【私立パラの丸高校 ヒーローアカデミア編】   作: 燃える空の色

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PM1:40 呪⬛︎

 

 

 広場へと駆けて行った先、黒井の目に映る光景は想像を絶するものだった。

 信じたくなかった、こうなってはいけなかった、こうならないようにしなければならなかった。

 

 最初に、声を出そうとした。

 けれど声は掠れ、代わりに漏れるのはコヒュッとしたか細く浅い呼吸音。

 震える手を伸ばしては、力なく落ちる。定まらぬ焦点で、黒井はただ一人を見つめる。

 

 黒井の目に、映るのは。

 ―――敵に頭を掴まれ、血を流す、ひかるの姿。

 

「ひか、る…?うそ、だめ…ダメだよそんなの、ひかるを、ひかるが……死んじゃ」

 

 喉まででかかった嗚咽を押し込めるように、震える手で口元を覆い隠す。

 抑えた吐き気の代わりのように、黒井の身体から、ブラックホールが漏れ出していく。

 瞬く内に、溢れ出した闇は黒井の全身を包みこんだ。

 数日前のように。けれど、それよりももっと早く、もっと色濃く。

 

「ダメだ、だめだよっ!そんなの……」

 

 ぶわっ、と、黒井から溢れ出す闇が、空間を侵すように広がっていく。

 黒井の心に連動するかのように、広がって拡がって―――そして、黒井の元へと収束する。

 

 

 

  「助けなきゃ」

 

「マサ、待ってダメ!」

 

 

 黒井の身体が、黒色の鈍い輝きに包まれる。

 そして僅かに踏み込み…瞬間、黒星が宙を駆けた。

 黒い軌跡を残して、黒井は瞬く内に脳無の眼前へと迫り、勢いそのまま、黒光を纏った蹴りを、剥き出しの脳髄へと放つ。

 

「ひかるを、離せ……!」

「脳無、防げ」

 

 ブラックホールの性質故か、見た目よりもずっと重いその一撃を、脳無はひかるを持つ手を離して両腕で受ける。

  速さと重さ、両方を兼ね揃えた脚撃をまともに受けた脳無は僅かに吹き飛ばされる。

 その隙に、黒井はひかるの元に駆け寄り、倒れるひかるを抱き上げて、

 

「ひかる、大丈夫!?ねぇ、ひかる…!?」

「……黒、井……?」

 

 頭から血を流し、ひかるは朦朧とした意識のまま黒井の名を呼ぶ。あまりにも痛々しいその姿を見て、黒井は息が止まるような緊迫感に襲われた。しかし、ひかるは重症ではあるものの、頭部の出血以外に酷い傷は見当たらない。まだ、間に合う。できる限り早く病院に看せなければ。そのためにも。

 

「急に現れたと思ったらなんなんだ…!次から次へと…白馬のヒーロー気取りかよ……!!」

 

 ひかるの名を呼ぶ黒井を指さし、死柄木がワナワナと込み上げる怒りを口にする。

 今にも飛びかかって来そうな死柄木を前にして、しかし、黒井は動揺することも、なにか反応を示すこともない。

 ひかるを地面に寝かせて、黒井は立ち上がる。

 その瞳に、果てのない憎悪を孕みながら。

 ―――怒っているのは。許せないのは、死柄木だけではない。

 黒井の視線が、死柄木へと向けられる。黒く渦巻くような、まるで光が届かない闇を宿したかのような瞳が、死柄木を覗く。

 

 

「くろ、い…逃げ……」

「ひかるはここに居て…大丈夫だよ」

 

 ひかるを再び地面に寝かせ、黒井は死柄木と相対―――そこで、ひかるの制止の声を聞く。

 自分も辛いはずなのに。痛くて苦しいはずなのに、ひかるはこんな時でも、黒井に逃げろと言ってくる。

 それが嬉しくて、暖かくて。そしてとても寂しくて。

 助けてくれと言って欲しい。俺を守ってと求めて欲しい。

 そうすれば、黒井は。ひかるがそう願ってくれたのなら、黒井は――

 しかし、それは今は詮無いことだ。結局のところ、結論は変わらない。

 

 

「お前が…お前達が、ひかるを」

「違うさ、俺じゃない…そいつが自分から飛び込んできて、勝手に脳無に殺られたってだけだ。大した力もない癖に、素直に大人しくしてればよかったのにさぁ…」

 

 楽しそうに、そして同時に不愉快そうに。

 歪に口元を歪めて、死柄木は黒井の腕の中のひかるを指さす。

 精一杯の抵抗を、振り絞った小さな勇気を。ひかるの全てを否定して、死柄木は嗤う。

 

 

 ―――あぁ、ダメだダメだダメだ。

 

 

 抑えきれない、抑えられない。

 許さない、赦せない、赦してはならない。

 

 今この胸に抱く感情は……静かに燻り、次第に重くなっていくどす黒いソレは、怒りだ。嫌悪だ。憎悪だ。

 身体機能である"個性”が心身の影響を色濃く受けるように、黒井のブラックホールもまた、黒井の心に強い影響を受ける。

 

 吸引する力は、より強く。

 侵食する速度は、より早く。

 展開する規模は、より大きく。

 

「やれ、脳無」

「"超重力天体(ブラックホール)”展開──」

 

 脳を剥き出しにした怪人と、闇を纏う少年が対峙する。

 

「…待っ…くろ、い……!!」

 

 ――ダメだ、ダメなんだ 

 ――いくらお前でも、そいつは……!!

