【私立パラの丸高校 ヒーローアカデミア編】 作: 燃える空の色
時刻は放課後。
一通りの授業を終えて、普通科や経営科であれば勉強や部活、サポート科ならば開発や研究を。そして、ヒーロー科であれば自主訓練や帰宅を始める頃。
「うわっ…!」
ひかるが黒井の元へ行こうと教室を出ると、同時に殆どの同学年の生徒がひかると同じ方向へと向かい出す。
人の波に呑まれ、えんやこらと流されて行った先、気づけばひかるはA組の教室の前にいた。
「ー何ごとだあ!!?」
人混みの向こうから、驚くような声が響く。
聞き覚えのあるその声に、ひかるは咄嗟に顔を上げた。
大勢の生徒達を超えた先、A組の教室から出ようとした少女が教室の周囲を囲む見覚えのない生徒たちに度肝を抜かれているのが見えた。
「うわっ!?ホントだすごい数…え、どうしたの?なんかあった?」
「あ、黒井…」
同様に扉から現れ驚いてる黒井の姿を見つけ、独り言を漏らす。
誰に向けてでもないその声を、しかし拾う者がいた。
「ふーん、アイツが?」
ふいに、ひかるの後ろから声がした。
咄嗟に後ろを振り向けば、特徴的な紫髪と目の下の濃い隈が目立つ少年が、首に手を置き、ひかるの肩越しに黒井を見つめていた。
いつの間にか背後に現れた心操に、ひかるの肩が跳ね上がる。
そんなひかるの様子を気にもとめず、心操は興味深げに黒井を覗いていた。
「前言ってた黒井って友達、あの茶髪の奴だろ?脳無とか言う敵とも戦った子供がいるってニュースでやってたし、それがあいつだってのも噂できいたよ」
そういえばと、病院に置かれたテレビに映った友の姿を思い出す。
未成年であるが故に顔こそ出なかったものの、オールマイトが苦戦するレベルの敵と戦ったという生徒の話はそれなりに大きく取り上げられていたはずだ。
ひかるが記憶を掘り返していると、前方、A組のドアの周辺から騒がしい声が聞こえくる。
「敵情視察だろザコ」
その言葉と共に、教室からトゲトゲ頭の少年──爆豪が悠々と現れた。
「意味ねぇからどけ、モブ共」
数え切れないほどの同級生達を前にして臆することなくそう言い切る胆力に脱帽こそするものの、それは決して良い意味では無い。
その口と目つきの悪さがどこから来たのか、ひかるが疑問に思ったその時。
「どんなもんかと見に来たが、随分と偉そうだなぁ。ヒーロー科に在籍するやつはみんなこうなのかい?」
「ああ!?」
挑発を飛ばしながら、心操は人の波を無理矢理押し切って前へと出る。
「あ、ちょ」
「こういうの見ちゃうと、ちょっと幻滅するなぁ」
平均より高い身長を持つ心操は一際目立ち、ついでに周りに押されてひかるまでもが、前の方へと移動させられてしまう。
「普通科とか他の科って、ヒーロー科落ちたから入ったって奴、結構いるんだ。知ってた?」
「体育祭のリザルトによっちゃ、ヒーロー科編入も検討してくれるんだって。その逆もまた然り…らしいよ」
「敵情視察?少なくとも
敵意に満ちた瞳を爆豪へと、ヒーロー科へと向けながら、心操人使は大胆にそう宣言した。
「いや、大胆不敵すぎない?」
友人の不敵すぎる行動にドン引きしている横で、今度は隣のクラスから騒ぎ声が聞こえてくる。
ヒーロー科1年B組の教室から、これまた目立つ人物が大声を出してやってきた。
「隣のB組のもんだけどよぅ!敵と戦ったっつうから話聞こうと思ってたんだけどよぅ!!エラく調子づいちゃってんなオイ!!」
「あっちもあっちで不敵だな…」
怒りに満ちた鋭い目つきと共に、その男は怒声を上げて殴りかかりそうな勢いで人の波をかき分け、爆豪に向けて面と向かって叫ぶ。
「本番で恥ずかしい事んなっぞ!!」
「……」
そんな男や周囲の様子を気にする様子もなく、爆豪はズカズカと人の波を素手で押しのけて進もうとし始める。
どうでもよさげに進み続ける爆豪の後ろで、一番被害を食らったA組の生徒たちが野次を飛ばす。
「待てコラどうしてくれんだ!おめーのせいでヘイト集まりまくっちまってんじゃねーか!!」
「関係ねぇよ」
「はぁーー!?」
切島がその背中に制止の声を投げかけるが、爆豪はそれさえも意に返さない。
「上に上がりゃ関係ねぇ」
力強くそう宣言して、爆豪は足早にこの場を去る。
