【私立パラの丸高校 ヒーローアカデミア編】   作: 燃える空の色

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前回のあらすじ:

ひかる、ワンフォーオールの秘密を知ってしまい、緑谷の訓練に付き合うことに。



02.ひかると緑谷、友情を結ぶやつ

 

 

 

「……はぁ」

 

 未だ太陽が地平線から上らぬ頃に、ひかるの意識は夢遊から浮上した。

 いつもならばこのまま二度寝を決め、その勢いで三度寝まで狙う頃合であるが、今日に限っては再び寝付くことが出来なかった。

 仕方がないと、ベットから起き上がり、着替え、顔を洗い、朝食を済ませる。

 

「おいで」

 

 身支度を整え終えると利光達を呼び起こし、少しの餌を与え、リードに繋いで外へ出る。

 明け方の散歩など、普段では滅多にない。

 利光達は起きてすぐだと言うのに元気に外を歩き回り、わんわんと可愛らしく声を上げている。

 三頭の楽しそうな様子を見ながらも、ひかるの意識は昨日聞かされた話…OFAに向けられていた。

 NO.1ヒーロー、オールマイト。

 彼の個性や出自について、ネットやテレビなど、様々な場所で議論の種となっている。

 そんなアンタッチャブルに、ひかるは偶然に近しい形と言えど知ってしまったのだ。

 

 ふと、スマホに手をかける。

 メッセージアプリを開けば、1番上にはひかるにとって親友とも、あるいは別の何かとも言える存在が…黒井正義がいた。

 黒井はそれなりにオールマイトのことが好きだったはずだ。

 OFAについて教えてやろうかと、タイピングして文を作り…しかし、止めた。

 黒井のことだ、少しのことから世界中に広がりかねない。そうなれば、広げたのが誰かなんて、簡単に特定されることだろう。

 けれど、ひかるは打った文書を消すことなく、スマホの電源を落とすだけに留めた。

 

 そのまましばらく歩いていると、見覚えのある景色…海浜公園の近くにまで来ていた。

 そこまで歩くつもりもなかったのだが、どうやら物思いにふけすぎていたらしい。

 

「…ちょっと見てくか」

 

 特に理由がある訳では無い。

 なんとなく気になって、ひかるは海浜公園の方へと歩いていく。

 

「ふぬぬ……!!」

 

 そこに居たのは、大型の冷蔵庫を1人で持ち上げ、惨めに声を上げながら運んでいる少年…緑谷出久だった。

 少し様子を見ていれば、いくつかの廃棄物を時間をかけて一定の位置まで運んだ後、倒れるように砂浜に横たわっていた。

 

「わん!わんわん!!」「わん!!」「わぅん…」

「…わかってるって」

 

 見たからには放っておくわけにもいかない。

 3頭に引っ張られるままに近くへと寄れば、汗だらけで息も荒いまま、緑谷は完全に意識を飛ばしているようだった。

 

 

 

 

 

「……───りや、緑谷!」

「…?て、うわ!?多々くん!?どうしたの、こんな早くに」

 

 

 水底に響くような遠い声。

 それがだんだんと近づいてきて、次第に声の所在が明瞭になった頃。

 緑谷の意識は眠りから浮上し、目を開ければ同級生――多々光がいた。

 

「それはこっちのセリフだろ。まだ時間じゃないし…ていうか、時間より1時間も前じゃん」

「あはは…どうも早起きしちゃって、いてもたってもいられなくって。」

「だからって…」

 

 そう言ってひかるが視線を向けるのは、海浜公園から少し離れたところ、先日オールマイトがトラックを寄せてた場所の近くに積まれた、数十の廃棄物達だった。

 

「…やりすぎだろ」

「そんなことないよ。僕はみんなよりずっと遅れてるんだから、もっと頑張らなきゃ…って、やばいやばい!!」

 

 呆れた様子のひかる。

 それに対して弁明をしている最中に、緑谷は大事なことを思い出した。

 バタバタと辺りを見渡し、四つん這いのまま両手を地面に広げる。 

 けれど、辺りは暗く、何も見つからない。

 

 

「どこだどこだ…!?」

「……何探してんの?」

「あ、ごめん急に!お母さんに朝早くから出かけるって言うの忘れてて、もしかしたら心配してるかもで……!!」

「あースマホか。…ほら」

 

 ピカッ、とひかるから溢れ出る光が辺りを照らし出した。

 

「……えっと、ありがとう、多々くん」

「……あー、いいよ、別に。俺の個性、これくらいしかできないし」

 

 そう返すと、今度は緑谷が慌てたように言う。

 

「そ、そんなことないよ、暗い夜道とかでも安全に歩けるし、いい個性だと…」

「そんな無理に褒めなくていいから…別に、今更この個性が嫌いってわけじゃないし。実際、何度か助けられてはいるから」

 

