【私立パラの丸高校 ヒーローアカデミア編】   作: 燃える空の色

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PM1:35 小さな光

 

 

 雄英高校入学、4日目。

 敵によってUSJの各地に分断され、そこに待ち受けていたのは無数の敵。

 ひかる達は苦戦を強いられつつも敵の撃破に成功、その勢いのまま相澤のいるセントラル広場へと向かった。

 

 自分たちならもしかしたら、助けになれるかもしれないと。淡い期待を抱いていた。

 抱いて、しまっていた。

 

「〜〜っ!!」

「"個性”を消せる…素敵だけどなんてことないね。」

 

 A組担任、相澤消太。あるいは、プロヒーロー、イレイザーヘッド。

 "個性”を消す"個性”を持つ、頼りになる教師。緑谷達が彼を教師と慕うようになってからさほど時間こそたっていないものの、それでも彼が相応の強さを持っていることくらいは知っていた。

 だから、目の前の光景を信じたくなかった。

 緑谷達が見た先。そこで繰り広げられていたのは、想像よりもさらに無惨な光景。

 

「圧倒的な力の前では、つまりただの無個性だもの」

 

 ぐしゃり、嫌な音を立てて、黒い肌をした男…怪人「脳無」と呼称されたソレの手が、相澤の腕をへし折った。

 

───こいつ、素の力でこれか…!!

 

 相澤の瞳は既に脳無を写していた。

 相澤の"個性”抹消は、体の一部でも見れば対象の"個性”を消せる。

 それでも尚、相澤は為す術なく地に伏せられ、小枝でも折るように骨が折れた。

 個性なしでそれだけの力をもつ存在。

 例え異形だとしても、ここまで早く、強いものはそう居ない。

 それこそまるで、オールマイトのような。

 

「緑谷ダメだ…、流石に考え改めただろ…?」

「えいや、これ、え…うそだろ…」

 

 その光景を、ひかる達が見ていた。

 "個性”を消せる、破格の力を持ったプロヒーロー。広場におりて直ぐに、何人もの敵を難なく倒した自分たちの先生が、目の前で殺されかけている。

 四人は恐怖と、困惑と。

 雑多に訪れる無数の感情を抱き、震えていた。

 

「────死柄木弔」

「黒霧、13号はやったのか」

 

 ひかる達と同様に、その光景を見ていた敵……死柄木と呼称された男の後ろに、先程見た黒い靄が現れる。

 

「行動不能にはできたものの、散らし損ねた生徒がおりまして……一名、逃げられました」

「……は?」

 

 その言葉を聞いて、死柄木は何度も息を吐き、首元を何度も何度も掻き毟る。

 ガリガリ、ガリガリ。

 聴く者を不安にさせるような、身体を削る不気味な音が響く。

 

「黒霧お前…おまえがワープゲートじゃなかったら粉々にしてたよ…」

 

 そう言うと、ぴたっ、と。

 首元を掻く手の動きを止めて、死柄木は信じられない言葉を口にする。

 

「流石に何十人ものプロ相手じゃ敵わない…ゲームオーバーだ…あーあ……()()は、ゲームオーバーだ─────帰ろっか」

 

 まるで玩具に飽きた子供のように。

 あっさりと、まるでなんてこともないような口調で、死柄木はそう口にした。

 

「……帰る?カエルっつったのか今!?」

「そう聞こえたわ」

 

 やっと助かるんだ、と峰田が歓喜にむせび泣きながら、蛙水の胸に飛び込む。

 そんな峰田を水中に沈める蛙水を横目に、ひかるが緑谷を見る。

 

「流石に変…だよな、これ」

「うん…これだけのことをしといて…あっさり引き下がるなんて…」

 

 不気味だ、気味が悪い。

 オールマイトを殺すと大言壮語を吐いていた割に、諦めが異様によすぎる。

 今帰ったところで、雄英の危機意識や警戒心を強めるだけで終わってしまう。

 先程言った「ゲームオーバー」といい、目の前にいる敵達が、何を考えているのか。

 緑谷には、それが分からなかった。

 

「けども、その前に。『平和の象徴』としての矜恃を少しでも───」

 

 死柄木の視線が、緑谷達へと向けられる。

 気づかれていた。そう気づいた時には、もう遅かった。

 

「───へし折って帰ろう!」

「え」

 

 瞬間、緑谷の世界が、まるでスローモーションのように動きが遅々となる。

 緑谷の目の前では、あっという間に距離を詰めた男の五指が、ひかるへと迫る。

 脳裏によぎるのは、先程相澤の肘を崩壊させた死柄木の"個性”。

 ひたり、死柄木の手がひかるの顔を掴む。

 そして……何も、起きなかった。

 

「……本っ当、かっこいいぜ。─────────イレイザーヘッド」

 

