【私立パラの丸高校 ヒーローアカデミア編】 作: 燃える空の色
□見里未来の場合
USJ襲撃事件。
雄英高校ヒーロー科A組が敷地内にある施設にて実践訓練を行っていたところ、突如、ワープゲートの個性を持つ敵の襲撃を受けるという大事件。
生徒たちの抵抗や教師の奮闘により、何とか難を逃れたものの、それでも生徒含め、重傷者を何人も出してしまう結果となった。
事件後、生徒たちは一度帰宅措置が取られ、後日、関係者への事情聴取が行われることとなる。
「普通科の、見里未来さんだね。今回の件は巻き込まれて災難だったね」
塚内はそう言って、机越しに座る少女を静かに見つめた。
見里未来。
“個性”『未来視』。
かつてオールマイトのサイドキックを務めていたサー・ナイトアイの近縁者でありながら、ヒーローではなく普通科の道を選んだ少女。
詳細な経歴はさておき、その“個性”自体が、今回の事件において重要な意味を持つ可能性がある。
塚内は人当たりのいい笑みを作り、穏やかに切り出した。
「なんでも、未来が見えずらくなったとか。それはいつからか、何故か、どんな風に見えたのか。できる限りでいいから教えてくれるかな」
そう聞くと、少女は自身の指先で毛先を遊ばせながら、迷うように答える。
「なんか〜、今になって思い出してみると、靄がかかってるって言うか…邪魔されてるってより、本当に視えずらい感じ。意図的に妨害してるってよりも、そもそもが映りずらいみたいな?」
「なるほど…他の生徒から聞いた話だと、黒い靄のような敵が現れる前に君は気づいたと言う話だが、それも未来を?」
「そ。視えずらいのはそうだけど、ほんの数秒先とかなら割とはっきり視えたんよ」
「それは意識して見たのかい?」
そう聞けば、少女は首を横に振る。
「ウチの"個性”は意識して視ることもできるけど、完全に気を抜くと勝手に視えることもあって、そん時はそれだった」
「つまり、君が見る未来は、意識していないと見すぎてしまうことがあると…それなら、USJでのことは事前に見えなかったのかい?」
重ねて質問を重ねると、少女は「ん〜」と唸り、少し間を空けて答える。
「サーちゃん…ウチの叔父さんなんだけど、その人と違って、ウチが未来を視るのに細かい条件とか制限とかなくて…代わりにウチが見れるのは最大で五年先まで。それでもあんまり使いすぎると頭がパンクしちゃうから、普段は5分先くらいまでに抑えてるんよ」
「ふむ…なるほど」
サーちゃん、と言うのは、恐らくかつてオールマイトのサイドキックをしていたサー・ナイトアイのことだろうか。
ほんの少しだけ、塚内が驚いていると、「ていうか〜」と少女が口を開く。
「多分、見えててもそんな変えられんかったと思うし、あんまり先の未来はウチもあんまり見たくないっていうか…」
「それは、どうしてだい?」
塚内が首を傾げると、見里は何かを思い出すようにして、寂しげな表情を浮かべる。
「2年くらい前まで、ウチの近所にヒーローの夫婦がいたんよ。いい人たちで、町のみんなから好かれてた」
「けど、その人の未来を視て、知ったんよ。この人たちは、あともうちょっとで死んじゃうんだって」
「助けようとして、色んなことを試して、未来を変えようとして。けど、ダメだった。今のウチに、未来は変えられなかった」
そう言い切ると、見里は一度深く息を吐く。
恐らく、この話をすること自体、少女にとってはいくつかの葛藤を超えた先にあったのだろう。
未来は変えられない。例え、その未来が見えていようとも。
「でも、ほんのちょっと、気づいたことがあったんよ」
ふと、見里が言う。
「それは、なんだい?」
「遠い未来とか、大きな出来事は、ウチには変えられない。けど、ほんの少しだけ。ちょっと先の未来の、小さな未来だけは変えられた。その積み重ねで、ウチは未来を変えられる」
「それこそ、相手の動きを呼んで攻撃とか、典型的っしょ?」
そう言って、見里ははにかむように笑う。
どこか無理して作ったように感じるその笑みに、塚内もまた作った笑みを返す。
