【私立パラの丸高校 ヒーローアカデミア編】   作: 燃える空の色

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PM 2:00 ゲームクリア

 

「……え」

 

 ひかるたちの視線の向こう。

 そこでは、オールマイトが敵を圧倒している姿が見えるはずだった。

 見えていた、見えているはずだったのだ。

 けれど、今、視線の先で広がっている光景は、そんな幻想とはかけ離れた姿。

 オールマイトの、『平和の象徴』の命が。

 底知れぬ悪意によって、今───絶たれようとしていた。

 

「オールマイトっ!!」

 

「ひかる、あんまり無理しちゃ…」

 

 痛みを訴える身体を無理矢理動かして、ひかるはオールマイトのいる方へと手を伸ばす。

 嗚呼、しかし、なんの力も持たぬひかるに、できることなどなにもない。

 ただ無様に叫び、もがくだけ。

 それどころか、今、自分は、みんなに守られている。

 大切な友達を傷つけられて、憧れを踏みにじられて。

 黒井に、みんなに心配させて。

 それでも、ひかるには何も出来ない。

 

 ――俺は。

 役に立たない。

 ここにいても、何もできない。

 

 

 ぴか、ぴかぴか。

 

 

 ひかるの身体が点滅する。

 光を放ち、熱を帯びて、ひかるの身体から輝きが溢れ出す。

 

「ひかる、どうしたのっ──て熱!?」

 

 

 ぴか、ぴかぴか。

 

 

 ひかるは、ただ光り続ける。

 全身という全身から光を放ち、太陽のように煌めくひかるの姿を、その場にいる全員が見つめていた。

 そう、全員が。

 それは、黒装束も例外ではない。

 

『「───」』

 

 食い入るように、目に焼き付けるように。

 彼らは、ひかるを見ていた。

 多々光を、見つめていた。

 

 

 

 

 緑谷からしてみれば、その一連の流れはあまりにも早く、唐突だった。

 

 目の前では、突如現れた黒霧がオールマイトの半身を飲み込み、そして脳無ごとその身体を断ち切ろうとしている。

 大恩ある師匠が、憧れの人が。大好きなヒーローが、殺されようとしている。

 

 ―――同時に、視界が白く染まった。

 

 一瞬、何が起きたのかわからなかった。

 ただ、

 誰かが叫んでいて、

 誰かが踏みとどまっていて、

 そして――光があった。

 強くて、でも、温かい光。

 

「……多々、くん?」

 

 名を呼んだ声は、震えていた。

 その光は、まるで、緑谷の背を押すようにして輝き、その光によって敵たちも動きを止めている。

 気づけば、緑谷の足は前へと踏み出し、駆け出していた。

 

「オールマイトォ!!!」

 

「ッ浅はか……!!」

 

 緑谷がオールマイトへと手を伸ばす。

 しかしその眼前に、先程の靄が現れる。

 あっという間に、靄は緑谷を包み込もうと拡がり、緑谷の身体は、再びどこかへと飛ばされようとして──、

 

「どっけ邪魔だ!!デク!!」

 

───BOOM、と音が鳴り響く。

 

 気づけば眼前に広がっていた靄は消え去り、代わりに黒霧の胴を押さえつけている爆豪の姿が見えてくる。

 それだけではない。

 オールマイトの胴を血が滲むほど強く押さえつけていた脳無の半身が氷漬けになり、その隙を見てオールマイトが拘束を抜け出す。

 

「……出入り口を抑えられた……こりゃあピンチだなあ……」

 

 仲間二人が拘束され、身動きをとれなくなったというのに、死柄木は極めて淡白にそう呟く。

 そんな死柄木を気にすることも無く、爆豪は黒霧を押え付ける手の力を強め、その顔に浮かぶ笑みをより深める。

 

「このうっかりヤローめ!

 やっぱ思った通りだ!モヤ状のワープゲートになれる箇所は限られてる!

 そのモヤゲートで実体部分を覆ってたんだろ!?そうだろ!?」

 

 そう言って、爆豪の脳裏に浮かぶのは、先程切島や黒井と共に黒霧を攻撃した時の記憶。

 

「全身モヤの物理無効人間なら、

 「危ない」っつー発想は出ねぇもんなあ!」

 

 自身の爆破と切島の拳を受けて、確かに黒霧は「危ない」と言った。

 それはただ煽りとして言ったというには、実感が含まれているように爆豪は感じた。

 

「ぬぅっ…」

「っと動くな!「怪しい動きをした」と俺か判断したらすぐ爆破する!!」

「ヒーローらしからぬ言動……」

 

 僅かに動いた黒霧を地面に強く押し付け、脅迫がまいに怒鳴りつける。

 