 そう言って死柄木が見やるのは、脳無に押さえつけられてなお顔を上げ、死柄木の"個性”を消した、相澤の姿。

 ほんの一瞬の猶予。

 相澤の頭は即座に叩きつけられ、既に死柄木の"個性”は復活している。

 

──ヤバイ、ヤバイヤバイやばいヤバイヤバイ

 

 先程の敵とは明らかに違う、心が抉られるような恐怖と、殺意。

 救けなければ。ここで救けられなければ、黒井にも、みんなにも、オールマイトにも、申し訳が立たない。

 自分がなんのために力を受け継いだのか。

 自分が、ひかるにどれだけ助けられたのか。

 自分と同じように、無力で、普通な少年の言葉が、どれだけ力になったことか。

 

「手っ…放せぇ!!」

「──脳無」

 

 緑谷が死柄木の元へ飛び込み、拳を振るう。

 

「SMASHーー!!!」

 

 そう叫ぶと同時に、直撃。

 緑谷の拳が人体を撃つ鈍い音と共に、風圧が周囲へと吹き荒れる。

 

「───!?」

 

 咄嗟に放った一撃、その手はこれまでのように折れることなく形を保っていた。

 初めて成功した"力の調整”、上手く決まったスマッシュ。

 緑谷がその成功を喜び、確実にダメージを与えたと確信し──

 

「え…」

 

 ───確実に死柄木を捉えたはずの拳は、しかし死柄木を撃つことなく。緑谷の目の前にいたのは、つい先程まで相澤を取り押さえていたはずの脳無だった。

 

 あの一瞬であれだけの距離を移動する速度、尚且つOFAを使用した拳を受けてなお、無傷どころかよろけさえしないほどの耐久性。

 緑谷は先程の蛙水達との会話を思い出す。

 ───オールマイトを殺す算段。

 まさか、目の前にいるこの男が……

 

「いい動きをするなぁ…スマッシュって、オールマイトのフォロワーかい?まぁいいや、君──」

 

 脳無の腕が緑谷に、死柄木の手が今度は蛙水へと伸びる。

 あと数秒もすれば、確実に二人は死ぬ。

 極限の恐怖、緊張。

 峰田は震えたまま何も出来ず、蛙水の舌は届かず、緑谷は驚愕に目を見開き、相澤先生は既に意識を落としている。最早、動ける者は一人を除いて誰も居ない。

 ならば、この場において唯一動けるものが。

 ただ一人、誰の目に止まっていないものが。

 ひかるが、なにかしなければならなかったのだ。

 

「なんだお前」

「────」

 

 輝いて、煌めいて、照らし出して。

 ひかるの体が、まるで太陽のような強い光と温かみを帯びる。

 周囲一体が光によって埋め尽くされ、視界の情報が一切遮断される。

 その光はUSJ全体へと届き、校舎からも見えるほどの強さを放っていた。

 

「……二人から、離れろ」

 

 震えるその手を押えて。

 点滅する光を、見ないフリをして。

 ひかるは、敵に立ち向かった。

 

 

 

 

 消え去った靄の残滓を前にして、黒井と未来は現状の確認を行っていた。

 

「ごめんマサ、逃げられた」

「ううん、謝らなくて大丈夫。未来がダメなら、多分どうやっても無理だったと思うから…」

 

 飯田を逃がすことには成功したものの、靄敵に逃げられてしまった。

 けれど、未来を視る事が出来る見里が逃がしてしまったということは、恐らくどう足掻いても捕まえることは出来なかったのだろう。

 そう言うと、見里はどこか納得出来なさそうに顔を顰めて、考え込むように俯く。

 

「いや…なんか、多分ちょっと違うかも」

「違うって?」

 

 珍しく要領を得ない見里の発言に、黒井が小首を傾げる。

 

「なんて言うか……アイツらが来てから、未来がちょっと視えずらくなったんよ」

「それってどういう…?」

 

 確か「前」に、一度未来が視えなくなったことがあったとは聞いたことがある。

 しかし、未来が視えずらくなるとはなんだろうか。

 

「なんか、ノイズが走ってる的な…」

「祝子さんの時みたいに?」

 

 そう言って思い出されるのは、「前」の世界において、黒井に大きな影響を与えたかつてのできこと。ひかると間手原、二人の未来を視ようとした見里が突如鼻血を出し、何も未来が視えなかったと言っていた。

 

「あーいや、そんな感じじゃ……あれ、祝子って……」

「…わかった、もしかしたら未来の能力にも対応出来る"個性”持ちがいるのかも。」

 

 自分たちの持っていた"能力”のように、"個性”もまたなんでもありで理不尽な力だ。

 間手原が"能力"でそれを可能にしたように、同じようなことができる"個性”がいたとしてもおかしくは無い。

 

「じゃあ、今どこまで見えてるの?ひかるは視える?ひかるは───」

 