「まぁ、そういうわけで、あんまり遠くのこと視すぎても変に不安を掻き立てるだけだし〜、未来なんて見んくても、今を精一杯生きていけばいいだけ、みたいな?」
「…なるほど最近の若い子はすごいな、ほんと……事情聴取はここまでだ。協力、感謝するよ」
「あざ〜」
最後まで軽い調子のまま、見里は取調室を後にした。
次は───、
□平翔子の場合
「んー、ウチは特に言えることとかないかも。ただ敵を倒しただけやし…」
目の前の黒髪の少女は、なんてことも無いようにそう言い放つ。
けれど、実際に彼女が為したことは、「ただ」なんで言葉で片付けられるものじゃない。
「ははは、見里さんと言い、最近の子供はすごいな、全く。…なんでも、普通科なのにヒーロー科の生徒よりも早く、より多くの敵を無力化したそうじゃないか。昔はヒーロー志望だったりしたのかい?」
ワープゲートによって分断された先、二番目に早く敵を鎮圧したのが、この少女の居たエリアであり、そのほとんどの敵を彼女が瞬殺したと、尾白くんという生徒から聞いている。
それについて聞けば、少女は少し嫌そうな顔をして、
「あーそれね。ウチの両親とか、おばあちゃんたちとか…一応ヒーローやったっぽいし、兄貴が教育熱心だったから、ちょっとだけ鍛えてたんよ」
「ほう、ヒーロー1家か。今どきそこまで珍しいことでもないが…君自身はヒーローを目指さないのかい?」
「別にイヤってわけじゃないんけど…どうせなら未来と一緒がいいし、そこまで目指したい訳でもないかな〜」
これ以上は話したくはないとばかりに、少女は軽く目を逸らした。
あまり機嫌を損ねるのかもよろしくないし、一旦ここで切り上げるとしよう―――とその前に。
「なるほど…それじゃあ、最後に…君のお兄さんについてなんだが――」
「あ、やば。今日第七周期元素ガチャのピックアップイベントの日なん忘れてた〜。ちょっとパラレル行ってきまーす、刑事さんばいばーい」
そう言い残し、次の瞬間、目の前にいた平の姿が完全に掻き消える。
文字通り、この世界から居なくなった平を見て、塚内は目を丸くした。
□黒井正義の場合
襲撃事件において、唯一脳無と交戦し、圧倒したという生徒。
そして、生徒の中でも最も危険性を抱えているらしい人物。
塚内は極めて慎重に、その生徒との取り調べを行うことにした。
「すまないね、友達のお見舞い中だったんだろ?邪魔してしまったかな…?」
「あ、いえ!そろそろ帰れって言われてたとこだったんで、むしろ送って貰えて助かりました!!」
彼に事情聴取をしようとした矢先、他の生徒から、彼はこの事件で最も重症を負った多々光という生徒のそばに一日中いると聞いた。
見舞いの邪魔をするのもなんだと思い、病院から出てきたところに声をかけ、協力して貰った形だ。
「ははは、素直だね、君。まぁ役に立てたなら何よりだよ」
思ったよりも遠慮の少ない、けれど明るい少年の反応を見て、塚内は密かに脳内のイメージを改める。
友人を守るためとはいえ、敵を殺そうとしたというからどんな子かと思っていたら、想定よりずっといい子そうだ。
「君はあの脳無という男と交戦したらしいが…何か、違和感や気づいたことなんかはあったかい?些細なことでもいいから、何かあったら言って欲しい」
塚内がそう聞くと、黒井は「うーん」と小首を傾げ、唸る。
「なんて言うか…死柄木の言葉を聞いてたりして、本当に名前の通りの脳無しってわけじゃないと思うけど…自分で考えてる、とか。そういう感じはしなかったです。ブラックホールで吸い込んだ時も、痛みを感じてる様子も無かったし…ほんとに、ロボットみたいな…」
「ふむ…分かってはいたが、やはり奴個人に自由意志は持っていなかったようだね。それに加えて、痛みを感じた様子もなかったと」
「はい。あと、"個性”をいっぱい持ってました。ブラックホールで吸われてもすぐに再生してたし、殴ってもあんまり聞いてる様子もありませんでした。それにパワーも凄くて──」
「ふむ…」
黒井の話をメモに取り続け、既に聞いていた情報と照らし合わせる。
オールマイトとの会話から、既に脳無が複数個性持ちであるということはわかっていたが、死柄木の言葉とオールマイトの実感以外でもこうして言われてるということは、やはり、"あの男”の関与は確実なのだろう。