 

 ひかるが黒井の背に向けて手を伸ばすと同時に、二人は動き出す。

 空間が歪むようにして、脳無を吸い込まんと展開したブラックホールが、脳無のいた空間ごと抉りとる。

 まともに捉えられれば、光でさえ逃れられない最強の鉾。

 これまでのように、無抵抗のまま無に帰す脳無の姿を幻視した。しかし──

 

「っ速……!!?」

 

 ほんの数瞬前までそこにいた脳無の姿が消え、瞬きの後に黒井の視界に巨体が迫る。殴られる―――咄嗟に自身の身体をブラックホールに包むが、僅かに遅い。その拳を受けて、黒井は大きく吹き飛んだ。

 

「黒井っ……!」

「…大、丈夫だから」

 

 一点で狙ってダメなら、数で押す。

 小規模のブラックホールを無数に創り、チャフのようにばら撒こうと展開―――間に合わない、再び殴られる。

 

 もう一度―――殴られる。

 二回目の挑戦―――殴られる。

 速さ重視の小規模展開―――避けられ殴られる。

 殴られる、殴られる、殴られる、殴られる。

 

 

 ――――ダメだ、早すぎる。目で負えない、ブラックホールでも吸い込めない。

 

 殴られて、殴られて殴られて殴られて。殴られ続ける。

 これまでの人生において初めてとも言っていい、自らの能力を駆使してなお手も足も出ないほどの存在。

 自分では、どうしようもない。

 自分では、ひかるを守りきれない。

 

「ッなら!!」

 

―――せめて、道ずれに……!!

 

 殴られ、殴られ、殴られ続けて。

 それでも尚、黒井の体が黒色の輝きを帯びる。

 ひかるを巻き込まないように、けれど、目の前の敵を確実に倒せるように。黒井の力であれば、自分以外の全てを消し去ることは簡単だ。

 けれど、今、黒井がすべきは殺戮でもなんでもなく、ひかるを守ること。その為には、目の前の大男だけでも倒さなければいけない。

 

 例え、己が身を犠牲にしてでも。

 

 次、攻撃を受けるその時に―――

 

「黒井…?」

「…ごめんね、ひかる」

 

 不安げに自分を見つめるひかるに、黒井は頼りない笑顔を向けた。

 それを境に、黒井の身体を中心として、渦巻くように風が奔る。

 

「おいおい嘘だろヒーロー志望、まさか自分事ソイツを殺す気かい…?」

 

 ひかるを守るためなら、仕方の無いことだ。

 脳無の拳が黒井に迫る。そして―――

 

「えぇ、"あの方々”の仰っていた通りです……多々光を助けるためとなれば、黒井正義は全てを道ずれにしようとすると。故に…これもまた、私の役目」

「ッ─────!?」

 

 脳無の豪腕が、黒い渦に飲み込まれている。

 その渦は、黒井のブラックホール…ではない。

 黒井の視線が咄嗟に死柄木へと。死柄木の傍に控える、黒霧へと向けられる。この渦は黒井のものではなく、であるのならば黒霧の"個性”だろう。そして、黒霧の靄はワープゲートの性質を持つ。

 脳無の拳がその靄を抜けた先は―――ひかるの元へと、繋がっていた。

 

「ひか───っ!?」

 

 咄嗟に、ひかるの名を叫ぶ。

 あれだけの威力を伴った拳を受けて、咄嗟に防いだのであろう左腕は見るも無惨に折れ曲がっている。

 ひかるの傍に駆け寄ろうと黒井が一本踏み出し―――

 

「資料の通りです…多々光を狙われれば、貴方は隙だらけになってしまう」

 

 ひかるに意識が集中した黒井の胴を、今度は靄を通ることなく、脳無の巨腕が襲う。

 

「っ…!!」

 

 黒井もまた拳を受けて、確実に何本もの骨を駄目にしながら宙を舞う。

 吹き飛ばされた先。奇しくも、目の前にはひかるが居た。

 苦しそうに呻きながら、ひかるは残った右腕で左腕を押えてもがいている。地を這うようにして、黒井はひかるに手を伸ばす。

 

「ごめん、ひかる……俺が…俺が弱いから……」

 

 その手が、ひかるに届く。

 ひかるの手を握ろうとして、けれど、力の入らないその手で何を握ることができようか。

 するりと、空を切ったように手が落ちる。

 

 

 あぁ、ごめん、ごめんなさい。

 守るって言ったのに。今度こそって誓ったのに。

 また、何も守れなかった。また、嘘をついてしまった。

 