「攻略された上に全員ほぼ無傷…すごいなあ、最近の子供は…恥ずかしくなってくるぜ、敵連合……!脳無、爆破小僧をやっつけろ。出入口の奪還だ」

 

 全身を覆う氷を、自身の身体ごと無理矢理割り、脳無は起き上がる。

 その反動で半身が砕けるが、それさえ意に返すことなく、脳無は悠々と場に佇む。

 

「身体が割れてるのに…動いてる……!?」

「皆下がれ!……分かってはいたが、"ショック吸収”だけじゃないようだな……!!」

 

 先程、オールマイト達の目の前に現れた時も、脳無は抉れた下半身を一瞬の内に再生させていた。

 ショック吸収だけでないのはわかっていたが、それでも改めて見ると驚愕を禁じ得ない。

 

「別にそれだけとは言ってないだろう?これは"超再生”だな。脳無はお前の100%にも耐えられるように改造された超高性能サンドバック人間さ」

 

 死柄木がそう言い終わると共に、脳無が走り出す。目にも追えぬ速さでもって、脳無が黒霧の元へ現れる。

 再びその拳が、黒霧を抑える爆豪の眼前に迫り、周囲に風圧が吹き荒れる。

 

「かっちゃん!!」

 

 緑谷が叫び、爆豪の居た方へと視線を向けようと顔を向け…すぐ真横に、爆豪の姿があることに気づく。

 

「かっちゃん!?避っ、避けたの!?すごい…!!」

「違ぇよ黙れカス」

 

 爆豪は脳無の攻撃に対し、無傷で逃げ仰せたように見えた。

 けれど、決して、爆豪が脳無の攻撃を避けられたというわけじゃない。

 

───何も…見えなかった…!

 

 先程と同じ、爆豪は脳無の攻撃を目で追うことすらできなかった。

 脳無が迫っていることに気づいた時には、爆豪は緑谷の傍に移動していた。

 

「…………加減を知らんのか…!」

 

 そして、爆豪が先程までいた場所では、オールマイトが拳を受けて大きく後ずさり、血反吐を吐いていた。

 

「仲間を助けるためさ、仕方ないだろ?さっきだって、あのブラックホールとか…ホラそこの…あー……地味なやつ。

 あいつが俺に思いっきり殴りかかろうとしたぜ?他が為に振るう暴力は美談になるんだ。そうだろ?ヒーロー?」

 

 

 

「俺はなオールマイト!怒ってるんだ!同じ暴力がヒーローと敵でカテゴライズされ、善し悪しが決まる、この世の中に!!」

 

 

 

「──何が平和の象徴!!所詮、抑圧の為の暴力装置だお前は!暴力は暴力しか生まないのだと、お前を殺すことで世に知らしめるのさ!」

 

 

 高らかに、死柄木はそう宣言する。

 しかし、オールマイトはその姿に対し、冷ややかな眼差しを送っていた。

 

「めちゃくちゃだな。そういう思想犯の目は静かに燃ゆるもの。自分が楽しみたいだけだろ、嘘つきめ」

「……バレるの、早…」

 

 ニタリと、死柄木は顔に張り付けた手越にでも分かるほどの笑みを浮かべる。

 何がそんなに楽しいのか。

 少なくとも、緑谷達には理解できない思考を経て、死柄木は愉しげに笑う。

 

「3対5だ」

「モヤの弱点はかっちゃんが暴いた…!」

「とんでもねぇ奴らだが、俺らでオールマイトのサポートすりゃ…撃退できる!」

 

「ダメだ!!逃げなさい」

 

 切島達が臨戦態勢を取るが、オールマイトが待ったをかける。

 そんなオールマイトに対し、轟や緑谷が不満を露わにする。

 

「……さっきのは俺のサポート入らなきゃやばかったでしょう」

「オールマイト、血…それに時間だって……」

 

「それはそれだ轟少年!ありがとな!!しかし大丈夫!!プロの本気を見ていなさい!!」

 

 確かに、時間はもう一分と無い。

 自身の体から力が抜けて、空気が抜けるように煙が溢れる。

 力の衰えは、思ったよりも早かった。

 しかし、それでもやらなければならない。

 

「脳無、黒霧、やれ。俺は子供をあしらう。

──クリアして帰ろう!!」

 

 そう言って、死柄木が緑谷達を殺そうと走り出すと同時に──、

 

 

「なぜなら私は───」

 

 

──────平和の象徴、なのだから!!!