その後ろを切島たちが追いかけているのを背に、爆豪は人の波に呑まれ身動きを止めていたひかるを見て、一度足を止める。
「……えと…なん、デスか?」
「なんでもねぇよ、カス」
一瞬、その瞳がひかるの視線と交差するが、すぐに逸らされる。再び歩き出した爆豪の姿は、直ぐに人混みに紛れて見えなくなった。
「なんなんだよ…」
よく分からない爆豪の行動に、ひかるは思わず悪態をつく。
その後、徐々に他の生徒たちも帰り始め、心操も早々と去っていった。
人の少なくなった廊下を、黒井がキョロキョロと見渡して、黒井を見つめるひかるの姿に気づく。
「あ、ひかる!」
「黒井……なんか、大変だな。お前も」
お互い癖の強いクラスメイトを持ったと、ひかるは黒井の肩にそっと手を置く。
黒井は何が何だかよくわかって無さそうに首を傾げているが、別に理解する必要は無いだろう。
「なんでもない」とひかるが言えば、「そっか!」と黒井が返す。
ひかるの荷物を受け取り、黒井が笑顔で言う。
「よし、それじゃ、帰ろーぜ!」
「あーうん。…てか、あの…」
ひかるが黒井の背後を指差す。
それにつられて黒井が後ろを振り返れば、そこには目を見開いて固まるA組の生徒たちが、ワナワナと震える手をひかるへと延ばし、まるで死人でも見たような顔をしていた。
「…さっきから、どうしたの?」
「ひっ───」
「ひ?」
「「「ひかるくん!!!?」」」
一斉に、この場に残っていたA組の全員がそう叫ぶ。
「うるっさ。いや、どうしたの急に」
「いや、いやいやいや!!え、ひかるくんだよね!?幽霊!?」
「失礼だな。生きてるよ、ほら」
そう言ってギブスをつけてない方の肩をぐるぐると回すが、それでも信じられないと言った顔で、緑谷や蛙水、峰田と闇川がひかるに詰め寄ってくる。
「多々くん、ほんとに大丈夫なの!?無理しすぎじゃ…!!」
「そうよ多々ちゃん。相澤先生と違って貴方はヒーローという訳でもないんだから、そう焦ることは無いわ。休むことも大切よ」
「そうだぜ多々!?お前、あの脳無ってやつに掴まれて頭怪我してた上に、殴られて完全に腕折れてたよな!?なんで学校来てんだよ!?休んどけよそこはよお!?」
「あーいや、それがもう大丈夫で…」
あまりの気迫に少したじろぎつつそう言えば、緑谷が心配そうに眉を顰める。
「ほんとに大丈夫なの!?相澤先生も結構な重症だったけど、ひかるくんだってかなり酷い怪我じゃ…!!」
「それが、なんか知んないけどあらまし治ってて…検査でも異常なかったし、多分大丈夫」
そう説明すると、緑谷は納得しきってはいないようだが、渋々と引き下がる。
そのままブツブツと何故怪我が治ったのかを考え始めた緑谷を他所に、ひかるは四人の後ろで心配そうにひかるを見つめる生徒たちに向けて言う。
「だから、そんな心配しなくても…ていうか、そっちは大丈夫なの?」
「私たちは大丈夫!相澤先生と緑谷以外に、大した怪我人は出なかったし…」
はいはーいと片手を上げ、芦戸が代表として答える。
確かに、周囲の生徒たちを見る限りでは、先程帰っていった爆豪たちを除けば全員揃っている上に、ほとんど無傷なように見える。
どうやら本当に、自分と黒井の他に、重傷を負った生徒はいないらしい。
ひかるが安心して息をつくと、その姿を見た黒井が「よし」と息巻く。
「それじゃ、行こっか!」
「おう…けど、ごめん、続けてあれなんだけど…ちょっと付き合ってくんね」
「いいけど……何に?」
「なんか放課後来いって、オールマイトから」
「ええ〜!?え、なんで!?あ、この前の事件について!?もしかして脳無吸い込もうとしちゃったことかな!?怒られる!?」
「いや、わかんないけど…てか、そんなことしようとしてたの?」
こわ、とドン引きしながらも、黒井と共にオールマイトに指定された場所へと向かう。
仮眠室と書かれたプレートを流し見ながら、こんこんと扉を叩く。
「どうぞ」と声が聞こえると同時に扉を開けば、そこにはテレビの向こうで何度も見た男がスーツ姿でソファに座り込んでいた。
「──やあ、昨日ぶりだね、多々少年。それに、黒井少年も」
「こんにちは」「こんにちは〜!!」
いつも通りの笑顔を浮かべたまま、オールマイトは二人に言う。
「立ち話もなんだ、お茶でもしながら話すとしよう」
手招きされ、二人はオールマイトと対面するようにソファに腰を下ろす。
