」
そう言って立ち上がり、その場を後にしようとするひかるの裾を、黒井が掴む。
「…やだ。ひかるも傍にいて!」
「お前なぁ……」
これまた大きなため息をついて、ひかるが困ったように頭を搔く。
「……まぁ、別に今日は用事もないし、いいけど」
「本当!?」
こうして黒井がワガママを言うのは、今に始まったことでは無い。
ひかるが了承すれば、黒井の笑顔がパッと咲き、まるで犬のしっぽと耳がついているような幻覚さえ見えてくる。
「ありがと、ひかる!!」
「はいはい…」
黒井の髪をワシャワシャと掻いて、更にわがままを重ねようとする黒いの口に、皮を剥き切りそろえた果物を放り込む。
「少しは大人しくしてろ」
見たところ五体満足の健康体ではあるが、あれだけ能力を使ったのは、ひかるが知る限りだと今世において初だったはずだ。
もしかしたら、周りから見える以上に、本人が思っている以上に、疲れがあるかもしれない。
少なくとも、今の黒井には療養も必要だと、ひかるはそう思う。
「…まぁ、たまには、こいうのもいいか」
「超常」の日常…と言うには、少し忙しすぎる非日常。
それはきっと、これからも続くものなのだろう。
そして、黒井と一緒なら。どんな非日常も、笑って過ごせるだろう。
ひかるは、ただそう思った。
会話のシーンもっと書きたいなってのと、流石にぶっ飛ばしすぎたかな感があるので、一旦日常シーン挟みます。