【私立パラの丸高校 ヒーローアカデミア編】 作: 燃える空の色
雄英高校入学四日目、ヒーロー基礎学。
USJでの救助訓練を行うはずだった一年A組とひかる達は、突如現れた敵の襲撃を受ける。
相澤先生の指示の元避難しようとするも、黒い靄のような敵に退路を塞がれ、ワープゲートによって分断されてしまった。
ひかる、そして緑谷と峰田と蛙水の四人は水難ゾーンへと飛ばされ、その先にいた多数の敵と交戦。
緑谷の策も、全員の"個性”の活用。
苦戦を強いられたものの、一同はなんとか敵の撃退に成功した。
「……死ぬかと思った」
「ご、ごめんね多々くん。僕が頼りないばっかりに…」
ひかるは僅かに発光しながら、げんなりした顔つきで水辺を歩く。
四人は現在、広場を避け、そのまま出口へと向かっていた。
最優先は救けを呼ぶこと、敵との交戦は避け、出口へと到達することが最善策。
しかし……
「…敵が多すぎる、先生はもちろん制圧するつもりだろうけど…やっぱり、僕らを守る為ムリを通して飛び込んだと思うんだ。」
そう言って、緑谷の視線はセントラル広場へと向けられる。
遠目からでも、相澤先生の様子がぼんやりと見えた。
「え?まさか緑谷、バカバカバカ……!」
「邪魔になるようなことは考えてないよ!ひかるくんもいるし、危険を犯すつもりも……ただ隙を見て、少しでも先生の負担を減らせればって……」
今いる場所から広場までは大した距離でもない。
水辺沿いに歩いていけば、特に危険を犯すことなく詳細な状況を見ることが出来る。
自分たちなら、なんとかできるかもしれない。
―――初めての戦いで、勝った。これが、勘違いだった。
――――自分たちの力が、敵に通じたのだと。
――――そんな風に、勘違いしていたんだ
□■
ワープゲートによって分断され、出口への道は靄敵によって封じられた現状。ワープゲートに巻き込まれずにその場に残った者たちが、この場において最も機動力に長けた人物…A組委員長、飯田天哉に全てを託し、救助を呼ぶため送り出そうとしていた。
「皆さん、下がって!!」
この場に居る唯一のプロヒーロー、13号が指先の栓を外し、"個性”の矛先を靄敵にへと向ける。
13号の"個性”「ブラックホール」はとても強力な"個性”だ。
黒井と比べれば吸える範囲も狭く、対象の識別や力の大小の制御こそできないものの、吸い込んだもの全てを塵にするその力は敵にとって大きな脅威となる。
しかしそれは、場合によっては対象を無抵抗に殺してしまうほどの力を持っているということにほかならない。
13号本人ですら制御不可な"個性”、故に────発動者本人を傷つけることもある。
「13号…災害救助で活躍するヒーロー。やはり……戦闘経験は、一般ヒーローに比べ半歩劣る……自分で自分をチリにしてしまった」
「先生ッ──!!」
敵を吸い取るはずだったブラックホールの吸引は靄を通過し、ワープゲートによって繋がれた13号の背中を吸い取り、塵と化す。
自身の"個性”によって激しいダメージを受け、13号は地に倒れ付した。
「メガネくん走って、早く!」
「っ、くそう!!」
咄嗟に未来が叫び、飯田が走りだす。
捕まってはならない、逃げて逃げて、逃げ切らなければならない。
みんなの期待を背負って、みんなの希望を繋いで、飯田は走り、出口に向けて駆け抜ける。
「散らし漏らした子供……教師たちを呼ばれてはこちらも大変ですので」
靄が歪み、空間が繋がれる。
一直線に突き進む飯田の前にワープゲートが発生し、飯田を包み込もうと広がる。
「マサ、2秒後あっちね」
「了解!!」
飯田を飲み込もうとした黒い靄の渦が、更に強大な渦に呑み込まれ掻き消えた。
「行って、委員長!」