「どうぞ」と出された茶を、「いただきまーす!」と黒井が啜る様を横目に、ひかるが話を切り出そうと口を開く。
「それで…用事って、なんなんですか」
「いやなに、そう固くならなくてもいい。別に説教するって訳でもないし…むしろ、その逆さ」
逆?とひかるが疑問に思うと、黒井も同じように思ったらしく、「逆って?」と口にする。
「先日のUSJ襲撃事件。私のせいで、君たちは重傷を負うこととなってしまった。謝って済むことでもないが────本当に、すまなかった」
そう言って、オールマイトが深深と頭を下げる。
この前の事件についての話ではないかと思ってはいたが、まさかこんなことになるとは。
憧れのヒーローである男のその姿に、二人は言葉にし難い居心地の悪さに襲われた。
「い、いや、そんな…ていうか、俺昨日めちゃくちゃ謝ってもらったし…」
「そうですよ!それに、ほら!ひかるはともかく、俺はもう全部治ってますから!」
「だとしても、私の不手際で君たちが辛い思いをしたのは事実。大人として、教師として、ヒーローとして…私は君たちに謝らなければならない」
頑なに頭を下げ続けるオールマイトを前に、ひかると黒井は困ったように顔を見合わせた。
二人にとって、テレビの向こうにいた正義の英雄のその姿に、情けない、なんて言うつもりは無い。
ひかるは勿論、出会ってから数日と経たない黒井のことを、目の前の大人が、心の底から心配してくれていたことを、二人は知っている。
だからこそ──、
「顔、上げてください」
ふいに聞こえたその言葉に、オールマイトが顔を上げる。
「いや、まぁ、確かに痛かったし、怖かったし、死ぬかもーなんて思ったりもしたけど…」
ポリポリと頬をかきながらそう言うひかるに、オールマイトはつらそうに眉を顰め、再び謝罪を口にしようとする。
それを無事な右手でまったをかけて、ひかるが続ける。
「けど実際。俺も黒井も、他のみんなも無事なわけだし、助けられたことに変わりは無いから…あんまりそんな謝られると、それこそ気まずいっていうか… 」
「ちょっと困るよね」
「俺がわざわざ誤魔化して言ったこと全部言ったなお前…!!」
「…まぁ、だから」と言葉を濁して、「大丈夫です、俺は…俺たちは」とひかるは口にする。
黒井も同意するように激しく頷き、「そうですよ!」と言う。
「……ありがとう」
歳をとったがゆえか、少し涙脆くなったのかもしれない。
僅かに溢れ出した涙を拭いながら、オールマイトは顔を上げた。
ひかるはそれにほっと安心したように息をつく。
「まぁ、そんな感じで…謝罪は、まぁ受け取らなかったらずっと謝ってきそうなんで受け取りますけど、そんな気負わなくても、別にいいですよ。ていうか、ナンバーワンヒーローに頭下げられてる状況ってちょっと怖いし」
「……HAHAHA、確かにそうだね」
あけすけもなくそう言うひかるに、オールマイトは笑いながら頷いた。
「じゃあひかる、用が済んだみたいだし、帰ろっか!」
「おう」
「あ、すまない!もう一つだけ、話があるんだ」
立ち上がろうとする二人に制止の声を投げかけ、申し訳なさそうにしていた先程とはまた打って変わった、神妙な面持ちになる。
「…先日、君たちの前に現れた黒装束たちについてだ」
「「…!!」」
続けてオールマイトの口から放たれた言葉は、二人の気を引くにはこれ以上無いものだった。
黒装束、あれだけのことをしておきながら、そう呼ぶ以外の呼び方を持たないほどに目立たず、これといった特徴を持たない集団。
どうやら自分たちの「死」に関わっていたらしく、ひかるの失った記憶についても関係があるらしい。
そして、彼らはひかるや黒井を中心としたひかるの仲間たちを狙っているようだった。
「突如、敵連合と共に現れ君たちを襲った連中は、現れた時と同じように、唐突に君たちの前から姿を消した……他の生徒から聞いた死柄木の発言から、ひかるくん、君を初めとした何人かの生徒を標的していると予想はつくが、以前、彼らの目的は不明のままだ」
「……結局、何も分かってないってことですか」
「目下、警察と連携して捜査中、としか言えないな。仮面の下に誰もいなかったということから、個性によって操られてる人形のような存在という可能性もあるが……」
