【私立パラの丸高校 ヒーローアカデミア編】   作: 燃える空の色

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14.嵐が過ぎて

□いつかの出会い

 

 

「俺、黒井正義。マサって呼んでよ!」

 

 そう言って、目の前の少年は、満開に咲く向日葵の様に笑う。

 ほとんど初めましてだというのになんの気兼ねなく話しかけてくる少年に物怖じながらも、ひかるはそれに応えた。

 

 

 ―――これはかつての記憶。かつての光景。かつての思い出。かつての焼き直し。

 ひかるにとって色褪せることのない、燃えるような、輝くような日々の断片にして、ひかるの持つ原点。

 

 全てはここから始まった。

 この出会いこそが、この先起こった様々な出来事やトラブル―――そして、最愛の日常の始まり。 

 ひかるにとっての、運命そのもの。

 

 故に、故にこそ。

 

 ひかるは、忘れない。

 世界を越えて、幾星霜と年月を重ねようとも。

 ひかるは、この出会いを忘れない。

 この始まりを。この原点(オリジン)を。

 

 だから―――、

 

 

 

 

 パチり。

 カーテンの隙間から盛れる冷やかな月光に包まれて、ひかるは夢遊から浮上し、ひかるの世界は輝きを取り戻す。

 目を見開けば、そこには見覚えのない天井が広がり、消毒液の鼻をつく臭いが朧気な意識を覚まさせる。

 

「は?いや、は…どこ、ここ…っ…!!」

 

 がばり、勢いよく起き上がろうとして、全身を襲う激痛に顔を歪ませる。

 改めて、横たわったまま辺りを見渡せば、自分がベットの上で寝ていたことと、ここがおそらく病院であることがわかる。

 冷静に、務めて冷静に、ひかるは自分に何があったのかを思い出そうと頭を回す。

 

「そうだった…俺、USJで…」

 

 未だ目覚めきらぬ脳を動かし、一つずつ記憶を紐解いていく。

 USJに行き、敵によって襲撃を受け、ワープゲートによって分断。

 分断された先は水難ゾーン。運良く同じ場所に飛ばされた緑谷達と共に、その場にいた敵達を撃破し、その勢いのまま相澤のいる広場へと向かった。

 そして、その先で、脳無と呼ばれた敵に蹂躙される相澤先生の姿が見えた。

 ひかる達の存在はすぐに気づかれ、ひかるは脳無の手によって重症を負ってしまう。

 

 そして、そんなひかるを助けようと黒井が───、

 

「そうだ、黒井っ!」

 

 あの時、自分を守ろうとした黒井も相当な怪我を負っていたはず。

 黒井は大丈夫だろうか。

 というか、もしかしてナースコールとかした方がいいのだろうか。

 とりあえずスマホで無事か確認するべきか。

 ひかるがそう考えたその時。

 

 ガラガラと、扉が開く音がする。

 ふと、そちらに視線を向けると、黒井がポカンと口と目を見開いたまま、手に持っていたお見舞い品と思われる果物の入ったバスケットを落とし、ひかるの顔を見つめていた。

 

「黒井…?」

「っひかる!!!」

 

 ひかるが名前を呼べば、ハッと意識を取り戻し、黒井がひかるの元へと駆け寄ってくる。

 

「良かった…本当に、良かった…!!もし、ひかるが、もしかしたらって……俺のせいで、ひかるが死んじゃったらってっ……!」

「えっ、ちょ、ま──?」

 

 黒井は涙を浮かべ焦った様子でひかるに迫り、今にもぶつかりそうな勢いで走ってくる。

 

「落ち着け、黒井」

「っ……!?」

 

 そんな黒井の体は、宙を舞うロープによって締め付けられる。

 同時に響く低い声の主が、黒井の背後から現れた。

 そこには気を失う直前に見た男の姿が…「前」の世界において、ひかるの担任をしていた醍湖の姿が目に映る。

 醍湖先生は地面に落ちたバスケットを拾い、ひかるが横たわるベットの横にある棚の上に置く。

 

