【私立パラの丸高校 ヒーローアカデミア編】 作: 燃える空の色
「あらーひかるくん。もう放課後なのに、マサに付き添ってくれてたの?」
「あ、いえ、そんな」
まだ日が堕ちきらない頃、ひかると黒井がいる保健室に、黒井の母がやってきた。
黒井母はひかるの顔を見て嬉しそうに笑顔を浮かべた後、バシバシと黒井の肩を叩く。
「ウチのマサがごめんなさいね〜!この子、前でもこんなに能力を使うことなんて滅多になかったんだけどね〜」
「…それはまぁ、俺のせいでもあるんで…」
「そうだ。お礼に、今夜ウチでご飯食べない?奮発しちゃうわよ〜!」
「あ、はい。お邪魔します」
流石は黒井の母親と言ったところだろう。
間髪入れず、自分の思ったことを全て口に出し、直に伝えてくる。
「もー、あんまりグイグイ行かないでよ、恥ずかしい」
「何言ってんの、あんたのせいでひかるくんにまで迷惑かけたんだから」
「それは分かってるけど…」
対し、黒井は眉を顰め、不満を呈すが、それも何処吹く風である。
そんな二人を眺めつつ、ひかるが帰り支度を整えていると、持ち帰らなければならないプリントが何枚か欠けていることに気づく。
「あ、ごめん黒井、ちょっと忘れ物取ってくる。」
そう言って、ひかるは急ぎ足で教室へと向かっていった。
保健室から出て、そのまま教室への最短ルートを通っていると、正面玄関の近くを通りがかる。
幸い、もう人はそこまで残っていないし、残っていても教室にいる。
変に悪目立ちするようなこともない、そう思っていると。
「────人から授かった個性なんだ!!」
「……え」
突如、聞き覚えのある声で、聞こえては行けない言葉が聞こえてくる。
「…緑谷、だよな。人から授かったって…もしかして…」
忘れ物を優先すべきか僅かに迷うも、ひかるは声のした方…正面入口へと向かっていった。
「氷のやつ見てッ!敵わねぇんじゃって思っちまった…!!クソ!!ポニーテールの奴の言うことに納得しちまった…」
ひかるが声のする所へたどり着いた時、そこには二人…緑谷出久と、爆豪勝己が居た。
どうやら、爆豪が俯き、何かを叫んでいる様子だ。
「ブラックホール野郎相手に、何も出来なかった!!!」
突如吐き捨てられた言葉は、間違いなく黒井のことだった。
どうやら爆豪は、自分が為す術なくブラックホールに取り込まれてしまったことがいやに効いたらしい。
「なぁ!!てめぇもだ…!!デク!!!」
何度も悪態をつきながら、爆豪はくしゃりと、サイズの大きい制服のズボンを掴む。
「こっからだ!!俺は…こっから……!!いいか!?俺はここで、一番になってやる!!!」
「俺に勝つなんて、二度とねぇからな!!クソが!!」
背を翻し、爆豪は早足で校門へと向かう。
その背を見届ける緑谷に、ひかるが声をかけようとしたその時。
「いたー!!爆、豪!!!───少年!!!」
「!?」
どこからか、突風と共に筋肉の化身のような男が…『平和の象徴』オールマイトが現れ、爆豪の肩を掴んだ。
「言っとくけど…!自尊心ってのは大事なもんだ!!君は間違いなく、プロになれる能力を持っている!!君はまだまだこれから…!」
「放してくれよ、オールマイト……歩けねぇ」
「言われなくても!!俺はあんたを超えるヒーローになる!」
目元に滲んだものを乱暴に拭い、肩に置かれたオールマイトの手を払い除けて、爆豪の背は瞬く間に遠ざかっていった。
教育の難しさを痛感した後、オールマイトが今度は緑谷に声をかけようとして、ひかると視線が交差した。
「やや、多々少年!!今日はすまなかったね…あの後、先生にも怒られてしまったのだろう?」
「え、多々くん!?いつからそこに!?」
大きく手を振りながら、オールマイトはひかるに呼びかける。
緑谷も遅れて気づき、露骨なまでに慌て出す。
ひかるは少し億劫になりながら、二人の前に姿を現す。
「……割と最初からっていうか、あーいや、別に、そんな…てか、オールマイトこそ大丈夫なんですか。なんか、血とか、辛そうだったじゃないですか」
「HAHAHA!安心したまえ、あれは自前の吐血さ!!黒井少年のとは一切関係のないね!」
それはいいのか?とツッコミたくなる気持ちを抑え、ひかるは僅かに相槌を打つ。
次いで緑谷に向き直り、少し迷いながらも口を開く。
「……緑谷、もしかしてなんだけどさ。爆豪に言った、よな……OFAのこと」
「もしかして、聞こえてた……?」
「まぁ、ちょっとだけ」
そう言うと、緑谷が申し訳なさそうに俯く。
そんな緑谷を見て、オールマイトは僅かに顔を顰めた。
「話したのか……!」
「すみません!母にも言ってなかったのに…なんでか…言わなきゃって……本当にすみません……」
「幸い爆豪少年も戯言と受け取ったようだし、今回は大目に見るが、次はナシで頼むぞ。この力を持つという責任をしっかり自覚してくれ。知れ渡れば力を奪わんとする輩が増えるのは自明の理!この秘密は、社会の混乱を防ぐためでもあり、君のためでもあるんだ。いいね?」
それだけ言い切ると、オールマイトはひかるへと視線を移し、再び告げる。
「改めて言うが、多々少年。この力のことを知るのは、一部のヒーローや警察関係者を除けば、ここにいる3人だけなんだ。その重要性を、ちゃんと理解してくれよ」
「まぁ、はい。それは、わかってるつもりです」
ひょんなことから、自身が関わることになってしまったOFAの秘密。
正直、ひかるに背負い切れるようなものでは無いが、だからといって、無責任にばら撒くつもりなかった。
「って、やば、時間じゃん」
「わ、ほんとだ!?オールマイト、僕もう帰ります!!」
それだけ言い残し、緑谷は急ぎ足で帰路へとついて行った。
「……それじゃあ、俺も。黒井待たせてるんで」
「それは悪いことをしてしまったね。気をつけて帰るんだぞ」
オールマイトに背を向けて、ひかるは来た道を戻っていく。
寄り道したせいで、結構な時間がかかってしまった。
がらら、と保健室の扉を開けて、黒井の傍に置かれた鞄を掴む。
帰るぞ、と口に出そうとして、先に発した黒井の声に遮られる。
「おかえり、ひかる。忘れ物見つかった?」
「……あ」
───忘れてた……