 無事かどうか、黒井がそう聞こうとしたその時、黒井たちの背後───セントラル広場方面から、強い光が放たれる。

 

 黒井には。黒井達には、その光が誰によるものなのかなど、簡単に見当がついた。

 

「ッひかる!!」

「待って、マサ!!」

 

 瞬間、黒井は広場へ向けて走り出す。

 何かを()()らしい未来が黒井に制止の声を投げかけるが、それすらも振り切り黒井は光源へと走る。

 

 広場には相澤先生と、一番ヤバそうな奴がいたはずだ。

 加えて、先程の靄敵の逃走。恐らくあちらに行った可能性が高い。

 急がなければ。黒井が必死に足を動かし、あっという間に広場へ降りる階段に到着する。

 そして────

 

「ひか、る……?」

 

 ───遠目に見えたのは、全身から血を流し、弱々しい光を帯びた、多々光の姿だった。

 

 

 

 

 

 

 視界が明滅する。

 

 

「ただ光るだけの、何の役にも立たない個性を持ったガキ……」

 

 

 音が反響する。

 

 

「"アイツら”が寄越した資料にあったよ、多々光。何の変哲もない、何の役にも立たない個性を持った普通の生徒…なんでヒーロー科に混じってるのかは知らないけどさ……」

 

 

 目の前にいる男の声が、通り抜けるように脳が意味を介さない。

 

 

「生け捕りにしろって、"アイツら”からも"先生”からも言われてるけど……面倒くさいし、殺しちゃおっか」

 

 

 ───なんで、こうなってるんだっけ。

 

 

 覚束無い頭を回して、少しずつ記憶を紐解いていく。

 まず初めに、敵の襲撃を受けたこと。ワープゲートによって、黒井たちと分断されたこと。その先で、緑谷達と共に敵を撃退したこと。緑谷の提案の元、相澤先生の様子を見に行ったこと。

 その先で、相澤先生が敵に敗れていたこと。

 こちらに気づかれ、蛙水にその食指が伸びたこと。

 

 そして、緑谷が立ち向かって、そして────

 

「…眩しいなぁ。おい脳無、さっさと殺せよ」

「ぐぁぁっ……!」

 

 ミシリ、ミシリ。嫌な音を立てて、ひかるの頭が軋むような感覚を覚える。

 痛みがひかるを襲う度に、ひかるの纏う輝きは更に強さを増して行く。

 そしてそれは光の強さ、だけではない。

 

「焦げ臭い…」

 

 ひかるの頭を掴む脳無の剛腕。その怪人の手から煙を上げて、もとより黒い身体をさらに黒く染め上げていた。

 

「…お前、光るだけじゃないのかよ。資料は間違いだったのか?ただのザコ敵かと思ったら、触ったらアウトなクソモブじゃない…」

 

 ひかるの体が熱を帯びて、ひかるに触れる全てを焼き焦がさんと光を放つ。

 次第に、怪物の肌が焼け焦げ、筋繊維が露出する。その光を直視する瞳は焦がれ、アイスのように溶け落ちた。

 

 

「──まぁ、無駄だけど」

 

 次の瞬間。焼け落ち、爛れた肉を黒い肌が覆い隠し、液状化した瞳が形を取り戻す。

 

「"超再生”、"ショック吸収”、加えて"超パワー”。対オールマイト専用に誂えた特別品だ」

 

 自慢げに、死柄木はそう語る。対オールマイトの特別製、そりゃ勝てるはずもない。

 先程、一瞬で緑谷と死柄木の間に割って入った圧倒的な速さ。

 緑谷の拳OFAを受けて無傷な耐久力。

 そして、オールマイト並のパワー。

 

 全てにおいてラスボス級、少なくとも、こんな最初の村を出てすぐの時のような状態で現れていいボスではない。

 死柄木に引っ張られてか、ゲーム脳のような考え方で、ひかるはそう思った。

 

「……っぁ、」

 

 消える、消える、消える。

 ぐるりぐるりと世界が回り、頭から咲く紅い花が目を覆う。

 

「……なんだ、あれ」

 

 最早、目の前の男が相手が何を言ってるのかさえ、正しく聞き取れない。

 

 ──俺、死ぬのかな

 

 

 ふと、諦めが脳裏をよぎる。

 ひかるにとっては二度目の死。怖くないと言えば嘘になるが、それでも不思議と忌避感は薄かった。

 

 もう、何も見えない。

 最後に少し輝いて、ひかるの意識が、まるで蝋燭の火のように潰えようとしたその時。

 

「なんで、なんでだよッ───ひかる!!!」

 

 消えゆく意識の向こうに、泣き叫ぶ、黒井正義の声が聞こえた気がした。

 

「……ごめ、黒…井」

 

 その言葉を境に、ひかるの世界は暗転する。

 

 

 

 




オールマイトは、来ませんでした。
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