「ただでさえボロボロなんだ、追い討ちかけてどうする。…(ひかる)、調子はどうだ。痛みは?思考は平常か?」

 

 どこからか取りだしたナイフを使って、手馴れた動作でりんごの皮を剥き、小皿の上に盛り付ける。

 何故かそれを自分で口にしながら、醍湖はひかるを気にかける言葉をなげかける。

 

「あ、はい…まだ、ちょっとボーッとしてますけど…多分、大丈夫だと思います」

「そうか、ならよかった。看護師さんと医者の人呼んでくるから、ちょっと待ってろ」

 

 それだけ言って醍湖は早々と病室から退席する。

 後に残されたのは、ひかると黒井の二人だけだった。

 

「…黒井、その…大丈夫、なの?お前は」

 

 そう言って、ひかるは黒井を見る。

 黒井もまた、脳無との激しい戦闘により満身創痍だったはずだ。

 だと言うのに、目の前の黒井は、擦り傷や小さな傷なんかは残っているものの、へし折れた骨や向けた皮などが完全に形を取り戻している。

 それについて問えば、ハッとしたように黒井が言う。

 

「お、俺は大丈夫!なんでかはわかないけど、大きな傷はある程度治ってたし、検査しても異常はなかったから…それよりも、ひかる!ひかるは大丈夫なの!?」

「あーうん。まだ全然痛いし身体微塵んも動かせる気はしないけど…」

 

 ひかるはグーパーと左手を動かそうとするが、僅かに痺れを感じる。

 けれど思ったほどじゃない。

 そう思い、視線を左腕に向けるが──、

 

「折れて、ない?」

 

 確実に折れ曲がっていた腕は正常な形を取り戻し、僅かな痺れだけで納まっている。

 喜ばしいといえばそうだが、どちらかといえば異常なことへの恐怖と不安の方が勝つ。

 もしかすれば、リカバリーガールの"個性”によるものかもしれないが……

 

「やっぱりひかるも………祝子さん

 

 消え入るように、黒井はそう呟く。

 ひかるにはよく聞こえなかったが、多分、誰かの名前で、その誰かは、きっと大事な人なんだと思う。

 黒井にとっても、自分にとっても。

 ひかるがその名前について聞こうとすると、ドアの向こうからノックの音と、声が聞こえてくる。

 

「多々さん、失礼しますね」

 

 そう言って、文字通りの鳥頭の白衣を着た人物と醍湖先生が入室してくる。

 

「聞いてたとおり、ある程度意識ははっきりしてるみたいですね……起きて早々なんですけど、いくつか検査しなきゃいけないことがありまして。すみませんが、ご友人の方は一度席を外して頂けますか」

「でも…」

 

 チラリと、黒井の瞳は不安げにひかるを覗く。

 そんな黒井の顔を見て、ひかるはため息をつき、小さく手招きする。

 不思議そうにしながらも、黒井はひかるの元へ顔を寄せて、ひかるがその額を指先で突く。

 「いてっ」と目を瞑る黒井の間抜けな姿に、クスリと笑い、安心させるように言う。

 

「俺は大丈夫だから。それに、お前だって疲れてるだろ、傷はなくても。いつまでも俺にばっか構いっきりじゃ、休めるもんも休めないだろ」

「……ひかる…」

 

 それでも不安そうにひかるを見つめる黒井の頭を優しく撫でて、微笑む。

 

「別に、ただ検査するだけで死ぬわけじゃないんだから、そんな心配しなくいいだろ。…まぁ心配してくれるのは嬉しいけど」

「―――っひかる〜!!」

 

 涙を浮かべながら、それでいて嬉しそうに頭を手に擦り付ける黒井に、擽ったいとひかるも笑う。

 一難去ってまた一難、なんて、あっていいはずがない。

 嵐が過ぎたのであれば、その先にあるのはいつも通りの楽しい日常であるべきなのだ。

 

「……全く、変わらないな、お前らは」

 

 そんな二人の様子を見て、醍湖先生は。

 優しげに、そっと笑みを浮かべた。

 

 

 




ひかる「……なんで、あんな夢を見たんだろ」
ひかる「それに…祝子……?」
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