 

 前みたいに、また終わるのならば。今度は、今度も、二人で一緒に―――

 

 

 

【────約束、覚えてる

「……え?」

 

 黒井がひかるへと伸ばした手が、力なく落ちたその時。ふと、声が聞こえた。

 優しいような、それでいて空恐ろしいような、鈴の音のように響く声。

 黒井は、その声を覚えている。その声を、忘れられるはずも無い。

 

「……そうだよね、祝子さん」

「…あ?」

 

 

 既に、黒井の体は満身創痍だったはずだ。腕も、肋骨も、何本もの骨が砕け、まともに歩くことさえできないはずだ。

 

 けれど、黒井は立ち上がり、倒れ伏すひかるを抱き寄せる。

 生暖かいひかるの血液が、黒井の肌を這う。

 浅い呼吸を続けて、情けない呻き声を上げながら、必死にもがくように、ひかるは息を吐く。

 その姿を見て、黒井は────

 

 

 

「許⬛︎ない」

 

 

 

 ―――広がる、感染する、蔓延する。

 黒井から溢れ出たソレが、今までの比ではないほどの勢いで広がっていく。あっという間に黒井の周囲を侵蝕し切ったソレは、脳無をも蝕む。

 咄嗟に飛び退き、死柄木の元へと戻った脳無―――闇に蝕まれたその足は、塵と化すように消えていった。

 

「⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎」

「本っ当…なんなんだよ、お前…!!」

 

 黒井が腕を振りかざす。同時に、死柄木の頭上に巨大な黒穴──"超重力天体”(ブラックホール)が、大きく口を開ける。

 

「黒霧ィッ!!」

「分かっています…!!」

 

 なんの遠慮もなくあらゆる全てを吸い込もうとする空間の穴を、黒霧から広がる靄が覆い隠す。

 

「黒霧正義、貴方の"個性”「ブラックホール」は13号とは似て非なる強大な力。けれど対処法は同じ…自らの"個性”に呑み込まれてしまえ!」

 

 死柄木を吸い込むはずだった吸引力は、頭上に繋がるワープゲートから黒井へと向けられる。

 その風に煽られて、ひかるが意識を取り戻す。朦朧とする思考の中で、ただ一つ。たった一つの名を呼ぶ。

 

「黒井…」

「―――大丈夫だよ、ひかる」

 

 戦闘服が破れ、吸い込まれる砂粒に巻き込まれて皮膚が割ける。

 それでも、腕の中にいるひかるだけは、傷一つつけまいと抱き締めた。

 

「……ごめ…俺の、せいで」

「ううん…悪いのは、全部俺だから。守るって言ったのに、守れなかったから。だから、今度こそ──────『⬛︎(私/俺)が守るから』」

 

 ボロボロになる自身の肉体を省みることなく、黒井の瞳がひかるへと向けられる。

 いつも通りの、花が咲くような満面な笑みを浮かべた顔。

 けれど、一つだけ。

 ひとつだけ、違うところがあった。

 

 黒井の瞳を、頬を。まるで黒く塗りつぶして、上から子供の落書きを載せたような表情が。

 

 歪んだ人の顔が、にっこりと笑みを浮かべるように象って、ひかるを見つめていた。

 

 

『⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎――――!!』

 

 瞬間、黒井から溢れ出るように…所ではない。

 まるで噴火する火山のように、意味を成さない騒音を響かせ、黒いソレは弾け、広がる。

 それに呼応するようにして、ブラックホールが、己を覆い隠す黒霧の靄を吸い込み、押し退け、脈動し、次第にその大きさを増してゆく。

 時間と共に拡大を続けるブラックホールと比例するように、黒井から溢れる、靄というには濃すぎるソレは世界を侵す。

 

 

『⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎』

 

 

 広がる、広がる、広がる。

 黒井を中心として、滲み出すようにそれは現れる。ひかる以外の、触れる全ての生命を蝕んで。

 

 

 それは、拡大していく。

 まるで感染する病魔のように。

 それはまるで───『呪い』のようににににににににににににににに⬛︎⬛︎にににに⬛︎にににににに⬛︎⬛︎ににに⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎に⬛︎⬛︎にに⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎────────、

 

 

 

 

「『 ────大⬛︎夫⬛︎から』」

 

 

 

 

 虫の羽ばたきのような、耳を劈くような。

 聞くものの精神を侵し、崩壊させるような、不快な音が―――ノイズが、走る(「声が響く」)

 

 

「『ひかる ⬛︎⬛︎ は、 ⬛︎が護⬛︎から』」

 

 黒井は…黒井だったものが、手を伸ばす。

 そして、全てが。

 ⬛︎⬛︎に飲み込まれ「⬛︎⬛︎◾︎◾︎◾︎◾︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎◾︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎◾︎◾︎◾︎◾︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎

⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎ ⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎ ⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎ ⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎




⬛︎⬛︎「⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎ ⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎ ⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎ ⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎⬛︎」
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