 そう言って目を伏せた彼は、どうにも優しく、どこかもの寂しげな表情を浮かべていた。

 

 

「……そっか」

「ごめん、なんか勝手に色々話しちゃって」

「い、いやいや、僕が最初に無責任なこと言ったからだし…!」

 

 少し、気まずい沈黙が流れる。

 一秒、二秒、三秒。

 少しづつ、時間が重なっていく。

 漸く太陽が姿を表し、二人が陽光に照らされ出して、ひかるが重々しげに口を開いた。

 

 

「……緑谷は、なんでヒーローを目指してんの?」

「…え?」

 

 それは、なんてことのない質問。

 けれども、緑谷は、それを尋ねたひかるの表情が、どこか悲しく見えた。

 

 

 

 

 

 

 特に、深い意味がある訳ではなかった。

 ひかるからしてみれば、自らの個性も相まって、ヒーローとは縁遠い存在だ。

 無論、憧れたことはある。好きか嫌いかで言えば好きだと言える。

 けれど、この個性…少し光る程度のひかるの個性では、ヒーローになんてなれないこと、ひかるは痛いほど知っている。

 だからこそ、疑問に思う。

 ひかるのような弱い個性すら持ち合わせていない無個性の緑谷が、何故そこまでしてヒーローを目指しているのか。

 それが、分からなかった。

 

「OFAを受け継ぐ前からなんだろ?ヒーロー目指してんの。……別に変な意味がある訳じゃないけどさ」

 

 一瞬、緑谷の瞳が憂いを帯びて俯き…再び、顔を上げる。

 真っ直ぐな、決意に満ちた瞳だ。

 

「…僕は、幼い頃に見たオールマイトに憧れたんだ。 ―――『どんなに困っている人でも笑顔で救ける』姿に……!!だから、僕も…!!そんな風に、みんなを笑顔で助けられるヒーローになりたいって。僕が来たって、そう言えるヒーローになりたいんだ」

 

 そう言って、緑谷はこちらを真っ直ぐと見据えてくる。

 希望を宿し、未来を見据え前を向く、光り輝くような瞳だ。

 

「……」

 

 少しの逡巡、今度はひかるが視線を逸らす。

 そのまま蹲るように体を丸め、腕と膝に顔を埋めた。

 

 

「……はぁ〜〜〜〜」

「え!?ど、どうしたの!?大丈夫!?お腹でも痛いの!?」

「…いや、大丈夫……けど…偉いな、みんな」

 

 みんな、色んなことを考えていて、みんな、自分の夢や目標を持っている。

 だからなんだという話は既に終わってはいるものの、しかし気にするなと言われて気にしないほどひかるの心は強くない。

 黒井のように、ひたすら真っ直ぐにはなれないし。見里のように、全て受け入れることはできないし。平のように、大切なものを守ることも出来ない。闇川のように、美しいものだけを見続けることも出来ない。

 

 緑谷のように、憧れも、目標も何も無い。

 

 

「……そんなことないよ。僕だって、オールマイトに選んで貰えなければ、何も出来なかったんだから」

「けど、それでも。お前には目標があって、そのために挑むつもりだったんだろ?偉いだろ、それは」

 

 謙遜も、嫉妬も、煽てるわけでもない。

 こちらもまた、真っ直ぐな賞賛。

 交差する視線。思わず、2人同時に目をそらした。

 

 

「……まぁ、その…これから、よろしく」

 

 暫くの空白を経て、意を決したようにそう言って、ひかるは傷一つない白い手を差し出す。

 緑谷もまた、少しづつ肉付いてきたその手を伸ばして、恐る恐る握り返した。

 

「…うん!!こちらこそ、よろしく!」

 

 そうしていると、遠くから白いトラックが走ってくるのが見えた。

 そのトラックが2人の近くに停車した後、中から骸骨のような男が…オールマイトが現れる。

 

「私が来たァ!!……って、なになにどうした、なんかいい感じじゃないか!?」

「あ、オールマイト!!!」

 

 握っていた手を離し、緑谷がオールマイトの元へと駆け寄っていく。

 

「多々少年!しっかり来たね、偉いじゃないか!」

「まぁ、折角なんで…それに」

 

 そう言って、ひかるが緑谷を指さす。

 

「あいつだけじゃ、ちょっと不安そうなんで。今日も日が昇る前からあんな調子だったし」

「そのようだね。……それじゃあ、これからよろしく頼むよ、多々少年!!」

 

「…はい、よろしくお願いします」

 

 ぺこっ、と頭を下げる。

 これから数ヶ月間。

 少しくらいは、付き合ってもいいだろう。

 

 早速訓練を開始した二人の背を見ながら、ひかるはスマホの電源をつけ、書きかけのメッセージを削除した。

 

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