 

 

 

 オールマイトが放つその気迫に、場にいる全ての者が気圧される。

 けれど、脳無だけが、それを意にも介さずに殴り掛かり、その拳がオールマイトの拳と激突する。

 

「"ショック吸収”って…さっき自分で言ってたじゃんか…」

 

 巻き込まれぬよう下がりながら、死柄木が文句を言うようにそう呟く。

 

「そうだな!」

 

 そして始まる、拳の押収。

 脳無とオールマイト、双方が繰り広げる怒涛のラッシュによって、誰も近づけない程の風が吹き荒れる。

 

「"無効”ではなく"吸収”ならば!!限度があるんじゃないか!?

 私対策!?私の100%を耐えるなら!!さらに上からねじ伏せよう!!」

 

 そう言って、オールマイトが、その拳をより早く、より強く打ち付ける。

 だがその口元からは血が滲み、その一撃一撃が100%以上の攻撃であることが緑谷にとって火を見るより明らかだった。

 

「ヒーローとは、常にピンチをぶち壊していくもの!敵よ、こんな言葉を知ってるか!?

 

 

 

 ─────Plus Ultra(更に向こうへ)!!!!!!」

 

 

 

 

 その言葉と共に、オールマイト拳が脳無を撃ち抜く。まるで嵐の如き風圧を伴う拳を受け、脳無は勢いそのまま宙を舞い、USJを囲うドームを打ち破って外へ出る。

 吹き飛ばされ、吹き飛ばされ、気づけば、肉眼で見えぬ空の彼方まで消えてしまった。

 

「…漫画(コミック)かよ」

「ショック吸収を()()()()にしちまった…究極の脳筋だぜ」

「デタラメな力だ…再生も間に合わねえ程のラッシュってことか…」

 

 オールマイトの取った択は至ってシンプル。再生するというのなら、再生が追いつかないほど早く。吸収されると言うのであれば、吸収しきれないほど強く、ただひたすらに殴ればいい。

 そのあまりの力技に、爆豪たちもドームに空いた穴を唖然と眺めていた。

 これこそが、ナンバーワンヒーローの力。

 これが、プロの世界。

 自分達の思い描く理想すら軽く凌駕する、憧れであり、目標であり、頂点のその勇姿。

 この場にいる全ての者が、その姿を呆然と見つめ、動けなくなるほどのそれ。

 

「やはり衰えた、全盛期なら5発も撃てば充分だったろうに──500発以上も撃ってしまった」

(そして…時間切れだ)

 

 しかし、それは敵や緑谷達に限った話ではない。

 オールマイトもまた、その場から一歩と動くことさえ叶わない。

 朝の通勤時の敵退治に、USJまでの移動。加えて、100%を超えるワンフォーオールの使用。オールマイトは既に、自らの活動限界を迎えようとしていた。

 

「さてと敵…お互い、早めに決着つけたいね」

「チートが……!!」

 

 それでも尚、オールマイトは不敵な笑みを浮かべ、敵に対峙する。

 

 それに相対する死柄木弔は、オールマイトを────『平和の象徴』を、憎々しげに睨み付けていた。

 

 

 

 

 

「オールマイト、やっぱりすげぇ!さっきまであんなにピンチだったのに、あの化け物を簡単にやっつけちゃった!」

「ヤバすぎだろ…漫画じゃん」

 

 先程ひかるが見た時はピンチに見えたオールマイトだったが、緑谷達の援護もあって立て直したらしい。

 オールマイトの無事を聞いて、ひかるの発光は収まりつつある。

 

 そして、ひかるから放たれる光が消え去るということは、発光するひかるを遠巻きにしていた黒装束達が再び動き出すと言うこと。

 その鋭利な手足を再び構え、交戦を再開する。

 

「ちょっとしつこすぎん?…さすがに、疲れた臭いし…未来が若干ボヤけて見えてきたわ〜」

「それな。幾らでも湧いてくんじゃん。やっぱ、普通の人間じゃないってことか〜」

「、、、めんどくさい」

 

 既に数十体もの黒装束がこの場から離脱し、そしていつの間にか、それ以上の数の黒装束が現れ続けている。

 尽きぬ敵の増援。それに対し、黒井達は着実に疲労を溜めてゆく。

 

「っ、、、ぁ」

 

 ふと、闇川の視界が、まるで傾くように歪む。

 一体何故か、闇川が思考を回すと、遅れて鈍い痛みが足を伝ってくる。

 そちらへ視線を向ければ、足元の地面が不自然に盛り上がり、自身の足首が捻れるように形を歪ませていた。

 

 体勢を崩し、隙を晒した闇川の元へ、無数の刃が襲いかかる。

 

「りこてゃ!!」

「ッ!!!」

 

 咄嗟に、黒井がブラックホールを展開しようと手を伸ばし、平が武装を召喚する。

 けれど、間に合わない。

 黒金の魔手はあっという間に闇川の元へと到達し、そのやわい肌を裂き、心の臓を掴み取らんと伸ばされる。

 