一通り質問を終えて、塚内がぱん、とメモ帳を閉じる。
「…それじゃあ、こちらからの質問はこれで終わりだ。協力感謝する。…が、君に用がある人がちょうど今来ててね。話したいそうなんだが、時間いいかい?」
先程病院から警察署に到着した時、ちょうど事情聴取が終わった人物がいた。
なんでも、少年と話したいことがあるらしく、こちらの聴取が終わったあとでいいのでと掛け合ってきたのだ。
「あ、大丈夫です!…けど、俺に用がある人…?」
一体誰か、黒井が聞こうとしたその時。
「失礼します」
猫のような顔をした警察官が扉を開け、その後ろから、全身を包帯で巻かれたミイラのような男が現れる。
「───俺だよ」
「…相澤先生!?」
包帯のせいで顔が見えず、声を聞いてもなお、一瞬誰か分からなかった。
黒井が驚く横で、塚内が立ち上がる。
「それじゃあ、俺は先に失礼します。イレイザーヘッドも、あまり長引かせないようにお願いしますね」
「わかってます」
それだけ言い残し、塚内は颯爽と退室して行く。後に残されたのは、後ろで立っている猫警察と、相澤と黒井の三人だけだ。
猫のような人に促され、相澤先生は席に着くと、早速話を切り出してくる。
「…まずは黒井。すまなかった。俺の不手際で、お前に無理をさせてしまった」
そう言って、相澤が頭を下げる。
教師に頭を下げられるという経験したことの無い事態に、黒井は思わず慌てて口を開く。
「い、いや、でも仕方がなかったですよ!ワープゲートだったし、あの脳無ってやつも強かったし…!!」
「それでもだ。俺のせいで、お前と多々は重症を負った…どういう訳か、いつの間にか治っていたがな」
「それについても後で話す」と言って、相澤が次の話題に移る。
「黒井、他の生徒から、お前があの脳無とやらを殺そうとしたと聞いた。……そんな選択をさせたのは、俺たちの不甲斐なさが原因だ。だが、その選択と、その先に、お前が望むような未来は訪れない。……二度と、そんな決断をするな」
相澤先生の鋭い眼光が、黒井を貫く。
その"個性”とは関係の無い、それでいて、威圧を伴う瞳。
けれど、その視線からは、怒りも何も感じない。
きっと、本当に黒井を心配してのことなのだろう。それとも、黒井に対する罪悪感が、沸き立つ怒りを塗り替えてるのか。
それは、黒井には分からない。
「…先生が俺のことを想って、ヒーローとして、正しいことを言ってくれてるのは、分かります。でも…ごめんなさい、それは約束できないです」
そう言うと、相澤が驚いたように目を見開いて、再び鋭い眼光を目に宿す。
「お前、自分が何言ってるのかわかってるのか」
「わかってます。人を殺しちゃいけないなんて、そんなの。けど、それでも。それでも、俺は」
黒井は俯き、何かを思案するようにまぶたを閉じる。
「───それが、ひかるのためなら。俺は、多分。また同じ選択をします」
顔を上げて、真っ直ぐとした瞳で。
覚悟と、闇と。
それらを秘めた瞳が、相澤を穿つように向けられる。
暫く、睨み合いが続いて。
ふと、相澤が目を閉じ、重苦しく息を吐いた。
「……そうか。なら、そうならないよう善処するよ」
そう言って、相澤は立ち上がり、猫のような警察の案内に従って外へ出る。
しばらくしてから、黒井もまた、帰路に着いた。
□帰り道で起きた出来事
ひかる〈検査終わったぞ。小さなヒビなんかは残ってるけど、それ以外に特に異常ないって〉
マサ〈ほんと!?よかった〜!!〉
〈イキノッコリー〉〈イキノッコリー〉〈イキノッコリー〉
マサ〈明日もお見舞い行くね!!〉
ひかる〈いやいいよ。ていうか、さっき相澤先生とオールマイトと校長先生が来たんだけど…なんか、すごい謝られて、お前のこととか色々聞いたんだけど…〉
マサ〈けど?〉
ひかる〈……やっぱいいわ〉
マサ〈え〜!?なんでだよー言ってよー気になるじゃーん!!〉
ひかる〈はいはい…それより、思ったより早く退院できそうみたい〉
マサ〈え!?ほんと!?退院する時は言ってね!手伝うから!〉
ひかる〈……いや、いいから〉
マサ〈え〜〉