しかし、連中をただの操り人形と呼ぶには、不明瞭な点がいくつかある。
第一に、黒装束の連中の内、明らかに異形型の"個性”保持者のような巨体や特徴を持つ者や、火や水といった物を操る者もいた。
ひとつの"個性”によって行われるには、あまりに多様すぎる。
「恐らく、彼らは何者かの"個性”によって作られた分身、あるいは…『影』のような存在なのだろう」
いくら倒してもまたすぐに現れたのは、それで説明がつく。
とはいえ、もしそうなのだとしても、特別なにか変わる訳ではない。
醍醐は倒しても意味が無いから拘束した方が良いと言っていたが、それでも連中は謎の方法でひかる達の前から逃げ果せた。
あのワープのような移動手段がある以上、『影』を創り出している元凶を叩かねば、真に壊滅させるには足りないだろう。
「しかし、問題はその元凶がどこにいるかって話だが…」
これに関しては、一切足がかりがない。
警察と連携して捜索中とは言ったものの、その影すら見当たらないのが現状だ。
なんてったってUSJ襲撃事件に至るまで一切存在を知られなかった謎の組織だ。
その発足時も目的も、首謀者や組織名でさえ不明のまま。
特徴である黒装束も、敵の活発となる夜闇によく紛れる。
であるというのに、今回の事件の主犯である敵連合と名乗った組織と手を組んでいる様子。
加えて──、
「…どれだけ探しても、多分、あいつらは見つからない…と思います」
「!?何か、知っているのかい!?」
黒装束の話を黙って聞いていた黒井が突如、口を挟むように言った言葉に、オールマイトが食らいつく。
正体不明の敵についての情報。ヒーローや警察にとって、それは喉から手が出るほど有益なものだ。
対し、黒井は何処か迷うように、そして自分が口走った言葉に驚いたようにして、不安定に視線を揺らしていた。
「…正直、俺も詳しくはないし、多分俺よりへー子とかの方が詳しいと思うけど…」
「それでも構わない。平少女にも、後で話を聞こう。今はとにかく、黒井少年のわかる範囲で教えて欲しい!!」
ソファに挟まれた机に体重をかけ、必死に迫るオールマイトの圧に押されるようにして言う。
「俺が知ってることは、あいつらは多分、俺達の世界にはいないってこと。それと…」
そう言い淀むと共に、黒井はひかるに視線を向ける。
言葉に詰まった黒井に、ひかるさ不思議そうに眉を顰めていた。
しばしの葛藤の後に、覚悟を決めたように、黒井が口を開く。
「──あいつらは何か、世界を壊すようなことをしようとしているらしいってこと…その為に、俺とへー子と、もう一人。それとひかる…この四人を必要としてるってこと」
悪い意味で予想通りで、それでいて最悪の真実を。
黒井は、口ごもるように述べた。
◇
普段は人の居ない仮眠室、しかし、そこには二人の人物がいた。
黒井の居なくなった室内、二人きりとなった空間で、オールマイトはひかるに語りかける。
「続けてすまないね、多々少年。黒井少年も待たせてしまった」
「それはまぁ、大丈夫ですけど…黒井を外したってことは、そういうこと、ですよね」
「あぁ、おそらく、君の思った通りのことだろう」
そう言うと共に、オールマイトの身体が変貌を辿る。
スーツがはち切れそうなほどの筋肉を宿した肉体が煙を上げて萎んで行き、あっという間に、オールマイトは先程の姿からは見る影もない骸骨のような姿になった。
オールマイトはサイズの大きいコートを脱いだ後、自身の入れた茶を啜りホッと息をつく。
「…緑谷少年にはもう言ったんだが……今回の一件で、私の活動限界がまた短くなってしまってね。マッスルフォームを維持した状態でヒーローとして動けるのは、精々が一日一時間と言ったところだ」
「一時間って、それじゃあ…」
ひかるの想像よりも、ずっと少なくなってしまったオールマイトの活動限界。
一時間。それだけ聞けば、充分長いように感じるが……少なくとも、『平和の象徴』としての活動と教師としての活動を続ける上で、それだけの時間ではあまりに足りない。
「その通りさ……私が『平和の象徴』としていられる残りの時間は、正直短い。だからこそ、私の次期後継である緑谷少年を、世の中に知らしめて欲しいのさ!───"彼が来た”と!!」
口から血潮を噴出しながら、オールマイトは力強く宣言する。