「ここはウチらに任せて、メガネくんは応援よろ〜」
「っすまない!みんな!!」
後ろを振り返らずに、飯田は前に突っ切る。
大丈夫、今の己には、守ってくれる仲間がいる。
走って、走って、出入口が見えてくる。
しかし──
「くっ!」
「ちょこざいな…!外には出させない!」
高速で走っていく飯田の背に、靄が伸びるようにして追いついてくる。
「生意気だぞメガネ…!!消えろ!!」
飯田が靄に飲み込まれ、どこか別の場所へと飛ばされかけたその時。
「よろしく〜」
「わかった!!」
伸びた靄の元───靄敵の
「理屈は知らへんけど、こんなん着とるなら実体あるってことじゃないかな…!!」
個性を発動させ、重力という枷から解き放たれた靄敵の身体は無抵抗に宙を舞い、飯田の元から離れていく。
「行って、飯田くん!!」
閉じた扉をこじ開け、飯田は外へと足を踏み出した。
走って、走って走って、全速力で駆け抜けて、飯田は校舎へ向けて走り出す。その背に、希望を託されながら。
少しずつ遠のいていく飯田の姿を見て、靄は諦めたように、その姿を徐々に消して行く。
転移し終える前に、靄敵は───死柄木弔を守るもの『黒霧』は、そっと、誰からも見えぬ口を開く。
「……応援を呼ばれる、このままではゲームオーバーだ。故に……後は頼みました」
───承知した。
どこからか、どこからでもないどこからか。
黒霧にしか聞こえぬ声で、何者かがそう呟いた。
■□
同時刻、セントラル広場。
最も多くの敵が集中し、首魁と思わしき男と、例の靄敵が現れた場所。
生徒を避難させるために飛び込んだイレイザーヘッドとの交戦により、半分以上の敵は気絶、拘束されていた。
「───23秒」
「本命か」
有象無象の敵、その殆どが倒れて始めて、全身を人の手で覆った奇怪な男が動き出す。
何かを掴もうとするような奇妙な動きで相澤との距離を詰める。
相澤が首に幾重にも巻いた捕縛布を放つも、何体もの敵を瞬時に無力化したそれを難なく掴まれた。
「ちっ!!」
先程の動きから、手に関する個性を持つことは自明の理。故に、個性を消して近距離で潰す。
先手必勝。捕縛布が通用しないと分かるやいなや、相澤は即座に距離を詰め、掴まれた布を引き寄せると同時に敵の腹を肘で打つ。
「…動き回るので分かり辛いけど、髪が下がる瞬間がある」
完全に決まると思われた相澤の肘を、敵はその五指でもって受け止めた。
「一アクション終えるごとだ、そしてその間隔は徐々に短くなってる」
同時に、ポロポロ、ぼろぼろ。
敵に掴まれた相澤の肉体が。その肉を覆う皮膚が、少しずつ剥がれ落ちて行く。
「無理をするなよ、イレイザーヘッド」
「───っ!!」
──肘が、まるで風化するように崩れ行く。
咄嗟に敵の頬を殴り飛ばすと同時に後方に飛び退き、再び距離を置く。しかし息つく暇もなく、瞬時に他の敵が相澤の命を奪おうと攻撃を仕掛けてくる。
「その"個性”じゃ…集団との長期決戦は向いてなくないか?普段の仕事と、勝手が違うんじゃないか?君が得意なのは、あくまで「奇襲からの短期決戦」じゃないか?」
起き上がりながら、手だらけの敵はそう言ってくる。
「それでも真正面から飛び込んできたのは、生徒に安心を与えるためか?」
ニタニタと、顔に張りつけた手の向こうで愉しげに笑って、その瞳が相澤へと向けられる。
「素直にあのブラックホールに任せておけばよかったのに、お前は教師として、ヒーローとしての責務を優先した……かっこいいなぁ、かっこいいなぁ」
「ところで、ヒーロー───本命は俺じゃない」
黒い巨影が、相澤を覆い隠す。
「───対『平和の象徴』、改人"脳無”」
真の絶望を……緑谷達に、まだ見えていなかった現実を。
相対する敵が、これでもかと、見せつけてくる。