「闇川───」

 

 ひかるの身体が再び光に包まれるも、最早その手は止まらない。

 だれもが闇川の死を予見して、黒井が咄嗟にひかるの目を覆い隠す。

 同様に、二度目の終わりを享受しようと闇川もその目を閉じる。

 

 次の瞬間、聞こえてくるのは闇川の悲鳴と、肉を裂く鈍い音…そのはず、だった。

 

 けれど、待てども待てども、聞こえてくるのは予想したものもは程遠い、人体を強く締め付けるような鈍い音───そして、甲高く響く足音のみ。

 

「……え」

「おい、どうした、黒井!…黒井!!!」

「ご、ごめんひかる。今、放すから……」

 

 黒井の手によって覆われた視界が解放されて、ひかるは即座に闇川の方へ顔を向ける。

 脳裏に過ぎる最悪の可能性。

 それを確かめるように、ひかるの瞳がその光景を映す。

 その先に拡がっている光景は、ひかるの想像を遥かに凌駕するものであった。

 

「これって…」

 

 ひかるの視線の先、闇川に迫っていた黒装束の体を、蛇のようなものが巻き付いている。

 けれど、それは蛇ではない。

 それに頭や鱗などなく、それは真っ当な生命ではない。

 ひかるの視線の先。ふわふわと漂うロープや木の枝が、まるで意志を持ったかのように動き、この場にいる黒装束達全員を締め付けている。

 

「これって──」

「もしかせんでも───」

 

 全員が、まるで息を合わせたように、足音のなる方へと目を向ける。

 

 

「前にも言ったろ。コイツらをいくら倒したところで大して意味は無い。だから、基本的には逃げられ無い程度に拘束するのが得策だな」

 

 

 乱雑に纏められた灰色の髪、ダウナーな着こなしのスーツ。短く生えた髭に、口に加えたペロキャン。

 どこか気怠げな雰囲気を漂わせるその男へと、場の視線が集中する。

 

「「「───醍醐先生!?」」」

「よぉ、お前ら。久しぶりだな」

 

 軽く片手を上げて、かつての担任は平坦にそう言った。

 

 

 

「……それにしても」

 

 じぃっと、醍醐はひかるたちの顔に視線を向ける。

 闇川に、平、見里、黒井。そして、ひかる。

 一人一人をよく見てから、そしてどこか懐かしそうに口を開く。

 

「もう何十年も前の話なのに、意外と覚えてるもんだな。未来に翔子に闇川に…正義と、光。全員、元気そうでよかったよ」

「先生がなんでここに!?も、もしかして先生も敵なの!?どど、ひかる、どうしよう!?」

「いや違うだろ。一旦落ち着けって。とりあえずそのブラックホール仕舞ったら?」

 

 慌てて醍湖を呑み込もうとする黒井を宥めつつも、ひかるもまた、醍湖先生が何故、いきなりこの場に現れたのかを思案する。

 黒装束を攻撃し、闇川を助けてくれた以上敵では無いだろう。なんなら味方と言っても問題は無いはずだ。

 となれば、こちらの危機を察知して助けに来てくれた援軍とみて間違いない。

 そして、雄英で起きた問題に、すぐ様関与できるということは──、

 

「あ〜来たっぽいわ〜……救援」

 

 ひかるが答えを導き出そうとする横で、先に、見里が解答にたどり着く。

 その答え合わせのように、遠くから、乾いた銃声が三度響いた。

 

 

「───1-Aクラス委員長、飯田天哉!!!

─────ただいま戻りました!!」

 

 その言葉と共に飯田天哉が、無数のヒーローを引連れて現れる。

 

「委員長……!!」

「眼鏡くんやる〜」「ナイスすぎるわ〜」

 

「ま、そういうことだ。俺は今、雄英で教師をやってる。普段は二年の…零也と新二の担任と、前と同じように新聞部の顧問をしてる。ひかるも、興味があったら顔出しに来い」

 

「あ、はい。……ていうか、つまり醍湖先生もプロヒーローってことですか?」

「ああ。まぁ、テレビなんかには出たことねぇけどな」

「えぇ〜!」

 

 そう言って、黒井達と醍湖先生は愉しげな談合を続ける。

 ひかるもまた、そんないつも通りのみんなの様子に、一安心と息を吐く。

 そして──、

 

「……?」

「っひかる!?」

 

 ぐるんと、世界が暗転する。

 耳元で響くはずの黒井の声が、深海から陸の音を聞いているのかと錯覚するほど遠く感じる。

 

「ぁ…そうだった……」

 

 ──俺、今すごいボロボロなんだった。

 その事実に気づくと同時に、ひかるの意識は、再び闇に落ちた。

 

 

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