「……えと、それで、俺に何して欲しいんですか」
次期後継として、緑谷の名を売り株を上げたいというのはわかった。
しかし、それがひかるへの頼み事にどう繋がるというのだろうか。
不思議そうに首を傾げるひかるに、オールマイトは穏やかな口調で語りかける。
「ああ、別にこれといってなにかして欲しいわけじゃない。どちらかといえば、これは義理立てのようなものだからね。ただ……今度開催される、雄英体育祭について知っているかい?」
「まぁはい。有名だし、俺も参加するんで」
「なら、雄英体育祭のシステムも知っているね」
そう言われ、ひかるの脳裏に浮かぶのは、例年テレビの向こうで行われていた体育祭の風景。
サポート科・経営科・普通科・ヒーロー科がごった煮になって学年ごとに各種競技の予選を行い、勝ち抜いた生徒が本戦で競う。
所謂、学年別総当りだ。
「そう!つまり全力で自己アピール出来る!!」
ビシッ、とオールマイトの両人差し指がひかるを指差す。
「だからこそ、私は緑谷少年に活躍してもらい、次期『平和の象徴』として馳せて欲しいわけさ」
「…いや、それはわかりましたけど、俺にどうしろって……」
「なに、君にそんな負担をかけるつもりは無いよ。ただ、緑谷少年はこの件にそこまで気乗りしている様子ではなくてね……普通科の君に言うのもどうかもしれないが、ぜひ、彼のやる気を引き出して貰いたくてね」
「例えば…普通科であり、友人である君が一位をとる、とか」
「……」
いや、無理でしょ。
喉まででかかったその言葉を、ひかるはギリギリで飲み込んだ。
なんとも言えない顔をするひかるを見て、オールマイトはにこやかな笑顔を象り、優しく言う。
「まぁ、無理な話をしているのはわかっている。あくまで例えばの話さ。そうじゃなくても、君がやる気を出している姿を見せれば、君を友と慕う彼もやる気を出すだろう」
「そうですかね…あんまりイメージないけど」
緑谷との付き合いは、およそ一年前から毎朝の一、二時間の訓練を見ていたり付き合ったりしていたぐらいのものだ。
友達、と言われて否定するほどでもないが、だからといって、自身がカンフル剤になれるとも思えなかった。
「とにかく、可能な限り、協力を頼めないだろうか。…重ね重ね、迷惑をかけて済まないが…」
そう言って、オールマイトは申し訳なさそうに眉を顰める。
それがどうも居心地が悪く、ひかるの口から先走るように言葉が漏れた。
「迷惑ってほどじゃないですし…まぁ、いいですよ」
「ほんとうかい!?」
ガッ、と勢いよくひかるの手を掴み、オールマイトは再び深々と頭を下げる。
「緑谷少年を、宜しく頼む」
「……」
ここ二日間だけで何度も見た、オールマイトの後頭部。
どこか情けないようなその姿を、ひかるは言葉にしがたい感情を孕んだ瞳で見つめていた。
◇
既に夕陽が傾き、世界が朱色に染まる頃。
二人の少年が電車に揺られ、楽しげに談笑していた。
「雄英体育祭か〜…いつもひかると見ていたイベントに一緒に出られるんだよね!楽しみだなー!ね、ひかる!!」
「あーうん…なぁ、黒井」
数週間後に控える雄英高校最大のビッグイベントに、黒井が目を輝かせ未来に思いを馳せていた。
対し、語りかけられるひかるはどこか上の空の返事を返すが、不意に黒井の名を呼んだ。
「どうしたの?ひかる」
「…体育祭で一位って、どうやったら取れると思う?」
突拍子もなく放たれたその言葉を受けて、黒井は面食らったように目を丸くした。
「え…え!?ひかる、本当にどうしたの!?珍しくやる気出してる!?普段なら、『めんどくさいし、さっさと敗退しよ』くらい言いそうなのに!!」
「うるさ。いや、柄にもないことくらいわかってるけど」
周囲からどこか微笑ましげな視線を向けられてるのを察して、ひかるは恥ずかしげに頬を赤らめる。
ひかるが冗談や適当に言ったわけではなく、本当に優勝を目的としていることに気づいた黒井が、ことさらに驚いたように口を開く。
「俺、いい案思いついちゃった!」
「いい案……?」
何処か不安そうに眉を顰めたひかるに、黒井は自信満々な笑顔で応える。
「───名付けて、ひかるを優勝させちゃおう大作戦!!」
「えぇ……」
そのあまりの情けないネーミングに、ひかるは不安げに肩を落とした。